リセット

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。最近河口さんはどんな感じでしょうか。
河口 
よろしくお願いします。「てのひらに声」の公演の整理と、今日が30GPのチケット発売日なのでずーっとSNSで宣伝したり。それから、福岡のきびるフェスの準備です。でもそないに忙しくはなくて、本公演が終わったのでぼちぼちやっています。
__ 
もう全部、神経を使うお仕事ですよね。
河口 
気は使いますね。気ぃ使いしてますね。
__ 
演劇以外ではどんな感じですか?
河口 
公演がつい最近終わったところでなにもしてません。私ね、公演終わったら誰とも逢いたくなくなるんですよ。今までずっと一緒にいた出演者や劇場からザーっと離れるんです。まあ精算作業もあるので必然的に離れることにはなるんですけど、離れないと脳みそがリセットができないんですね。フェイドアウトと言うか、高揚感がスーッと消えていく感じ。
__ 
それはなぜ必要なのでしょうか。
河口 
たぶん次を始めるために終わらせてるかなあ。私の中ではそういう作業なんだと思います。
離れたいわけではなくて、ずっと離れないでいると気を使ってしまって(気を使うのがしんどいというわけじゃないですけど)、人の事ばかり考えてしまうんですよ。だから一旦気を抜いて、また新しく一から向き合うというか、皆のことを好きになるというか。
__ 
今の立場や見方から離れて休む事で、何かを新しく発見しやすくなるということみたいですね。
河口 
たぶんプロデューサーさんはずっと一つの何かを続けて行くために人の輪から離れないと思うんですよ。公演が終わった後も次の準備のために誰かとコミュニケーションを取り続けたり。でも私の場合は作品の原案となる企画も作ってるので、頭の半分ぐらいが物語なんですよ。だから余計に、離れないと作品を終わらせることが出来ないのかな。
DOOR
2011年4月、フリーの演劇制作者河口円が「アラサー以上の女性の明日がほんの少しだけ元気になれる舞台公演を企画」するというプロデュース企画「DOOR」を立ち上げる。公演は「DOORプロデュース」と銘打つ。毎公演、作・演出家はもとよりスタッフキャステングを行い、また企画内容から原案も作成。総合的にプロデュースを手掛ける。作品は「アラサー以上の女性」の生き方を通して物語を創っていくスタイルとなっている。
DOORとは「扉」
人生の新しい扉を開けて頂くことができる公演になれるようにキャスティング・作品・制作面など多岐にわたる挑戦をしている。また「大阪」を舞台にした作品にこだわり、出演者・作家・作品、使用する音楽などを「大阪」に関わる人物を積極的にオファー。プロデュース②以降は必ず「大阪弁」での作品創りにもこだわり、「大阪発」の舞台作品を発信している。(公式サイトより)
火曜日のゲキジョウ 30GP出場決定!!
8月に火曜日のゲキジョウで上演された「空のエール」が1月におこなれる「30GP」にノミネートされ、再び上演することが決定しました。30GP⇒「火曜日のゲキジョウ」の1seasonの中で選ばれた6作品による再演イベントです。そしてこの30GPは観客投票による勝ち抜きバトル形式となっています。
第5回30GP ⇒  http://www.ka-geki.com/?cid=11

「空のエール」
(あらすじ)
アイドルを目指して意気揚々と上京した宮本茜は夢破れ、現在バーチャルYouTuber『アオイヒマワリ』の中の人として極秘裏に活動していた。人気が低迷し閲覧数を上げる為に日々苦戦する茜だが、「皆が応援しているは本当の私じゃない」「本当の私は空っぽ。何モノでもない」と自分に嫌気がさしていた。
そんな中、アオイヒマワリを使った生配信PRイベントが地元の市役所から依頼されてしまう。「誰にも知られたくない…」と正体を隠しつつ渋々帰郷する茜。だが市役所で担当職員として出迎えてくれたのは、かつてのクラスメートにして学校イチ地味な女子・大西信子だった。思わず逃げ出してしまう茜だが、配信時間が迫り…
●作 演出
虎本剛(ステージタイガー)
●出演
是常祐美(シバイシマイ)
植木歩生子(ゲキゲキ/劇団「劇団」)
うえだひろし(リリパットアーミーⅡ)
飯嶋松之助(KING&HEAVY)
早川丈二(MousePiece-ree)
福岡きびる舞台芸術祭 ピタゴラスのドレス
夏川幸子(42)は、交際していた16歳年下の乙部翔太(26)との結婚を目前に姿を消し、実家の兄が経営する民宿「なつかわ」に逃げ込んでいた。同郷の友人達と過ごしていると・・・居場所を突き止めた翔太がやってきてしまう。「戻ってきてください。あなたに割り切れない思いがあるなら、僕がわりきってみせます。それまで帰らない」と息巻き、宿泊し続けることに。
そんな翔太に「ピタゴラス」とあだ名をつけ、困惑する皆。
その上、翔太を追いかけて翔太の姉もやってきてしまう。
幸子が逃げ出した本当の理由は?結婚はどうなってしまうのか?
これからの人生に迷う幸子と取り巻く人々の物語を通して、オトナ女性の「幸せの在り方」を問う作品。

作・演出:虎本剛(ステージタイガー)
出  演:小川十紀子(遊気舎)、飯嶋松之助(KING&HEAVY)、是常祐美(シバイシマイ)、うえだひろし(リリパットアーミーⅡ)、澤井里依(舞夢プロ/EVKK)、大江雅子、早川丈二(MousePiece-ree)
公演日時:2020年2月29日(土)14:00 開演
     2020年2月29日(土)19:00 開演
     2020年3月1日(日)15:00 開演
会  場:ぽんプラザホール

DOORプロデュース ⑦「てのひらに声」

__ 
「てのひらに声」、凄く面白かったです。
河口 
ありがとうございます。
__ 
大変洗練された会話劇でした。役者の所作やブレスや、ちょっとした身体の間の取り方すべてに明確に意味が通っていて、なおかつ生のままの部分もあるというか。そのバランスが凄くて演技をすっと受け止められたんです。それは別に理解しやすかったという意味ではなくて、受け止め安かったんですよ。これって凄い事なんじゃないかと思う。
河口 
「完璧すぎてショック」っておっしゃってくれてましたね。
__ 
「完璧過ぎて良かった」という意味でした。作品によっては「完璧すぎて」良くない、なんてこともあると思うんですけど「てのひらに声」の場合は作品単体の調和をゴールとした作品ではなくて、人物一人一人を尊重した形で、なおかつ完璧だったんですよね。
河口 
「ピタゴラスのドレス」とはまたちょっと違ってたんですかね。
__ 
違いましたね。「ピタゴラスのドレス」はエンタメ的な会話劇という感じで単純に楽しかったんです。「てのひらに声」は、ベースがエンタメにありながらも、福祉現場というリアリティがそのさらに下にある事で、人物表現の指針が共有されやすかったのではないかとは思います。福祉施設のみならず入院病院とかは集団生活なので、ずっと職員さんと患者・利用者さんのロールコミュニケーションは続いているんですよ。その上で生活環境が担保されなければならない。デイケアセンターの場合はさらに地域との関連性がやはり強くなるので包括的な関係性が入り交じるんですよね。もしかしたら、そうした複雑さを表現するのに演劇は適した手法なのかもしれませんね。
河口 
虎本さんがもともとそういう経験もあるのと、細かい取材もされていたのでその辺りのリアルな感覚が伝わったんかもしれませんね。

