「あなたに会えたらよかった」

__ 
今日は自主映画監督の栗山陽輔さんにお話しを伺います。どうぞよろしくお願いします。最近、栗山さんはどんな感じでしょうか。
栗山 
最近はもうじき公開予定の映画「あなたに会えたらよかった」の編集作業をやっています。それと、上映会の準備です。今日は情報宣伝のために大阪に来ました。
__ 
栗山さんが監督されている映画「あなたに会えたらよかった」、ですね。
栗山 
公開は6月の16日から18日まで、ウラなんばのあるかアるかの地下、金毘羅で上映します。
栗山陽輔 監督作品『あなたに会えたらよかった』
私の、この結末は、決して変わることがありません――

監督・脚本
栗山陽輔

出演
丹下真寿美 川末敦(スクエア) 都呂路あすか 安達綾子(劇団壱劇屋) 白井宏幸(ステージタイガー) 花田綾衣子

友情出演
 坪坂和則 遠坂百合子(リリーエアライン) 西村朋恵(こまち日和) 東千紗都(匿名劇壇) 森口直美(パプリカン・ポップ) 山田まさゆき(突劇金魚) 吉次正太郎

撮影監督
武信貴行

撮影
太田智樹 柴田有麿

助監督
青木省二 林トシヒロ
南川萌

上映会場
FREE STYLE STUDIO 金毘羅(カフェ&ビア あるか→アるか地下一階)

上映日時
6月16日(金)
18:00/ 20:30
6月17日(土)
11:00/ 14:00/ 17:00/ 20:00
6月18日(日)
11:00/ 13:30/ 16:00/ 19:00

各回30分前より受付、開場。上映時間45分。
16日18時の回、18日19時の回に上映終了後、トークイベントあり。

料金
前売・当日1500円

メール予約
anataniaetarayokatta@gmail.com
上記メールアドレスに件名「あなたに会えたらよかった予約」、本文にお名前、ご来場日時、枚数をご記入してお送りください。5日以内に確認メールをお送りします。

前作「なかよくなれたらいいな」から・・・

__ 
前作「なかよくなれたらいいな」から、今回の「あなたに会えたらよかった」。どんな作品になりましたでしょうか。
栗山 
前作はホラーだったんですけど、今回は作品の方向性ががらりと変わって、言ってみれば素直な作品になったと思います。すごく変な言い方なんですけど、前回がスナイパーライフルのような作品だとしたら、今回は体当たりのような作品になると思います。僕自身、ぶつかりすぎて最近はだいぶボロボロになっていて。
__ 
ボロボロになりましたか。
栗山 
ぶつかっていく訳ですから。難産でしたが、自分では面白いものができたと思います。
__ 
今回の製作の経緯を教えてくださいますでしょうか。
栗山 
今回の作品の大本は、20歳の時に思いついた構想だったんです。その時には「自分にはできない」と思って放置してしまったんですけど、以降、作品を作ろうと考え始める時はいつも、そのアイデアがぶり返してくるんですよ、何年経っても。あれから数年経ち、「時間が経った今なら出来る」とまでは思わなかったんですけど、一から構築し始めて。29歳で脚本を書いて、撮影して、今30歳で編集してます。
__ 
その構想を思いついた時の感触は?
栗山 
いや、最初はありがちだとは思ったんです。それは、ひっくり返せる感触もあって、でも表現方法が全く分からなくて。
__ 
でも、完成までこぎつけたんですね。
栗山 
撮影自体はうまく行ったし、過酷なスケジュールになってしまってキャスト・スタッフの皆さんには負担をかけてしまったんですけど、出来上がったものについては、今の自分の作品になったと思います。
栗山陽輔 監督映像作品『なかよくなれたらいいな』
ねぇ、知ってる? 人はどんなに頑張っても、心の底からわかり合うことはできないんだって――

監督・脚本:栗山陽輔
出演:西村朋恵(こまち日和) 遠坂百合子(リリーエアライン) 東千紗都(匿名劇壇)
田中尚樹(劇団そとばこまち) 丹下真寿美
大宮将司 吉次正太郎
福山俊朗 花田綾衣子
撮影監督:武信貴行(SP水曜劇場)
撮影:太田智樹
助監督:青木省二 林トシヒロ
ヘアメイク協力:安達綾子(壱劇屋)
制作協力:森口直美(パプリカン・ポップ)
効果音作成協力:Alain Nouveau(Alain Nouveau音楽事務所)
フライヤーデザイン:立花裕介

