「噛むな!」

__ 
一緒に舞台の流れを作って行ける人がいたら楽しいですよね。「演出家は交通整理に徹する」という言い方が一時期流行りましたが、それとはまたちょっと違って。
大山 
ちょっと経験のある役者だとすぐ全体で見るんですよね。演出家でもないのに。キャストがそういう風に計算している演技なんてどれもだいたい面白くないんですよ。「もう分かんないけどここはこういう演技だから必死で頑張る!」でいいと思っていて。「ここがウケる理由はアレだから今はこうしなきゃ」とか、気付き出したら面白さって減っていくんですよ。役者は、なぜお客さんが笑ったり泣いたりしてるのか分かんない、のがいいと思うんですよ。それを役者が計算するのは「畑が違う」。だから全体像をいかにごまかして、把握させまいと思っています。
加納 
交通整理と言うか、もうビャーって足立の方に走ってった役者を追う、みたいな。
__ 
アイマスクされて走ってるぐらいの方が良いと。
大山 
何も見えない迷路の中で、自分の目指す方向しか見えず、がむしゃらに走っているのをお客さんが上から見ているのが面白いと思うんです。でも役者が「俺は何も見えずがむしゃらに迷っているのが面白いんだ!」と悟ったら面白くなくなる。
清  
そもそも俯瞰で見る能力が備わってないのに見ようとするから間違ってるし、役に成りきるというのはどれだけ俯瞰で捉える意識をどれだけ外すかだから。そういう魂胆がある時点でキャラクターが全然魅力なくなるんですね。
大山 
「いまここで台詞を噛むのが面白い」ということが分かっていてセリフを噛む芝居よりも、周りが「お前絶対噛むなよこの台詞。お前の人生掛かってる、座組全員の人生が掛かってる」って圧を与えて与えて噛ませる。
清  
その時の真剣な表情が面白い訳。もしかしたらものすごく技術のある役者さんならそういうことはできるかもしれない。でも僕らの周りには中々そんな奴いないので。
大山 
「この一言をキレイに言えるかどうかでこの作品のクオリティーは半分決まる。危険だけど俺もこの台詞に賭けてる」って圧力掛けて掛けて掛けまくって、本番の時に楽屋のモニターで「噛め!噛め!噛め!」
一同 
(笑う)
清  
噛んだー!って、まあお遊びなんですよ、これは僕らの。そうか、真剣な遊びなんだよな・・・。
加納 
予想通りに動かないおもちゃが面白い。
大山 
まあそういうのがいっぱい散りばめられています。
__ 
自分がカオスの中にいるのかどうかすらわからないのか。
大山 
でも、お互いがお互いを信用できない。状態の緊張感に笑いがあるんですよね。松本人志さんの笑いも、そういうものじゃないですか?!
__ 
今の、大山劇団の中での相互不信も、笑いを生む構造の一つかもしれませんね。
大山 
根本的なところでは信用はあります。面白いものを作れた目の衝突なら避けないんですよ。ウチの加納は、絶対に素笑いなんかしないんですよ。どれだけ僕が仕掛けても。いつか笑わせたい。片瀬さんは割と普通に素笑いします。まあいいんですけどね。
片瀬 
・・・?
加納 
舞台上で素笑いをするかしないかについて。
片瀬 
・・・?

新宿でふらっと・・・

清  
僕らはちょっとこう、新宿に飲みに以降と思ったんでけど何故かフラっと劇場に入ってしまったら意外に面白かったというのとかいい。それでいいんですよ。
大山 
如何に核を持っていないかが分かる。
清  
飲み会まで時間があるから来てしまったというぐらいでいいんですよ。わざわざ“演劇を見にきました”みたいないわゆる演劇の公演じゃなくていいですよ。映画だとちょっと寝ちゃいそうだからこっちに来ました、ぐらいで。
__ 
敷居を低くするに越したことはないですね。
清  
どこまでいっても娯楽なので、偉いとか凄いとかはないと僕なんかは思ってます。いかに見世物小屋感を出せるかどうか。ゲーセン・ボーリング場もいいけど、座れるし大山の芝居でいいかなってぐらいでいいです。
大山 
汚い手を使ってでも面白いと言われたい。
清  
極論、本編で笑ってくれなくても面白く思えてくれたら何でもいいです。だからこれはチキンハート時代から言ってるんですけど、カーテンコールの時の表情と声の大きさに関してだけはちゃんとやって貰います。作品の演出には全然口出しませんが、カーテンコールと面会に関して僕はうるさいです。
__ 
人によってはふてくされ顔で出る役者もいますよね。
清  
それはもう、本当に怒ります。そんな信念はありますね。その日の内容がもしダメだったとしても最後はいい顔をして「ありがとうございました」だけで納得して帰るお客さんも少なからずいるかなと。俺はそうなんです。その人が「お前らしょうがねえな、次は頑張れよ」って。高校野球みたいな、勝っても笑っちゃダメな集団はあるかもしれないですけどウチはこうありたい。

