お引越し

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。最近、市川さんはどんな感じでしょうか。
市川 
この間、演劇集団よろずやに出演させていただいて。その後は今月の引越しの準備でバタバタしています。東京に引越します。
__ 
引越しは忙しいですからね。
市川 
けっこう頭使いますよね。ゴミの日を計算に入れて片付けをしないといけないし、届け出の必要なものや、解約しないといけないものとかもあって。4月に入って手続きが束になって出てきた。
__ 
私も最近、大阪から京都に引っ越したので大変さは分かります。
市川 
ね。知らない間にモノが増えたりして。
__ 
もうじきなんですよね。
市川 
あっという間に、引越しの日は来るんだと思うんですよね。
__ 
東京行きの新感線の中で、泣いたりますか?
市川 
泣かないと思います。京都に未練はないの?って聞かれるんですけど、実は全然無くて。向こうでやる事が決まっているから。田舎の鹿児島を出る時も希望にあふれた引越しだったし、大阪から京都に来るのも、ニットキャップシアター 2に入団するための移動だったから、悲しいとかの気持ちは一度も無かったです。
1世 amI
「世 amI(セアミ)」は、釜山出身の演出家・俳優 金世一(キム・セイル)が主催する創作団体です。定期的なワークショップや公演によって東洋演劇の美学を追究し、広く海外に伝えていくとともに、日本・韓国・台湾・香港などアジア諸国の演劇人どうしの連帯を深めていきます。(公式サイトより)
2ニットキャップシアター
京都を拠点に活動する小劇場演劇の劇団。1999年、劇作家・演出家・俳優の ごまのはえを代表として旗揚げ。関西を中心に、福岡、名古屋、東京、札幌など日本各地で公演をおこない、2007年には初の海外公演として上海公演を成功させた。一つの作風に安住せず、毎回その時感じていることを素直に表現することを心がけている。代表のごまのはえが描く物語性の強い戯曲を様々な舞台手法を用いて集団で表現する「芸能集団」として自らを鍛え上げてきた。シンプルな中にも奥の深い舞台美術や、照明の美しさ、音作りの質の高さなど、作品を支えるスタッフワークにも定評がある。(公式サイトより)

演劇集団よろずや「青眉のひと」 3

__ 
演劇集団よろずやの「青眉のひと」どんな公演でしたか。
市川 
竹田朋子さんという女優さんと、一度イベント公演でご一緒した縁があって、オーディションに応募したんです。それで出演する事になりました。作品が、今、転機の時期にある自分に非常に合うものでした。上村松園さんという女性画家の幼少期から没年までを描く作品なんですけど、女性・画家の社会的地位や、社会からどう見られているか、という。それは演劇人の社会における立場とかも重なる部分があって。
__ 
というと。
市川 
松園さんは絵を描く事だけに生きた人で。自分も死ぬまで演劇をするにはどうしたらいいんだろう、という事を考えているんです。私は今後、世amiという東京の団体に入るんですけど、主宰の金世一さんという方が演劇トレーナーをしていて、私に俳優の才能というものを認めて下さったんです。それはとても心強くて。俳優の評価って、誰がするのか、という問題があって。TVに出たら、映画に出たらハクが付く、とか。いつになったら有名になるの?みたいなプレッシャーを誰もが一度は感じていると思うんですけど、そうではなくて、信念。どういう作品を残したいのか、取り組む姿勢や生き方が、「青眉のひと」で重なったんです。そういう人でありたいなと思ったんです。
3演劇集団よろずや vol.25 『青眉のひと』劇団結成二十周年記念公演
公演時期:2016/3/13(東京)、2016/3/26~27(大阪)。会場:武田修能館(東京公演)、山本能楽堂(大阪公演)。