「今」

__ 
「あなたに会えたらよかった」。ご自身の製作史の中で、どんな作品になりましたか?
栗山 
今後映画を作り続けたとしても、もう10年くらいはこういう作品は作らないと思います。前作はいくつかの映画祭で入選して上映していただいたんですが、その時に他の映画監督の方や映画祭のスタッフさんに聞いたところ、ホラ―映画を出してきたのは僕だけだったそうなんです。映画監督として売れていこうと思うんだったら、ホラーを作り続けた方が良いとは思うんです、間違いなく。ホラー映画の監督としてイメージが定着するし。でも、その前に今のうちにこれをやっておかないと、ホラー映画でどん詰まりになるだろうと。2、3作を作ってそれで終わりになってしまうような気がして。だから「今」しかやれない、体当たりの作品だと思っています。
__ 
どんな上映になればいいと思いますか?
栗山 
そうですね、深刻なのに笑ってしまえるようになればいいかなと思ってます。映画のキャラクター達がすごく真剣やっているのが、はたから見ていて凄くばかばかしい、というシーンがあるんです。あと、ラストシーンに工夫があるんですが、それが少し考えさせられる出来になったらいいな、と思っています。
__ 
見所といえば。
栗山 
撮影をしていて、役者の方々の演技力がやっぱり凄かったですね。主演はスクエアの川末敦さんなんですけど、真面目な事をやっていても人の良さが滲み出ていて、見ていて余計な力が抜けていくような。一言で言うとめちゃくちゃ芝居が上手いんです。細かい演技はお任せしました。あと丹下真寿美さんに出てもらっているんですが、フラフラになりながらも演じてもらったシーンがあります。まずは役者陣を見てもらいたいと思います。映画としては、あまりメッセージ性もギミックも無いんですけど、こう思ってもらえたらいいなと思う部分があって。入口という言い方はおかしいんですけど、「あなたに会えたらよかった」というタイトルとは全然方向が違う出口になっていて。観る前と観終わった後の感覚が全然違う瞬間があります。それを一番感じて欲しいかなと思います。
__ 
構成的な仕掛けがあるんですね。
栗山 
衝撃的なラストではないんですけど、「あれ?いつの間にかこういう感じになってる」、で、何か力が抜けて、ある種の感覚になってくれていれば、と。

自分を書いた、のかもしれない

__ 
登場人物に何か思い入れはありますか?
栗山 
脚本を書いている身でこんなことを言うのは何なんですけど、全て、僕です。どの時代かの僕です。これまでずっと考えてきた作品なので、どうしても。自分のことを乗せすぎたのかなとは分かっているんですけど。
__ 
全員、自分。
栗山 
そう言うとちょっとナルシストっぽいですけどね。人物像の根源はそこで、そこから派生した人物たちです。
__ 
一番のお気に入りは?
栗山 
やっぱり丹下さんにやってもらった役かな。ああいう行動に出て欲しい、という気持ちがあります。川末さんと丹下さんの役はどちらも主役です。あの二人が会話しているシーンはずっと見ていたかったですね。

ロケと、そこに来てくれたキャストたちと

栗山 
ロケで和歌山の加太に行って海での撮影をしたんですけど、午前中は晴れていたのに午後はものすごく大雨が降って。晴れと雨、どちらのスケジュールも用意して行ったんですけど、結果的には過酷でした。あと、京都の桂川沿いでも撮影したんですけど、その日はゲリラ豪雨のように雪が降った日だったんです。大変でした。
__ 
キャスティングについて。栗山さんの作品では、主に大阪の小劇場の舞台で活躍している役者が配役されることが多いようですが・・・
栗山 
特に今回、初めて映像に出る方がいて、「どうしていいかわからない」と相談されたんですけど、僕としてはあまり変わらないものと思っていて。表現方法は若干変わりますけど。安心して演技をしてもらえるようにアドバイスをしました。舞台の演技との違いという意味では、出す声の大きさが少し違うぐらいです。後は、信用できる役者さんにお願いしているので、技術という点ではあまり不安はありません。結論としては、映像の役者と舞台の役者で、それほど違うとは思っていません。
__ 
信頼を置いているということですね。その上で求めてることは何ですか?
栗山 
僕自身も役者だったから思うことでもあるんですけど、役者に必要な物って、「その人自身が持っている最強の武器」、つまり個性を思いっきりやってもらうために、「そうじゃないもの」を出して行って欲しいと思っています。何でもかんでもできるようになるという意味ではなくて、個性を活かすための個性とは違うもの。もちろん演出家によって違って、例えばその人の個性をずっと出しておいて、ふと違う事をして印象を付けるとやり方もあるんですが、僕は逆なんですよ。大事なシーンだけで、ここぞと個性を出して欲しい。そして、その場所で思いっきり出してほしい。役者は全ての瞬間に自分の役と自分の個性を重ねて、結局は自分の方にどんどん引き寄せてしまうことが多いんですが。