いま考えていること

__ 
今の皆さんのテーマを教えてください。
清  
分の今年のテーマは「全部やる」です。全部やっています。元々生業は他にあるんですが、映画と演劇に寄ってきてるので。というか全部仕事というスタンスではないんですよ。義務感でやってるわけじゃない。僕の欲求ですね。だから全部、関わりたいものに関わりたいし、やりたいことは全部やりたい。そのためにどう優先順位をつけ整理してやるかということですね。やりたいことをやるだけなので。国内旅行するのと全く同じテンションで今日もここに来ています。まあ加納と片瀬はそういうテンションに付き合わされてため息をついてるかもしれない。
大山 
実は昨日上海から帰ってきました。それもまた別の面白いことになりそうです。大山劇団はそういうのとはちょっと違う実家みたいな感じ。どれだけ売れようが、100人キャパのままだろうが、ずっと続けると。どれだけ名前が売れても、(権力や資本、世間に)へりくだったエンタテイメントをやり続けるというのが絶対面白い。見に来る人も、本拠地があると来やすいんじゃないかと思っていて。メンバーが他の場所で色々やってることが集まる場所として続けるべきだと思います。
__ 
令和元年は大山劇団の年ですね。
清  
まあね、「臼い巨塔」も映画を撮ろうという話になる可能性もある。僕と大山がなんとなく話してきたことは大体実現してきているので。当時正直本気で話してなかったことがほぼほぼ具現化できているから。ずっとこんな感じで行きたいというのもあります。
__ 
加納さんのテーマは。
加納 
嘘をつかないこと。
清  
俺、加納に嘘をつかれたらショック…
加納 
いやいや自分に嘘をつかないということです。
__ 
本当にやりたいことを、一時的に棚上げしたまま忘れてしまったりとかしないでしょうか。
加納 
あの、自分が嘘をつきたくない事に対してちゃんと決めることが大事だと思っています。嘘にしないようにする。もう一つ、感謝するということですね。劇団内はいつも揉めてるんですけど、相手のいいところを常に忘れないように、そしてありがとうの心を忘れないようにして、世界が平和になればいいなと思っています。
__ 
片瀬さんは。
片瀬 
自信を持つ。私がもっと自信を持てばもっと面白くなって、大山劇団にもっと貢献できる、そんな感じかなと、さっき話を聞いて思ったんで。分刻みに自信が変わっていくので。
__ 
片瀬さんが自信を持ったら面白くなくなってしまわないかと思うんですが。
加納 
ああ、それは危険ですね。
片瀬 
お芝居のことについてはあまり考えていなくて。お芝居に関しては一生自信は持てないと思います。分かってないから。それ以外のところで人を信じるとか愛情を持つとかの向き合い方をコントロールでできたらいいなと思っています。
__ 
自分をポジティブな方向にコントロールできたらいいなということですね。
片瀬 
あんまり考えなくていいことを考えてしまってる。考えないということ。
大山 
いやでも、片瀬の最大の魅力は「浅はかさ」なんですよ。分かってないのにわかってるふりをしたりとか、そういう防衛反応が働くところに魅力があるんですよ。
片瀬 
大山さんにはよく見抜かれます。
__ 
でも片瀬さん、実際話してみるとこんな人だったんですね。インタビューの調整でやり取りしてた時はテンションが高かったのに。
片瀬 
あれが素です!これは、ちゃんとしてるモードです。
__ 
あ、そうだったんですね。