・・・DOORプロデュースの作品の立ち上げって、まず私がその時思っていることを箇条書きで書き出すんです。この事についてどう思っている、あれについて悩んでいるとか。それを虎本さんに伝えて全部繋ぎ合わせて、物語に変換してくれて作品が生まれるという形になっています。「てのひらに声」の場合は私が普段働いている中で思っている事や、仕事への想いを話しました。稽古場でもずっと、私の職場の話とかをしたりして。例えば話の通じない人とかわがままな人とかね。そういう私の経験と虎本さんの経験が混ざってできているんです。

で、私の想いとしては、物語が出来るだけお客さんの日常に入り込みたい。舞台観て「この人は本当にいるかもしれない」と思ってもらうのがものすごく好きなんです。
__ 
それになりましたね。
河口 
そうなりましたね。今回はそれが顕著に現れた作品だったかもしれないです。そして「本当に寄り添うということ」というのが根幹のテーマやったんです。・・・あのですね、私作品に寄り添って欲しいんですよ。
__ 
「寄り添う」というのはいつから。
河口 
「女子芸人」という作品で作・演出して下ってた本多真理さんにね、終わってから「私は最後まで河口さんと寄り添っていようと思いました」と言われて。その公演を虎本さんが見てくれはったか分からないんですけど、「ドロップキックシスターズ」で初めて打ち合わせした時に「多分『誰かと寄りそう』という作品がDOORプロデュースには合っているんじゃないか」と仰ってくれて。私が寄り添いたいというより、私に寄り添ってもらえる作品をつくれたらなあと。それがキッカケだと思います。だから私が一番のファンでセンターの真ん中で観たいんですよ。
<應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2019> DOORプロデュース ⑦「てのひらに声」

介護職員・近藤麻友(30)はデイサービスセンター『つながり』に新たに転属となる。しかしそこではベテランや新人、正社員やパート…働く職員同士で立場や考えが違い、日々揉めごとばかり起きていた。そしてついにセンター内で車椅子の転倒事故が発生、より職員間の溝が深まってしまう。見かねた麻友は「もっと思っている事を話しましょう」と、職員間の意見交換会を開催する。お互いに話し合い、人といのちに寄り添うとは何かを模索する中、やがて麻友自身の過去と『つながり』にやって来た本当の理由が明らかになり…。 作・演出:
虎本剛(ステージタイガー)
出演:
澤井里依(舞夢プロ/EVKK)
早川丈二(MousePiece-ree)
是常祐美(シバイシマイ)
うえだひろし(リリパットアーミーⅡ)
木山梨菜(三等フランソワーズ)
猿渡美穂 (宇宙ビール)
植木歩生子(ゲキゲキ/劇団「劇団」 )
小川十紀子(遊気舎)

公演日程:2019年11月28日~12月1日
会場:浄土宗應典院 本堂

「寄り添う」

__ 
自分が誰かに寄り添うという時、やはり自分自身の内面もさらけ出す事になり、第三者も含めて多少なりの軋轢が生まれますよね。そこをどう覚悟するのかがやっぱり難しいところなんだろうなと思います。「てのひらに声」で澤井里依さんが演じられた近藤さんは、過去に退職した施設で一人の入居者さんと精神的に近付き過ぎてしまい、周囲が見えなくなってしまいますね。「寄り添う」という行為に掛かっているリスクについては、職としても一人間としても無視できないものがある。
河口 
「寄り添う」って言葉では奇麗なんですけど、覚悟なんですよね。だからね、ほんとの意味で寄り添うことってかなり難しいことやなあって。今までね私自身も誰にも寄り添えてなかったんやなって思いましたね。

・・・パンフに書いたんですけど「ピタゴラスのドレス」の公演後に出演者の人が「色々言ってくれたら手伝うから」「そろそろ私たちに頼ってもいいんじゃないですか」って。自分としては話してたと思うし、DOORは自分しかいないので迷惑かけるからっていろいろやっていかなあかんし。って踏ん張ってたつもりやったんです。そんな私にいろんな形でいろんな人が寄り添ってくれようとしてたのに、頑固なのか気付いてないのかして聞こえてなかったんでしょうね。
ごめん聞いてなかったわ・・・って。私はみんなの話を聞いてなかったんだなと。これからはみんなの話を聞こうと思いました。
振り向いたら実は誰かがいるかもしれない、そこに気付くのが幸せなんだなと思う。まあ、でも気づいたからといって何かが生まれていくかは分からない。でも気づくことによって、明日はちょっと楽に過ごせるのかもしれない。そういうキッカケもあって。

それとね、以前職場で新入社員さんが悩んでいたんですね。私は特に仲良くはなかったのですがある日その人が帰りしに「お疲れ様です」って声をかけてきたんですが、私は相手をしようとしなかった。で、その人が翌日仕事にこなくなって。行方が分からなくなったそうです。あの時話し相手をしていたら何かが違っていたのかもしれない。
__ 
やりたい事をやっている訳ですから、横に人がいるということにはなかなか気づけないですよね。芸術をやっている中には、必ずしも理解を求めない人も多い。
河口 
そうですね。でもほんとは気付くべきなんやと思うんです。
有難いことに今周りにいてくれる人はね、自分が前を向こうとした時、進もうとした時、存在を感じることができるんです。それが嬉しくてね。だったら声を聞かずに一人で意固地でおるよりも少しぐらい助けてもらってもいいと思えるようになって。それが私にとっての「寄り添う」なんです。
__ 
寄り添われる状態を、まずはこちらから受け入れるということ。
河口 
そうかもしれません。一人でやってるんですけど、だんだんと一人ではやってないんだなということになってきました。DOORプロデュースは私一人なので責任は私一人なんですが、そばに誰かがおってくれると気付いた時に、もう少し頑張れるかなと思えるようになりました。