人が人を好きになる

__ 
ご自身の作品で大切にしたいことは何ですか?
栗山 
自分が見て面白いと思えるかどうか。映画をたくさん見る人間なので、自分がまだ見たことのない、自分が見たい映画を作るというのが根本にあるんですよ。気をつけているのは、「何かに似ている映画」にはしない、ということです。オマージュ的な遊びはたまにするんですけど。僕は年間で800本から900本を見ている時期もあって、見たことのない映画が少なくなってくるんですよ。「こういう風な映画を観たいな」と思って、そういうのに当てはまる映画が無い時、作りたいなと思います。
__ 
それは、例えばどんな映画ですか?
栗山 
これは僕が写真家としても思っていることなんですけど、「人が人を、ちょっとでも好きになれるような作品」という明確なテーマがって、それは映画作りでも共通してると思います。
__ 
それはどういう瞬間に現れてくるのでしょう?
栗山 
前作「なかよくなれたらいいな」では、ラストシーンで3人が会話をしているシーンがあるんですけど、周りからはあのシーンはいらないんじゃないか、と言われたこともありまして。でも、あのシーンがなければ僕の映画じゃないと思うんですよ。なんか愛情が芽生えるんですよ、あの瞬間に。たったワンシーンで違うんだから、映画って不思議なもので。今回の映画も、感情が芽生える瞬間はあると思っています。
__ 
観客に感情を芽生えさせるって、一つの大きなテーマですね。
栗山 
そういうことができる映画監督がいるんですよね。例えばヒッチコックは自分の映画の上映で観客の感情の流れを読んで、指揮者のように操ることができた、という逸話が残っていますね。
__ 
人を好きになる、そんな感情を抱かせる。本当に遠大なテーマですよね。
栗山 
人間賛歌、というのがいつも念頭にあります。やっぱり色々な作品で使われるテーマですよね。人間のダメさも見せてそれでも好きになるような作品もあるし、本当に人間が嫌いになる映画もあるし。やっぱり人間が出てこない映画というのは存在しないんですよね。動物映画でも、しゃべったりであるとか、擬人化したかのように演技をしているし。映画というのは人間的な行為なんですよ。中でも「人が人を好きになる」というのは僕の普遍的なテーマだと思います。実現するのは難しいですけど。

映画を撮る幸せ

__ 
栗山さんが映画を撮り始めたのはどんな経緯があるんですか?
栗山 
東京で役者をやっていたんですけど、やめてからしばらくぶらぶらしていたんですね。その時に、仕事の都合で休みが入って、大阪に一回遊びに行ったんです。その時、武信貴行さんと大宮将司さんに映画を作らないかと言われて。「どうかなあ・・・」と思ったんですけど、しばらくしてその気になって、お二人に電話をして、撮影することになりました。
__ 
なるほど。映画に興味を持ち始めたのはいつからですか?
栗山 
高校生の時、かな。一人で映画館に通い始めて。アルバイトのお金で学校の帰りに映画館によって映画を見ていました。その頃には役者にも興味が出始めていて。大学に入ってから役者を始めました。
__ 
今映画を撮っているのは、どんなモチベーションからですか?
栗山 
面白いからですね、すごく大変ですけど。個人で、しかもインディーズでやってるから。映画祭に呼ばれて行っても、周りの監督さんのレベルが高すぎて、自分の至らなさを痛感するんですけど。でも役者をやっていた頃より10倍は楽しいです。30倍は大変ですが、100倍くらいは幸せです。

質問 nidone.worksさんから 栗山 陽輔さんへ

__ 
前回インタビューさせていただいたから質問をいただいております。nidone.worksの渡辺さんと加藤さんです。「怖い映画や役柄に向いてる役者とは?」
栗山 
雰囲気、空気感を持っている人ですね。まず欲しいのは、浮遊感。存在感のなさがある、みたいな。あとは、何もしていない時に注目を集められる人。座っているだけの姿にふと目が行くような人は向いているんじゃないかな、と思います。