これから

__ 
令和の意気込みを教えてください。
清  
いや、単純に、大山劇団が始まってぐらいからの自分のやってる方向性というものを変わらずやるだけかなと思います。出来るならこういうテンションでずっとやってきたい。
大山 
大山劇団の良さって昭和感とか平成バブル感と言うか。ちょっと古いんですね我々は。令和になったら平成感を引きずっていきます。やっぱりちょっと古い団体でいたいんです我々は。描きたいものも、スタイリッシュではなく人情の方が得意なので。そういうところは大事にしつつ頑張っていきます。
清  
すぐ過去を振り返る?
大山 
昔は良かった、ってすぐ振り返る。
__ 
新宿に来るお客さんはそういうのが好きかもしれませんね。それを遠慮なくやるっていうのがいいですね。清さんと大山さんにとっては、令和は突き進む時代ということですかね。
清  
大山劇団に関しては令和だからといってぶれない、平成の延長線上で行きますね。
__ 
これまで知ってきた中で最もコンセプトの強い劇団ですね。
一同 
ええっ!

辛かった平成

__ 
加納さんはいかがですか
加納 
私平成元年生まれなんですよ。今年30歳で、これまではブスなのに女優をって劣等感を持ちながらやってる時期もありましたけど、でも女優を志したときから思い描くのは30代・40代の自分でした。今もこんな風に自分を変えたいとかはないんですけど、なんか加納和可子がやっと完成したらいいなと思ってます。ブスでも女優してるって子供の頃の自分に言ってあげたい。
加納 
楽しいよ、って。辛かったね、20代のわたし。
大山 
まあまあ近くの自分やん。
__ 
片瀬さんはいかがでしょうか。
片瀬 
えー・・・?
大山 
いやこの悩み女優感出して、終わった時に「いやーん緊張したーっ」てなるのが片瀬なんだよ。
__ 
なんとなくわかります。
大山 
インタビューを受けてる女優像がありすぎ。
清  
何が正解かと思ってるでしょ。
加納 
思ったこと言えばいいから・・・
__ 
私、これまでに何人かにインタビューしてきましたが、取材中ずっと演技されたのは初めてです。
片瀬 
してない、してないですよ。分かった分かった、分かりました。演劇っぽい事ですよね?ずっと笑ってたいんですよね。ずっと笑ってられそうだなと思ってこの劇団に入りました。これまでの経験を生かして楽しむ、みたいな。区切りがいいから思うんですが。そして、片瀬直と言う女優の自分の名前を胸を張って言えるように。笑っていたいですね。

質問 古澤 美樹さんから 大山劇団さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂いた、古澤美樹さんから質問をいただいてきております。「明日世界が終わるとしたらどうしますか」。
清  
今日詰まっていた予定を真剣にこなして、早めに家に帰る。
__ 
仕事人間なんですね。
清  
いえいえ、基本毎日今一番やりたいことをやっているはずなので。まあ世界が終わろうが終わる前だろうがきっとやるんです。ただ優しい嫁と可愛い犬がいるので、嫁とポン太郎の為にも早く帰りたい。
__ 
ありがとうございます。これまでの全インタビューの記事の内、おそらくもっとも価値のある回答でした。加納さんはいかがでしょうか。
加納 
それってみんな知ってるんですよね?じゃあお店とかも閉まってる?
__ 
大多数は。
加納 
なんか、裸で外を出歩きたい。どんな気持ちになるんだろうか。
__ 
ああ、加納さんみたいな人がそういう映画でそういうことをして捕らえられるんですね。
清  
(笑う)世界が崩壊する映画の。
加納 
頭を坊主にして。
__ 
それで地球が助かったらどうするんでしょうか。
清  
そこ問題。
加納 
生きていけないですよね。じゃあ困るなあ。でもきっとそういう人は何人かいますよね。一人でなければ大丈夫です。
片瀬 
私は、ぱっと思い浮かんだのは、友達に電話とかしておしゃべりして、家に帰って。猫飼ってるんですけどその子と遊んで、姉に会いに行く。
__ 
お姉さんとは仲がいいんですか?
片瀬 
最近ようやく。
__ 
大山さんは明日世界が終わるとしたらどうしますか?
大山 
きつねうどん食べますね。一番生産性のないことをしたいです。メダルゲームとか。
__ 
押し出すやつですか。