日常に

__ 
DOORプロデュースはアラサーの女性へ、と書いていますね。
河口 
私がそうなので(年齢が)アラサー以上の女性って仕事や子育てや奮闘してると思うんです。いろんな選択肢の中生きてる年代かなと。そんなお客さんが劇場をでて日常に戻って(公演終わりの)月曜日か火曜日ぐらいに何かちょっとしんどいなと思った時に作品で見た瞬間がヒュッと出てきたら、入り込めたかな、と。そんなことを思ってもらえたら幸せですね。理想ですけどね。
__ 
非日常的な芝居ではないですからね。
河口 
非日常とかも全然好きなんですけど。私が今、そういうのを見たいんだと思います。心が動かされるような作品を作りたいです。私が出来るのは企画とキャスティングと音楽を選んで、送り出すだけなんですが。
__ 
音楽にもこだわってるんですね。
河口 
企画をつくるときに音楽を聴きながら考えるんです。「ピタゴラスのドレス」のテーマソングは中之島春の文化祭の時にライブをやっていたケイスケサカモトさんっていうシンガーソングライターの方に出会って。ライブに行ってCDを買って、知り合って人となりを知って、企画書を持っていって。
__ 
行動力すごいですね!
河口 
好きな作品のためだったらそれぐらいできるんですよ。好きなものを作ってもらって私は幸せ者だと思います。だから、どうにかして、私の好きな人を見てもらいたいですね。
__ 
まさにプロデューサーですね。
河口 
一般的なプロデューサーって、多分作家さんがやりたいことを広めていくという作業になると思うんですけど、私は企画だけで作品から先は作家さんに渡してしまうので。特殊なんやと思う。でも入りたいんですよ、どうにかしてその世界に。作品に引っかかっておきたい。だから「ピタゴラスのドレス」の小道具のポスターとかも作ったし、村役所の職員としてTwitterで村起こしのツイートを考えたりして。今回の「てのひらに声」の写真で澤井さんと手を繋いでるのが私だったりね。
__ 
あ、そうだったんですね。そういうタイプの登場人物だったんですね。
河口 
私が勝手に言ってるだけですけどね。一人で満足してるだけですけどホント楽しいんですよ。

次の扉

__ 
河口さんが、自分自身が見たいお芝居をプロデュースするけれども、それを0から1にするのは河口さん本人ではないというのが面白いですね。
河口 
私は感謝しかないですね。世界をつくってくれてありがとう的な。

企画の根本って、私が変わりたいと思うこととか、働いている時に思っていることであったりとか、誰かと繋がっていることを認識したいとか、そういうことなんです。

私、議論とか意見交換が苦手で、実は話すのもそんなに得意じゃない。でも周りの人たちは凄くって、私が彼らに認められているのか分からない。おいてけぼり感がすごい。結局、自分で自分を認めてあげたらいいんですよね。周りの人達は認めてくれているのに。そんなことが企画の始まりだったりしますよ。
__ 
「ピタゴラスのドレス」の時に言われた事へのアンサーなんですね。
河口 
そうですね。でもそう思えたのはピタゴラスの時です。実はその前の作品「サンセットバラード」の時に「演劇をやめよう」と思っていて。
その作品は劇場が閉館する最後の一日の話なんです。
主演の是常さんがひとつひとつ段ボールをしめて、想いを整理していくんです。そして最後に劇場が閉まってくんですけど、是常さんが笑顔なんです。閉館してく現実を受け入れて前をみて笑顔で立って終わるんです。観た時に私「大丈夫だ、頑張れるかもしれない」って。この作品を見ることができて良かった、って。
うえだひろし君が千秋楽のカーテンコールで「DOORプロデュースは河口さんが一人でやっているユニットですが、これからも応援してあげてください、僕たちも出続けたいと思っています」って言ってくれたんです。そんなことを誰かに言ってもらったのは初めてで、私は何でこんなに辞めようとしてたんだろう。なんで悩んでいたんだろうと。その日の後説で「この作品は終わりますがDOORロデュースは続きます」って宣言したんです。「ご縁がありましたら次の扉の前でお会いしましょう」というのもその時が初めてやったんちゃうかなあ。
__ 
「次の扉の前でお会いしましょう」って素晴らしい一言ですね。素敵過ぎますね。
河口 
いえーいっっ。
__ 
どうやって思いついたんですか?
河口 
なんとなくですねえ。えっと、初期の頃の出演者が「次の扉はいつ開けるの」って聞いてくれて。「扉って何」って思ってたんですけどDOORだからか、って。あ、そっかあ、と。そこから次の公演のことを「次の扉」っていうようになってきたんです。お客様も「次の扉」いつ開けますかって聞いてくださって・・・なんかね自分だけでなくいろんな人がDOORをつくってくれて嬉しくて。

DOORが続いているのって、これまで関わってきてくれた方がいるからなんですよ。その人たちが居てくれたおかげで今があるんです。「サンセットバラード」の時に思わず出てきた言葉でしたが「ピタゴラスのドレス」の時に自分って幸せかもしれないと思えるようになってから、「次の扉の前でお逢いしましょう」って、ちゃんと言えるようになりました。・・・だって逢いたいじゃないですか?

質問 小野 桃子さんから 河口 円さんへ

__ 
前回インタビューをさせて頂いた、幻灯劇場の小野桃子さんから質問をいただいてきております。「行きたい場所はありますか?」
河口 
DOORプロデュースの人たちで、大きい劇場で3人芝居が4人芝居をしてみたいです。DOORの人たちを、もっと多くの知らない人たちに見てもらいたいです。大好きな人達なのでどうにかして見てもらいたい。

これから

__ 
これから外部企画に出す事が多くなりますが、意気込みを教えてください。
河口 
30GPで上演する「空のエール」は初めての再演なんです。お客様の投票で上演できることになりました。福岡公演の「ピタゴラスのドレス」も、たまたま見に来ていただいた方が推薦してくれたので。そういう方の気持ちに応えたいんです。応援してよかったなって思ってほしい。まずは30GP、「優勝したいなと言っていいかな」と思ってます。1回戦で負けてしまうとそれで終わってしまうので、勝ちたいです。1回でも多くDOORプロデュース作品を観てもらう機会が増えてほしい。私はエールしか送れないですけどね。皆のことを、世界で一番信用してます。

蕎麦猪口

__ 
今日はお話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
河口 
あら!マジですか?ありがとうございます。私もプレゼント持ってくれば良かった。開けていいですか。
__ 
どうぞ。
河口 
おお?(開ける)いやー、素敵。いいんですか?
__ 
蕎麦のつゆを入れても、何か一品を入れても。爽やかな感じの器でしたので、河口さんにピッタリなような気がしました。
河口 
ありがとうございます。そんなこと言ってくれて。爽やかなんて言われたんはじめてやわ。