二度と見たくないような映画

__ 
いつか、どんな映画を撮りたいですか?
栗山 
二度と見たくないような映画を撮りたいです。面白くないから見たくない、というわけではなくて。すごくいい映画だけど、もう一度見るのはどうだろう、というくらい、見ていて辛くなるような映画を作りたいです。例えば「偽りなき者」という映画があって、3、4年ぐらい前の傑作で、DVDを持ってるんですけど一回観たきり観ていない。「ダンサーインザダーク」みたいな方向性ですね。映像の作り方がどうとかではなく、映画そのものとしてインパクトがあるものが作りたいです。
__ 
それは、幻滅したくないから?
栗山 
いえ、どういう流れか知ってるわけですから、辛すぎて胸が苦しくなるのが分かるんですよ。胸をかきむしりたくなるような。
__ 
そういう映画って、私も2、3作品ありますが、体験に近いですよね。

写真でつたえる仕事

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
栗山 
ありがとうございます。こういう本、いいですよね。僕も人物写真を撮影していますが、参考にします。

nidone.works、その由来と今の目標について

__ 
nidone.worksの、渡辺さんと加藤さんにお話を伺います。よろしくお願いします。
渡辺・加藤 
よろしくお願いします!
__ 
nidone.worksさんは、演出の渡辺さんと制作の加藤さん、そしてゆるやかなともだちを集めてのチームなんですよね。
加藤 
そうですね。毎公演に参加してもらってるメンバーも多いけど、公演の度に、ゆるやかなともだちを集めて活動しています。
渡辺 
もともとは僕が一人で、自分の動画作品のポートフォリオとしてウェブサイトを作ったんです。そのサイト名が「nidone.works」という名前でした。
__ 
nidoneとは、二度寝の事ですか?
渡辺 
その二度寝であってます!二度寝してる時間って幸せなので、そういうポジティブな意味と、あと、二度寝したい欲に勝てる作品や公演づくりをしたいという思いを込めています。名前がゆえ、メンバーが稽古に遅れてきても「二度寝ワークスしちゃった」といえば、あはは、ってかんじで。
加藤 
たまになら許す。何度も繰り返すとアウトッてかんじですね。(笑う)
__ 
フリースタイルですね。そんなnidoneの皆さんは最近どんな感じですか?
加藤 
先日、立誠小学校での「チッハーとペンペン」の公演が終わったところです。このチッハーとペンペンを一番最初に上演したのは去年(2016年)の2月、造形大の学内でした。その時は本当に、「こんな舞台作品を作ってみました」という感じで、今後も続くとはあまり予想していなくて。でも今は結構、彼の中での悪巧みがなんとなく出てきて。それから段々と私たち主メンバーも集まり始めて、どうやら「これを仕事にしていきたい」という思いが就職活動を目の前にした私たちの中に芽生えてきたんです。それで今回もう一度、チッハーとペンペンを1年越しで上演しました。企業さんや各団体の代表さんに、お客様からの口コミをアピールして。1年経ってようやくこの春、走り出したという感じです。
nidone.works
成長過程にいるこどもが おとなになることを、少しでもポジティブに捉えることができる作品づくりを目指しています。 メンバーは作/演出の渡辺たくみ、制作の加藤なつみを中心に、作品ごとにゆるやかなともだちを集めて活動中。舞台作品では、こども自らが表現することを後押しできるように、 こどもたちが演者とコミュニーケションをとることでストーリーが進むよう構成しています。(公式サイトより)
こどもトキドキおとなに贈る、ハートフルおしゃべり劇『チッハー と ペンペン』(ver.3)
日程:2017年 4月28日(金)~30日(日)会場:元・立誠小学校 作.演出:渡辺卓史

出演:松田ちはる 諏訪七海 荻原萌子 山口慶人
美術:山本かれん
照明:福岡想 西本春佳
音響:安東優里
演出助手:横田樹菜
制作:加藤奈紬 石口さくら
宣伝美術:宮城巧