質問 トイネストパークの皆様から 大山劇団の大山晃一郎さんへ

坂井美紀 
人生で一番印象に残っている人は?
大山 
祖父。
アパ太郎 
一番、自分の中で残っているの呪いは?
大山 
鉄棒逆上がり(地面にキス事件)。
アイトクナツキ 
自分らしさはなんですか?
大山 
料理を作る時なんでもかんでも入れてしまう。
TiBiMiNA 
こだわりを教えて下さい。
大山 
明け方に作るラーメンのスープ。
河合厚史 
自分のクセを教えて下さい。
大山 
酔うとラーメンを作ってしまう。

質問 トイネストパークの皆様から 大山劇団の片瀬直さんへ

坂井 
人生で一番印象に残っている人は?
片瀬 
子どもの頃観た映画の「トットチャンネル」の斉藤由貴さん。映画館で笑い声が抑えられなくなった。
アパ 
一番、自分の中で残っているの呪いは?
片瀬 
「ちゃんとする」「目立たないようにする」。
アイ 
自分らしさはなんですか?
片瀬 
まっすぐ。
TB 
こだわりを教えて下さい。
片瀬 
・人を「使う」「~させる」じゃなくて、人が「参加したくなる」「やりたくなる」の方を考える。ヨーグルトのフタの裏は舐めてはいけない。
河合 
自分のクセを教えて下さい。
片瀬 
すぐ調子乗る。

質問 トイネストパークの皆様から 大山劇団の清さんへ

坂井 
人生で一番印象に残っている人は?
清  
演劇の世界に自分を引き込んだ、遠山雄という俳優。
アパ 
一番、自分の中で残っているの呪いは?
清  
呪いはないです。今のまでの人生で微かにあった"呪い"は大山劇団の旗揚げで払拭できたと思ってます。
アイ 
自分らしさはなんですか?
清  
不安やストレスを前向きな行動原理に変換する。考え方や目的をなるべく言語化する。
TB 
こだわりを教えて下さい。
清  
時間がある時の食事は妥協しない。
河合 
自分のクセを教えて下さい。
清  
wowwow tonight 歌いながら泣きがち。

質問 トイネストパークの皆様から 大山劇団の加納和可子さんへ

坂井 
人生で一番印象に残っている人は?
加納 
アマヤドリの広田淳一さん、渡辺いっけいさん。
アパ 
一番、自分の中で残っているの呪いは?
加納 
人と違わないと自分の価値がない。
アイ 
自分らしさはなんですか?
加納 
嘘つけないこと、ユーモア、サービス。
TB 
こだわりを教えて下さい。
加納 
自分の表現物、所有物にあたるものに関しては頑固。劇団に関しては、役者第一に考えることがお客さん第一になると思ってます。
河合 
自分のクセを教えて下さい。
加納 
0か100、顔に出る、テンパる。

令和始まって以来の・・・

清  
京都とかの団体さんとかエッジの効いた演目が多いイメージじゃないですか。そういう人たちを招待したいですね。僕らの作品を見てどうだったかというのを聞きたいしなるべく受け入れたい。僕は最近とんがってる作家性の強い作品作る人とも積極的に関わりたい。踏み絵は大山劇団ですが(笑)
大山 
俺踏まれてる。
__ 
出会っていきたいということですね。
大山 
令和始まって、日本で一番面白い舞台になると思います。
清  
あ、それ他でみんなよく使うやつだからダメ。Pとして言わせてもらうけどそれはマジでダメだわ。テイク2。
大山 
令和始まって以来・・・もう一回お願いします。
一同 
(笑う)
清  
大事なやつだからちょっと考えてからしゃべってよ。
大山 
雰囲気で生きてる薄っぺらい人間達が作っている舞台なんでぜひ見に来てください。
清  
その世界観を具現化するために僕の持てる力を全て使ってます。それが大山劇団です。
大山 
ほんま、だから加納がTwitterで「世界を救うのは医療か雰囲気か」って。あれめちゃくちゃいいキャッチだったよ。
清  
うん、あれは良かった。凄くいい。
片瀬 
あれ、わかちゃんが考えたの?
加納 
清さんが「どうせ雰囲気なんでしょ」ってリプライしたの。
清  
俺は雰囲気は結構嫌いじゃなくて。拡大解釈ですけど、例えば今技術とか色々なものが発達してるけど末期癌は治せない。でも人生を充実させたら直りましたなんて例もあるわけじゃないですか。雰囲気って軽く見られますけど。
大山 
いきなり真面目な話になった。
清  
僕は本当にそう思っていて、周りから作家性がないとか薄っぺらいとか言われてても全然いいんですよ。僕らは雰囲気を作るということに対して一生懸命やります。
大山 
雰囲気でつなげて言った巨塔が、実はメッセージ性があるというものになりそうな光が見えてきたんですね。
__ 
おおっ、六合目ですね。