したため「擬娩」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。dracomの松田早穂さんにお話を伺います。最近、松田さんはどんな感じでしょうか。
松田 
よろしくお願いします。ちょっと緊張しています。最近は、したための公演「擬娩」の稽古をしています。ちょっと変わった稽古方法で、上演台本があって始まっているわけでなく、何もないところから始まっているので、ディスカッションというか割と話をしている時間が長くて。新しく知ったことや他愛ない日常の細かなことまでとにかく沢山話しています。私たちの話の何が本編に組み込まれていく・回収されていくのかはまだ分からないんですが、ここから佳境に入っていくと思います。
__ 
その場でのお話が演出家の和田さんによって一つの大芝居に編纂されていくんですね。
松田 
妊娠・出産がテーマの作品なんですが、生物学的なことや生活のこと、社会問題のことなど網羅していくと、やっぱりとんでもない量の情報がやり取りされるので。頭がはちきれそうでもあります。
__ 
今回の作品は妊娠を擬態する「擬娩」がモチーフとなっていますね。実は世界各地で似たような習わしがあるということですが。
松田 
今回参加するまで何も知りませんでした。タイトルにもなっている擬娩は、民族学(人類学)の用語だそうです。科学のない時代から、夫が、知ることのできない妻の妊娠出産の苦しみを擬態する風習がさまざまな国であったようです。いつから、なぜ、というところははっきり分からないのですが、突発的な病や事故や流産も常につきもので、夫婦間だけでなく大小それぞれのコミュニティの中で出産というものに対処する必要があって引き継ぐ習わしがあった。今の時代でも「実際に自分が妊娠したらどうなるのか」は、経験した人にしかわからないので、最大限に持ち駒を増やして全力で想像するしかない。4人くらいの実際に出産を経験された方に稽古場へ来ていただいて取材をしたりもしています。その方たちの身振り手振りを真似してみたりもして。とてもじっくりと稽古が進んでいますが、私はそういうしたための進み方が好きですね。
__ 
今のところ、どんな作品になりそうでしょうか。
松田 
和田さんとは前回一人芝居でご一緒させていただきました。安部公房の「時の崖」という、あるボクサーが試合に臨んでいくさまを独り言で喋り続ける一人芝居でした。著作権の関係で言葉を一言一句間違えてはいけないのと、そこまでの長台詞をやったこともなく、少しハードな経験だったんですが、台本があって始まっていたので今回とハードさの質が全然違いますね。まだ全体像みたいなものは見えなくて、細部から検証して積み上げていってるという感じです。和田さんも共演者の皆さんやスタッフの皆さんも、妊娠は全員未経験なので、わかることに置き換えたり資料を読んだり無我夢中で想像しています。無我夢中の様子にそれぞれ個性が出てると思います。びっくりして笑ってしまうことも多いです。むちゃくちゃな想像だったりすることもあると思うのですが、稽古場でたくさん試したうちのほんの少しが作品としては見える材料になるのだと思います。案外すっきりしているかもしれないし、混沌として見えるかもしれない。まだわかりません。でも、こんなに堂々と、経験していないことを皆で確認しながら身も心も総動員して想像するなんてあまりないことだと思うので、ぜひ覗きにきてほしいです。熱が出そうです。個人的には、プライベートなところが出ている作品なので、自分の今の状況だとか生活のことだとかを煮詰めて行っているという感じがします。
__ 
プライベートなこと。
松田 
役者って自分個人のこととはあまり重ならないようにしてるものだと思っていました。重ねてるとしても密やかにやっていて、見せすぎないものかと。今回はベン図の重なってるところが限りなく大きくなるような気がしています。不思議と、忘れていた幼い頃のエピソードなども思い出してきて、またそれを皆で共有したりして。お芝居を続けていると、(辞めようと思った時期もあったんですけど)次の予定が色々な形で決まっていく中で子供を持つということに対して考える機を逃していて。稽古でそれを考えるというのはちょっと面白い事だなと思います。これまで私が参加してきた演劇の稽古とは全く違いますね。
__ 
したための作品はどれも全部作風が違いますからね。
松田 
和田さんは「私のやり方は不可逆なので、時間がかかる」と仰っていて、なんだかとても魅力的だなと思いました。
__ 
選択って負荷逆ですよね。そして、演出は選択の連続。
松田 
演出家によっていろんなやり方がありますよね。何かを一度決めても後から出てきた新情報によって方法や決定を塗り替えたり。作品をより生きたものにするためどんどん変えていくこと、これまでその方が私には身近にありました。和田さんはあまり変えないそうです。和田さんの場合は、例えば溶けた氷が元に戻らないように、自然が取るかのような選択肢を取る気がします。氷が溶けるというシーンを見せるために、何がまず氷か、コップはどれで、気温は、いつ冷凍庫から出せば実現できるか・・というように要素を微細なところまでとことんよく見つめて、さて溶かしましょう、というような。あくまで私の見た和田さんです(笑)。作り物ではなくて自然にそうなる、ということを大事にされていると思っています。
__ 
一つ一つの選択を大事に決めている和田さんの作品は、だから緊張感がすごい。
松田 
私自身はどうでもいいことに目がいきがちで、なぜ話してるかも分からなくなるような無駄なことも喋ったりしてしまうんですが、稽古場に入ると作品が少しずつ作られているという感覚があります。未知の感覚なんですが、背骨の真ん中らへんで今回の演劇が作られていってるスピードをジリジリと感じてるような気がします。台詞をしゃべっていて、頭では忘れているんですが。でもその背骨の感覚は消さないようにしています。
dracom
公演芸術集団dracom(ドラカン)。1992年、dracomの前身となる劇団ドラマティック・カンパニーが、大阪芸術大学の学生を中心に旗揚げ。
1997年の第7回公演『空腹者の弁』から作風が一変したのを機に、1998年1月に一部の関係者の間で使用されていた「ドラカン」という略称をそのまま集団名とすることになった。
過去に、大阪の小劇場ウイングフィールドの「再演大博覧会」に2度の参加の他、演劇計画2004と2007に参加(2007はリーダーの筒井が京都芸術センター舞台芸術賞を受賞)。その後にもTPAM2008、精華演劇祭vol.12、フェスティバル/トーキョー2010、Sound Live Tokyo 2014(カナダの劇団Small Wooden Shoeとのコラボレーション公演)、Nippon Performance Night 2017(デュッセルドルフ)等、国内外のあらゆる機会に精力的に参加している。
本公演では、公演芸術が持っている根源的な要素をバランスよく融合させて、濃密な空間を表出する。多くの観客に「実験的」と言われているが、我々としては我々が生きている世界の中にすでに存在し、浮遊する可能性を見落とさずに拾い上げるという作業を続けているだけである。世界中のあらゆる民族がお祭りの中で行う伝統的なパフォーマンスは、日常の衣食住の営みへの感謝や治療としてのお清め、さらには彼らの死生観を表現していることが多い。我々の表現は後に伝統として残すことは考えていないが、現在の我々がおかれている世界観をあらゆる角度からとらえ、それを社会に向けてユーモラスに表現しているという意味で、これを「祭典」と銘打っている。
ベビー・ピー
2002年旗揚げ。拠点は京都。野外テントなど劇場外スペースを活用して、題材も公演自体も「祭り」にこだわった作品を毎回上演している。また、アーティスト・山さきあさ彦が製作するぬいぐるみ(山ぐるみ)を使った人形劇、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」を再構築した「ジョジョ劇」など、既存の枠組みにとらわれない活動を全国各地で多数上演。
2015年、『山ぐるみ人形劇 桜の森の満開の下』で、愛知人形劇センター主催のP新人賞を受賞。2016年、いいだ人形劇フェスタ、あいちトリエンナーレ並行企画事業「人類と人形の旅」、瀬戸内国際芸術祭2016に参加。
結婚式・パーティ・イベントなどへの出張人形劇・ジョジョ劇のご要望にもお答えします。
したため#7『擬娩』
わたしは妊娠したことがありません。したことがないので、できるのかもわかりません。わたしは妊娠にあこがれているのかもしれないし、妊娠を恐れているのかもしれない。真剣に考えることをのらくら避けてきた末に焦りにがんじがらめになってしまって、しかしその時ひらめいたのが、妊娠と出産のリハーサルでした。妊娠したことがない人間が妊娠をリハーサルするなら、女だけじゃなくて男も一緒にリハーサルしてみよう。そんなことを考えていたら、「擬娩」という人類学の用語に行き着きました。妊娠を演じるというアイデアは、人類の古くからの知恵だった! 驚くと同時に腑に落ちました。妊娠を演じることは、わたしひとりが考えていたよりもはるかに人間に必要で、そしてそれはまさしく今なのだと。
したため 和田ながら

