ハイタウン2016「時計コメディ」 2

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今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。夕暮れ社弱男ユニットの村上さんにお話を伺います。最近はいかがでしょうか。
村上 
よろしくお願いします。5月にAI・HALLで公演を行いますので、その準備をしています。ドイツの、同年代の作家の戯曲を僕ら弱男ユニットと客演さん達で上演します。
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ああ、壮大な物語だそうですね。楽しみです。それと、ハイタウン2016にも参加されるんですよね。「時計コメディ」だそうですが・・・。
村上 
はい。時計って、面白いなあと思っていて。以前、喫茶店に入ったら、視界に3つぐらい時計があったんですよ。それぞれ少しづつズレている。
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ええ。ありますよねそんな事も。
村上 
そしたら本当の時間がどれだかわかんなくって。まあそのあとスマホを取り出したんですけどね。でもそのスマホの時間が正しいのかもわからない。その瞬間、自分に「えっ」て思って。分かります?
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ああ、ちょっと分かります。スマートフォンはほとんど常に正しい”とされてる”時間ですもんね。自動的にサーバーに正時を合わせに行きます。反射的にそれを確認しに行ってしまった自分に驚いたんですね。
村上 
SNSとかでも、それを書き込んだ時間が秒単位で出るじゃないですか。これまでのやり取りだとか、いまのやり取りだとか。それが距離を無視して、どんな人もそれを中心にしている。これは凄い事だな、と思って。
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考えますよね。明らかに人間の精神活動における時間単位が細かく細かくなってきている。そこで、時計コメディ。やはり真っ先に思い浮かぶのは、それぞれの時計のズレ、みたいなのが一つのポイントなのかな、と。
村上 
楽しみにしていて欲しいです。面白いですし、今の時代の時間感覚みたいな事を「笑い」にしてしまえるのがコメディの凄いところですよね。
1夕暮れ社 弱男ユニット
2005年村上慎太郎の個人ユニット「弱男ユニット」を結成。砂浜や劇場ロビー、ライブハウス、会議中の事務室前など劇場外での公演を数多く行う。2008年それを前身とし、さらに活動の場を広げていくためにメンバーを募り、「夕暮れ社 弱男ユニット」と名前を改める。過去作品には、観客が舞台上にあげられ、先ほどまで座っていた椅子が目の前で俳優の手によってぶん投げられながら物語が展開していく「現代アングラー」(大阪市主催CONNECT vol.2優秀賞受賞/2008年)や、 劇場の真ん中に客席を設置し、俳優がその客席の周りをグルグルと廻り続け演じるという独自の方法でデモ行進する人々を描いた「教育」(大阪市立芸術創造館/2010年)や、俳優が地面を終始、転がりつづけながら青春群像劇を演じた「友情のようなもの」(2012年/元・立誠小学校)などがある。(公式サイトより)
2ヨーロッパ企画presents ハイタウン2016
公演時期:2016/5/5~8。会場:元・立誠小学校。

夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「ハイアガール」 3

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「ハイアガール」、今年の1月に京都芸術センターで上演されましたね。お疲れ様でした。大変面白かったです。
村上 
ありがとうございます。
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何だか、感想を言わずにはいられない作品でした。あらすじになってしまいますけど、ある小さな町内のお話で、そこには銭湯の大きな煙突があって。南志穂さん演じる女の子の親友(中西柚貴さん)が、ある日突然煙突から転落してしまうというお話でした。それがもう、ぽっかりと空いた穴のように思えるんですよ。
村上 
はい。
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それで町の人は全員傷付いて、でそこからが凄くて、めいめいがそれぞれの傷との向かい合い方をするんですよね。女の子は不安定になり、その子に構う銭湯のバイトは彼女の傷ついた心を心理学的に分析し追い詰め、映画監督は転落した子の残したものを集めて、同じような男たちと共有したり、その男たちは彼女に追い詰められて・・・全員が舞台中央で這い回って転がって。そうしてるうちに時間が経って、転落した女の子の手紙を開くことができて……。そして1年の時間が暗転で飛ばされて、めいめいの傷が塞がれている。当初、骨折が治ったような印象があったんですけど、もしかしたら、ぽっかりと空いた穴を、全員が自分や隣人の肉を用いて塞ぐ話だったかもしれない。ご自身としては、どんなつもりで描かれたのでしょうか。
村上 
実はこれは個人的な経験にもつながるんですけど、
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ええ。
村上 
何だか人って、凄く大きな挫折をした時や、地の底まで落ち込んでいるような時でも、しばらくしたら這い上がってしまうものなんじゃないかなあと思っていまして。知らないうちにそこから這い上がろうとしてしまう。それが面白いな、と思ったんです。
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自分の境遇を受け止めて、それでも向上しようとするみたいな事ですか?
村上 
というよりは、本能に近い事だと思うんですよね。ものすごくどん底のような気分のときでも、気づけばそこを脱出していたりする、そういう反応というか・・・それが何だか、面白いと思ったんですよ。
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うーん・・・それを面白いと思えるという事自体が凄いと思います。
村上 
今回、弱男ユニットとしては「新手法」みたいなのはなくて、比較的真っ当に物語を作ったんですよね。舞台セットも面白いものを作ってもらったんですけど、それが目立つというほどじゃなくて。実は結構、賛否両論だったんです。でも、ハイアガールはそういう方向にしたかったんですよ。
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そう、確かに新手法はありませんでしたね。でも代わりに、私、客席で泣いていました。芝居を見て泣くのは10年振りです。
村上 
あ、そうなんですか!
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でも、ちょっと泣くポイントは違って。私の場合は、誰かの死に泣いたとかじゃなくて。あの町の変化に泣いたというのがあります。銭湯の煙突が取り壊されるじゃないですか。あの大きな大きな煙突が無くなる。銭湯も無くなった?と思いきや、実はそこに、ドイツ製の新式のボイラーが来ていて、銭湯は盛り返してました、という。煙突が無くなって、ドイツのピカピカしたボイラーがそこにある。その暴力的なまでの移り変わりが、ちょっと言葉アレですけど暴力的なまでにショックだったんです。
村上 
他の方からも、ボイラーがショックだったという感想は頂いてました。
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あんな、取り返しの付かない変化があるなんて。
3夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「ハイアガール」
公演時期:2016/1/20~24。会場:京都芸術センター講堂。

煙突が消えた町

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銭湯の煙突というのが、またシンボリックだったように思うんですよね。で、そこで働く、伊勢村さん演じるバイトが女の子を追い詰めていて、それが彼なりの傷の受け止め方なのかなと思ってたんですよ。そうせずにはいられないのかな、って。
村上 
実はあの役には原型があって。むかし、僕の友達の一人に、心理学マニアの奴がいて。そいつが心理学で、「お前はあと何分後かには怒ってるだろう」とか言うんですよ。会話しているうちに、本当に自分の感情が怒っていて。「で、しばらくしたら笑うんやで」とか言われて実際にそうなっている。「心理学的には・・・」って説明されるんですけど、内心ものすごく腹が立っていて。でも納得するんですよね。でも、そいつの思い通りに世界が動いているのか、と思うと腹が立ってくるという繰り返しで。人間の感情の未来は全部が見透かされているような気がして、ゾッとしました。その友人を原型にしました。
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そいつと喋っていて、面白く思っていましたか?
村上 
いえ、面白くは無かったですね(笑)
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ちょっと話してみたいです。その人と。この物語の銭湯のバイトも、最後には女の子に胸を貸して殴らせて上げて。追い詰めて殴らせるみたいな事になってましたけど、理不尽な状況を突きつけられたら意外とみんな、あのぐらいめちゃくちゃな言動になってしまうのかもしれない。とにかくバイト役の伊勢村さんは好演でした。
村上 
ありがとうございます。伊勢村くんには結構、負担の掛かる役をやってもらったんで。喜ぶと思います。
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役者は全員良かったですね。高阪さんも丸山交通公園も、穐月さんのぶっとんだおねえちゃんも凄かったし、稲森さん演じる面倒くさい彼女も向井さんの滑舌も、小坂さんの完璧な演技も良かったです。特に南さんがとても良く感じました。
村上 
ほんとありがたいことに全員、よかったですよ。南志穂も良くって。彼女は凄いと思うんですよ。本人は何かあんまり力は入ってないんですけど、あの子の身体は凄い力を持っているんですよね。今回は彼女を見てもらいたかったですね。
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南さん、良かったですよね。ずっと折れそうな表情をしていて、でも最後には諦めとともに強くなった顔が出来ている。何だかあの、どうあれ強くなった町を代弁しているようでした。

