「リレー」

__ 
舞台に立ってる時に、どんな感情になっていますか?
うら 
舞台上に立っている時・・・。
__ 
最近のインタビューの中で、「舞台の上に立っているときに生じる感情を見世物にするのが俳優の仕事である」という考え方が出てきて。もちろん、細かく組み上げられた演技から生まれる観客の体験が俳優であるという意見もある。
うら 
そんなに素敵なことは言えないと言うとあれなんですけど、単純に、舞台という空間が、私にとってはいつも新鮮で楽しいです。役が、ということも思っているんですけど、もっとコアなところで言うと、予期せぬ空気が生まれたりだとか、お客さんがこう思ってくれているというのがわかる実感というか。毎回漂う色が違うなあ、みたいな。そういう体感って、他のジャンルではなかなか得られないと思うんです。そして、一つのものをその場にいる全員で最初から最後まで持って行っている。というのが、すごく楽しいなと思います。ちょっと大雑把に言っちゃってますけど。
__ 
演劇のお客さんって、そう考えると、とても独特な存在ですよね。再生が絶対に出来ない作品を見ている。ちょっと巻き戻して見るとか、そういうことはできない。もう一度見れないものに対して分析したり鑑賞したり評論したりしている。そしていまお話を伺っていて思ったんですけど、劇場の中の全員で、演劇の最初から最後までをリレーしているんですよね。
うら 
そうなんですよ。はじめましての挨拶もしたことのないお客さんが見に来てくれていて、最初からシーンを一つずつ共有して、ほぼだいたい意味がわかった上で一つの物語を共有してくれる、って、すごいなあと思うんですよ。舞台が終わった後で「面白かったです」と見ず知らずだった私に声をかけてくださる事って、すごい事だなと思って。ちゃんと仲良しになれた!じゃないですけど、舞台を通じて素敵なコミュニケーションがとれたようで毎回本当に嬉しいです。
__ 
それは一回も考えたことなかったです。
うら 
だからやみつきになるじゃないですけど、次も色々な人に会って、物語を共有したいと思っていますし、できる努力をしていきたいです。

質問 日高 啓介さんから うらじぬのさんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた、FUKAIPRODUCE羽衣の日高さんから質問をいただいてきております。
うら 
おおっ、よく拝見しています。去年、木ノ下歌舞伎「心中天の網島」を拝見しました。すごく面白かったです。
__ 
「台本はどうやって覚えますか?」いかがでしょう。
うら 
わー、私、苦手過ぎて!一応録音しますかね、相手のセリフも自分のセリフも録音して、それを聴きながら自分の台詞のところを一緒に言う事で体に落としたり、あとは、人に手伝ってもらって。自分のセリフを1行ずつ読んでもらって、台本は見ずに自分のセリフを繰り返すんです。リスニングのやり方で覚えています。そうすると文字を読むよりも覚えやすいんです。スピードラーニングのCMみたいなこと言ってます。

私とこどきょ

__ 
そもそも、うらじぬのさんが子供鉅人に入ったのはなぜですか?
うら 
益山貴司さんに誘っていただいて。1年ぐらい考えて、踏ん切りをつけて入らせていただきました。お客さんとして何度か見させていただいたんです。「真昼のジョージ」と、それから「重力の光」にも客演させていただいて。本当に、気持ちのいい、正直な人しか集まっていない劇団で。ガチャガチャ~ってなってて賑やかで。私は今まで、子供鉅人のような集団の中にはいなかったなって思います。
__ 
子供鉅人にしかない魅力とは。
うら 
やっぱり、あまり器用なほうじゃないから、どうしても本当の部分が出る、ということなのかなと思います。基本的に舞台は毎回同じことをコンスタントなクオリティで届けられないと、だと思うんですけど子供鉅人は、さっきのリレーの話じゃないですけど、もう、誰かがどこか遠くにリレー棒を飛ばしてしまったら私もどこかに飛ばしてしまおうと、どこまででも飛ばしてしまったりしてコースアウトしたり。もう戻って来れなくてもいい~!ぐらいの楽しいエネルギーがあって。だから生傷絶えないですけど、なんかこう、生命力が凄い。
__ 
本番で出たものを最高にしてしまう感じなのかな。
うら 
そういう人が多いと思います。で、遠くまで飛ばしてしまっても野生の勘で取って戻ってくる。それには本当に、きれいに繊細になぞる、ということだけでは敵わない部分があります。躍動感の元。
__ 
その躍動感を支えているのはお互いの信頼なのかなと思います。後ろのことを考えなくてもいいぐらい、信じあっている気がする。
うら 
本当にみんな仲良しなので、そういう環境が支えになってると思います。

