Bブロック ヲサガリ(京都工芸繊維大学)
『ヲサガリの卒業制作』脚本/演出 小川晶弘
__ 
今回、ご自身としてはどんな思いがありますか。
吉岡 
実行委員長を務めているのですが、実は2月のこの時期まで関わるとは思っていませんでした。去年4月の時点で大学3年生と、就職や将来のことを考える時期でもあったので、一旦京都(学生演劇祭)で区切りをつけようとか、もしくは学生演劇祭には一切関わらないと決めていたほどでしたが、そこから色々な偶然や出会いがあって声をかけていただいて。1年間ほぼ毎週ミーティングを開いて詰めてきた今回の開催なので、それが実になればいいなと思います。また実行委員長としての活動を通して、改めて「どうして今、学生演劇祭を選んだのだろうか」を考えるきっかけに、ご覧になる皆様には全国学生演劇祭の意義についても考える機会になってもらえれば嬉しいです。
__ 
というと。
吉岡 
それぞれの地域で活動する学生劇団を、一つの場所に集めて公演を行うことの意義ですね。私は高校から演劇を始めたのですが、高校では演劇の全国大会やコンクールがあるのに、大学ではそういったものがないなと。それだけが理由で全国(学生演劇祭)が始まったわけではありませんが、あえて大学生を対象に各地から学生劇団が集うものがあれば面白いのではないかというのが一つですね。あとは各地域に眠っている、これだけ面白いのに他の地域で演劇が好きな方、見たい方に触れられていない、届いていないのは勿体ないという思いが一番強いです。昨年であれば東京の団体が京都で作品を上演して、私たち京都の観客が衝撃を受けることができたのも、全国学生演劇祭があったからこそだと思います。

Bブロック 喜劇のヒロイン(日本大学)
『べっぴんさん、1億飛ばして』脚本/演出 新宮虎太朗
__ 
今、演劇そのものについて考えていることを教えてください。
吉岡 
演劇そのもの・・・。演劇って一括りにできないほどたくさんの種類があって、例えばよく見たり参加したりしている小劇場から、1000人規模での商業演劇まで。私は全部見るのが好きです。ただ、普段大学の友達と話していても未だに演劇というもののイメージがあまり浸透していなくて、やはり未だに宝塚やミュージカルなどのイメージが強いようで。そのままでも勿論いいですが、少しは変わらないものかと。視野が広がらないものかとは最近考えていますね。
__ 
色々な考え方がありますけどね。
吉岡 
私はどちらも見ますが、場所的にも金銭的にもふらっと行ける小劇場、学生演劇もその一つとして好きです。元々は見る専門でしたが、今は制作などの創作する側に回ることが多くなって。それでも未だにただのファンですね。その延長線上で演劇をやっていていいものか。でも好きだからこそ関わり続ける、没頭しているのだとも思います。
__ 
演劇に関わっていて、嫌なことはなんですか。
吉岡 
演劇以外のスケジュールとの兼ね合い、両立ができなかったことですね。大学では全く演劇に関わっていなくて、具体的に言うと学生劇団に入ったことは一度もありません。他の部活には入っていましたが。
__ 
何の部活ですか。
吉岡 
英語研究部です。その大会や行事と日程がかぶったときにどちらを優先すべきか、調整ができなかったときに、悔しくて嫌になることはあります。あとは、自分で見たいものを見に行く場合と、当日制作でお手伝いをさせていただく場合がありますが、どちらであっても自分の「面白い」にはまらなかったときは、複雑な気持ちになりますね。でも「実行委員辞めてやる」といったことは今までありません。

Bブロック 砂漠の黒ネコ企画 (九州大学ほか)
『ぼくら、また、屋根のない中庭で』脚本 Granous B.K Ponser 演出 木下智之
第3回全国学生演劇祭 Bブロック
ヲサガリ(京都・京都工芸繊維大学)
喜劇のヒロイン(東京・日本大学)
砂漠の黒ネコ企画(福岡・九州大学ほか)