血の通う

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弱男ユニットとは、どんな人たちなのですか?
村上 
血の通った作品作りをする人たちだと思います。何かを無理矢理に作るんじゃなくて。もちろん僕ら自身をやるのでもなくて・・・ちょっと言葉にするのが難しいんですけど。
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分かります。分かると思います。弱男ユニットは明らかに「非日常」ではなく、かと言って「日常の延長」でもなく、彼らそのままなのに浮遊感があって・・・弱男ユニットの作品を観ると、何だか痛いんですよね。良くない意味のイタいとかの意味じゃなく、心が傷むとかでもなく。指の逆剥けに類する痛みだと思うんですよ。
村上 
「逆剥けの痛み」?
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ケガではなく、血がちょっと見えて、でも指という結構な急所の、半日すれば無くなってるぐらいの痛さ。生きていくのに必要な程度の痛みが、逆剥けには宿っていると思う。
村上 
そういう個人的な痛みがきっと、どんな人にとっても大切なのかもしれない。血の通った作品作りをするには、そういう事が分かっている人たちじゃないと、というのはあります。今後も、そうした作品を作っていきたいですね。とか言って、もちろん「新たらしい演出の手法」にもチャレンジしていきたいんですよね。
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もちろん、楽しみです。

夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「プール」 4

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新手法といえば「プール」も凄かったですよね。あれはもう、本当に。イジメと勧善懲悪のお話なのに、ハッピーエンドなのに、独特の妙な後味の悪さがあって。
村上 
プールって場所自体、何だか奇妙だなと思ってたんですよ。水が巡回して流れていて、でも巡回が止まると一気に濁ってしまって、でもそこを直すと途端にキレイになる。泳ぐと気持ち良い。でも、どこか不自然。
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都会で泳げるとか、考えてみれば、出来過ぎた話しですよね。
村上 
実はリーダーシップの話だったんです。リーダーがいなくなるとどうなるか。そして、リーダーが帰還するとどうなるのか。
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帰還したらイジメも無くなって、みんな、普段通りプールで泳いでいる。違和感は残って、でも音響はハッピーエンドみたいな曲だし、良いって事にしたのかな、って。不気味な感触の残る作品でした。けして良い思い出ではないです。でも、再演があったらもう一度見てしまうと思う。
4夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「プール」
公演時期:2014/11/27~30。会場:京都芸術センター フリースペース。