これからも

撮影:橋本大和
__ 
今後、どんな感じで攻めて行かれますか。
うら 
そうですね、もっと、何かこう、もっと学びたいです。技術面でもそうですし、もっとこういう風にしたほうが伝わるんじゃないかとか、常にやっていたくて。前は2年ほど、無隣館で勉強させていただいてたんですけど、別の違う分野でも学んでいきたいなと思っています。
__ 
今後も楽しみです。
うら 
ありがとうございます。

伊勢組みひものストラップ

__ 
今日はですね、お話しを伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
うら 
うわあ!ありがとうございます。見てもいいですか。
__ 
どうぞ。
うら 
あ、おかげ横丁。(開ける)
__ 
それは伊勢の組紐ですね。首からかけられるストラップになっています。
うら 
ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです。鍵とかよく失くすので。

酵素漂白剤「純愛」

__ 
今日はお話を伺いたお礼にプレゼントを持って参りました。
日髙 
そうなんですか。ええっ。何だろう。これは僕のために選んでくれたんですか。
__ 
はい。
日髙 
ありがとうございます(開ける)。これは・・・
__ 
酵素漂白剤です。
日髙 
すごい。「純愛」って書いてますよ。
__ 
今回ぴったりなんじゃないかなと思って。

京都での公演を終えて・・・木ノ下歌舞伎『心中天の網島ー2017リクリエーション版ー』5都市公演

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。「心中 天の網島」、本番お疲れ様でした。
日髙 
ありがとうございます。見に来て頂いて嬉しかったです!
__ 
素晴らしかったです。
日髙 
前回もそうだったんですが、京都に滞在して、しかもセットの上で稽古させていただいたので、ものすごく充実した製作になりました。ロームシアターさんの全面協力を頂き、すごくいいクリエーションができたと思います。
__ 
そして今、四都市公演の皮切りとなる京都での公演を終えて。どのような思いですか。
日髙 
単純ですが、ここから始まったという実感と、さらに作品が成長していく、という予感があります。
__ 
まずは、京都での上演を拝見できて非常によかったです。
日髙 
木ノ下歌舞伎は、京都で拝見すると格別の趣がするんですよね、やっぱり。この間の木ノ下歌舞伎さんが上演された「勧進帳」を春秋座で拝見したんですが、見終わった時の感覚にこれまでにないものがあって。
__ 
劇場を出た後に、何かが運ばれてくるような空気がある。
日髙 
そうなんです。
__ 
さて、これから4都市のツアー公演が始まりました。
日髙 
宮崎でも上演します。僕は宮崎出身なんですが、これで宮崎公演をするのは今年に入って3回目です。是非とも観てもらいたい作品でしたから嬉しいです。
__ 
京都の人間としてはそういうのも嬉しいですね。
日髙 
ロームシアターの方も、「この作品は京都で生まれた作品だから、各地で成長してまた戻ってきてほしい」と。芝居をやっていて嬉しいなと思うのは、色々なところで色々な人に見てもらって、それでまた戻れる、という。戻りたいなと思える舞台っていいですよね。
__ 
悲しい男女の話であり、たまらない感覚でした。悲しいと言えば悲しいけど、羨ましいというのはあるなあ、と。
日髙 
一線を越えられる人たちの羨ましさというのはありますよね。一線を越えたら死んじゃうんですけど。
FUKAIPRODUCE羽衣
2004年女優の深井順子により設立。 作・演出・音楽の糸井幸之介が生み出す唯一無二の「妙―ジカル」を上演するための団体。 妖艶かつ混沌とした詩的作品世界、韻を踏んだ歌詩と耳に残るメロディで髙い評価を得るオリジナル楽曲、圧倒的熱量を持って放射される演者のパフォーマンスが特徴。(公式サイトより)
心中天の網島ー2017リクリエーション版ー
天まで突き抜ける、
ふしだらでピュアな“愛”と“死”

作|近松門左衛門
監修・補綴|木ノ下裕一
演出・作詞・音楽|糸井幸之介[FUKAIPRODUCE羽衣]