2月22日(木) 16:30[Aブロック]
2月23日(金) 10:30[Bブロック] 14:30[Cブロック] 18:30[Aブロック]
2月24日(土) 10:30[Aブロック] 15:00[Bブロック] 19:00[Cブロック]
2月25日(日) 10:30[Cブロック] 14:30[Bブロック]
2月26日(月) 10:30[特別枠]
__ 
演劇の、どういうところが好きですか。
吉岡 
「ライブ感」ですね。目の前で物語が起こっている、演じられているところ。同じ空間で何人もがそれを同時に経験しているところでしょうか。抽象的ですが。同じライブ現象として音楽やダンスも挙げられますが、その場で言葉をどのように話すかは、場所や時間、空気など色々な要素が組み合わさって幾つもの楽しみ方があるのが、演劇の好きなところですね。
__ 
なるほど。演劇が嫌いな人は、そういうところが嫌いなのかもしれませんね。
吉岡 
反応が同じ、一方的でないからかもしれませんね。
__ 
小劇場が最たる例だけど、細分化した表現がネックになるのだと思います。細かい小指の動かし方一つでも俳優は作ってくるじゃないですか。かなり意識して細かく。テレビドラマの俳優もそれは同じだけど、瞬きをする・しないといった選択も、高度な集中力が要求されたりとか、あるいは受け取り方によって意味が変わったりであるとか、そういうコンテクストを踏まえないと味が出てこないという。それをライブでやるという無茶苦茶さ、あまり強くいけないというのが本音かもしれませんね。
吉岡 
ライブ感だからこそ「そのとき」しかないじゃないですか。一日何回公演、再演なども勿論ありますが、「そのとき」の上演は一回しかないので、もう一度体験したいという方にはやはり、すでに完成されていてリピートできるものの方が向いているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。あとは敷居の高さを未だに感じます。実際昨年の全国学生演劇祭は、映画のような感覚でご来場いただきたいと思って料金設定をしていました。今年は違いますが、どうしても「演劇か…。」という意識はあるような気がします。
__ 
昔からそうでしたね。
吉岡 
完全に拭われているわけではないかと。
__ 
今はどうだろう。演劇の敷居は変わってないというか、平均的に見れば高くなったように思います。私個人は、べつに演劇の敷居は低かろうが高かろうが、物凄く個人的には高くても別にいいと思う。演劇を見ずに批判する人は問題外ですが、見たうえで悪口や文句を言いたくなる気持ちはあるかもしれない。けれども、小指の動かし方一つや目線、お客さんは自分の視界の中に入っているはず。そして、分析することがその時はできなくても、やっぱり視界に入ったものは残り続け、影響を与えると思う。可能性は低いかもしれないけれども、白目で見ているような情報が伝わることは、信じるに値すると思います。だから我々のやっていることは決して無駄ではないはずです。
吉岡 
小指の動かし方一つ、という言葉がありましたが、地点の公演のアフタートークで聞いたことを思い出しました。個人的な解釈ではありますが、演劇は観客が見る視界を限定していないのがその良さで、ただ演出の意図としては視界を限定することが使命じゃないですか。このシーンのここを見てほしいと思って演出をつけるので。一方で、映画では演出をつけるこの手の動き、目の動きを見てほしいといった細かい指示がされた瞬間を、フレームの中に切り取ることができる。そこが演劇とほかとの大きな違いだと仰っていて。なるほどと思いましたね。演劇であれば、演出の意図にはない微かな動き、役者による偶然で勝手な動きが、作品全体を変えたり形作ったりすることがある。演出の意図に沿って見ることは勿論しますし、そう仕向けられているような気になりますが、そうではないところ、例えば「ここは演出がついているのか、そうでないのか」を疑問に思いながら、別の部分に注目するのも好きです。そのサイズ感が一番適しているのが小劇場なのかなと思いますね。それこそ1000人以上の劇場であれば舞台までの距離が遠くて見にくいですし、白目には入っていたとしても把握できない、自分の目や頭で消化できないかと。小劇場では全部を見渡すことができて、演劇を作っている側も、ここであれば見えるなという範囲を知ることができるのではないかと。
__ 
そういう作業をする上で必要になるのは何だろうかと思っていて。観客と出演者とか、作品を上演する演出家と出演者の、観客席と上演する側の間には提携関係が結ばれていますね。その出演者側に観客席が視線という透しをするんですけど。その与信をどう行われるように設計するというのか、信用を与えるようにするのかは、やっぱり演出家の手腕ですが。小劇場的な小指の動かし方の話になると、実は観客席の方に出演者側の、果たして彼らのパフォーマンスに対して与信すべきかどうか判断する能力が求められている。非常に高度なことが求められているので、それがつまり敷居の高さですかね。
吉岡 
ひとつ結論に達したような気がしますね。今私は演劇を見やすいと思っていますが、それはある程度の数を見ているから見やすいと感じるのか、小劇場で演劇を見たことがない、サイズが小さいなと思われるような方だと、逆に限定されることでどうすればいいか分からなくなるのかもしれませんね。
__ 
そこで得られる情報というよりは、小劇場の場合かどうかは分かりませんが、前衛演劇の場合は、世間一般の価値やある種の価値基準と相容れないわけじゃないですけど、独自の価値を持っているわけで。それを簡単に言葉やお金に還元できないというところが悩みの種ですよね。
吉岡 
価格の話にもつながってきますね。ある作品を見て、例えば2000円を払って、それ以上のものを見られたと思う感覚や、これは見に行って損をしたなと思う感覚など。ある意味その人それぞれの価値観にもよりますが、チケットというのは価値が可視化されている唯一のメディアなのかもしれませんね。無料のパフォーマンスをしているわけではないので。作・演出や技術スタッフだけでなく、制作や実行委員会、運営側がそれだけの時間をかけて形にしたものを、どれだけの価値で見るかという。

Aブロック 劇団宴夢(酪農学園大学)
『熱血!パン食い競走部』脚本/演出 本澤貴史
__ 
今日は第3回全国学生演劇祭直前の緊急インタビューということで。よろしくお願いします。
吉岡 
ありがとうございます。よろしくお願いします。
__ 
再来週ですね。
吉岡 
はい、早いもので。私は3年ほど前からずっと学生演劇祭に関わっていて、まさかこれまで長くなるとは思っていなかったので。今回が集大成のような形になればと思っています。
__ 
集大成。
吉岡 
これまで京都(学生演劇祭)では2度、全国(学生演劇祭)では1度実行委員を務めましたが、そこで得たものやつながりが一番形になる回になるのではないかと思っています。
__ 
「つながりが形になる」。
吉岡 
今回のコンセプトが「全国学生演劇祭が織り成すつながり」という言葉なのですが、今まで学生演劇祭をきっかけに新しい作品ができたり、縁がつながったりするのを間近で見ていて、それをさらに拡大していければと思います。全国(学生演劇祭)がなかった時代には、それぞれの地域での演劇祭や学生演劇の公演が個々に行われていたものが、一つの場所にまとまるというか。昨年の全国学生演劇祭に出場した京都の団体が韓国・大邱で公演を行ったり、ワークショップをしていただいたり、立て続けに自主公演を行ったり。今後もつながりが形になって、拡大していけるのではと思います。