公演情報
京都公演 [ THEATRE E9 KYOTO オープニングプログラム ]

日程|2019年12月
6日(金)19:30
7日(土)14:00*1 / 19:00*2
8日(日)14:00*3 / 19:00*4
9日(月)14:00*5
*受付開始は開演の30分前

ポスト・パフォーマンス・トーク ゲスト
*1 櫻井拓(編集者)
*2 林葵衣(美術家/本作舞台美術担当)
*3 弓井茉那(BEBERICA theatre company代表・演出/俳優)
*4 本作出演者
*5 「感想シェア会」
作品を見て感じたこと・考えたことを、
同じ作品を観た人同士でシェアしてみる試みです。
詳細は⇒ http://kyoto-pa.org/
主催|NPO法人京都舞台芸術協会

会場|
THEATRE E9 KYOTO (〒601-8013 京都市南区東九条南河原町9-1)
*JR「京都」八条口から徒歩約14分
*京阪本線・JR「東福寺」から徒歩7分
*京都市営地下鉄「九条」から徒歩11分


沖縄公演 [ アトリエ銘苅ベース提携カンパニー公演 ]

日程|2019年12月
13日(金)20:00
14日(土)19:00
15日(日)14:00
*受付開始は開演の30分前

会場|
アトリエ銘苅ベース(〒900-0004 沖縄県那覇市字銘苅203番地)
*ゆいレール「古島」から徒歩8分

チケット料金|
一般前売 2,700円
25歳以下前売 2,000円
高校生以下 1,000円
*日時指定・全席自由
*当日券はいずれも+500円
*25歳以下チケット・高校生以下チケットの方は当日の受付にて証明できるものをご提示ください。

準備について

松田 
和田さんが最近「妊娠出産についての知識を得たり十分に実験などもしたので、生むための準備はできたはずです」って。あ、出来たんだー!って。色々な恐ろしい想像とかもしたし。心配することも準備のうちですからね。
__ 
妊娠・出産の場合は誰でも可能性を持っているモチーフですので、その行為には様々な影響が動いてそうですね。男性にしても、赤ちゃん教室とかに参加するし。
松田 
今回は生まれた後のことよりも娩出そのものと出産以前について絞って行こうという話になっているので、赤ちゃん教室の話はまだ出ていませんね。誰でも…そうですね。たとえ妊娠ができなかったとしても、代理出産や里親になる選択肢などもあることを含めると、広く、子を持つということは誰でも可能性のあるモチーフということになりますね。妊娠したいのか、するのか、しないのか、できるのか、できないのか。他にもあるかもしれません。妊娠と、その周縁にある現代的な社会問題についても時間をかけて話をしていました。その上で、出産そのものは個の行為なので、一人一人面白いほどちがうもので、自分の生き物としての性質についても考えたりして。そういえば、それは夏の「ラプラタ川」でも向き合わざるを得なかったところでもありました。