出演|
日髙啓介 伊東茄那 伊東沙保 武谷公雄 西田夏奈子 澤田慎司 山内健司
木ノ下歌舞伎の旗揚げ10周年企画として、約2年にわたって5公演6演目を上演してきた「木ノ下“大”歌舞伎」。その最終公演は、近松門左衛門の最髙傑作と評される『心中天の網島―2017リクリエーション版―』の全国5都市ツアー。2015年に初演した同作が、ロームシアター京都のバックアップのもと、さらにパワーアップして帰ってきます。
だらしなくも憎めない紙屋の主人・治兵衛、天真爛漫な遊女・小春、治兵衛を献身的に支える妻・おさんが織りなす“愛”と“死”のドラマを、低迷する社会をエネルギッシュに生き抜く町人たちの群像音楽劇へと押しひろげるのは、演出・作詞の糸井幸之介。監修・補綴ほてつの木ノ下裕一と共に、近松原作の緻密なレトリックを熱く鋭く再構築します。
激しく燃える男女の愛、市井の人々のエネルギー、そして社会のリアルを浮かび上がらせるキノカブ版『心中天の網島』。すべての人の心に響く人生の哀歌・賛歌に、乞うご期待!

京都:2017/10/5(木)~9(月・祝) 会場:ロームシアター京都 ノースホール
三重:10/20(金)~22(日) 会場:三重県文化会館 小ホール
香川:10/28(土)~29(日) 会場:四国学院大学 ノトススタジオ
宮崎:11/1(水)~2(木) 会場:メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)イベントホールbr /> 横浜:11/6(月)~18(土) 会場:横浜にぎわい座 のげシャーレ

愛、取り返しのつかない

__ 
さて、「心中 天の網島」について。どういう物語かというと、悲しい男女の話ですね。どこにでもいる普通の男と遊女が取り返しのつかないほど深く惹かれ合い、周囲から責められ、やがて心中へと追い込まれてしまう。
日髙 
男女の愛、人間としての切なさ、色々な物が詰まっている作品だと思います。
__ 
そういうお店に入ってしまう男性の、どうしようもない思いと言うか。
日髙 
そうですね、行き場のない男と、同じく自由のない女性。
__ 
思うのは、心中って人類共通のテーマだよなあと。人間、心中モノを観たら心のどこかが確実に動くと思うんですよ。
日髙 
心中って心の中と書きますよね。何ででしょうね。
__ 
ああ、「中」は「毒が中る」とも書けますよね。
日髙 
それが死因だったのかもしれませんね。
__ 
その毒はいつ、どこで生まれたものなのか。いや、そもそも最初から備わっていたものなのか・・・作中最も印象的なのは最後の最後のシーン。治兵衛が小春を殺しにいくときに、小春の身体が逃げてしまい、治兵衛が「逃げんな」と叫ぶシーンでした。
日髙 
糸井くんの演出ですね。あんなに躊躇していたけど、タガを外さないと最後の一線を越えられないんですね。その最後の言葉が「逃げんな」というのが切ないですね。
__ 
あれが毒だったとは言いませんが、とても醜く、美しい瞬間でした。そこに至るまでに世界各国、色々な時代の橋を二人して旅していたのに。いじましく、切ない二人でしたね。
日髙 
そうですね。

歌う二人の落とす影

__ 
今回は木ノ下歌舞伎とFUKAIPRODUCE羽衣の、まさにコラボレーション作品、もしかしたら共作という形だったと言えるかもしれません。現在、日本でも最注目の劇団が交互にシーンを上演するかのような構成でした。
日髙 
木下さんが初めて糸井作品をご覧になったのが、それこそ、立誠小学校で上演した、ぐうたららばい『観光裸(かんこーら)』で、木下さんは糸井の作品と近松作品の共通点を見出したそうなんです。
__ 
私も拝見しました。駆け落ち心中モノでしたね。
日髙 
疑似的な、ですね。その時から、いつか糸井を演出に迎えて作品を作りたいと思われていたそうです。
__ 
良かったですね。
日髙 
本当にそうですね。天の網島の原作も義太夫の浄瑠璃だから、糸井くんの妙ジカルと微妙に合っていると僕は思っていて。
__ 
最初の方の歌の途中、日髙さんが思いの丈を朗々と吠えた演出があったじゃないですか。「天満に年経る。千早ふる。」あれがたまらなかったですね。
日髙 
ありがとうございます。はい。
__ 
羽衣の作品をこの五年くらい拝見していますが、もうずっと浮気と不倫がテーマで、主役である日髙さんがずっと幸福の絶頂で。でも今回の「天の網島」では何と!怒られましたね。
日髙 
(笑う)そうですね、怒られました。
__ 
正論で。みんなが言いたかったことを。
日髙 
分かっているんです。本当に申し訳なくて。この文房具屋の店主風情にこんなに美人な奥さんがいて、それでも飽き足らず美人な小春と証文を何枚も作って。まあこんなしょうもないおっさん役者が毎回・・・皆さんの言いたい事は分かります。俺も分かってます。
__ 
誰かが一石を投じても良かった・・・今回ようやく。
日髙 
はい。青年団の山内さん演じる五左衛門から怒られちった。
__ 
各地の皆さんにはこれをご覧になって、是非とも胸の支えを取り除いてほしいですね。
日髙 
精算してほしいですね。
__ 
親族の諫めを振り切り、心中の旅に出る、小春と治兵衛の二人旅。
日髙 
そうですね。見ていただきたいです。さっさと死ねよかもしれませんが。でもやっぱり、精一杯生きたんだと思うんです。裏もなく精一杯生きたからこそ立ち行かなくなる。
__ 
貫き通さないといけない、譲る事が出来ないものを掛けて、ついに心中へとの道。死出の道、応援したらいいのか、はた引き返せと願うが人の道なのか。果たして最後はどうなるのかを観て頂きたいですね。