Aブロック フライハイトプロジェクト(早稲田大学、東京藝術大学ほか)
『今夜、あなたが眠れるように。』脚本 Nana Keira Ichikawa 演出 大舘実佐子
Aブロック 元気の極み(大阪府立大学×大阪大学×神戸大学)
『せかいのはじめ』 脚本/演出 中村奏太
__ 
吉岡さんが全国学生演劇祭に携わったのは2年前が初めてとのことですが、それはどのようなきっかけがあったのですか。
吉岡 
はじまりは京都学生演劇祭でした。2015年に実行委員になって、そこから第1回(全国学生演劇祭)のデザイン・web広報という形で募集がされていて。それに興味を持って、沢(大洋)さんに連絡して、ですね。
__ 
webのお仕事をされていたことがあったのですか?
吉岡 
いえ、全く経験はなくて。京都学生演劇祭2015では広報を担当していたので、引き続き広報をしたいと思ったのと、担当していた団体が全国に進むというので、関わり続けていたいと思ったところからですね。
__ 
なるほど。
吉岡 
当時京都からは劇団未踏座と劇団ACTが出場しましたね。
__ 
龍谷大学ですね。
吉岡 
はい。ACTは京都産業大学で。

That's enough!! - Knit Cap Theater present's 珠玉の下ネタコント集

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い致します。ニットキャップシアターの仲谷萌さんにお話を伺います。最近、仲谷さんはどんな感じでしょうか。
仲谷 
ニットキャップシアターのコント公演が3月末にあるので、その企画を澤村さんと一緒に行っています。広報活動や、どういう風に作品を構成するかを考えています。
__ 
3月の28日から29日の「That's enough!!」ですね。どんな公演になりそうでしょうか。
仲谷 
去年も澤村さんと一緒にコントの企画をやったんです。ラジオ番組を構成の軸にして、ごまさんのコント作品を上演しました。今回はどうしようかという話をした時に、澤村さんが「全て下ネタというくくりで、コント公演をやってみたい」と、一番最初に言いはったので。他のメンバーも乗り気になってくれて。
__ 
なるほど。
仲谷 
ごまさんのコント作品はたくさんあるんですけど、その中から下ネタものを引っ張り出してきて、あと何本か新作も書いてもらって、今現在ごまさんが気にしていることとかも反映されてます。下ネタと言ってもなんか、なんやろう・・・結構、切実な内容が多いなと思っていまして。単純になんかいやらしいとかではなくて、生きていく上でしょうがなくぶち当たってしまうものとか、単純に笑い飛ばせるようなものだけじゃなくて、考えさせられたりとか、共感したりだとか。女性でも結構、なんかわかるようなものがあるじゃないかなと思っています。
__ 
ありがとうございます。楽しみです。
ニットキャップシアター
京都を拠点に活動する小劇場演劇の劇団。
1999年、劇作家・演出家・俳優の ごまのはえを代表として旗揚げ。
関西を中心に、福岡、名古屋、東京、札幌など日本各地で公演をおこない、2007年には初の海外公演として上海公演を成功させた。

一つの作風に安住せず、毎回その時感じていることを素直に表現することを心がけている。代表のごまのはえが描く物語性の強い戯曲を様々な舞台手法を用いて集団で表現する「芸能集団」として自らを鍛え上げてきた。シンプルな中にも奥の深い舞台美術や、照明の美しさ、音作りの質の高さなど、作品を支えるスタッフワークにも定評がある。『ガラパゴスエンターテインメント』という言葉を大事に創作を続けている。

ごまのはえは、2004年に『愛のテール』で「第11回OMS戯曲賞大賞」を、2005年に『ヒラカタ・ノート』で「第12回OMS戯曲賞特別賞」を連続受賞。2007年に京都府立文化芸術会館の「競作・チェーホフ」で「最優秀演出家賞」を受賞するなど、劇作家、演出家として注目を集めている。

劇団名は、ムーンライダーズの楽曲「ニットキャップマン」に由来する。(公式サイトより)
That's enough!! - Knit Cap Theater present's 珠玉の下ネタコント集
Knit Cap Theater present's 第3弾は、ずばり下ネタ!
社会派から文学系、
ギョッとするものからウルッときちゃうものまで、
毎日をたたかう貴方にこそ見てほしい、
珠玉の下ネタコント集!!

【会場】
UrBANGUILD (アバンギルド)
【日時】
2018年 3月28日 (水) - 29日 (木)
各日 2ステージ
[1st] 19:30- (open 18:30)
[2nd] 21:30- (open 20:45)
【料金】
¥2,000 (前売・当日とも) + 1drink ¥600

