中野劇団 第19回公演「代役」 2

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今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、中野さんはどんな感じでしょうか。
中野 
最近と言うか、これまでずっと変わらずにやってる感じですね。仕事のことはあるんですが。
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そして、次回公演の稽古の日々ですか。
中野 
もうそろそろ形にはなってきたので、自分的にはちょっとほっとしたところではあります。でもどっちにしてもギリギリなのはギリギリなので、残りの稽古の時間をうまく使って行ってきたいと思います。公演を打つたびに稽古時間が短くなっていく傾向があるので、自分の首を絞めながらも頑張っています。
1中野劇団
中野劇団とは・・・

2003年に京都で旗揚げした劇団。
長篇の公演と短篇(コント)オムニバス公演と2つの形式がある。

緻密に張り巡らされた笑いの伏線を、波状的な笑いに昇華させ回収していくシチュエーションコメディを得意とする。

第17回公演『10分間2016 ~タイムリープが止まらない~』がCoRich舞台芸術アワード!2016で6位獲得!(公式サイトより)
2中野劇団 第19回公演「代役」
「母が人工知能だと知らずに18年間生きてきました……」

作・演出:中野 守

日時:2018年7月14日(土)19:00
15日(日)14:00/19:00
16日(月祝)13:00/17:00
場所:インディペンデントシアター2nd

料金:前売2,800円、当日3,000円
学割前売1,500円、学割当日1,800円(要身分証提示)

チケット予約開始:2018年6月1日(金)21時

出演:
川原悠
延命聡子(以上、中野劇団)
青木道弘(ArtistUnitイカスケ)
河口仁(シアターシンクタンク万化)
是常祐美(シバイシマイ)
ほっぺふき子(i_design)
土肥希理子
北川啓太
高嶋Q太(後付け)
音声出演:真野絵里(中野劇団)

舞台監督:ニシノトシヒロ(BS-?)
音響:下田要(劇団熊タオル)
照明:真田貴吉
演出補:諸岡航平
宣伝美術:廣瀬愛子
制作:諸岡航平、三条上ル

協力:玉井秀和(劇団FAX)/ArtistUnitイカスケ/シアターシンクタンク万化
シバイシマイ/i_design/後付け/BS-?/劇団熊タオル/イズム/ライトアイ

笑いを取るために

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「代役」が、14日から始まりますね。どんな作品になりそうでしょうか。
中野 
まず、今回はシチュエーションコメディという事で。これまでの作品ではあまり、本格的なシチュエーションコメディという形では作ってこなかったんです。ちょっと独特なものでやっていたのが、今回は一番王道のシチュエーションコメディなのかなと思います。
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シチュエーションコメディというのは、一つのシチュエーションに限定したコメディということですよね。
中野 
僕の解釈で言うと、状況で笑いを取るという。今回はそこを純化させた笑いになると思います。なんだかんだでこれまで、違う引き出しを使ってきたので。
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状況というのはもちろん、チラシに書いてある「母が人工知能だと知らずにこれまで18年間生きてきました」ですね。
中野 
どういう風に展開していくかというのが一つのミソになっていると思います。
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稽古の様子をうかがうに、一つのことを追求する作り方を貫いているんだなと思っていまして。
中野 
台本を書いて、それをそのまま演技をしても、どうしても自分の中では消化できないところが出てくるんですよね。自然な会話を求めていく上で、一つシーンが出来たら、次はどういうふうに展開していくかをその場で考えると。終盤の頃は先が見えない状態が続いていて、重い空気の中で稽古していました。申し訳ないと思いながら。
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今はいかがですか。
中野 
いや、それは抜け出しました。でも自分の中ではまだまだなんですけどね。

積み上げる

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いますごく面白いことに気づいたんですよ。演劇の稽古を一つのプロジェクトとして見た時、例えば観客に対してある認識を与えるにはいくつかの内的な構造を順序立てて与えないといけない。それを例えば3週間の稽古で作ったとして、次の4週目では、それを前提とした構造を立てる事が出来る。そう考えると、演劇の成果物って本当に姿形がなく、実に内的なもので、だけど積み上げられるものなんですよね。
中野 
なるほど。でも次の稽古までに誰かが穴を見つけてくるということもあるので。自分では進んだと思って、嬉々として稽古場に臨んでも、根本を覆すようなダメ出しをされることもあり、稽古が1時間進まなかったこともあるんですね。一歩進んで二歩下がるみたいなことが本当にあるんですよ。
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ジェンガみたいですね。
中野 
でも今回は、自分の運か引きがいいのか分からないですけど、場数を踏んでいる役者さんがいらっしゃって、大崩れをしないで済む提案をしてくださる方もいて。本当に助けていただいて。大助かりでした。もちろん欠陥を見つけてくださる方も大変ありがたいんですよ。本番に入ってそれが見つかるのが一番ダメなので。そして稽古場で火消しの方法を見つけて下さる方はもう本当にありがたいです。よくこのキャスティングであってくれたな、と。今回も助けられてばかりです。
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そういう綿密な稽古の結果がとても楽しみです。