ベビー・ピー「ラプラタ川」

__ 
ベビー・ピーの「ラプラタ川」、お疲れ様でした。私は千秋楽しか拝見できなかったんですが大変面白かったです。
松田 
ありがとうございます。全員、体がある状態で最後まで行けました。京都公演の千秋楽は旅のすべての終わりでもあったので、立ち会っていただけて嬉しいです。
__ 
偉大な経験でしたね。
松田 
偉大だとはとても思わないんですが、病気や怪我も出演者に順々にやってきて、台風が来たり突然のトラブルもあったり。すべての旅が終わったときは、とてもほっとしました。
__ 
最後まで乗り越えられたスタミナがすごいですね。
松田 
ツアーメンバーで凸凹を補いあってかろうじて乗り越えた感があります。公演準備で色々な土地に場所を下見に行ったり書類を出したりもして。各メンバーで担当地があって、完成作品を持っていくだけじゃない、前段階での準備も複雑にあって。私は松本、福岡、高崎、東京、京都の場所の申請や連絡担当をやってました。
__ 
全員がそういう制作をして、もちろん全員が役者で。とんでもない労力でしたね。最初はテントを建てるのに二日かかってたんですよね。
松田 
テント建てと仕込みもほぼ出演者のみの6人だったので時間がかかりましたね。特に旅に出る前は、全員が不慣れなので時間がかかりました。ツアーに出たら徐々に覚えてきて、それでも朝にテントを建て始めて夜中までかかる、の連続で。それが生活と密着している日々でした。体にこんな影響が出てくるのかと。でも前回のツアー「風あこがれ」に参加したメンバーによると、今回の方がゆとりがあるそうです。私は生物的にちょっと保守的な動物だということがわかりました。刺激が強いんですよね。
撮影:中谷利明
__ 
なにしろ外ですからね。
松田 
初めて行く場所でも、初めて会う人でも。出会いや移動の喜びは感じるんですけど。寝る所にしてもテントだから湿度がコントロール出来ないし、ものすごい雨が降ることもあるし。風が吹くと家(テント)が飛びそうになるし。いま天候の話しかしなかったですね。舞台上で蝉も羽化しました。
撮影:松山隆行
__ 
「ラプラタ川」。日本人移民がテーマでしたが、現在すごく新鮮なテーマのように思っています。それを旅公演でやるというのもまた。
松田 
移住と旅公演が、重なるようで重ならないようでもあるとも思っていたんですが、要素を抜き出していくと少し指先に触れるような感じがしていました。このまま、旅先で居ついてしまったらどうなってしまうんだろうということを想像してたんですよ。実現性はおいといても、どんなに山奥に行っても家はあって人が住んでいるから想像が湧いてきました。そういうところにもAmazonプライムは本当に届くんだろうかみたいなことを話し合っていました。注意書きに届かない所はあるって書いてますよね。
__ 
一部離島、ですね。それすごく面白いですね。宅急便の届かない所などはないという思い込みがあることに今気づきました。富士山頂郵便局とかありますしね。住所があれば届くみたいな。
松田 
車で移動したというのも大きくて。地続きでしたから。日本の、地続きにある19の点を線で繋げるような移動でした。流れていく景色をずっと見ながら芝居のことを考えたり次の公演地のことを考えていたり。すごく珍しい本番期間だったと思います。
__ 
その中で思い出深いところはありましたか。
松田 
長崎では、実際に海の見える港の前の公園が会場で、舞台背景に本物の帆船が見えてたんです。海の向こうにタンカーも通ってたりして。あそこは本当に特別でした。でも風がすごくて、テントを畳むべきかどうかの瀬戸際でした。やってる方はものすごくバタバタしていたんですが、お客さんも多くてものすごく喜んでくださって。背景と物語が相まっていて。
撮影:岩木すず
__ 
その場所の人にとっては、やっぱり何かこう、すごい体験だったんだろうなと思っています。外からやってきた人たちが自分たちの住んでいる場所を別の風景にしてしまうみたいな。
松田 
長崎は土地取りが難しいと言われていたのですが、上演できてよかったです。歴史が真横にごろごろとあって、たくさんの文脈がありましたね。潜伏キリシタンの資料館があったりもして。私は休んでいたので行けませんでしたがメンバーは出島に遊びに行ったりしていました。かつても今も、その空気を肌で感じられるような気がしていました。
__ 
凄い体験でしたね。
松田 
旅芝居をする上で、みんなで共同生活をしてるというのもとても大きなことだったと思います。喧嘩したりしても、食卓を囲むと・・・。やっぱり不思議ですね、疑似家族というのが芝居の最後にも出てますが、その感覚がありましたね。物に対するちょっとした考え方の違いが出たりして決着がつかずご飯の時間になったりして、でも、最終的にはまるで家族のように横で箸をすすめてる。そんなに微笑ましい意味ではなくてドライに思ってるんですが、団らんじゃなくていいんだ、って。
撮影:河野直樹
撮影:Hiroki Hamamoto
__ 
同じ船に乗ってるわけですからね。
松田 
食事のこともあるし。みんなで自炊していたので、食材をもらえると嬉しかったです。山盛りのプチトマトをもらったりかたまりの豚肉をもらったり。食材をなぜか各地の皆さんくださるんです。同行していた人形作家の山さきあき彦さんが旅の前半は特にたくさんご飯を作ってくださいました。
ベビー・ピーの旅芝居 2019『ラプラタ川』
あらすじ
20世紀初頭、ブラジルに移住した日本人たちがいる。
港で奴隷商人に騙され息子を攫われた母親は子を追って内陸へ向かうが
川のほとりで彼女が目にした光景は……

移住者たちが、季節の巡りも植物も風景も違う中で謡い伝える、土地の記憶の物語。
人々が描いた幻想たちが今、海を越えて夢から呼び起こされる。

【作・演出】根本コースケ

【出演】松田早穂、柳原良平、紙本明子(劇団衛星/ユニット美人)、小林欣也、ほん多未佳(和風レトロ)、根本コースケ

上演時期:2019年6月~10月 会場:日本各所

感覚の話

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舞台に立っている時、どんなことを考えていますか?
松田 
準備を終えて立ってしまったら考えるということはあまりしていなくて、感覚を開いている気がしますね。お客さんの顔が目に飛び込んできたりとか、地面のささくれが気になったりとか。スポンジのような状態です。
__ 
お客さんと場所を共有するということについて、「ラプラタ川」ではすごく感覚が鋭敏になっているんじゃないかという仮説を立ててお話ししたいんですが。それぞれ違う土地に移動しているからこそ、お客さんの存在が感じやすくなるんじゃないかと思うんですね。色々な条件があって。その時にお客さんの感覚が入ってくるというのはすごく面白いですね。お客さんももちろん感覚を開いているけど全く別のことを考えてることだってある。でも上演時間90分なら90分の中でだんだんと感覚が開いていくということがやっぱり絶対にある。
松田 
舞台に立っている時について・・・今は、何かもっと自由になりたい、みたいに思ってますね。その反面、お客さんのことも考えてる、と思うんですよね。お客さん一人のことに集中しているかもしれません。それは特定の知り合いとかではなくて。
__ 
そういう軸もある。
松田 
基本的にお客さんとは初対面ですから、日常のコミュニケーションとは全然違う野蛮さがお芝居にはあって。何層かのやりとりを一気にしている。舞台の水面下で手渡しているのは、言葉では名付けられていないもののような気がしています。もちろんセリフも身振りも手渡してるんですけど。それはより多くの人へ届けたいというわけではなく、かといって特定の誰かというわけでもなく。何も知らない街行く人に見に来てもらうにはどうすれば、とかも考えてもいるのですが。何というか、お客さんの焦点が何かということに興味があります。
__ 
その焦点に向かって行き、より純粋になっていくということが自由になりたい?
松田 
普段気が散りやすいタイプなので、よりそう思うのかもしれません。稽古するっていいよなあとも思いました。他人と協働して話したり色々な面から考えて試して失敗して。自分で選んでごちゃごちゃさせることもすっきりさせることも出来る。下手くそでもなんでも、稽古や本番でも、はじまってから終わるまで、とにかく全うしたいな、と思っています。なにもないところに、きちんと何かを組み上げて、終わらせるように。

質問 本城 祐哉さんから 松田 早穂さんへ

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前回インタビューさせていただいた本城祐哉さんから質問をいただいております。「舞台に上がる前にルーティーンを行ったりしますか?それはどんな目的で行われますか?」というのは、ルーティンをしたことで集中力を高めすぎて失敗したことがあるそうで。
松田 
ルーティーンというほどではないですが、お腹がいっぱいすぎると動きにくいので、食事を抑えめにすることです。おにぎりみたいなものを一つ食べるぐらいです。

dracom『釈迦ヶ池 - Der Buddha-Teich』

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dracomのお話が出来なかったですね。
松田 
dracomとしたためがほぼ同じ日程で上演することになって私は見に行けないんですが、こないだ創作過程を少し聞いたところすごく興味深くて。ドイツのデュッセルドルフでリーダーの筒井さんと俳優の鎌田さんが現地の女優さんとこの夏滞在制作された力作と思います。
__ 
楽しみです。
dracom『釈迦ヶ池 - Der Buddha-Teich』
1880年の事件をきっかけに問う、「謝罪」とは?