※今公演は、飲食しながら観劇していただけます。開演直前、終演直後は注文が混み合うことがありますので予めご了承ください。

※会場にテーブル席を用意していますが、限りがありますのでお食事をゆっくり楽しみたい方はお早めの来場をおすすめします。

「女亡者の泣きぬるところ」

__ 
去年ニットキャップシアターがロングラン上演された「女亡者の泣きぬるところ」がですね、大変面白かったんです。高原さんとの関係性の作り方がやっぱり良かったですね。お話の筋だけ紹介すると、高原さんが演じている30代の押しに弱い女性がデリバリーで殺し屋(仲谷さん)を頼むと。仲谷さんが様々な能力を駆使して暗殺しようとするもどれも失敗してしまう。高原さんは殺されたくなくなってしまい、仲谷さんはどうにかして殺すか、または帰ろうとする。そういう緊張感がすごく面白かったんですけれども。それはそれとして日常感というものが隣接してくると言うか頭を出してくると言うか。それがすごく面白いなと思っていて。ごまのはえさんが戯曲の中で扱っている「生活」は、二人の関係性の中において、和解の糸口というだけではなくて、関係性を破壊しようと進出してくるんですよね。生活は、それが進むにつれ、人間に不可逆的な変化・変更をもたらしていく。小学校に上がるから行動が制限されてしまうとか、親族の見舞いに行かないといけなくなるとか。それは日常による破壊であり、個人の自由に対し社会的なフィールドが攻撃してくるかのような。それが戯曲の中で視覚化されると、観客は個人の被支配の歴史を思い出し、それがなお笑いに変わるというのがこの作品の面白いところでした。
仲谷 
嬉しいです、そういう風に思ってもらえたら。日常。結構そこまで、客観的に作品のことを考えられていない状態だったので。二人とも、作品とずっと格闘していたという感じだったんです。公演期間中も、1日1日、ずっと不安で、本番前に二人して泣いてる、みたいな状態がずっと続いたりして。私も高原さんも、今までしっかりと会話劇をやってきたわけではないので、まず、日常的な会話というところでつまづいてしまって。どういう風に、お互い影響しあって、二人だけで作品の流れを生み出していくのか。それがやれ ばやるほどわけがわからなくなっていって。でも、二人の力関係というものが、なんとなく前半と後半に分かれていたと思うんですけど、そういう、関係性が途中で逆転するみたいなイメージは持っていました。
__ 
そうなっていたと思いますよ。
仲谷 
テーマ自体も重いし、コメディだけど自殺という内容の重さに引っ張られてしまって、笑いになってたと仰っていただけたんですが、最後まで探り探りでしたね。考え過ぎるとどんどん重くなってしまうし、私の役もひたすら、重い家庭環境をひたすら、喋る、みたいなシーンがあったりして・・・役者として、役と自分との距離をとってコントロールできるほうがいいやろなと思いながら、役に同情しすぎると一緒に沈んでいっちゃうんで、でもなんかそこらへんが割り切れなかったと言うか。もうとにかく、形になってもいいからしっかりきっちり決めて笑わせることを目指す、というところにも行きれなかったし。難しかったですね。でもやっぱり、ごまさんの作品はとても面白いと思ってて、二人が今いるあの小さい世界から、会話を通して色々社会的なこととかが見えてくるのが面白いなと思って、途中で出てくる、北海道の広い景色のこととか、目の前で劇的な事が起こってるわけじゃなくても、今そこにいる二人の会話から、そのまわりの広い世界のことが、お客さんの中でどんどん広がっていったら正解なのかなと思ってましたね。この二人を取り囲んでいる世界の異様さみたいなものが、お客さんの中で見えてきたらいいよね、と。
__ 
殺し屋を頼んだ女が、その殺し屋に対して一方的に身の上話を始めるじゃないですか。その攻撃的な共有が大変面白かったです。生活の侵略も、やっぱり一方的だと思う。「女亡者」で出現したそれらは、狭い世界の中で起こった、非現実と生活のせめぎ合いと言う、とてもドラマティックな時間があったと思いますね。それは確かに、日常にはない。
仲谷 
ごまさんの演出ではあったんですけど、作品の大部分については高原さんと私二人に任せられていて、結構作品の内容であるとか、美術の見せ方とかを考えながら演技のことをやるみたいな作業だったんですけど。私は、ただ単に、演じたいという欲求があるというよりも、作品を作るという行為自体が好きなので。作品全体をどうするかということを考えるのが楽しくて。この作品では結構、モノを使っていたと思うんですけど。
__ 
小道具ですね。
仲谷 
人とモノが舞台にあって、人の道具としてモノが存在するんじゃなくて、どうしようもなくそこに存在しちゃってるモノ、その人に扱い切れない部分が見える時がすごく好きで。「ぶつかったら倒れちゃう」とか「こぼれたら濡れてしまう」とか・・・モノがちょっと人に侵略してきちゃうみたいな、人がモノから、対応しきれない影響の受け方をするのが私はすごく好きで。高原さんが大量のペットボトルのフタを頭にかぶる、みたいなのがすごく好きで。それで予期せぬ動きをしたりだとか、散らばってしまってどうしようもなく踏んでしまったり、とか、そういうのがなんでかわからないけど好きなんです。踏んじゃった感触とか。あとはミンチ肉を手で直に触る、とか。舞台上で行われているストーリーは作り物なんですけど、そういう感触みたいなものだけは作り物じゃないと思って。
__ 
戯曲そのものの流れと関係があるようでない、ないようである。
仲谷 
なんだかどこかで、私が知っている時間とはズレたところで、気づいていないけどちっちゃい時間が進行している、みたいな。舞台上の、別に目立つところに置いているわけじゃないようなペットボトルから水がずっと流れてるみたいな。それは作品の中で特別ふれられてる描写じゃなくても、気づく人もいるぐらいのちょっとした表情。
__ 
演出かどうかはさておき、目ざとく見つけてしまうと、そこにペットボトルの生活を見つけてしまう、と。
仲谷 
はい。
__ 
「弱い紐帯の強さ」という社会学の用語があるんですけど、それは家族のアドバイスよりも、たまたまバーで隣合った別の人々の会話の内容の方に影響を受けてしまうという現象なんですよ。人間は悲しいことに、そちらの方に注意を向けてしまったからこそ能動的に聞いてしまい、勝手に重大さを感じてしまう、という。やっぱり能動性が鍵なんですよね。そこに気づくというのは、やっぱり仲谷さんだけだと思う。
仲谷 
(笑う)
__ 
別の「弱い紐帯」を見出しているから、に違いないと思う。
仲谷 
女亡者と男亡者はまた再演します。ちょっと先なんですけど、来年の3月末にアゴラ劇場で上演するのが決まっています。あと、今年の5月と6月に大阪と福岡で上演できたらいいなぁという話が劇団で進んでいます。
ニットキャップシアター#38『太秦おかげサマー』
Thank you summer!! Get up Love!!
ニットキャップシアターがこの夏お届けするお祀り2ウィークス!
京都・太秦に誕生した新劇場「シアターウル」で上演する特別公演『太秦おかげサマー』。