「その上」を歩いている

__ 
細かい演出がまた非常に効果的で良かったです。板の間の下に消えていく、心中した二人の遺体、であるとか。
日髙 
そうですね。初演だと、セットの後ろの方で死んだのでそういう効果はそれほどでもなかったんですけど。今回は本当に、二人が地面に埋められたという絵が出来て、その上にまた新しい歴史が始まっていくみたいな。
__ 
最後のシーン、おさんの意味ありげな沈黙があって。思わせぶりですね。
日髙 
史実では、おさんは出家したらしいです。だから、二人の間の子供である勘太郎と過ごした時間はほんのわずかだった。
__ 
みんながみんな、誰かを愛そうとしただけなのに全員不幸になってしまった。
日髙 
華やかではなくちょっと衰退した元禄の時代を経て、そういう歴史を歯を食いしばって生きたうえに、俺らが平和に生きているというのをちょっと考えちゃいますね。
__ 
これを書いた近松も含め、ですね。
日髙 
それを木下さんが補綴して、ただ伝承するのではなく、新しい掘り起こし方をしようとしているのが、我々のような芸能に生きる者にとってはすごいことだなと思います。
__ 
強い使命感を感じますよね。

愛とか恋に浸れること

__ 
愛とか恋に浸れることの価値。FUKAIPRODUCE羽衣は、そこに際限なく落としてくれるんですよね。愛と死を歌い、果てしなく美化する。観ていて自分も死にたくなるぐらい。以前このサイトで糸井さんにインタビューした時には、「そういう部分に自覚的なお客さんは、羽衣の作品に強く共感してくださる」と。日髙さんは、舞台上で歌っていて、何か思われることはありますか?
日髙 
ずっと羽衣でやっていて。あまり歌と芝居を分けたことがないんですよ。ミュージカルであれば例えば綺麗に歌うであるとかを意識するのかもしれないですけど、羽衣に関しては、芝居の部分にメロディーがのっているというだけなんです。セリフを喋ってるという感覚で、ずっと歌ってるんです。
__ 
セリフを喋るように歌っている。
日髙 
やっぱり色々な感覚、雑念、雑音、はあります。そこで発してみないとわからない、そんなこともあります。例えば「好きだ」というセリフを口から発して、喜びの感情が出るのか悲しくなるのかは発してみるまで分からない。糸井君はものすごく緻密に組み立てるんですけどね、僕は、緻密さとパッションは矛盾するかもしれないですけど両方大切にしています。常に、自分の心が動くように。そこに引きずられて結果的に、歌があまり上手くなく聞こえたとしても、心の部分を大事にしたいなという気持ちはあります。
__ 
その時舞台上でどう動くかということですね。線引きの難しい話題だと思いますが、テキストに沿って感情を「手動(主導)で動かしている」のか、それとも「感情が自ら動いている」、のか。
日髙 
色々な役者がいて、色々な考え方があると思うんですよ。役として一本通すというやり方の人もいると思うんですけど、これまでずっと羽衣でやってきた僕の場合、役よりも、舞台の上の会話だったり、人の圧であったり、そういう空気を大切にしたいなと思っています。それが結果的に、役になるのかなと思っています。分からないですけどね、半年後には意見が変わってるかもしれないし。毎日発見があります。
__ 
舞台に立ってみるまで分からない、ということではなくて・・・その時に生じたものである、ということが大事なんですかね。
日髙 
そうですね、ですがそれをそのままお客さんに出しても見せ物にはならないし。でも、そこで空気が生まれた時、確かに僕の中に「それが生まれた時の感覚」をお客さんに伝えたい、と思っています。
__ 
感情が生まれた感覚を伝え、見せる。そういう技術であると言ってよいのか、それとも姿勢と呼ぶべきなのか。
日髙 
そうですね、分からないですけどね本当に。もちろん状況と、ストーリーを伝えることが大切ですが、それだけではお客さんはただ文章を読んでるのと同じですから。感情を伝えるということが合わさって、そこにはいろいろな細かい感情も載って・・・。これが正解というのは無いんですね(どの分野もそうかもしれませんけど)。僕個人はその答えを見つけたくはないですね。追い求めて行きたいです。