作品製作のキッカケ

__ 
まず、「チッハーとペンペン」作品製作のキッカケを教えてください。
渡辺 
キッカケは、個人的な事で。女の子に振られたことから始まって・・・
加藤 
うわー。
渡辺 
くそ!というエネルギーを作品づくりにぶつけよう、と。経緯としては、あんまりしゃべるのが得意ではない子供とか、その家族に、ちょっと殻を破れるような作品が作りたいなと思って製作をはじめました。
__ 
なるほど!そうして出来上がった作品は、先日拝見しましたがまるで子供番組をそのまま演劇にしたかのような、そして客席のお子さんに助けてもらって進むような参加型で、そして音響・照明・仕掛けのギミックが複合したものでした。
渡辺 
お客さんが自ら、テレビ番組の世界に入り込んだ気持ちになれるように、色々とこだわっています。観客と演者で、言葉やアクションをリプライし合うことでストーリーが展開する仕組みと、かくれんぼ絵本みたいなものを目指してつくっていて。
__ 
ああ、かくれんぼ絵本。
渡辺 
「ミッケ!」というかくれんぼ絵本があるんです。写真の中からあるモノを探しだそう!みたいな。その絵本で遊ぶ感覚とフェイク的な演出を多く取り込んで舞台では遊んでいます。例えば、「チッハーとペンペン」だと、沢山の電話の中に一つだけバナナがあったり。前回の公演「よっ!チョコモフン」で言うと、マシュマロが客席上をフワフワと浮いている中に、ひとつだけ唐揚げが浮いていたりするとかですね。他にも、演者が役を背負ったまま「なにこれ!?」と、素の反応を見せるシーンを用意するとか、こだわっているお遊び演出は劇中に沢山あります。美術のやまもとかれんもこだわっている事なんですが、ある角度の席に座ったお客さんしか見れない、クスッとするポイントを用意したりもしているんです。例えば「チッハーとペンペン」のあるシーンでは、お客さんの一人にお願いして、舞台上の電話機のボタンを押してもらうシーンがあるんですけど、4つの内一つだけが「チッハー」と書いてあって、他は「ショッカー」「ウーパールーパー」「アッラー」で、そのお客さんだけちょっと笑いを堪えているみたいな。静かなシーンなのに。
加藤 
ホンマにそういうのが好きだよね。そういうのを後で聞くと、ああ私も観たかった、と思いますね。
__ 
それは本当の意味でのこだわりですね。だって私、知らなかったですからね。
渡辺 
開演と後説の仕方にもこだわりがあります。生活と地続きのイメージで入っていく、という。開場中のBGMが段々と舞台上のラジカセから流れている音に移っていき、寝ぼけているチッハーがそれを止める、みたいな。僕だけじゃなく、スタッフそれぞれもこだわっているポイントがあるので、挙げたらキリがないかんじですね。(笑う)

「あーっ、ハートが作られる音や!」

__ 
個人的に、あの作品のこだわりポイントをいくつか書き出してきました。沢山あります。まず、ハートが作られるところ、ダンスと音と照明と舞台セットが全て音ハメになっていて、あれは劇中最大の見せ場でした。あのダンスは誰が振り付けたんですか?
加藤 
実は、あのダンスは回毎に変わっていて。何パターンかあるんだよね。
__ 
そうなんですか!
渡辺 
合気道ダンスと、ロックダンス、タップダンス、バレエだったり、9パターンぐらい控えはあって。毎回、お子さんの年齢層とかウケの流れに合わせて選んでいます。完成しきっていない・踊り慣れていない感じを狙っているので、振付は僕が「こんな感じ!」と実際にパパッと踊って伝え、それからは役者さんに投げています。
__ 
それは遊び心という言葉では括れませんね。そうそう、遊び心といえば、ヤギのシロコさんへの配達から戻ってくるとき、トランペットでブルースを吹きながら練り歩いて来たときですよチッハーが。あんなところであのイメージをぶっ込んでくるのが素晴らしい。
渡辺 
あのシーンが褒められるとは思わなかったです。
__ 
私のセンスが捻じ曲がってるのかもしれませんけど、あれは大人が喜ぶのかな。音楽も全般的に、子供向けであり、ちょっといい時代のダンスナンバーだったり渋谷系だったりがベースで今の親世代にウケが良いでしょうね。あと、発達心理学的なアプローチにも含意がある物語でしたね。チッハーとペンペンの、保護者との暮らしではなく友達同士の助け合いの生活は、「親離れの後にやってくる他者との関係性とはいかなるものか」を優しく伝えるお話。でもペンペンは、チッハーがハート100個で使える魔法を使って宇宙に行ってしまうのではないかと恐れてハートを盗んでしまうんですが、そうしたネガティブな「構って欲しい」というアクションを子供に敢えて見せ、でもその魔法が実はペンペンを助けるために使われる、という結末が、信賞必罰ではなく、他者許容へと向かう心に自然に向かわせてくれる。
渡辺 
その見解、めちゃ嬉しいです。ありがとうございます。
__ 
電話がお客さんの方へと延びるのはへその緒の暗喩かな。
渡辺 
へその緒ではなく、N’夙川BOYSのライブで、バンドメンバーがギターを持ったまま客席へダイブする空間を意識してつくっています。観客の頭上を、アンプに繋がれているカールケーブルが通過するんです。その感覚をお子さんにも感じて欲しいな、と思って。「向こうから飛び込んできた!」、「自分の上を通っている!」、みたいなことがやりたくて。
__ 
さすがにへその緒ではなかったですね。
渡辺 
いえいえ。へその緒ではないですね。(笑う)
__ 
他にも色々なモチーフがあって。動物さんから「ありがとう」の言葉をもらって、チッハーが「どういたしまして」というとハートが作られて、そのハートが100個集まると魔法が使えるというギミックが面白かったです。どういう仕組みなんですか?
渡辺 
最初の台本にはそういう設定はなかったんですよ。演出助手の横田さんからの、「ハートが100個集まると魔法が使えるというのはどうだ」、というアイデアから発展していきました。それに、ユリイカ百貨店さんの作品にお手伝いさせて頂いた時に気づいたことがあって。大人向けの作品での魔法というのはちょっと胡散臭いけど、子供向けの作品での魔法というのは真実味があるなと思って。
__ 
素晴らしいラストだったと思いますよ。
渡辺 
ありがとうございます。この作品は渡辺が作・演出になっているけど、参加しているメンバーから「この設定どうなん?」とか、「こういうのどう?」というアイデアや意見が反映されています。なので、僕が一人で作った作品というより、結構周りの意見や声で作られているところも多いんです。
加藤 
久しぶりに稽古場に行ったら、台本がかなり書き換わっていて。
渡辺 
同じシーンなのに、毎回新しい台本で稽古してました。それを役者に配って、「どうこの話?」ってリサーチして。稽古場の人たちがどれだけ面白く思ってくれるかを常に更新しています。
__ 
それはソフトウェア開発の現場では「たたき台」と呼ばれる開発手法です。ラフを出して、良さそうなものを元にまずは作ってみて、そこから発展させていく。その作り方であれば設計の段階から出られない、みたいな事が避けられるという利点があります。また、伺っている限りだと、出てくるアイデアを捨てずに成果物を更新していくような感じがありますね。ということは、製作しているメンバー全員が発注元であり同時に開発者。だから一様に「これは私の作ったもの」という愛情が強くこもった作品づくりが出来そうですね。
加藤 
環境に恵まれている感があります。
渡辺 
ほんとにね。メンバーに恵まれていると感じます。