2004年の劇団初演以来、各地で上演されている人気作品を新キャストで上演する、シーソーゲームの男二人芝居『男亡者の泣きぬるところ』。
そして、現代を生きる女二人を描いた、今公演に書き下ろしの完全新作舞台『女亡者の泣きぬるところ』。
ニットキャップシアター劇団員による男女どちらかの二人芝居と、日替わりのスペシャルゲストパフォーマンスをセットでお楽しみいただけます。

ワンドリンク付きチケットで一杯飲みながら観劇できる上に、京都市左京区の名店による出店のあるステージも。
さらに特別な夜「ギョーザナイトクラブ」では、ごまのはえ特製餃子を肴にみんなで乾杯!? 乞うご期待!

作・演出
ごまのはえ

上演作品
『男亡者の泣きぬるところ』
出演:門脇俊輔、澤村喜一郎
声の出演:佐藤弘樹(α Station DJ)、西村貴治、仲谷萌、高原綾子
『女亡者の泣きぬるところ』
出演:高原綾子、仲谷萌

会場
KYOTO ART THEATRE URU(シアターウル)
京都市右京区太秦北路町26-2 登喜和野会館2F

日時
2017年6月29日(木)~7月9日(日)

恥ずかしさ

__ 
仲谷さんが演劇を始めたのはいつからですか?
仲谷 
中学、高校と演劇部に入っていて、大学は京都造形芸術大学で演劇を学んでいました。
__ 
中学から始めたのは?
仲谷 
演劇との最初の出会いは、ちっちゃい時におやこ劇場というのに入っていて、定期的に母と舞台を観に行くというのがあって。その時はお芝居のことをそんなに好きだと思っていなかったんですけど、むしろちょっと苦手なところがあって。大人が大げさなことをしたり、目の前の人に自分を見せる!みたいな立ち振舞い方をされた時に、見てる自分はどうしたらいいのかよくわからなくて。で、見ている私も見られてるんだと思うと余計に、見るという行為自体に恥ずかしさを覚えるようになって。その感覚はずっと苦手だったんです。映画を見るのは好きでした。
__ 
苦手だったんですね。
仲谷 
内弁慶だったんです、すごく。家族の前では派手なことができるけど、学校では自分の思ってることが言えなかったり友達がうまく作れなかったり、そういう状態がずっとあって、色々できない日常の中の自分と、映画の中に出てくるような憧れの人物との差。ちっちゃい頃はどんな人にでもなれると思っていたけど、成長するにつれ、理想と現実との距離がすごく離れてしまって。どこかでそれを埋めたいという思いがあったのかもしれません。小学校6年生の時に、学校の行事で見に行った「オズの魔法使い」で、役者さんたちが本当にかっこいいなと思ったんです。カッコ悪いことでも思いっきりできる、そんな自分になりたいという欲求が生まれてきて。それで、中学校で、演劇部があるんだったら入りたいと。
__ 
最初は恥ずかしかった、でも段々とそう思うようになってきたのは。
仲谷 
何故だろう。もしかしたらどこか、この世界での生きづらさをちっちゃいながらも感じていて、ここにいる自分は自分ではないと思ってたのかもしれない。変身願望と言ってしまえばそれまでかもしれませんが。オズの登場人物も自分にコンプレックスのあるキャラクターばかりでしたね。
__ 
抵抗よりも、何かに変わりたいと思う気持ちが強くなったのかな。
仲谷 
抵抗が強くなればなるほど、欲求が膨らんでいった、顕著になってきた、のかも。中学生の頃、クラスにいたくないという気持ちが強くて。子供から大人にすぐになれる子はともかく、私は自分の立ち位置がよくわからなくて。「女の子はどう見られるかが大事」というのとかにもついていけなかったし。演劇部は学校の日常生活の中とはまた違って、唯一自分が時間を過ごせる場所、という存在でしたね。避難場所のような。