虚脱感

__ 
これまでの舞台で、最も感情に流されそうになった経験はありますか?
日髙 
色々、憑依するとかいうじゃないですか。僕の場合は、比較的、残っているとかそういう影響はあまりないんですよね。ただ、やっぱり、2時間くらい感情を溢れさせるので。虚無感というのはあるんですよ。日々あります。でも明日も本番があるし。
__ 
そうですよね。
日髙 
今回の場合は特に、人を殺す演技をして、そして自分も死ぬと言う役で、やっぱり精神的にどっと来るんですよ。そのエネルギーが、やるだけでガクンときて。この舞台の疲れはラストのシーンによってきますね。肉体的な疲れはすぐに回復するんですけど、精神の疲れと言うか。なりきるという大それたことではないですけど、その行為を舞台上でするだけで。
__ 
虚脱感。
日髙 
そうですね。
__ 
その一部始終を見る観客は観客でかなりエネルギーを持っていかれますけどね。治平衛という人生の最後を見るんですからね。
日髙 
そうなんですよ。残された人と旅立つ人のベクトルは全然違う気がして。死ぬ人は、死ぬことが決まったら淡々と死んでいく気がするんですよね。残された人たちは辛い思いをする。お客さんは二重に疲れてるのかもしれませんね。

網目の上を歩く

__ 
舞台上で生れる感情を見世物にするというのは、もちろん綿密な稽古が必要ですね。今作の場合は特にそう思います。舞台上が歩きにくいセットだということからも、ものすごい稽古量を感じます。網目を連想させる、雲形定規みたいな舞台の上で一歩一歩俳優さんが確かめながら歩いているような。
日髙 
稽古期間、毎日誰かが落ちそうになっていたんですけど、本番では今のところ何もありません。スタッフさんが丁寧に、役者に注意を向けてくれているので。身が引き締まる思いです。
__ 
これからも何もないことを祈っています。まあでも、観客というのは残忍なもので、ハラハラしている緊張感も良かった、という感覚があります。前回の舞台の写真から見ると、直線上の小さな橋が組み合わさっているようですが、今回は曲線という事で、難易度は跳ね上がっているように思えます。
日髙 
初演は平均台と同じぐらいの細さなので最初は大変なんですが、慣れていくと見当が付くというか。今回の場合は曲線が入ってるので、後ろ向きで歩いていたら気がついたらあとが無くなっている、ということも結構あるので。その辺は、(もちろん芝居に取り組みながら)一歩一歩気をつけています。それと、この舞台上は結構髙いんですよ。踏み外すとズボッと行ってしまうので、そのぶんかなり注意をして。
__ 
きっと、頭の中に道を入れておかないと危ないだろうなという気がするんですが、俳優が集中力を切らさないかと言うハラハラは結構あります。
日髙 
それは初演も結構言われたんですよね。けど、それは消えないように。道を頭に叩き込んでいます。
__ 
ハンデありで傑作音楽劇を!
日髙 
はい。

質問 nidone.worksのお二人から 日髙 啓介さんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた、nidone.worksの福岡さんとやまもとかれんさんから、質問をいただいてきております。まず福岡さんから。「日常で創作のきっかけを得ることはありますか?」
日髙 
やっぱり僕は役者なので、創作と言っても台本と演出があっての肉体なので。クリエーション的なものは稽古が始まってからだと思うんですね。ただやっぱり、稽古が始まってからだと間に合わないこともいっぱいあるんですよ。肉体的なコンディションもそうですが、色々なものを感じることだと思うんですよね。稽古が始まってしまうと、その時にあるものを使わないといけないので。それ以外のものというのは色々なものをなるべくたくさん見て感じると言うか。見っぱなしではなくて、人との会話を経て、自分がどういう感情になっているのかを把握したり。そういうのが好きなんですね、僕は。次のクリエーションの素材として、集めるのが好きです。それを全て使うかどうかは別として。
__ 
やまもとかれんさんからも質問です。「日常でも、自分がパフォーマーであると感じることはありますか?」
日髙 
それはないですね。あんまりない、かなあ。ある人はあるのかな。