子供さんの反応について

__ 
子供の反応はどんな感じでしたか?ちなみに、私が拝見した回はとても反応が良かったんです。コールアンドレスポンスも沢山ありましたし、たくさんの子供さんがチッハーに電話を指さして教えてくれてましたし。
加藤 
お子さん連れのご家族が3組ぐらいの時は、みんな集中して見てくれるんですよ。でも、幼稚園で上演した時は、後ろの子達は前の子達を冷静に見てしまって。ちょっとお姉さんみたいな感じになるんですよね。「どうせあれは人間がやってるんでしょ」みたいな。ちょっと大人びて客観視してしまうみたいな。その場の、居合わせた回と、席の場所によって・・・
渡辺 
かなり左右される感じですね。
__ 
なるほど。
加藤 
あとは年齢によったりもします。
渡辺 
小学校に入ってるお子さんとかだと、少し冷めた目で見ている感じもありますね。(笑い)
加藤 
でも小学生でも全然楽しんでくれる子もいるんですよ。
__ 
大人としてはギミックで楽しんでました。
渡辺 
いやー、うれしいです。

お一人でもご家族でも?

__ 
nidone.worksのホームページに「成長過程にいるこどもがおとなになることを、少しでもポジティブに捉えることができる作品づくりを目指しています。」とありますが・・・
渡辺 
その言葉には、歳をとることや生きていくことに、少しでもポジティブな気持ちになれるような経験づくり、という意味があります。なので、舞台では、お一人様・家族連れ・役者・スタッフと、会場に居合わせた全員が楽しい時間を過ごせることを目指しています。
__ 
舞台を観たというイベントはすごくインパクトがあるので、大人になっても忘れない子供もたくさんいると思います。
加藤 
ご覧になっていただいたお客さんから、「その後家族でペンギンのことを『ペンペン』と呼ぶようになった」と伺って。現実離れし過ぎない形で作っているので、リアルの世界で忘れない子供も結構多いなあ、と。その子が幼稚のお絵かきでペンペンを描いてくれて、それが家に残ったりして・・・その時の思い出が残っているというのは嬉しいですね。