守りに入らない

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今の悩みどころ教えていただけないでしょうか。
中野 
脚本を書く時間の確保がとても難しいです。独身時代は2時間ぐらい書く時間は持てたんですが、家庭があるとそういうわけにはいかなくて。質の高い執筆をしないといけなかったりするのですが、ちょっと協力をしてもらっています。でもやっぱり十分な時間を確保できていないので、そのしわ寄せが稽古場に行ってしまって。
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「代役」、目標はありますか。
中野 
公演をするときはいつも、はっきりした形ではないんですが、小さくてもいいので何かの挑戦をしています。自分の引き出しだけで勝負をしないようには毎回心がけています。今回は、新しい笑いの生み出し方を一つでも作れないかと。中野劇団の芝居を期待してくださっている方に応えるのはもちろんですが、新しいことがしたい。本当に、笑いを取る以外のことをしてこれていないんですよね。受け身になってしまうと後退が始まってしまうので、ちょっと前のめりになってようやく横ばいかな、と。
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同じことを毎回できるというのももちろん大切だと思うんですけど、新しいやり方に挑戦するというのはそれだけで価値がありますからね。
中野 
それをしないと現状維持もできなくなってしまう。
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刺激がないから。
中野 
守りに入ると退化ととられてしまうかもしれない。危機感を持つようにしています。
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新パターンですね。
中野 
なかなか出てこないんですけどね。今までに出てきたものをどう組み合わせるか、どう上手く取り上げられるか、というところがポイントだと思うんですけど。誰かがやるかもしれない、というところで気持ちが萎えないように。
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お金を払ったお客さんにとって、価値があるものが手に入るのは当たり前なんですよ。でも、新しい見方を示してくれるものだ、と思ってくれたらいいんですけどね。
中野 
野球でいうと、ギリギリストライクというのが、自分にとっては金脈があるところなのかなと思ってます。変な揶揄になっちゃうかもしれないですけど、その作り手にしかわからないものを作るのは、やっぱりちょっとコメディとは違うと思うので。個々の人が前提として持つ価値観から、でも、既成のものでは納得できない人にも勝負をしかけていく。「ありそうで無い」、「ちょっと無い」。
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それがとても上手に組みあがってるものだったら良いですよね。
中野 
それは本番の、お客さんの反応を見ないと分からないことなので。その答え合わせまでは自分が面白ければいいというところでしか確認のしようがないので。

質問 今村 駿介から 中野 守さんへ

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前回インタビューさせたいただいた、第三劇場の今村駿介さんから質問です。「舞台に立っている時の一番の喜びはなんですか?」これは役者向けの質問なんですが、当時は次が誰か決まっていなかったので・・・
中野 
そうですね、やっぱり、自分のことを見てもらっているという事で、その空間を支配しているというところでしょうね。自分が、学生時代にちょろっと舞台に立っていた時の経験からなんですが、全てのお客さんが自分に集中して、どんな動きをするか、何を言うのか、とかを見てくれるというのが興奮すると思いますね。理屈じゃなく、本能的な。自分が話をするときに、目の前の人間が自分を見てくれている、認めてくれている、目をキラキラさせて見てくれているというのは自分の存在の再確認にもなりますし。
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なるほど。
中野 
忘れられていない、存在している。大勢の演劇をやっている人の大前提だと思います。
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見られている事の本能的な喜びを得ながら、それでも台本通り、稽古通りに上演するというのはものすごい業だと思うんですよね。
中野 
本番に、お客さんに来てもらいたいがための稽古だと思うので。面白くなかったら人は離れていきますので。