そもそも備わっていたのか

__ 
いま興味があることは何ですか?
日髙 
結構たくさんあるんですけど、演劇の謎みたいなこととか、はちょっとずつ解き明かせていけたら。正解はないですけどね。それと、人間の性悪説には興味があって。やっぱり人間ってひどい生き物だなと思っていて。ほっておけば多分ひどくて、自分のことしか考えずに自分のために全てを食いつぶして、自分もいつか喰い殺してしまう。それでもその中に、人と生活していく上での良心があって、それで生きていける。人間って、どこまで、なのかなと思いますね。そうあるべきじゃないとか言うのは置いといて、人間の密な部分。愛情に溢れて生活している僕らは本当に幸せなんですけど、本当の部分。知りたくはないんですけど、ふと思うんですよ。
__ 
まず、想像力に限界はありませんからね。宇宙の外のことであるとか、複雑なことも抽象的な道具を使って考えられてしまうじゃないですか。そして、自分の事ばっかり。
日髙 
それを理性で抑え込められるから、怖いですね。
__ 
人間の精神って、子供の頃から育てられて形成されていくから、理性というものが働く、という考え方がありますよね。でもやっぱり、欲望を爆発させてしまうこともある。
日髙 
僕は、人に興味があるから俳優をやってるのかもしれません。最近、動物としての人間に興味があります。
__ 
動物は心中しませんからね。
日髙 
そうそう、そうなんですよ。理性を保っている動物として・・・いや、もしかしたら、理性も野性の中に含まれている生存戦略なのかもしれないですけど。

2ヶ月のランデブー

__ 
これから四都市公演ですね。11月18日まで、2ヶ月のランデブーですね。何かお客さんに伝えたいことはありますか?
日髙 
京都で誕生した作品が、旅をしながら、ちょっとずつ変化していく様が、僕らも楽しみですね。場所が変われば芝居も変わるし、時間が経てば経つほど変わっていく部分もあるので。その時その時、その場でしか見れない作品をご覧になって欲しいと思います。ぜひ。それと、年末には吉祥寺で羽衣ライブもあります。毎年やっているんですが、糸井楽曲を3時間歌い続けます。
__ 
ライブ、いつか是非行きたいです。今後どんな感じで行かれますか?
日髙 
来年も舞台中心で予定が入っているので、当分は演劇の謎を突き詰めながら行って来たいです。基本的にはFUKAIPRODUCE羽衣のメンバーとして行っていますので、羽衣の創作に携わっていきたいなと。
FUKAIPRODUCE羽衣LIVE vol.11
構成・演出:深井順子 音楽:糸井幸之介 
12月18日(月)19:30start(18:30open)

12月19日(水)19:30start(18:30open)


***Singers***
FUKAIPRODUCE羽衣

***Band***
Guitar/斉藤浩樹(ParaboLa) Bass/堀田秀顕(あっぱ) Drums/河村俊秀(ペトロールズ)

***ticket***
3,000円(1drink別)
※整理番号付入場券(会場の状況によりお立ち見になる可能性がございます。)
※ご入場時に別途ドリンク代を頂戴いたします。

***会場***
吉祥寺STARPINE’S CAFE

nidone.works新作公演『おにぎりパン!』

__ 
今日はどうぞよろしくお願いします。最近、お二人はどんな感じですか?
やまもと(以下、やま) 
 よろしくお願いします。最近は次回公演の製作をしながらもMVを2本作っています。ヨーロッパ企画さんの企画で作るかせきさいだぁさんのMVと、もう一本、別のミュージックビデオを作っています。
__ 
次回公演とは、nidone.worksの新作公演でもある「おにぎりパン!」ですね。どんな作品になりそうでしょうか。
やま 
おにぎり屋さんの娘とパン屋の息子が結婚する話なんですけど、その結婚前夜のパーティーをおにぎり屋の店長であるお父さんとその仲間たちで開催するんだけど・・・?!という。ストーリーはそんな感じで、笑えて、視覚的に楽しいと言う方向に進もうとしています。
nidone.works
成長過程にいるこどもが おとなになることを、少しでもポジティブに捉えることができる作品づくりを目指しています。 メンバーは作/演出の渡辺たくみ、制作の加藤なつみを中心に、作品ごとにゆるやかなともだちを集めて活動中。舞台作品では、こども自らが表現することを後押しできるように、こどもたちが演者とコミュニーケションをとることでストーリーが進むよう構成しています。(公式サイトより)
nidone.works新作公演『おにぎりパン!』
おにぎり屋さんとパン屋さんのドタバタおめでとうパーティー!