臼と杵

__ 
今日はお話を伺いたお礼にプレゼントを持って参りました。どうぞ。
全員 
えっ!
清  
臼だ!
大山 
すげえ。

5月が来る

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。ダンサー・俳優の古澤美樹さんにお話を伺います。
古澤 
よろしくお願いします。
__ 
古澤さんは昨日の日比谷フェスティバル「Let’s Ball(バル)!天使の舞踏会」に出演されていましたが、非常に素晴らしい演技でした。平成最後に見るダンスがあの作品で良かったです。そして、これからのご予定はどんな感じでしょうか。
古澤 
ありがとうございます。もうすぐオペラの稽古が始まるのと、振り付けを依頼されている公演の稽古が5月に始まるのでその準備をしています。
__ 
お忙しいですか。
古澤 
ここから本格的に忙しくなると思うんですが、その前触れという感じです。今はまだちょっとゆったりしています。5、6、7、8月と立て続けに舞台出演と振付が続くので、それに向けて動き始めています。体のケアや、振付のための調べものもして。
__ 
何かを準備したり伏線を張る期間って、良いですよね。
古澤 
大事ですよね。それが後々助けてくれるので。あとは、次に一緒にお仕事をさせて頂く方の舞台を見に行ったりしています。
NISSAY OPERA 2019『ヘンゼルとグレーテル』
NISSAY OPERA 2019
オペラ『ヘンゼルとグレーテル』全3幕
(日本語訳詞上演・日本語字幕付)

台本:アーデルハイト・ヴェッテ
作曲:エンゲルベルト・フンパーディンク
原作:グリム兄弟「子供と家庭のための童話」より

指揮:角田 鋼亮
演出・振付:広崎 うらん
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

【日程】
2019年6月15日(土)・16日(日)
各13:30開演 13:00開場

踊りのジャンル

__ 
古澤さんのダンスを偶然にも動画で拝見した時から、いつか取材したいなと思っていました。私にとっては、古澤さんのダンスは異質に見えたんですよ。悪目立ちという意味じゃなくて。
古澤 
本当ですか!?
__ 
どこか、「先取り」されているような感覚があったんですよ。動物的な感覚を覚えたのかもしれない。例えば、目の前の人間が腕関節を伸ばす際、「ここまでこの速度で像が動くんやろうなあ」という直感的な予想が脳内に用意されると思うんですよね。でも、古澤さんが腕を伸ばすと、そういう予感やセオリーよりも先に、手がイメージに辿り着かれてるような気がするんです。カッコいいんです。マジで。これは私がおかしいのかなあ。素晴らしいダンサーさんはたくさんいらっしゃると思うんですけど、そういう感覚を抱かせてくれるダンサーさんは一握りしかいない。異質さとはそういう意味です。同時に、綿密な稽古の質量の裏付けを感じる。古澤さんは振付家だから恐らくものすごく忙しい方だと思うんですが、毎日数時間以上自分のダンスの稽古を取って、頭の中でもずっとダンスのことを考えてるんだろうなという印象があります。
古澤 
確かに「関節が何個もありそう」という感想を頂いた事があって。私は元々、ヒップホップからダンスを始めましたが、例えばオーソドックスなヒップホップのダンスをそんなに踊れるかと言うとそこまででもなく。というか、ジャズダンスやバレエなど大体全部の種類のダンスをやってきて、それらが混ざった結果、今の私の踊りになったんだろうなと思っています。色々なダンサーさんと出会うようになってから、そう考えるようになりました。
__ 
なるほど。
古澤 
ヒップホップの上にバレエ等の基礎を叩き込まれて、その種が育ったフリースタイルダンス、という感じです。型にはまっていないと言われたら確かにそうかもしれません。
__ 
型を自分で作るという感じ?
古澤 
そう言ったらちょっと大層かもしれません。