世代を越えるコメディ

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しかし稽古を重ねても、お客さんがふと目を離して重要な演技を見逃したら、悔しいですよね。お客さんの目線までコントロール出来る訳じゃないから。
中野 
他の演出家さんがどう考えているかは分かりませんが、僕の場合、ちょっとは客席のコントロールを試みてはいます。「笑い待ち」というのが分かりやすいと思います。笑いを取ったすぐ後に次の台詞を言っても聞こえなくないので、少し間を取るとか。または、少し会話を聞かせたい時はお客さんに笑いを起こさせないようにする、という事もあります。ちょっとおこがましいんですけどね。
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ああ、やっぱりそういう事はあるんですね。何となく思い当たります。逆に、お客さんの方も、ちょっと見逃したりしたとしても、展開に付いていこうとはしてくれますよね。その場で想像で補ったりはする。
中野 
そうですよね。見逃した演技の許容範囲にもよるし、物理的に見れない死角があるとかの場合もあると、お客さんの満足度も下がっていくとは思うので。
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ええ。
中野 
逆に言うと、どれだけこちらのレベルを上げても、お客さんは100%を受け取る事は出来ないんですよ。本番で生きてくる演技は8割ぐらいだと思います。僕は。2割は台詞を噛んだり、その時の間が上手く行かなかったりとか。そこを見越して詰めていくしかないんですよね。
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緻密な作品であればあるほど、見逃しても想像で補うのは難しくないと思いますけどね。
中野 
でもまあ、お客さんによって捉え方は全然違いますからね。もっと大きな括りで、若い人とお年のいった方で相当違う。後者に合わせると若い人が物足りない。僕らの場合は、両方向けの笑いを盛り込みます。大元の内容は、どの世代にも通じて、でも解釈はそれぞれ違う。全ての演目がそうだ、という訳じゃないですけど。いや、親に「分からなかった」と言われるのはショックですからね。
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今回は、人類にとっては昔からのテーマなので、通じるとは思いますけどね。

10年

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中野劇団の10年ぐらいを振り返って、自分達が変わった事とか、そういう点は何かありますか。
中野 
やっぱり、劇団員の多くが結婚して子供が出来て、というのが一番大きいです。元々、社会人をやりながら演劇をやろうというメンバーが集まっているので、やっぱり中々公演に参加出来ないメンバーもいるんですよ。僕は、メンバーが芝居をやりたい時にその時の公演に参加してもらえたらいいなと思っています。前回の「楽屋ちゃん」では、10年間出ていなかった、加藤祐一という旗揚げメンバーもいて。その間も劇団にはずっと名前があったんですけどね、でも彼が出演出来たというのはこれは中々面白い事なんじゃないかと思っています。仕事とか家庭を優先してほしいですね。芝居をやって不幸になるというのは元も子もないので。どちらも充実してもらって、芝居がしたいなと思ったら、すぐに合流してもらえる、というのが理想です。まあ、毎回のメンバーに負担が行くという事もありますけど。
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いいやり方が見つかったらいいですね。

自分のキャパシティを越えた作品が出来ている

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中野さんが、ずっと緻密な作品を作り続けられる理由は。
中野 
僕が中野劇団を作って間もない頃、三谷幸喜さんの作品を映像で見た時に変わったんですね。それまではナンセンスコメディを軸にしていたんですが、シチュエーションコメディを突き詰めていく面白さというのがあってですね。充実させていくと笑いの質と量が格段に違っていくんです。それはやっぱり追求しがいがあるし、その武器を研いでいきたいと思います。最初から、そういう緻密さに無意識に自分を置いているのかもしれません。作品のジャンルは毎回違います。サスペンスだったり、SFだったり。
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なるほど。
中野 
何でしょうね、稽古の中盤を過ぎた辺りで、自分以外の参加者が作品の答えを出して共有していて、半自動的に組み上がっていく事もあったんですよ。すると自分のキャパを越えた作品が出来ている。例えば、「10分間2010」はそうでした。だから、その次の公演はそれを越えないといけない。次はそのプロセスが起こるように、土俵を何とか作って、それが起こるようにしていく、というのが最近の流れです。
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そういう共有は、歓迎すべき事ですか?
中野 
一概には言えないんですが、イニシアチブを取れなくなる事は確かです。言ったら、影の監督制が始まってしまう事もあるので、虚勢を張って引っ張って行くことしか出来ないですね。脚本を書き上げるまでは。
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そこが、中野劇団のもう一つの味だとも思いますね。脚本の横に、役者の味が。
中野 
役者さんがうちの舞台で新しい面を見せてくれると、凄く嬉しいですよね。

一作でも多く

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今後、どんな感じで攻めていかれますか?
中野 
そうですね、今後・・・明日どうなるか分からない状況なので。一作でも多く作りたいというのが、自分の欲求なんです。本当にそれに尽きます。コメディって35歳がピークだとよく言われていますが、それを10年ぐらい経ったんですが、まだ老化に逆らって、一作でも。

ソックス

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今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。どうぞ。
中野 
ありがとうございます。(開ける)おっ、ソックス。ビジネスに使える感じの。
(インタビュー終了)