おにぎり屋「にぎり亭」ではたらくおむすちゃんは、
パン屋「オレンジ・ベーカリー」のハッサクくんと結婚することになり、
晴れてあしたからパン屋さんになります!

みんなも『おにぎりパン!』に出席して、2人をお祝いしちゃおう!

■公演日時
2017年10月13日(金)~15日(日)
13日(金) 12:30/18:00
14日(土) 12:30/18:00
15日(日) 12:30

※開演30分前より受付・開場。
※上演時間は約30分を予定しています。

■会場
京都造形芸術大学人間館1階
カフェ横展示スペース(春秋座側)

作・演出=渡辺たくみ

■出演者
磯貝優志
井上向日葵
松田ちはる
山口慶人
渡部もも

■スタッフ
美術|やまもとかれん
照明|福岡そう
音響|安東優里奈
衣装|松田ちはる
制作|加藤なつみ
イラスト|宮城巧

■チケット料金
無料(要予約)

「チッハーとペンペン」

__ 
私が最初に拝見したnidone.worksの作品は「チッハーとペンペン」と言う素晴らしい作品でした。私も元々舞台スタッフだったので、何かを作るということの難しさや面白さややりがいについては分かるつもりです。手作りで美術を作る、その精神が、チッハーという女の子のキャラクターや世界と非常に強く並走していたんですよね。いきなり私の考えを述べますと、「チッハーのおへや」という着地点を目指して作られたものじゃなかった様な気がするんです。ある種の冒険であるとか、面白さを求めながら作り続けると言う足跡を、生きた舞台美術、生きた舞台照明を感じたんです。
福岡 
それしかやってない・・・
やま 
うん。そこを経過しつづけての終着でしたね。
__ 
「大阪・新世界からやってきた、動物さんをお助けするマジカルな女の子の部屋」というお題だったら誰でもイメージがしやすいし、そのゴールは思い浮かべやすいと思うんですよ。でも、あの場にあったのはそんな容易なものではなかった。そこに到着しようとして言ってるんではなくて、山本さんや福岡さんの面白いと思っているモノ、がスタートラインだったからできたことだったと思うんですね。
やま 
今回「おにぎりぱん!」では、「チッハーとペンペン」ではトライしていなかったことにも挑戦しています。
__ 
とても楽しみです。なので、あえて「おにぎりパン!」については細かく伺うのは止めておこうと思います。細かいところまで全て楽しみなので、想像もやめておきたい。

”一瞬のために”

__ 
まず福岡さんにお話を伺いたいんですが、「チッハーとペンペン」での照明プランでとにかく素晴らしかったのが、動物から電話がかかってくる時に点滅する、天井近くの間接照明の様になっている明かりが。
福岡 
LEDですね。
__ 
あ、なるほど。
福岡 
メディアアートとかで使われているような照明で、プログラムを組んで点滅するように仕掛けてありました。
__ 
あのプランは素晴らしいですね。「初コールだ!」というテンションの上がりようが。本当に、よく考えたついたな、と思います。
福岡 
観客が頑張ってチッハーと一緒に気合を入れてくれたから、電話が派手に掛かってきた、というのが渡辺が考えていた事だったみたいです。初演とはまた違ってわかりやすく演出できたと思います。
やま 
彼はそういうのをシステム化しちゃうんですよ。
__ 
ああ、ボタンひとつで出来るみたいな。
福岡 
照明卓とコントロールの管理系を繋いでオペをしていました。
__ 
照明と音響と役者とお客さんが一体になる様な感覚。テレビ番組の中に迷い込んだような、という言葉で表現しようと思ってたんですが、お客さんの反応があるショーになっていたんですよね。テレビショーの撮影は途中で止めたりするから。でも演劇は途中では止まらない。盛り上がりに水を差すものはいない。
福岡 
そういうののゴリ押しみたいなところはありますね。渡辺はひたすら音と照明を合わせるプランに集中していて。で、例えば合言葉で冷蔵庫が開くシーンとか、客席にいる子供の声の反応を見て、大きな声を出してくれたらすぐ開く、という演出で、音響さんにその判断が委ねられてたりしてたんです。照明オペとしてもその操作を感じ取ってこちらも動くみたいな。
__ 
他にも色々印象に残ったシーンばっかりで、ハートが作られる時とか、ペンペンに魔法を掛けるシーンとか。なぜあんなにも、お客さんを盛り上げるさせる音と照明の連携のセンスがあるのか不思議でならない。
福岡 
美術についてはこちらがある程度用意するんですけど、何がどう動くか、いつ光るかは渡辺が全部決めてるんですよ。明かり作りとかの調整で、ここをこうして、と言われて「マジか」と思いながら作業しています。
__ 
渡辺さんの演出はどうですか。総体的に。
福岡 
後で思い返して、「やっぱり正しかったな」と思うことは多いんですよ。その時は「ハァ?」と思っても。まだまだやなと思います。
やま 
(笑う)
__ 
最終的には一つの判断を選ぶしかないじゃないですか。そこが仕事の難しいところですよね。
福岡 
できるだけ早い段階でビジョンを決めてしまうんですよ、渡辺は。時間がなくてもできてしまうんです。MVも粗編集ですごいのを作ってきたりして。絵コンテとかも簡単に切ってきて。
やま 
ビジョンが既にあるみたいなんですよね。
福岡 
最初は不安に思ってても。
やま 
渡辺自身はあまり自信がないこともあるみたいで、なんやかんやで道として成立する、みたいな。直接言いたくはないけど素晴らしいと思う。
福岡 
悔しいところはありますね。渡辺が悪いわけじゃなく、僕の落ち目。