【Co-program 2019 カテゴリーA「共同制作」採択企画】

2 つの国の「謝罪」を巡る態度とは――。
明治13(1880)年に大阪で起きた「釈迦ヶ池遊猟事件」から着想を得た、公演芸術集団dracom、京都芸術センター、ドイツ・デュッセルドルフの劇場FFT(Forum Freies Theater)による共同制作。

作・演出: 筒井潤
出演: 鎌田菜都実、 ナジャ・デュスターベルク
ドラマトゥルク: オレック・ジューコフ

※上演言語:日本語・ドイツ語(日独字幕あり)
※上演時間約90分

日時
2019年12月6日 (金) - 2019年12月8日 (日)
12月6日(金)19:00-
12月7日(土)14:00- ★アフタートークあり
12月8日(日)14:00-
会場
京都芸術センター 講堂

紅茶

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今日はお話を伺えてお礼にプレゼントを持って参りました。
松田 
ありがとうございます(開ける)あ、紅茶。私最近すっかり紅茶派で。
__ 
象の描いてある缶です。なんかちょっとおめでたそうな感じなので買ってみました。
松田 
象がいい顔してますね。頭から紅茶が。嬉しいです。こんな象に、タイで乗ったことがあります。

冬に

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今日はどうぞ、よろしくお願い致します。幻灯劇場の本城祐哉さんにお話を伺います。最近、本城さんはどんな感じでしょうか。
本城 
今年の冬はもう出演作はなくて。来年初頭に舞台がいくつかあるので、それのリハーサルをそろそろ始めているという感じですね。
__ 
2ヶ月程度の準備期間ということですね。
本城 
幻灯劇場の新作もあったり、クラシックバレエとコンテンポラリーダンスの仕事があったり。選り取り見取りになってきますね。
__ 
幻灯劇場の新作「0番地」。とても楽しみです。舞台以外はどんな感じでしょうか。
本城 
今ちょっと足の裏にできものができていて歩くと痛いです。でも痛いのは最初の方だけで、脳から何か出るんでしょうね、しばらくしたら痛くなくなります。結構、脳から出る物質の存在はよく感じます。
幻灯劇場
映像作家や俳優、ダンサー、写真家などジャンルを超えた作家が集まり、「祈り」と「遊び」をテーマに創作をする演劇集団。2017年文化庁文化交流事業として大韓民国演劇祭へ招致され『56db』を上演。韓国紙にて「息が止まる、沈黙のサーカス」と評され高い評価を得るなど、国内外で挑戦的な作品を発表し続けている。2018年、日本の演劇シーンで活躍する人材を育てることを目的に、京都に新設されたプログラム『Under30』に採択され、2021年までの3年間、京都府立文化芸術会館などと協働しながら作品を発表していく。(公式サイトより)

幻灯劇場「ミルユメコリオ」

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幻灯劇場「ミルユメコリオ」。東山青少年活動センターと関西演劇祭でしたね。大変面白かったです。本城さんは主に駅員さんと「老人4」役でしたね。
本城 
老人4と老人8と、最後は老人1を演じていました。それと牛と駅員さんと女子高生と観光客でした。
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幻灯劇場四人のチームワークを感じた作品でした。
本城 
ストレートプレイ、お芝居だけをやるという経験が初めてだったんです。ミュージカルの中での芝居部分とかはあったんですけど。
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伸び伸び演じられていると言う印象がありました。
本城 
いやいや、内心はずっとビクビクしていました。
__ 
本城さんらしさを感じるいい演技だったと思います。田舎と東京と言うテーマで、東京に対する憧れと愛憎を強く感じる作品でした。私は最近東京へのコンプレックスが薄くなってきたような感じです。今でも憧れはあるんですが。本城さんはいかがですか。
本城 
あるっちゃあるんですけど、東京に仕事に行くたびに絶対ここには住みたくないなと。もちろん、たまに行くぶんには楽しいです。住むのはやっぱり、東京は人が多すぎて。まあニューヨークみたいな感じですね。あと、東京の人は歩くスピードが速いとよく聞いていますが、実際は大阪の方が早くて。人のスピードが遅くて、僕はせっかちなのでイライラしていました。大阪では勝手に、歩くスピードが速い人用のレーンが出来たりする。
__ 
合う場所に住みたいものですよね。反面、「ミルユメコリオ」では過疎化する運命にある自分達の村を売ってしまうんですよね。そして村がゴミ処理場になってしまう。自ら招いた悲劇。
本城 
そのまま村がなくなるのも寂しいので、どっちがいいんだろうなと思いながら台本を読んでいました。実は僕の地元も町おこしですごく都会化してきていて。駅前には何でもあるようになったんです。元々はベッドタウンだったのが商業施設が出来てその中に市立文化会館が入って、病院も移転してきて。ワイワイしてきています。歩いて行けるところにユニクロが出来て嬉しくもあるんですけど、知ってる景色が変わっていくのがちょっと寂しく思えたりします。久しぶりに帰ってきた人たちはどう思うんだろうなと。
__ 
それは京都市でも同じような事が起こっていて。知り合いが「百万遍の風情が変わってしまった」と。確かに、古い書店やゲーセンがあったところに快活クラブやサイゼリアが出来て、まるでどこにでもある大学都市みたいになってしまった。私の地元の富士宮も多少そんな感じで、でも元よりの町並みはそこまで急激に変わってるわけではない。穏やかに変わっているんですよね。
本城 
穏やかでも、変わった後では全然違うんですよね。
__ 
まあ、ペースの問題じゃないですね。
本城 
ユニクロがあったところに、すごく大きい牛の皮革の加工工場があったんですよ。僕が小学生の頃に潰れました。
__ 
それは無くして欲しくなかったですね。その工場はきっと、文化遺産でしたね。
幻灯劇場 第八回公演『ミルユメコリオ』
Story

平均年齢79.4歳。少子高齢化が来るとこまで来てしまった町・オワリ。
町にただ一人残る10代の少女・夢子は、母親と花屋を営みながら行方不明になった父親が帰ってくるのを待っている。生物学者の父は「ミルメコリオ」を探しにアフリカで消息を絶ったのだと母に聞かされ育った夢子。しかし本当のところ父は、自分と母親を捨て東京の女と蒸発したのだという真実を、夢子は知っていた。店を継がされ身動きができなくなる前に、夢子は東京へ父親を探しにいく。

2019年8月9日(金)~12日(月・振休)
京都府 京都市東山青少年活動センター
作・演出:藤井颯太郎
出演:小野桃子、藤井颯太郎、橘カレン、本城祐哉
幻灯劇場 関西演劇祭2019参加作品『ミルユメコリオ』

上演日:

2019/9/22(日)15:30 2019/9/23(月)12:00 2019/9/28(土)15:30

会場:クールジャパンパーク大阪 SSホール

出演:

鳩川七海 本城祐哉 橘カレン 藤井颯太郎

感覚と身体と

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今日は、ダンサーが演劇の舞台の上に立ったらどんなことを考えるのか、ということを伺いたいなと思います。一体何を考えるものなのでしょうか。
本城 
劇団で振付けをする時、ダンサー向けの伝え方ではあまり伝わらなくて。逆に、ダンサーに振付けが伝わる際のその情報量の多さに最近気づいたんです。僕は子供の頃にそのやり方を身に付けてて、全部無意識でやってて。で、それを言語化する機会がなかった。ただ単に体の中に入ってきたので、頭で何も考えずに勝手にできるようになってしまっていたんですね。
__ 
というと。
本城 
重心が右足から左足に移動するスピードとかを無意識に考えたり、振り向く時に肩から振り向くのか首だけで振り向くのか、それらの動きがそれぞれどのように見えて、どちらの方が良いのかを感覚と頭の中の映像でとらえていて。頭の中で考えないで自然に出来てしまっているな、ということを最近考えています。
__ 
イメージが予測出来る?
本城 
身体にセンサーが付いていると言うか。自分の体が今どんな形になっているのかというのが分かるというか。3D映像を撮るときの、モジモジ君みたいな、いっぱいセンサーが付いてるタイツを着てグリーンバックで踊っているのが頭の中にあるみたいな感じです。
__ 
普通の人の頭の中にプロットされる、「今自分の体はこうなってるだろう」のもやもやしたイメージから先に進んで、もはや分析できる資料になっている感じでしょうか。
本城 
そうですね。後ろ手に挙げている手がどんな形と角度をしてるかというのが分かるという感じです。それはダンサーなら自然にやれてることだと思うんですけど、それが自然にできない人たちに説明しようと思ったら「自然にやるんだよ」では伝わらない。それをどうやって言葉にするか。
__ 
言葉にすることで失われることと、新たに得ることがあると思うんですよ。
本城 
はい。
__ 
文章化する事でまず失われるのは、概念1と概念2が繋がる事で、概念1と概念0および概念1ダッシュのパスが一旦は無視される事。講師が選択する事で生徒からオルタナティブ性が剥奪されている。それはもう再選択出来ないけれど、方向性が指し示されることによって知見が形成されていく。
本城 
起こっている事は一緒なんですけど、良いことも悪いことも出てくると言うか。そもそも踊りを作る時に、あんまり他の芸術表現では出来ない・踊りでなければできない表現をやろうと思っていて。だから言葉にしにくいものをやりたいなと思って作るんですけど。振付けする時には、それはやっぱり言葉にするんですよ。一つの言葉があって、それはこうでもあって、こうでもある、というのをまとめずにまとめたというのが僕の最初のイメージで在って。言葉で伝えられないものを言葉で伝えようとしたことによって意識の共有は難しくもなるんですが。ダンサーに振りつけるなら、相手のタイプにもよりますけど、僕はあまり押し付けずに、イメージが違ってもそれはそれでいいだろうということにしています。が、ダンサーではない人にはそういう乱暴な渡し方ができないのでお互い戸惑ってしまうんですよ。でもそういうことをずっと考えながら、逆に、言葉と身体のできることと出来ない事が分かって行くと言うか。幻灯劇場ではそこに言葉が絶対に入ってくるので、そことどういう共存をするのか、相乗効果になる作り方から考える環境になっています。

"芸は真似事から"

__ 
(欲を言えば)ダンサーではない方に持っていて欲しいもの。例えば何でしょうか。
本城 
思い切り、ですかね。
__ 
思い切り。
本城 
お芝居をやったことのない人が台本を渡されて、どうしたらいいのか分からなくてとりあえず文字だけ読むみたいになるのと一緒で、踊ったことのない人たちに振付けても体が全然動かないんです。そういう風な状態だと、こちらとしても「どこまで理解できているのか」というのは分からないんですね。体が動いていないから。だからこそとりあえず、思いっきり動いてもらう。
__ 
たたき台ですね。
本城 
とりあえず思いっきり動いてもらえれば、渡された振りに対しその人がどう思ったのかが分かるので。そこから話していく事が出来るんですね。芸は真似事からという言葉が一番当てはまるかなと思っています。とりあえずうまい人の真似をすればいいというか・・・僕も小さい頃は自分の先生の真似しかしなかったんです。その人のコピーだねとまで言われるぐらい。それが一番の近道で、でも真似出来ない動きが出てくるようになるんです。その時にやっと自分の体のアビリティやオリジナリティが、制限という形で出てくるんです。出来る動きと出来ない動きが出てきて、同じポーズをしているはずなのにあの人の体と僕の体は全然違う。どうしてもあの人と同じ踊り方が出来なくなった。それまではずっと色々な人にコピーだと言われて、確かに僕は他の人よりも人の動きを真似るのが上手い、でもオリジナリティが無いと言われている気がして悩んでいたんですが。
__ 
体の成長と共に真似が出来なくなった代わりに個性が出来てきた。制限という形で。

ギャップ、制限、そして

__ 
振付けをするときに、「うまくは出来ていないけれども期待以上に良いイメージが生まれている」場合はどうしますか?
本城 
僕は結構、それは幸運だなと思っていて。実は僕の場合、具体的な振付けは稽古場でダンサーの体を見ないと思いつかないんです。その人たちの体に反応して振付けをするという感じなので、(大まかな軸やメソッドはあったとしても)人が違えば、つけていく振りも変わっていくという傾向があって。ダンサーとしてしっかりしていて個性がある方に降りつける時とかは「こんな動きは自分も中にはなかった」、という振付けが生まれることがあります。そうなったら、もう好きにしてください、それでいきましょうという感じです。
__ 
そのダンサーの身体を尊重する?
本城 
あてられている。僕はそこに反応しているというのがしっくりきていて。そこから振付けが降りてきている。
__ 
そういう稽古ができれば素晴らしいですね。
本城 
でもバレエ教室の中学生とかに振付けをする時は、僕が用意していた情景をその子達のレベルでどれだけ再現できるかという挑戦ですね。そこでは結構、僕の振付けをきちんとやってねという感じです。
__ 
「あてられている」。それはきっと、共同作業ですね。そういう関係性を築けるのはとても難しい。個人的なことを話しあうぐらいにまではならなくてもいいけど、目を合わせて違和感が無く、やり取りができるようになればいいですね。それは実は、技術のあるなしにかかわらず、そして、どういう時代の状況であろうとも、ほとんど独立して大事で難しいこと。
本城 
振付けの時にダンサーを見て思っているのは(無理やり言葉にするなら)、この人は僕の与えた振付けに対し、動きそのものから取っていく人とか、目線から最初に入ったりする人だとか。
__ 
つまり、ダンサーのそれぞれの受容感覚を感じるんですね。
本城 
僕の方も、この人の腕ならこのスピードで動くんじゃないかとか、この人なら僕にはできないあの動きができるだろう、とか。その人が一番出てくる、心地よく体を動かせるふうになったらいいなと思っています。