身体

__ 
世amiではどんな活動を。
市川 
主に訓練ですね。実は代表のキムさんがしばらく忙しくて、公演は来年から忙しくなるかも、という。定期的に関西でもWSはされているんですが。
__ 
個人的には、そういう凄い方に市川さんが認められるのはとても嬉しいです。何様やねん、ですが。
市川 
いえいえ、嬉しいです。私はこれまで、ごまさんの元でお芝居をしてきたんですけど、俳優の仕事の本質的な部分というのは、もっと体系的な知識の有る無しで差があるなあ、と思って。実は、何となく俳優として伸び悩んでいる自覚があったんです。ニット内ではやれてたんですが、その枠を超えられないなあ、と。そういう時にキムさんに会ったんです。衝撃を受けたんです。俳優訓練が面白かったんですよ。
__ 
良ければ、詳しく教えて下さい。
市川 
例えば上半身を45度右にして、そこで首を45度下に向けて、それで手をギュッと握った時に、そこから湧き上がる気持ちとかイメージはなにか。みたいな。手を握ると悲しかったり悔しかったりの気持ちになったり。両手を広げて前に45度上半身を倒すと、空を飛んでいるようなイメージが湧き上がったり。すると凄く自由になったり、幸せになったりするんです。
__ 
身体とイメージが繋がる、みたいな事なんでしょうか。
市川 
いまはまだ繋ぐレッスンですけど、それをもっと客観的に分析して、作品を演じる上でどう活用出来るのかを重ねていくんだなあ、と思うんです。どういう風に戦略的に使えるか。同じ立ち姿でも、角度や目線や息の仕方で、お客さんにどんな印象を与えられるか。それが凄く戦略的だ、と思って。今まで野性的な勘や感性で芝居をしてたんです。「勘がいいね」で来ていたのを、もっと的確に使える人になりたいと思って。
__ 
自分がどう見られているのかというメタ視点をもっと細かく持つ、という事でしょうか。
市川 
うーん、ポーズだけではお客さんには伝わらない、内面が伴わないと伝わらないんですよ。でも、効果的な見せ方、なんです。同じ気持なのに、俯いているか真っ正面か、で違うんです。マイムでも同じ訓練があって。ちょっとした体勢で殺人鬼に見えるような事もあるんですね。内面とポーズの倍増効果が、あるんだと思うんです。
__ 
なぜ、その領域に興味があるのでしょうか。
市川 
野性的な勘ですけど、俳優としてもっと伸びる筈だと思っていました。もっと開拓出来る分野が裾野のように広がっていると思ってたんです。でも、それが何なのかよくわからなくなってしまった。このまま同じ事を繰り返していても何も見つからない気がしてきて。いま中堅俳優みたいなポジションになっているけど、技術的な面では自分で理解していないし。人に教えるとかアドバイス出来るような核心がない、というか。

広がっている

__ 
東京でしか出来ない事はある?
市川 
どこにいても一緒で、自分が何をやるか、だと思うんですけど。凄く興味のあるWSだったりとか、世界の演劇祭でちゃんと評価される俳優になりたいと思っていて。その為には世amiのキムさんなんです。キムさんの作るお芝居で、世界に繋がる為に、稽古に出て、作品に出たいですね。そうしたらもっと俳優人生が広がる気がします。
__ 
そうですね。それはきっと、広がると思います。でも、なぜそんな顔をしているんですか?
市川 
うーん、そうだなあ。色んな両立だとか、そういう事が出来るかなあ、と思っていて。でも向こうで働き先も決まっているから、一刻も早く東京の生活に慣れたいです。

取り込みたいと思った

__ 
京都という、ふわふわした場所で、これ以上過ごせないと思った?
市川 
あはは。なんだろう。ちゃんと、知識と技術と経験が欲しいと思ったんです。ヨーロッパやアメリカ、ロシア、韓国、その他の国では演劇の体系的な学問があって、公教育でも取り入れられていて。それを知らずして、このままでいいのか、と思って。もちろん海外のものをそのまま取り入れても上手くいかないから、日本人に合ったメソッドがきっとあるし、個人に合う合わないもあるとは思うんですけど、最終的な俳優としての目標地点はきっと一緒で、どんな道筋を通るのか、という選択を各々でしないといけない。キムさんの考え方は面白くて。キムさんは日本に来て世阿弥の風姿花伝を読んだ時に、これまで学んで違和感のあったことが、凄くしっくり落ち込んだそうなんですよ。彼は日本人の性格を熟知しているので、彼の訓練には安心感はありますね。

質問 中村 彩乃さんから 市川 愛里さんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた中村彩乃さんから質問です。「芝居を観ていて、面白いあるいはつまらないと思うポイントは何ですか?」
市川 
学芸会レベルだなあ・・・と感じる芝居は面白くないなあと思います。俳優の力はもちろん、脚本の力も、演出の力も足りていない芝居。
__ 
ええ。
市川 
客席が身内ばかりで、何だか盛り上がって満足というのは、それは非常によくないなあと思っていて。それは自分も気をつけなければならないと思っています。どういうレベルの作品を残すのか、どういうレベルの俳優でありたいのか。それをちゃんと見極めたいし、ラインを超えたい、というのは非常に思いますね。
__ 
学芸会、ね。真面目に作っていないというのはすぐ分かりますからね。会話劇のどこか断片、1秒だけでも見れば分かるかもしれない。でも、逆に、120分のつまらない作品の内、1秒だけでも凄いシーンがあったら良いんじゃないか?そういう気持ちでいたいとは思う。
市川 
うーん。
__ 
逆に、やっていて面白い作品って?
市川 
まず台本が面白いというのは非常に重要で、それを自分で分析したものと、演出家と他の共演者の分析が、ちゃんと同じ目標地点に行っていれば、そのための工夫を色々していけるのが非常に面白くて。演出家がどういう事を求めているのかが分からなくて、そんなモヤモヤを抱えた作品は辛かったですね。
__ 
なるほど。
市川 
吉本新喜劇みたいに、お客さんが期待するネタをサービスするのも、それはそれで成立しているけれど、でもそのサービスは、初めて劇場に来たお客さんを置いてけぼりにする場合もあるなあと思う。おもてなしは必要だけど、何をもっておもてなしするのかに課題があるんじゃないかなあ。
__ 
お客さんに親切になり過ぎず、挑発ではないですが、考えを誘うみたいな事があるといいのかな。
市川 
人によって好みもありますし、時代もあるんじゃないかと思う。今は「私達は社会に対してこう思っています」と、はっきり主張して投げかけるのが評価されやすいらしいですね。ちょっと前まではグレーでぼやかすのが評価されていたのが。時代だと思います。
__ 
今は、論理的に自分の意見を表明出来る人が評価されるのかな。最近まで多文化共生社会とか言ってたのに、今は論理的であろうとしている。