トロッコは止まらない

__ 
次はやまもとさんに伺いたいんですが、まずは何をおいてもペンペンですよね。彼にはまさに、「手作りの良さ」とは何かを思い知らせてくれたと思う。購入したものには実施で宿らないものがそこにはあった。
やま 
魂を入れたもの、みたいな。
__ 
私はそれを「抜き身」の価値と呼んでいました。16年前の価値観なので今は伝わらないかもしれないですけど。日本刀を抜いた時みたいな、よく研いだ白米の芯の部分の甘さみたいな、病院の卸したてのシーツの束の中に手を伸ばした時。何言ってるかわかんないと思うんですけど。
やま 
それをペンペンに感じたということですか。
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そういう新鮮さ以前の、着想がこの世に生まれた瞬間のひらめきと言うか。私もそれをこれまで何回か作ることはできましたが、チッハーとペンペンはその塊だった。
やま 
初演と再演ではペンペンは異なるものでした。初演は既製のものでしたが、再演ではペンペンも登場人物の一人として作ろうと言うことになりまして。
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そうそう、再演のペンペンは、回転すると遠心力で羽が横に広がるんですよね。副産物と言うか。
やま 
実は、手動で羽根をパタパタと動かせる用にしよう、と仮止めしていたんですが、振るとパタパタするのが可愛かったから、あ、こっちだ、と。
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もうそれ以上はする必要がありませんでしたね。遠心力で羽が振れるから良いんですよ。
やま 
良かったです。
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舞台美術全般にしても、開けてないプレゼントの箱だとかが散りばめられてあって。ワクワク感もありつつ、チッハーのずぼらさも感じさせるみたいな。そして、トロッコのセットね。
やま 
気付かれましたか。
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音と照明と踊りが合わさって、トロッコが到着するんですよね。そんなことが出来るんですか。そして、しようと仕事するんですか。
やま 
とにかく、私と渡辺が2人でミーティングをするとボケようとするんですよ。笑いを取ろうとするんです。トロッコにしても、スムーズに着くんじゃなくて、よたよたと進んで前途多難がありーのでようやく間に合う方が笑えるし、見ている大人にも子供にも「それが笑えるものだ」と気づいて欲しい。
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笑えるものへのこだわり、以上の何かになっていたと思います。コストと時間を最も効率的なやり方で調整して作ったものでは残せない何かが残りました。ガタガタと進むトロッコ。予算があればすぐ着地できるんですよ。でも言っちゃ悪いけど我々が昔そうしていたように、予算はそんなにない。298円ぐらいのペンキを混ぜればどんな色でも作れるし、マスキングテープを貼ればネジも隠せる。汚いけど、そうじゃないとたどり着けないところがありますね。
やま 
と、私も思ってます。
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でも、必ずどこかで、それを諦める瞬間があると思う。欲を言うならそうなって欲しくはない。お二人とも、16年後ぐらいには労力を惜しみ、過去のフレームワークの流用や、クラス継承、バリエーションによるコンテンツ感の錯覚戦術とか、そういう手法に絶対に手を染めるかもしれない。けれど、頑張って、今の手を忘れないで欲しいと思っている。
やま 
そうですね。現状、間違いなく、技術を向上させないといけないんですけど。いま、柴田隆弘さんの元で修行させていただいてて。一個一個に集中することも大事にしつつ、ちゃんとした技術も持っていないと続けられないことだから。どちらの気持ちも忘れずに続けたいなと思っています。
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両方。職人的な、美しさへの執着。そしてお金と時間、クライアントのご希望に収まったもの。好きなものを作るのが一番だと思うんですけどね。