これから

__ 
今見えている課題というのはありますか?
渡辺 
僕らの作る作品は基本的にお客さんの参加型作品なんですけど、そういうのって観客としてはちょっと恥ずかしくないですか。今まで何度か、お客さんからレスポンスがなく、役者が戸惑うという事があったんです。今回の公演ではそこが課題だったように思います。その対策のために稽古場で色々とやっていました。チッハーがお客さんに呼びかけても「誰も反応しない!どうする!?」って圧を掛けて、それをうまく笑いに変えていくとかして(大阪のおばさん感を増すつつも)波ができていくみたいなことがあったと思います。去年に比べて。
__ 
そういう形で打ち合わせを積み重ねたから、あの時会場では子供も大人も反応が良かったんですね。考慮を重ねていった分、層の厚い作品となったと思います。それはもう、目に見える形で。
渡辺 
役者さんは、反応のない客席の空気感を変えようと言葉を出してくれるんですけど。そこは僕のディレクションに関係なく、その役者さんの地力が試される部分。素の良さが本領発揮する時間なんです。松田ちはると諏訪七海サマサマなんです。
加藤 
でも、彼はディレクションの部分ではめちゃめちゃこだわりが強いんですよ。違うものは違うとはっきりと言ってくるんですね。役者を含め、全部署、スタッフに渡って全部見ないと気が済まない。彼の世界なんですね。そこに巻き込まれて自分たちも世界を作ってるんですけど、渡辺が違うといえば違う。逆に言うと、だから私たちも提案がしやすいし、判断がしやすい。
__ 
そうやって作られた作品は、学部生レベルとは思えない出来でした。キーのテレビ局が予算をかけて作るクオリティであり、リアルなお客さん(家族連れ)を想定して製作され、それが確実な成功を収めた、理想的な上演だったと思います。
渡辺 
ありがとうございます。アイデアは数がいっぱい出るし、採用数が多いし、採用されない数も多いし、みたいな。出しては仕分け、出しては仕分けのテンションが続く製作現場なので、逆に言うと、nidoneはそういうスタイルでしか作品を作れてきていないのが現状なんです。既存の物語を演出してやってみたら?というアドバイスもあったりするので、その辺りが今見えている課題なのかもしれません。

今まで

__ 
お二人が演劇を始めたきっかけを教えてください。
加藤 
私は大学に入るまで演劇を見たことがなかったんです。元々がダンス寄りで、踊るのも見るのも好きで。演劇をきちんと観始めたのは2年前ぐらいからです。
渡辺 
中学の学祭の出し物で、クラスの劇を作・演出したのがきっかけですね。
__ 
造形大に入ったのは?
渡辺 
最初は京都造形大学のこども芸術学科に出願していて、その時舞台芸術学科も併願で受けていました。両方受かったので、出願はあえて反対舞台芸術学科に入りました。最初は、子供向けの番組(TV番組やラジオ)をつくる人になりたいと考えていたので。
__ 
どんな作品を作っていきたいですか?
渡辺 
子供が「へへ」って笑ってくれて、大人になった時に思い出してくれるみたいな。日々すごしている生活の中で嫌なことや苦しいことが起こった時に、観ると少し踏ん張れるような気になる・・・おやつのような作品です。
__ 
いま興味のある方向性はありますか?
渡辺 
Eテレの「シャキーン」と、前からですが「みぃつけた」とかのジャンル。テレビ朝日の深夜番組なんですが「日曜芸人」「『ぷっ』すま」とか。
__ 
「みぃつけた」?
加藤 
サボテンと青い椅子がしゃべる番組で、お母さんも手を止めてふふんって笑えるような大人向けの台詞もあったりするんですよ。
__ 
どうしてそんな作品を作りたいと思うんですか?
渡辺 
嫌なことがあったとしても、家に帰って家族とバラエティ番組を見て一緒に笑っていると、気持ちがリセットされたりとかがあるので。僕がそういう経験をしてたりもします。
加藤 
確かにテレビは劇場へ足を運ばなくても家で見れるし、映像メディアにはすごく興味があるんですけど、家族でスケジュールを立てて劇場に行くという、ある種演劇でしかできない体験が好きなので。その意義は大切に考えていきたいなと思ってます。今はイオンモールみたいな複合施設とのタイアップみたいなのを考えています。イベント広場の中にnidone.worksも出ている、みたいな。家族でのお出かけにnidone.works。もちろん、映像媒体での広がりも考えていきたいですけどね。
渡辺 
ほんとにね。おでかけworksも、映像もやっていきたいので、今年中に動き出せたらなと思っています。