憧れと、

__ 
憧れの人はいますか。
仲谷 
中学校の頃から小劇場を見に行くようになって、一人すごく好きな人ができて、その人の追っかけをしていました。アンケートに「ファンです!」って書いたら、その人からお手紙が来て。それで舞い上がっちゃって。非日常の人と日常で繋がった、みたいな。しばらく手紙のやり取りをさせていただいたりしました。
__ 
夢のようですね。
仲谷 
憧れの存在というのは自分の毎日の原動力になるから、すごく大事だなと思いますね。この人に夢中になるというのが最近はないので、そういう存在を見つけたいなと思ってます。
__ 
最近、芝居について考えてることを教えてください。
仲谷 
・・・難しい、うーん・・・この前、高校演劇を一緒にやってた友達の芝居を、東京に見に行ったんです。彼女の演劇人生の半生を描いた作品で、演劇部時代のことも再現されてて、私がモデルの登場人物もいました。
__ 
何だか素敵ですね。
仲谷 
その時代が演劇をやっていて一番元気があった時だなと思っていて。高校という狭い世界の中での出来事だったんですけど。狭い世界の中、知らないことの方が多いのに、演劇でなんでもできる!という無敵感がある時期でした。東京で今活動しているその子との出会いが本当に大きかったです。言った事は必ずやるという行動力のある子で、私はどちらかというと歩みが遅くて、人を引っ張っていける性格ではないので真逆のタイプだったんですけど、彼女と演劇の話をしている時が最高に楽しかったですね。自分のそういう時代を、今、舞台を通して目の前で見せられて、演劇が好きという純粋な気持ちを忘れんなよと言われた気がしました。大人になればなるほど、どうやって生活していくかとか、この年齢になってこのやり方では将来どうなんねんみたいな思いに引っ張られて、なぜそもそも演劇をやっているのかということからつまずくことが多いんですけど・・・。演劇部でお世話になってた先輩から言われた、印象的な言葉があって「演劇で世界を変えることはできへんかもしれんけど、お前の人生は変えたやろ」って。誰か一人でも、人生を変えるぐらいの力があるから凄いんやぞ、と。
__ 
それはなんとなく、分かる気がします。
仲谷 
劇団に入ってからは、集団の中での自分の役割について考えることが多くなりました。単純に役者やってればいいじゃなく、どう劇団を運営していくか、とか。メンバーの皆さん、それぞれ色々な状況から獲得してきたものがあって、じゃあ自分はなにが出来るんだろうとか。自分が劣っている部分について思い悩むよりも、受け入れた上で、小さいことでもいいから手を伸ばせていけたらいいなと思っています。
__ 
生き方の話になりましたね。
仲谷 
自分の人生と演劇が近いので、演劇の話からいつのまにか自分の悩みを喋ってるみたいなことが多いですね。作品のことを語っているのか、自分自身の問題を語っているのか、境目がわからなくなっていって。じめっとしてしまいます。
__ 
いいと思いますけどね。

質問 山元 ゆり子さんから 仲谷 萌さんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた方から質問をいただいてきております。美術家の山元ゆり子さんからです。「制作をしている時に、楽しいこと辛いのと、どちらの割合が多いですか?」
仲谷 
6:4ぐらいですね。
__ 
辛い方が若干多いと。
仲谷 
稽古期間含め、辛い時期の方が。毎作品、壁にぶち当たるんで、出来ないという事に必ずぶつかります。まあでも、出来ないこととどうにかこうにか折り合いをつけながら作品に向かっていくしかないので。その作業はしんどいですけど、うーん、でもやっぱり、みんなで作品を作るのが楽しいし、アイデアを人に話すのは楽しいです。お客さんに見てもらって、面白かったと言ってもらったら一番嬉しいし、次もまたやりたいと思うし。そんな感じですね。

コントがある町

__ 
「That's enough!!」の意気込みを教えてください。
仲谷 
前回以上にもっと多くのお客さんに見てもらいたいのと、今回も客演さんに参加してもらってるんですが、皆さんやっぱり達者な方ばかりなので、色々勉強したいという個人的な目論見もあります。「コントができる役者になった方がいいよ」と前回の公演でお客さんに言われたんですけど、それがどういうことなのかまだよくわかってなくて、劇団の先輩とも話をしながら勉強していきたいですね。あと、平日のお仕事終わりの時間帯なので、普段あまり演劇を見に行かない方だとか、会場が木屋町のアバンギルドというライブハウスなので、通りがかりのお客さんがフラッと覗きに来てくれたらすごく嬉しいなと思っています。

人差し指で

__ 
いつか、どんな演技ができるようになりたいですか?
仲谷 
最終的な理想なんですけど、ちょっと人差し指を動かすだけで状況を変えられるような、そういう。
__ 
それは、最初の方におっしゃった、観客の視線を引き出すような演技ですね。
__ 
今後どんな感じで攻めていかれますか?
仲谷 
ニットキャップシアターの一員として、存在感のあるメンバーになれるようがんばりたいです。

紙お香

__ 
今日はお話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
仲谷 
ありがとうございます。開けてもいいですか。
__ 
どうぞ。
仲谷 
あ、お香。ありがとうございます。めっちゃ可愛い。嬉しい。
__ 
どこかに飾って頂くでも、引き出しの中に入れておくでも。

質問 中西 由伽子さんから 山元 ゆり子さんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた、ダンサーの中西由伽子さんから質問をいただいてきております。「アイデアを産むためにしていることは何かありますか?」
山元 
意識をそっちに向けるということ。ネタ帳を持って、いつでもどこでも書留められるようにする。アイデアというのはいつ降ってくるかわからないので。降ってくる頻度も、意識を向けていると思っていないときとでは全然違っていて。不思議なんですけど、シャットアウトしているとアイデアは降ってこないんです。
__ 
降ってくる時は本当に降ってきますからね。
山元 
はい。それを逃さないようにしています。友人であるユリイカ百貨店のたみおの話なんですけど、彼女と同じバイト先だった事があって。
__ 
はい。
山元 
彼女は私と違って、意識を向けていない時にもアイデアが降ってくるんですよ。で、バイト先は料亭的なお店のお運びだったんですが、仕出しのお弁当を何段も重ねて廊下を往復して運んでたときにたみおに降ってきたらしくて、アイデアに想いを馳せながらふわふわと足を運ぶあまり床の桶に積まれたお弁当の山にそのまま突っ込んで行ってしまったことがあって。
__ 
うわ。
山元 
普通ならそこで我に返ってもおかしくないんですけど、彼女はそれでもなお降ってきたアイデアに集中したままでいたんです。
__ 
凄いなあ、たみおさんは。

