彼岸

__ 
あー、何かあそこ、撮影してますね。女子大生とかかな。本格的な撮影セット使ってる。
河井 
本格的っぽいですよね。女性って、凄いですよね。
__ 
ああ、さっきの話?そうですね、女性は凄いと思う。あんなに計算づくのメイクをして、オシャレをしないと世界に出れないって凄いよね。まるで武装しているようだ。すっぴんで具体的な敵と戦ったり仕事してりゃいい男からすれば、世界とかいう正体不明の何かと戦っている女はヤバいと思う。その上で「よい子」でなければならないとか、ハードルが高すぎる。
河井 
大学の先生が、「女性は大学を出たら即座に何者かにならなければならないけど、とりあえず君に関してはそのままでいていいぞ」と言われて。
__ 
ああ、うん。河井くんはそのままでいてもいいと思う。
河井 
でも、女性を見るたびに、何か心を掻き立てられるんですよね。
__ 
「おそ松さん」見てます?
河井 
あ、新しい奴ですよね。半分くらいまで見ました。録画してあるんで、これからゆっくり見ます。
__ 
今年の1月の最初の放送で、「じょし松さん」というのがあって。六つ子が女子グループに女体化するんですけどね。男松は全員ダメなニートなんですけど、女松は全員めちゃくちゃ戦闘力が高いんです。おそ松なんて現場でも仕事して上役とも仲良いサバサバ系OLで、全員私服がめっちゃオシャレで、自分像をちゃんと具体化出来ているんです。
河井 
うわあ。

ハイタウン2016「時計コメディ」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。夕暮れ社弱男ユニットの村上さんにお話を伺います。最近はいかがでしょうか。
村上 
よろしくお願いします。5月にAI・HALLで公演を行いますので、その準備をしています。ドイツの、同年代の作家の戯曲を僕ら弱男ユニットと客演さん達で上演します。
__ 
ああ、壮大な物語だそうですね。楽しみです。それと、ハイタウン2016にも参加されるんですよね。「時計コメディ」だそうですが・・・。
村上 
はい。時計って、面白いなあと思っていて。以前、喫茶店に入ったら、視界に3つぐらい時計があったんですよ。それぞれ少しづつズレている。
__ 
ええ。ありますよねそんな事も。
村上 
そしたら本当の時間がどれだかわかんなくって。まあそのあとスマホを取り出したんですけどね。でもそのスマホの時間が正しいのかもわからない。その瞬間、自分に「えっ」て思って。分かります?
__ 
ああ、ちょっと分かります。スマートフォンはほとんど常に正しい”とされてる”時間ですもんね。自動的にサーバーに正時を合わせに行きます。反射的にそれを確認しに行ってしまった自分に驚いたんですね。
村上 
SNSとかでも、それを書き込んだ時間が秒単位で出るじゃないですか。これまでのやり取りだとか、いまのやり取りだとか。それが距離を無視して、どんな人もそれを中心にしている。これは凄い事だな、と思って。
__ 
考えますよね。明らかに人間の精神活動における時間単位が細かく細かくなってきている。そこで、時計コメディ。やはり真っ先に思い浮かぶのは、それぞれの時計のズレ、みたいなのが一つのポイントなのかな、と。
村上 
楽しみにしていて欲しいです。面白いですし、今の時代の時間感覚みたいな事を「笑い」にしてしまえるのがコメディの凄いところですよね。
夕暮れ社 弱男ユニット
2005年村上慎太郎の個人ユニット「弱男ユニット」を結成。砂浜や劇場ロビー、ライブハウス、会議中の事務室前など劇場外での公演を数多く行う。2008年それを前身とし、さらに活動の場を広げていくためにメンバーを募り、「夕暮れ社 弱男ユニット」と名前を改める。過去作品には、観客が舞台上にあげられ、先ほどまで座っていた椅子が目の前で俳優の手によってぶん投げられながら物語が展開していく「現代アングラー」(大阪市主催CONNECT vol.2優秀賞受賞/2008年)や、 劇場の真ん中に客席を設置し、俳優がその客席の周りをグルグルと廻り続け演じるという独自の方法でデモ行進する人々を描いた「教育」(大阪市立芸術創造館/2010年)や、俳優が地面を終始、転がりつづけながら青春群像劇を演じた「友情のようなもの」(2012年/元・立誠小学校)などがある。(公式サイトより)
ヨーロッパ企画presents ハイタウン2016
公演時期:2016/5/5~8。会場:元・立誠小学校。

夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「ハイアガール」

__ 
「ハイアガール」、今年の1月に京都芸術センターで上演されましたね。お疲れ様でした。大変面白かったです。
村上 
ありがとうございます。
__ 
何だか、感想を言わずにはいられない作品でした。あらすじになってしまいますけど、ある小さな町内のお話で、そこには銭湯の大きな煙突があって。南志穂さん演じる女の子の親友(中西柚貴さん)が、ある日突然煙突から転落してしまうというお話でした。それがもう、ぽっかりと空いた穴のように思えるんですよ。
村上 
はい。
__ 
それで町の人は全員傷付いて、でそこからが凄くて、めいめいがそれぞれの傷との向かい合い方をするんですよね。女の子は不安定になり、その子に構う銭湯のバイトは彼女の傷ついた心を心理学的に分析し追い詰め、映画監督は転落した子の残したものを集めて、同じような男たちと共有したり、その男たちは彼女に追い詰められて・・・全員が舞台中央で這い回って転がって。そうしてるうちに時間が経って、転落した女の子の手紙を開くことができて……。そして1年の時間が暗転で飛ばされて、めいめいの傷が塞がれている。当初、骨折が治ったような印象があったんですけど、もしかしたら、ぽっかりと空いた穴を、全員が自分や隣人の肉を用いて塞ぐ話だったかもしれない。ご自身としては、どんなつもりで描かれたのでしょうか。
村上 
実はこれは個人的な経験にもつながるんですけど、
__ 
ええ。
村上 
何だか人って、凄く大きな挫折をした時や、地の底まで落ち込んでいるような時でも、しばらくしたら這い上がってしまうものなんじゃないかなあと思っていまして。知らないうちにそこから這い上がろうとしてしまう。それが面白いな、と思ったんです。
__ 
自分の境遇を受け止めて、それでも向上しようとするみたいな事ですか?
村上 
というよりは、本能に近い事だと思うんですよね。ものすごくどん底のような気分のときでも、気づけばそこを脱出していたりする、そういう反応というか・・・それが何だか、面白いと思ったんですよ。
__ 
うーん・・・それを面白いと思えるという事自体が凄いと思います。
村上 
今回、弱男ユニットとしては「新手法」みたいなのはなくて、比較的真っ当に物語を作ったんですよね。舞台セットも面白いものを作ってもらったんですけど、それが目立つというほどじゃなくて。実は結構、賛否両論だったんです。でも、ハイアガールはそういう方向にしたかったんですよ。
__ 
そう、確かに新手法はありませんでしたね。でも代わりに、私、客席で泣いていました。芝居を見て泣くのは10年振りです。
村上 
あ、そうなんですか!
__ 
でも、ちょっと泣くポイントは違って。私の場合は、誰かの死に泣いたとかじゃなくて。あの町の変化に泣いたというのがあります。銭湯の煙突が取り壊されるじゃないですか。あの大きな大きな煙突が無くなる。銭湯も無くなった?と思いきや、実はそこに、ドイツ製の新式のボイラーが来ていて、銭湯は盛り返してました、という。煙突が無くなって、ドイツのピカピカしたボイラーがそこにある。その暴力的なまでの移り変わりが、ちょっと言葉アレですけど暴力的なまでにショックだったんです。
村上 
他の方からも、ボイラーがショックだったという感想は頂いてました。
__ 
あんな、取り返しの付かない変化があるなんて。
夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「ハイアガール」
公演時期:2016/1/20~24。会場:京都芸術センター講堂。