言葉を土台にした身体

古澤 
それから私、ものすごく影響を受けた人がいて。たとえば有名になる前のまだ高校生ダンサーだった時の菅原小春さん。エモーショナルな、ジャズをベースにした力強いヒップホップ。中学生くらいの頃にこういうダンスをしたいとすごく憧れて、ベースがヒップホップジャズになったんです。それから康本雅子さん。演劇では泥棒対策ライトの下司尚実さん。お二人には演劇的な踊りみたいなものにすごく影響を受けています。
__ 
演劇的な踊りと言うと最近ちょっと話題になって。演劇の間に挟まれるダンスシーンで、その間だけ役と切り離されて踊ってしまうのではなく、役として踊ることを目指すべきだ、とか。
古澤 
分かります!本当に、そういう風に踊るように意識しています。なんか、音を伴ったシーンとして、役の身体としてどう動くかというのを意識しています。演劇の中で踊るって、台本や役という土台があっての踊りで、自分としてはしっくりきています。ダンサーでも役者でもなく、身体表現者という言葉が一番合うのかな。そういうパフォーマー像を目指しています。
__ 
それは役者で言うと「役作り」でしょうか。脚本の研究を重ねて、稽古で仮説を試して、演技を積み重ねる。その上でようやく舞台の演技が作られる。ダンサーでも同じく、テキストを積み重ねるということですか?
古澤 
そうですね。俳優が台本を与えられ、読み、稽古する。その過程でどんどんサブテキストが生まれていく。そこで様々な言葉が出てくる。心理の分析や、感情や、シーン作りのための打合せ。それと同じぐらい、ダンサーにも動きのバリエーションが増えていくんですよ。その選択肢は稽古をする中で淘汰されていく。例えば「しばらく歩いて振り向く」という振付だけでも、どうやって歩くかとか、なぜそこで止まるのか、何に振り向いたのか。全部の点と点が線で繋がっていくには言葉が必要となっていくわけで。選択肢もそこでどんどん増えていく。
__ 
そして、全ての選択肢を採用することは出来ない。しかし切り捨てられた選択肢は、実は作品の下支えとなってお客さんには通じている。「採用されなかった表現」という表現として。
古澤 
むしろそっちの方が本質なような気はするんですね。捨てた選択肢の方が圧倒的に多いじゃないですか。それをどれだけ貯めて行けるかという気がするんです。
__ 
おそらく我々は、演技の輪郭を外から形作っている余白を脳裏で解析していて、その構造を感じとっているんじゃないか。意識には登らないけれども。その予感が深ければ深いほど、広ければ広いほど、演技の立脚を感じるんだろうなと思っています。

決めて踊る、決めずに踊る

古澤 
だから何か、最初から「これをやるぞ」と確固として振付を決めて踊ることはあんまり無くて。稽古の間にいろんな動きとかをやってみて、「これはしっくり来る」とか「自分としても作品としても、動きに説得力がある」か、を常に探しています。
__ 
説得力とは。
古澤 
お芝居を観ていて素敵だなと思う瞬間って、結局は説得力があるかどうかだと思うんですよね。技術はもちろんあった上で、なぜそんなセリフを言っているのか、相手役の台詞を聞いて、返して、聞いて発してのやり取りじゃないですか。うまく行った演技を観たお客さんには共感が生まれる。逆に言うと、どれだけ技術があっても説得力がなかったらただ上手いだけの俳優さんになってしまう。大学時代、演技コースだったのでミラーニューロンをテーマに論文を書いた事があって。人は共感することによって感動するんですが、共感ってものすごく漠然としていて。客席と舞台の間で行われてるやり取りの正体は何かと言うと身体的な動作や行動なんですね。そこからどれだけ、お客さんに日常の経験を思い起こさせられるか。「分かる!」ってなるか。ミラーニューロンはものまね細胞と呼ばれていて、例えば怒ると言う表現を体で行う時にはそういう動きをする。ということはつまり、結構身体的なアプローチだなと思って。ジェスチャーとかも含めて。その観点ってダンサー・役者問わず超大事なところだと。そこからルコック・システムとかも勉強するにつれて、演技と身体は切っても切り離せないものとして捉えられるようになったなあと。
__ 
ミラーニューロン。観客が演技を観る時、俳優の身体動作がものまね細胞を通じて観客の感覚に直接届く。演技の構成を作業として組み立てる。それを最小単位として考えると、演劇はトータルで「観客の体感を構築していく」という事として捉えなおせると。
古澤 
それもまた説得力ですよね。