霧の中の小さな部屋への入口

__ 
今後、どのような製作に興味がありますか?
山元 
いままではこちらがガチガチにシチュエーションや舞台装置を用意して、ある種作られたシチュエーションの中にお客さんを迎え入れるということをしていたんですけど、最近は、既にある世界に本当に気づかないレベルのささやかな罠と仕掛けを組み込んで行くという駆け引きを試してみたいなと思っています。まだまだふわーっと霧の中で、今までやってきた手法ではないやり方に移行していくことになると思うので、自分にとっても楽しいですし、ずっとやって見たかったんですが今まで手をつけてこなかったので、このタイミングでゼロから模索し始めるんですが、楽しみです。
__ 
鑑賞者の日常の体験のどこに罠を仕掛けるかは置いとくとして、それが目に飛び込んできた時の驚きと予感。
山元 
その気付きが起こる加速ポイントを、より自然な形で外に置いておきたい。中ではなくて。それが面白いんじゃないかなと思っています。そのスイッチのポイントをいつ、どこに置くか。これまでとは全く、展示の形態が変わっていく気がしている。それに絡めて、色々試してみたいことがあります。

「これって何なの」

__ 
今後どんな感じて行かれますか?
山元 
今後はこれまでの流れから外れることになってしまうかもしれない形態になったとしても、両方やっていきたいなと思っています。手法が違うので、「これって何なの?」と言われる事も多くなるかもしれない。けれど、今までの形態の作品はもちろん、そうでない作品も多く発表していきたいんです。
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ありがとうございます。

Lleno(リエノ)のノート

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今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。どうぞ。
山元 
ありがとうございます。そんなのがあるんですか。(開ける)あ、ノート!ちょうど欲しいと思っていたところです。いまネタ帳がいっぱいになってしまってて、買いに行こうと思っていたところでした。
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ちょっとそれ、重いですけどね。
山元 
いえ、大きさがちょうどいいです。願った時に願ったものが・・・凝った模様ですね。あ、無地・・・私、ずっとネタ帳は無地なんです。

矢印のない入口

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鑑賞者によって見る作品の体験が違うというのはとても面白いですね。以前、他のアーティストさんたちとコラボレーションで製作された作品はまさにそうですね。
山元 
あれは、顕著なそれですね。
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最初の部屋はギャラリーで、一見すると普通の絵画のグループ展のように数点の絵が飾ってあるだけ。そしてその壁の隅に少しだけ伱間が空いていて。伱間の向こうにはスタッフ用のバックヤードがあるようだ、と。実はそれが広大な作品群への入口になっているんですよね。非常に印象的なのは、そこには誘導する矢印とかがないということなんですよ。
山元 
そこが先ほど言った加速ポイントなんですよ。自分の頭で考えて、もしかしたらこの道の向こうに何かがあるんじゃないか。もしかして、ここは入っていいんじゃないか、この裏にはもしかしたら何かあるんじゃないか。でも誰も何も正解を提示していなくて、もしかしたらただの自分の妄想で。でも入って見たら自分の読みが当たっていた。
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自分で発見したというのが加速ポイントにおける重要なことですね。
山元 
そうですね。ある程度視線が誘導されたり、罠が張り巡らされていたとしても、そこで係員の方が順路を示して、「こちらです」と言ってたりしたら、その向こうに対する興味が違うんです。
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大抵は矢印が書かれてあるから。私だったら、何も書かれていなかったら帰るかもしれない。
山元 
そこがさじ加減の難しいところですね。ギミックは、お客さんの動きを読みながら会期中も変えていったりしていました。「頭上にお気を付け下さい」とか「服が汚れる恐れがあります」とか、閉所・暗所恐怖症のご注意は書いてあるんですけど、「奥へお進みください」とは書いていないんですよ。ヒントだけをちりばめて、お客さんが動いてくれるかくれないかというギリギリのライン。
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注意書きをヘンに取って、「ギャラリーの絵に頭をぶつけちゃう」という有り得ないシチュエーション、がテーマだと捉えられたら終わりですよね。
山元 
こちらが全く想像出来ない行動をする方が、10人ぐらいは必ずいらっしゃいますので、こちらが微調整をする時間は必ず取っています。例えば、置いてある本の行動に従うと仕掛けが発動する、という作品も、最初の方は誰も本を手に取ってくれなかったり、本での一番重要な部分をやってくれなかったりとか。そうするとこちらもだんだんヒントが多くなって、目立つ様に下線を引いたり赤字にしたり。ガイドを変えていったりはするんですけど、それでもやっぱり、様々な行動を取られます。でもそれも全て含めて成り立っています。
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脱出ゲームというのが最近はとても流行っていますが、その先取りという感じがしますよね。
山元 
大流行りになりましたね。昔行きました。全然答えに辿り着けなかったりして。
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私もそういうのは行ったことがあるんですけど、答えが分かっても周りと共有しなかったりとか。
山元 
自分が行って、すんなりと体験に導かれるようにはしたいんですけどね。でもあんまり愛想よくすると萎えちゃうんですよね。
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そこはまさに、塩梅ですよね。そして、そのヤマを予想するのと、純粋な芸術のうちの一つ、なんじゃないかなと思います。加速ポイントを、誰でも通れるようになったらいいんですけど、いや誰でも通れるというのはまたありえないですけどね。
山元 
誰でも通れるというのはエンターテイメントの世界ですよね。ゲームの世界が好きなので、私も影響を受けてるんですけど。面白いのは、お忍びで評論家さんがいらっしゃったことがあって、でも、小説の中にある指示というギミックに気付いてか気付かなかったか、こちらが想定した行動を起こさずにそのまま帰られたんですよ。仕掛けという仕掛けが何も発動しなかったのですが、後日書いて下さったレビューを拝見するとすごく高評価をしてくださっていて。「何も起こらないのだが、一瞬僕の脳内には完全なファンタジーが広がっていた」と。そういう楽しみ方が許されるのか美術ですよね。遊園地に行って何も仕掛けが発動しなかったら大ブーイングですけど。
"double wander"
ニジュウニデアルクモノ
二重に出歩くもの