煙突が消えた町

__ 
銭湯の煙突というのが、またシンボリックだったように思うんですよね。で、そこで働く、伊勢村さん演じるバイトが女の子を追い詰めていて、それが彼なりの傷の受け止め方なのかなと思ってたんですよ。そうせずにはいられないのかな、って。
村上 
実はあの役には原型があって。むかし、僕の友達の一人に、心理学マニアの奴がいて。そいつが心理学で、「お前はあと何分後かには怒ってるだろう」とか言うんですよ。会話しているうちに、本当に自分の感情が怒っていて。「で、しばらくしたら笑うんやで」とか言われて実際にそうなっている。「心理学的には・・・」って説明されるんですけど、内心ものすごく腹が立っていて。でも納得するんですよね。でも、そいつの思い通りに世界が動いているのか、と思うと腹が立ってくるという繰り返しで。人間の感情の未来は全部が見透かされているような気がして、ゾッとしました。その友人を原型にしました。
__ 
そいつと喋っていて、面白く思っていましたか?
村上 
いえ、面白くは無かったですね(笑)
__ 
ちょっと話してみたいです。その人と。この物語の銭湯のバイトも、最後には女の子に胸を貸して殴らせて上げて。追い詰めて殴らせるみたいな事になってましたけど、理不尽な状況を突きつけられたら意外とみんな、あのぐらいめちゃくちゃな言動になってしまうのかもしれない。とにかくバイト役の伊勢村さんは好演でした。
村上 
ありがとうございます。伊勢村くんには結構、負担の掛かる役をやってもらったんで。喜ぶと思います。
__ 
役者は全員良かったですね。高阪さんも丸山交通公園も、穐月さんのぶっとんだおねえちゃんも凄かったし、稲森さん演じる面倒くさい彼女も向井さんの滑舌も、小坂さんの完璧な演技も良かったです。特に南さんがとても良く感じました。
村上 
ほんとありがたいことに全員、よかったですよ。南志穂も良くって。彼女は凄いと思うんですよ。本人は何かあんまり力は入ってないんですけど、あの子の身体は凄い力を持っているんですよね。今回は彼女を見てもらいたかったですね。
__ 
南さん、良かったですよね。ずっと折れそうな表情をしていて、でも最後には諦めとともに強くなった顔が出来ている。何だかあの、どうあれ強くなった町を代弁しているようでした。

血の通う

__ 
弱男ユニットとは、どんな人たちなのですか?
村上 
血の通った作品作りをする人たちだと思います。何かを無理矢理に作るんじゃなくて。もちろん僕ら自身をやるのでもなくて・・・ちょっと言葉にするのが難しいんですけど。
__ 
分かります。分かると思います。弱男ユニットは明らかに「非日常」ではなく、かと言って「日常の延長」でもなく、彼らそのままなのに浮遊感があって・・・弱男ユニットの作品を観ると、何だか痛いんですよね。良くない意味のイタいとかの意味じゃなく、心が傷むとかでもなく。指の逆剥けに類する痛みだと思うんですよ。
村上 
「逆剥けの痛み」?
__ 
ケガではなく、血がちょっと見えて、でも指という結構な急所の、半日すれば無くなってるぐらいの痛さ。生きていくのに必要な程度の痛みが、逆剥けには宿っていると思う。
村上 
そういう個人的な痛みがきっと、どんな人にとっても大切なのかもしれない。血の通った作品作りをするには、そういう事が分かっている人たちじゃないと、というのはあります。今後も、そうした作品を作っていきたいですね。とか言って、もちろん「新たらしい演出の手法」にもチャレンジしていきたいんですよね。
__ 
もちろん、楽しみです。

夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「プール」

__ 
新手法といえば「プール」も凄かったですよね。あれはもう、本当に。イジメと勧善懲悪のお話なのに、ハッピーエンドなのに、独特の妙な後味の悪さがあって。
村上 
プールって場所自体、何だか奇妙だなと思ってたんですよ。水が巡回して流れていて、でも巡回が止まると一気に濁ってしまって、でもそこを直すと途端にキレイになる。泳ぐと気持ち良い。でも、どこか不自然。
__ 
都会で泳げるとか、考えてみれば、出来過ぎた話しですよね。
村上 
実はリーダーシップの話だったんです。リーダーがいなくなるとどうなるか。そして、リーダーが帰還するとどうなるのか。
__ 
帰還したらイジメも無くなって、みんな、普段通りプールで泳いでいる。違和感は残って、でも音響はハッピーエンドみたいな曲だし、良いって事にしたのかな、って。不気味な感触の残る作品でした。けして良い思い出ではないです。でも、再演があったらもう一度見てしまうと思う。
夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「プール」
公演時期:2014/11/27~30。会場:京都芸術センター フリースペース。

AI・HALL次世代応援企画break a leg 夕暮れ社 弱男ユニット演劇公演「モノ」

__ 
さて、5月末のAI・HALLの公演についても伺えればと思います。どんな作品になりそうでしょうか。
村上 
まずはこの度、こういった素敵な機会を頂きまして。ドイツの方の戯曲なんですが、国境を股に掛けた壮大な作品になっていて、すごくスケールが大きいんですよ。綿が、工場でTシャツになったり、着用されたりしつつ、五大陸を渡って、そこにいた各地の人々を通り過ぎて、その中にはいろんな問題や人間関係などが交差していて影響し合ってて。
__ 
世界を旅する繊維。
村上 
とにかくこの戯曲には、世界が広がっているんですよ。でもドラマとしてもしっかりと構成があって、僕らがそうした戯曲をやれるのは凄く光栄なんです。それからこの戯曲、ドイツの戯曲としては珍しく、わかりやすいんです(笑)わかりやすいというのがいいという意味ではないですが、「児童劇の側面」というのも含ませて書いていたらしんですよ。それがまた大人が見て全然楽しめるものになっているんです。この作品には、世に出回るドイツの戯曲の中でも稀有な戯曲だと感じました。
__ 
ヨーロッパでは、児童向けの戯曲は日本のそれと違って全然子どもをバカにしてなくて、むしろものすごく考え深いものだったりするそうですね。小さな小さな繊維を糸口に、世界の視線がどんどん変わっていく体験が非常に刺激的ですね。
村上 
夕暮れ社である僕らが、いろんな国の人々を演じるというのが面白いと思うんです。まあ日本人ですけど、単純に面白いんですよね。客演さんも、スイス人、中国人、など多彩に演じてくださっていますし、それもまたユニークで面白いですよ(笑)
__ 
血の通った演技をする夕暮れ社が、世界の人々を演じる。
AI・HALL次世代応援企画break a leg 「モノ」
○開催日時○
2016年5月28日(土)29日(日)

5月28日(土) 15:00/19:00
5月29日(日) 13:00
※開演の60分前に受付開始、30分前に開場
※当日、会場にて受付順に入場整理番号を配布

○会場○
AI・HALL
(伊丹市立演劇ホール)
〒664-0846 兵庫県伊丹市伊丹2丁目4番1号
TEL:072-782-2000

○チケット○
料金

一般/前売2,800円 当日3,300円

  学生/前売2,500円 当日3,000円 (要証明)

【日時指定・全席自由】

作:フィリップ・レーレ(原題:『Das Ding』)
翻訳:寺尾格
演出:村上慎太郎
出演:稲森明日香、向井咲絵、南志穂(以上、夕暮れ社 弱男ユニット)