AI・HALL次世代応援企画break a leg 夕暮れ社 弱男ユニット演劇公演「モノ」 5

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さて、5月末のAI・HALLの公演についても伺えればと思います。どんな作品になりそうでしょうか。
村上 
まずはこの度、こういった素敵な機会を頂きまして。ドイツの方の戯曲なんですが、国境を股に掛けた壮大な作品になっていて、すごくスケールが大きいんですよ。綿が、工場でTシャツになったり、着用されたりしつつ、五大陸を渡って、そこにいた各地の人々を通り過ぎて、その中にはいろんな問題や人間関係などが交差していて影響し合ってて。
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世界を旅する繊維。
村上 
とにかくこの戯曲には、世界が広がっているんですよ。でもドラマとしてもしっかりと構成があって、僕らがそうした戯曲をやれるのは凄く光栄なんです。それからこの戯曲、ドイツの戯曲としては珍しく、わかりやすいんです(笑)わかりやすいというのがいいという意味ではないですが、「児童劇の側面」というのも含ませて書いていたらしんですよ。それがまた大人が見て全然楽しめるものになっているんです。この作品には、世に出回るドイツの戯曲の中でも稀有な戯曲だと感じました。
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ヨーロッパでは、児童向けの戯曲は日本のそれと違って全然子どもをバカにしてなくて、むしろものすごく考え深いものだったりするそうですね。小さな小さな繊維を糸口に、世界の視線がどんどん変わっていく体験が非常に刺激的ですね。
村上 
夕暮れ社である僕らが、いろんな国の人々を演じるというのが面白いと思うんです。まあ日本人ですけど、単純に面白いんですよね。客演さんも、スイス人、中国人、など多彩に演じてくださっていますし、それもまたユニークで面白いですよ(笑)
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血の通った演技をする夕暮れ社が、世界の人々を演じる。
5AI・HALL次世代応援企画break a leg 「モノ」
○開催日時○
2016年5月28日(土)29日(日)

5月28日(土) 15:00/19:00
5月29日(日) 13:00
※開演の60分前に受付開始、30分前に開場
※当日、会場にて受付順に入場整理番号を配布

○会場○
AI・HALL
(伊丹市立演劇ホール)
〒664-0846 兵庫県伊丹市伊丹2丁目4番1号
TEL:072-782-2000

○チケット○
料金

一般/前売2,800円 当日3,300円

  学生/前売2,500円 当日3,000円 (要証明)

【日時指定・全席自由】

作:フィリップ・レーレ(原題:『Das Ding』)
翻訳:寺尾格
演出:村上慎太郎
出演:稲森明日香、向井咲絵、南志穂(以上、夕暮れ社 弱男ユニット)

鎌谷潤吉(僕らの陰謀)、金田一央紀(Hauptbahnhof)、小林欣也、
古藤望(マゴノテ)、松田裕一郎 西マサト国王(B級演劇王国ボンク☆ランド)

舞台監督:浜村修司(GEKKEN staffroom)
照明プラン・オペレーター:吉津果美
照明アドバイザー:筆谷亮也
音響プラン:genseiichi
音響オペレーター:森永キョロ(GEKKEN staffroom)
劇中映像:柴田有麿
映像オペレーター:中野響馬
衣装:若松綾音
チラシ・制作:稲森明日香
票券:池田みのり

共催:伊丹市立演劇ホール
協力:大阪ドイツ文化センター、僕らの陰謀、マゴノテ、Hauptbahnhof、B級演劇王国ボンク☆ランド、徳永のぞみ、山本悟士

京都芸術センター制作支援事業

質問 市川 愛里さんから 村上 慎太郎さんへ

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前回インタビューさせて頂きました、市川愛里さんから質問です。「この道で生きていこうと思ったキッカケは?」
村上 
高校の頃に、電視游戲科学舘の「みなそこにねむれ」という作品を見てから、です。高校も辞めて、小劇場の世界でやっていこうと、学校の先生にも泣きながら相談しました。そこで、将来、劇団やりたいなら、大学に入って仲間を見つけた方が絶対にいいよとアドバイスを受たりして、京都造形大学へと進学しました。

こけし

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本日はお話を聞かせて頂きまして、ありがとうございました。お礼にプレゼントがございます。どうぞ。
村上 
ありがとうございます。何だろう・・・(開ける)
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こけしですね。村上さんに似たものを選んだつもりです。
村上 
(笑)ありがとうございます。稽古場に置いておきます!
(インタビュー終了)