先行

__ 
市川さんがこの道に入ろうと思ったのはどんなきっかけですか?
市川 
演劇をやりたいと思ったのは、それこそ小学校の学芸会で、大きな声が出たね、と誉められてから。中学校に入ったら演劇部に入って、その文化祭でやった芝居が校長先生に誉められて。
__ 
素晴らしい。
市川 
高校でも演劇部に入って、そこでも校長先生からお呼びだしを頂くほど誉められて。中学から、俳優になりたいとずっと思ってたんです。でも中学校の進路相談では、母からそれはダメだ、と。自分で働いて、生活に困らずやれるならいいよ、という話になって。まずは手に職を付けようと、医療専門学校に行って歯科衛生士になろうと決めたんですよ、中学校で。高校はどこでも、近くに通えるところで。専門学校で資格を取って、まずは3年働いてから大阪のタレント事務所に入って、その後ニットキャップシアターに入りました。死ぬまで俳優をやろう、と決めたのはキムさんの存在かなあ。うーん。師匠になるのだなあ、この人は。
__ 
中学校でそこまで考えるのか!そして、今でも歯科衛生士なんですね。
市川 
はい。
__ 
似合いすぎますね。
市川 
あはは。よく言われます。
__ 
悪いけど似合いすぎます。市川さんのいる歯科に行きたいです。
市川 
そのためにわざわざ東京に?クリーニングに?
__ 
はい。

毛糸と私

__ 
ニットキャップシアターとの出会いを教えてください。
市川 
77年企画に、ごまさんが出てるのを見て。面白い人がいるなと。一度、門脇さんに入団希望の連絡をしたんですけど、当時正社員で働いていたので、公演期間が仕事のスケジュールと合わない場合もあって、一旦保留にしたんですよ。で、しばらく後に大阪の某劇団のオーディション付きWSを受けて、そのまま出演するか悩んだ時に、職場の同期が「俳優をしに大阪に来てるんだから、俳優を優先するべきなんじゃないの?」と背中を押してくれて、その舞台に出ることになったんです。そこで、板橋薔薇之介さんがいたんです。
__ 
おおっ。
市川 
「市川に紹介したい劇団が京都にある」と言われたのがニットキャップシアターで。ああ、きっと何かご縁だなあ、って。先の舞台で仕事と稽古と本番の折り合いもついてたので、ニットに入団しました。
__ 
ニットキャップを辞めて、寂しいという気持ちはありますか?
市川 
ないなあ・・・でも何か、凄く、恥じないように行きたいと思います。「ニットにいた方が良かったのに」とは言われたくない。これから功績を残していきたい。
__ 
何者かになってほしいです。ニット時代の市川さんを知っている者としては。では、辞めるとなった時の周囲の反応はどうでしたか。
市川 
どうなんだろう。でもみんな、辞めるのはうすうすと感じていたみたいです。自分が進みたい道が明確にあるので、心配はされませんでしたね。何かを探しに東京に行く訳ではないので。
__ 
そこが違うね。何かを探しに行くわけではない。やることが決まっている。

戦略

__ 
どんな演技が出来るようになりたいですか?
市川 
隙のない演技。戦略的に自分を扱える人になりたい。
__ 
それは、今までの自分には無かった?
市川 
今までは感覚の人間だったから。野生的勘でやっていたものを具現化して、自分で理解して、使っていければと。
__ 
今までは、ある意味無責任。あ、無責任って言うとまた意味がズレるかな。
市川 
いや、巷に溢れる演劇WSとかコミュニケーションゲームとか、色々ありますけど、裏付けされるものを自分が持っているかどうかが気になっていて。それを持たない人が人に何かを教えていいのか、と。
__ 
自分を意識的に使った俳優になる。隙の無い、間のない俳優?
市川 
戦略的に間や隙を作りたいです。

木のお皿

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
市川 
ありがとうございます。(開ける)あ、やったー。これはアクセサリを入れるやつですね。
__ 
お料理を入れても大丈夫だと思います。
市川 
ありがとうございます。
(インタビュー終了)