ただそこに立つ

__ 
ちょっと会話劇を例に取ると、例えばAさんとBさんの会話において、Aさんが喋っているのを観客は主に見ていますと。そこでBさんは見られていないかと言うとそんな事はなくて、Bさんのリアクションを視界の端で捉えているんですよね。この時にミラーニューロンが反応しているとしたらどうだろう。もしかして、焦点を合わせている時よりも強く作動しているなんて事はないだろうか。TVのバラエティショーで入る笑い声みたいに。ミラーニューロンと共感は、そういうレベルでも関連していそうですね。
古澤 
分かります。ダンスにおいては、ただかっこよく踊るんじゃなくて、どれだけ共感してもらえるかを考えた時に、ミラーニューロンってすごく大きなヒントだなと思っています。お客さんが強く共感できる、そう見込んだ動きをどれだけダンス化できるか。実際にそんな事を考え込んで踊ってるかと言うと分からないですよ、でも言語化するとしたらそういう風に稽古しています。
__ 
人間LOVEですね。いや何言ってるかというと、観客の視線が今自分のどこに当たっていて、どうすれば狙った位置に持っていけるか、これを把握するには、人間の視線をまずは信じ切らないといけないんじゃないか。疑ったり、最初から奇を衒うような魂胆では出来ないんじゃないだろうか。
古澤 
でもなんか分かる気がします。ただそこに居れるダンサーさんって、少ない気がしていて。
__ 
というと。
古澤 
そこにただいることって難しいじゃないですか。でも居れる人間でありたい。
__ 
振り付けがあって、ダンスの時間ですよっていう前提があって、ダンサーが立っているという事、じゃなく・・・
古澤 
じゃなく。
__ 
そこに立ってるだけで、えーと・・・
古澤 
ちゃんとその、物語に書かれていない部分すらも表現できたらなお良しだと思うんです。これは前にお世話になった演出家の方がおっしゃった事ですが「詩的な体を持て」と。それは私の中でしっくりくる表現だったんです。立って手を上げただけなのに、手に言葉があってほしい。そういう意識のもとに動いてるんですけど。伝えようとして伝わるということでもなく、伝わってしまう。そういう体を持つ表現者は余計な動きをしない、格好良く動こうであるとかのノイズではなく、ただそこにいることを恐れずにいるダンサーさんが個人的には好きです。でもそれってすごく稽古が必要だし、その場所にいるのか、何故動くのかというところから始まるので。それは役作りにすごく似てる部分で、全ての条件が揃っていないと難しいんですが。

今まで

__ 
稽古について。ソロでも集団創作でも、どんな稽古ができたらいいと思いますか?
古澤 
絶対にコミュニケーションを取ることが必要だと考えています。先日、演劇で振り付けをさせて頂いた時に、演者さんと演出家さんと必ずコミュニケーションを取っていました。やり取りは言葉ででしかできないので。風通しの良い稽古場じゃないと生まれないものもある。「この動き難しい?」とか、「自分の役としてどっちの振り付けがしっくりくる?」みたいなやり取りを演者さんとなるべく気軽に出来たら良いですね。演出家さんとも、プランについて蜜に連携を取りたい。
__ 
本当にそうですね。集団で仕事をする時に、それぞれのその時点での能力を踏まえた進め方をしないといけないですからね。本当はできないのに「出来る」って言い張ったりとかされてもね。
古澤 
本当にそうで、こっちもこっちでできないことに怒ったりしちゃダメ。だからこそどれだけ思いやれるか、とか。いろんなタイプがいるから難しいんですけど、私は割と怒らないタイプなんです。怒ってピリッとさせる方がうまくいく人もいますが。
__ 
部下の能力を引き出して期限に間に合わせるのがリーダーの仕事なので、そりゃもう個別でやり方を変えるのがベストですが・・・
古澤 
それが難しいんですよね。常に思いやりをもって、演者さんと演出家さんと一緒に仕事できたらいいなと思っています。