複合について

__ 
ハートが作られるシーンで、音響と照明と小道具とダンスと設定が、音ハメで複合して1つの効果を作ってるというのがたまらない快感だと思うんですよ。あれはとても強度が高いと思う。
渡辺 
めっちゃ褒めて頂けるの嬉しいです。ありがとうございます。音響の安東優里奈は、お客さんの声とか動き、会場に流れる雰囲気をキッカケに音を出さなければならないシーンがとても多く、難易度の高いオペレーションをこなしてくれました。照明の福岡想は、客席からの反応がほしいシーンでお客さんを煽ったり、小さなお子さんが泣きだしそうな時はジワーっと照明のレベルを上げて、お子さんを泣き止ますレベルの照明さんです。ハートのシーンに関しては演出部も試行錯誤しながら完成したシーンなので、各部署のスタッフの頑張りが光ったシーンでした。
加藤 
あれがこうなって、ああなって、みたいに全てが繋がるような感じがするんですよね。ハートが作られるシーンがこんなに褒められるとは初めてやな。
渡辺 
初めてやね。
__ 
スイートスポットに入ったストレートパンチですから。
加藤 
スイートスポット。すごい言葉をもらったぞ。
渡辺 
使っていこうか。
加藤 
あそこがウチらのスイートスポットやから。
__ 
ペンギンも回るしね。魔法の時に。
加藤 
ペンペンは、今回小道具の子がゼロから作ったんですよ。既製品じゃないから繊細な動きが出来るのと、手作りだからこそ回ったら色々と粗が見えてダサかわいいんです。小道具のやまもとかれんの仕業やな、と。
__ 
選曲もいいですよね。ダンスフロアみたいな感じで。
加藤 
「よっ!チョコモフン」のかくれんぼの曲とかがずっと頭の中で繰り返されてますね。
__ 
そう、前公演「よっ!チョコモフン」。資料映像を拝見しましたがとても面白かったです。そして凄くうさんくさいイメージの番組でしたね。
渡辺 
そうなんです。うさんくさいテレビショッピングの雰囲気を意識してつくってました。対象の年齢層をちょっと広げてみようと。
__ 
中学に入る前の女の子が大好きそうな感じですよ、ちょっとシュールで、フードがテーマのクッキング番組で、そして可愛い男の子が出てくる。弟っぽい感じの。
加藤 
その男の子、だっさい変身してきますもんね。ちょっと馬鹿にしながら観つつも愛らしくて。
__ 
「ピザーマン」ね。あの子供騙しな感じ。
加藤 
再演出来たら、いいんですけどね・・・。
渡辺 
できるのであれば、ブラッシュアップして再演したいと思います。

質問 日下 七海さんから nidone.worksさんへ

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前回インタビューさせていただいた日下七海さんから質問を頂いてきております。「最近、劇作に使えそうな思い付きはありましたか?」
渡辺 
「味噌汁は、疲れている時に飲むとめちゃめちゃ幸せになる」ということですかね。
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理想的には白味噌ですか?赤味噌ですか?
渡辺 
あ、白味噌です。やよい軒の味噌汁を飲んで泣いたときに、味噌汁は人の感情を動かすものすごい力があると思いました。
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食事で泣くことはありますよね。
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加藤さんはいかがですか?
加藤 
実は京都造形って、他の大学の演劇部とあんまり交流がなくて(近年は河合朗さんのルサンチカがあったんですけど)。学生演劇祭とかも増員に行ったりはするけど、自分たちがここに出すというのは考えたことがあんまりなくって。大学には専門の教員がついてるし、舞台が学べる環境が整い過ぎていて。私最近、劇場で制作のアルバイトをしてるんですけど、挟み込みの現場で他の大学の演劇部の人たちが合流してるのを見て、ああ交流したいなあ、って思いました。
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造形大の1回生は確かに、外に出る必要と時間がないですからね。今出川の大学(立命、同支社、京大)はお互いに必要としているから交流はある。
加藤 
そういうふうに切磋琢磨しているのが羨ましいと思います。環境が整いすぎて、逆に全然知らないから。

nidone.worksのお休みの日

加藤 
前に「チッハーとペンペン」の準備期間中、nidoneの公演に関わってるメンバー数人でディズニーランドに行ったんですよ。ランドとシーに泊まりがけで。遊びながら、実はみんなアイデアを練りながらの旅行だったんですけど、そういうの楽しいよね。
渡辺 
(笑う)旅行したり、遊びに行ったとき、心の中で次の公演に使えそうなものを探しているんですよ。表向きは遊んでるんですけど。
加藤 
ちょっと休憩時間があったらみんなパソコンを開き始めてて、何らかの図面を書いてたり。
渡辺 
そういうモチベーションになれることが、大切だなって思います。
加藤 
どこかに遊びに行っても、近くに寄ったカフェでパソコンを開いているみたいな。そして、それを苦ではなく気づいたらやっているのがいいよね。
渡辺 
そうだね。会話の中で、誰かが何かしらボケてるから、全然、苦じゃない。
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そういう時間がずっと続けばいいですよね。
渡辺 
そうですね。ギャグセンスが落ちない人生を過ごしたいです。