愛知県立芸術大学 サテライトギャラリー
〒460-0003 名古屋市中区錦3-21-18 中央広小路ビル3階

いまはもう小さい部屋

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山元さんが作品製作を始めたのはいつぐらいからでしょうか。
山元 
作品として発表しだしたのは大学の一年、十八歳ぐらいからです。でも何かを作るのは記憶がないぐらいからやっていたみたいです。親の証言によると、友達の家の部屋をお化け屋敷に改造しちゃって。学校とか幼稚園では普通にやってるんですけど、裏で隠れて宝探し大会とか。あと、親宛ての脅迫状を書いて、自分で自分を縛って発見されるまで籠ってたりとか。色々あの手この手をやっていたみたいです。
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面白い!
山元 
大学で洋画専攻に入って、その中に授業の一環でインスタレーションに出会って。私にとっては、絵を描くよりも、こっちだと。私に当てはまりそうなジャンルで、名前の付いてるのはこれだなと思いました。
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インスタレーション。
山元 
でも、演劇でもそうですけど、これからどんどんジャンルレスになってくんじゃないかなと思ってます。科学技術分野もそうですけど。
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トータルな技術者が生まれてくるんでしょうね。こないだ私が取材したダンサーで、自分のジャンルを知らないとおっしゃっていて。
山元 
そういうのがいいですよね。パフォーマンスをやられてる方が演劇に出演されたり。
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お部屋を改造してお化け屋敷にするというのは面白いですよね。
山元 
楽しいですよね。ダンボールハウスとかも一通りやりますよね。ひな祭りの一番上に登ったり。子供向けのワークショップをやるとしたら、私は多分そういうのをやると思います。
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専用のダンボールハウスを本気で作ろう。
山元 
今でも参加したいワークショップですね。

センサーに囲まれて

山元 
それを考えるのが一番ワクワクしますよね。ひとつには、お客さんの行動がキッカケでシチュエーションがズンズン変わって行ったり、自分だけではなく周りの解釈も変わっていく、そういうモーメントがすごく面白いんじゃないかなと思ってます。
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そうですね。
山元 
「Kaleidoscopic point」ではセンサーを多用していたんですけど、これまでの作品でも、お客さんその一人のために色々な仕掛けを動かしていたんです。どうやっているのかが分からないような仕掛けって、まるで魔法になるんですよね。誰かが作って、誰かが動かしている、と到底思えないような、そういう仕掛けを作れたらいいなと思っています。
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それはお客さんは分からない方がいいですかね。
山元 
そうですね。以前の作品で、一本道の通路に入ると来た道を閉じ込められるというシチュエーションがあって。目の前の壁に脱出方法のヒントが書いてあって、鏡の中の自分と向き合って一分間目を閉じると出口が現れる、と。皆さん、センサーがあるのかなと思われたみたいで薄目を開けたり途中で目を開けたりしていて。それだと絶対発動させないと決めてました。アンケートで「あのセンサーはどうやってるのかさっぱりわからないけど凄い技術だ」って。
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センサーじゃなく、目検プラス人力入力だったんですね。そして、技術云々を気にさせているようでは、という事でしようか。
山元 
人間対システムではなく、人間対人間なので。深呼吸してという指示も出しましたけど、それはもう、センサーどうこうの話ではなくて、今置かれている状況に集中できるぐらいの仕掛けをバンバン繰り出せたらいいなと思ってます。でも、センサーをオートマティックにしたらわざわざ私が開催期間中ずっと会場に通わずに済む、と長年アドバイスを頂いてて。だからセンサーを使ったりもして、それはそれで大事だと思いつつ、人間の仕業じゃないんじゃないか、と思わせるぐらいのゴリゴリのアナログもやりたいですね。「本当は中で人が動かしてるんですよ」と言ったら「そっちの方が面白い」と仰ってくださった方もいて。
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そして、非常に大変なんですよね。待機時間が。
山元 
朝に匂いの出ない食品を買い込んで、ほぼずっと狭い裏方でお客様来場の時を待ち続けていると。でもしばらくすると寝てしまうんで私が。私が寝ると何も動かないので・・・入り口に鈴とかを付けて、それが鳴ると起きて仕事を開始する。1ヶ月そういう生活を続けていたことがあります。だから、外で似たような鈴の音色を聞くとぱっと反応する、パブロフの犬みたいなことになっていた事もありました。
Yuriko Yamamoto "in the black door"
2005
立誠小学校/京都
ミクストメディア
舞台制作:西川翔太
音響:三橋啄


部屋の中央に、自立した黒い扉が立っています。大勢の人がレストランで食事をしているような音が、その扉の向こうから聞こえて来ています。しかし、扉の裏に回ってみても、そこには何もありません。黒い扉にはドアスコープが付いています。よく見ると、そのスコープ穴にむかって矢印がいくつも描かれています。スコープを覗こうと体を近付けると、扉の向こうから聞こえる音が小さくなって消えてしまいます…