勝ちと負け

__ 
今欲しい能力は何ですか?
古澤 
えー。・・・無いですね。欲しいものはいっぱいありますけど。鼻高くなりたいとか身長高くなりたいとかの無いものねだり。今持っているもので勝負するしかない。なんかね、どれだけ自分が勝負して、負けていくか、な気がしています。人生の中で勝つというのは圧倒的に少ない気がするんですよ。外から見たら勝っていても、自分が納得できていなければそれは自分に負けたという事なので。ずっと満足できない人間なので。
__ 
もう、そういう生き方を続けていくしかないですね。何なら引き際とかも考えないといけないし。
古澤 
ああ、もうそれが全然考えます。こんな動き10年後はできないんだろうなと考えたりして、動かなくなった体をどう使って表現するかとかを視野に入れてやっていかないといけない。だからダンサーだけをやるのはしんどいなって。そう考えた時に演劇ってやっぱりすごいなと思っています。ずっとやっていくにはどういうことを思った時に、自然と演劇という道が見えていたんです。

質問 トイネスト・パークさんから 古澤 美樹さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂いた方から質問をいただいてきております。トイネスト・パーク主宰の坂井美紀さんから。「自分の人生で一番印象に残ってる人は誰ですか」。
古澤 
野田秀樹さんです。ずっと一緒にお仕事がしたいと思っています。高校3年生の頃、まだお芝居とかも何もしたことがなかった時にアンサンブルのオーディションを受けて最終まで残ったんです。高校の頃は観劇オタクで、自分の好きな劇場空間と、舞台での表現と、自分のやってきたダンス。初めて点と線で繋がったのが野田さんのワークショップオーディションでした。自分の人生の選択肢がすごく増えたと言うか、こういうことをしてきたいということを強く思ったのがその時です。野田さんのワークショップを受けていなければここにいないと思います。
__ 
ありがとうございます。次はアパ太郎さんから。「自分の中で一番強く残ってる呪いは何ですか?」
古澤 
私、そんなダンスが上手じゃなかったんですよ。自分の通っていたスタジオではトップクラスの集団にはいたんですけど、上位5人に入れるかと言ったらそうでもなくて。やっぱり生まれながらに上手い人というのはいて、私は二軍で、それは呪いでもあり原動力でした。今でもその呪いを追い続けています。
__ 
ありがとうございます。次はアイトクナツキさんから。「自分らしさは何だと思いますか?」
古澤 
難しいですね。これと決めたものは絶対やめない、そういうところだと思います。
__ 
なるほど。次はTiBiMiNAさんから。「自分のこだわりを教えてください」。ちなみに彼女のこだわりは手羽先が綺麗に食べられることだそうです。
古澤 
(笑う)毎日チョコレートを食べることです。
__ 
健康に良さそうですね。
古澤 
あと、ダンスでいうと、聞こえる音を全て表現することです。音曲には色々な音があって。歌詞があり、バックバンドがあって、メロディがあって。歌詞を取り入れがちなんですけど、例えばリズムやメロディによって印象に残る歌詞は違ってくる。そういう要素を全部踊りにするように心がけています。音嵌めをどれだけ気持ちよく表現することができるか。
__ 
気持ちよく?
古澤 
見てる人も踊ってる人も気持ちのいい踊りと言うか。表現して欲しいところを表現する。みたいな。そういう風に思ってもらえるように音を聞くようにしていますし、心がけています。
__ 
全部が一致した瞬間ってありますよね。
古澤 
だから私、邦楽で踊る事が多いんです。歌詞の意味とかすらも表現できる。より表現の幅が広がると言うか。邦楽ってダサいじゃんという人もいるんですけど、私には選択肢が広いジャンルなんです。
__ 
最後。河合厚志さんから。「自分のクセを教えてください」
古澤 
癖。猫背。(笑う)