鎌谷潤吉(僕らの陰謀)、金田一央紀(Hauptbahnhof)、小林欣也、
古藤望(マゴノテ)、松田裕一郎 西マサト国王(B級演劇王国ボンク☆ランド)

舞台監督:浜村修司(GEKKEN staffroom)
照明プラン・オペレーター:吉津果美
照明アドバイザー:筆谷亮也
音響プラン:genseiichi
音響オペレーター:森永キョロ(GEKKEN staffroom)
劇中映像:柴田有麿
映像オペレーター:中野響馬
衣装:若松綾音
チラシ・制作:稲森明日香
票券:池田みのり

共催:伊丹市立演劇ホール
協力:大阪ドイツ文化センター、僕らの陰謀、マゴノテ、Hauptbahnhof、B級演劇王国ボンク☆ランド、徳永のぞみ、山本悟士

京都芸術センター制作支援事業

質問 市川 愛里さんから 村上 慎太郎さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂きました、市川愛里さんから質問です。「この道で生きていこうと思ったキッカケは?」
村上 
高校の頃に、電視游戲科学舘の「みなそこにねむれ」という作品を見てから、です。高校も辞めて、小劇場の世界でやっていこうと、学校の先生にも泣きながら相談しました。そこで、将来、劇団やりたいなら、大学に入って仲間を見つけた方が絶対にいいよとアドバイスを受たりして、京都造形大学へと進学しました。

こけし

__ 
本日はお話を聞かせて頂きまして、ありがとうございました。お礼にプレゼントがございます。どうぞ。
村上 
ありがとうございます。何だろう・・・(開ける)
__ 
こけしですね。村上さんに似たものを選んだつもりです。
村上 
(笑)ありがとうございます。稽古場に置いておきます!

お引越し

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。最近、市川さんはどんな感じでしょうか。
市川 
この間、演劇集団よろずやに出演させていただいて。その後は今月の引越しの準備でバタバタしています。東京に引越します。
__ 
引越しは忙しいですからね。
市川 
けっこう頭使いますよね。ゴミの日を計算に入れて片付けをしないといけないし、届け出の必要なものや、解約しないといけないものとかもあって。4月に入って手続きが束になって出てきた。
__ 
私も最近、大阪から京都に引っ越したので大変さは分かります。
市川 
ね。知らない間にモノが増えたりして。
__ 
もうじきなんですよね。
市川 
あっという間に、引越しの日は来るんだと思うんですよね。
__ 
東京行きの新感線の中で、泣いたりますか?
市川 
泣かないと思います。京都に未練はないの?って聞かれるんですけど、実は全然無くて。向こうでやる事が決まっているから。田舎の鹿児島を出る時も希望にあふれた引越しだったし、大阪から京都に来るのも、ニットキャップシアターに入団するための移動だったから、悲しいとかの気持ちは一度も無かったです。
世 amI
「世 amI(セアミ)」は、釜山出身の演出家・俳優 金世一(キム・セイル)が主催する創作団体です。定期的なワークショップや公演によって東洋演劇の美学を追究し、広く海外に伝えていくとともに、日本・韓国・台湾・香港などアジア諸国の演劇人どうしの連帯を深めていきます。(公式サイトより)
ニットキャップシアター
京都を拠点に活動する小劇場演劇の劇団。1999年、劇作家・演出家・俳優の ごまのはえを代表として旗揚げ。関西を中心に、福岡、名古屋、東京、札幌など日本各地で公演をおこない、2007年には初の海外公演として上海公演を成功させた。一つの作風に安住せず、毎回その時感じていることを素直に表現することを心がけている。代表のごまのはえが描く物語性の強い戯曲を様々な舞台手法を用いて集団で表現する「芸能集団」として自らを鍛え上げてきた。シンプルな中にも奥の深い舞台美術や、照明の美しさ、音作りの質の高さなど、作品を支えるスタッフワークにも定評がある。(公式サイトより)

演劇集団よろずや「青眉のひと」

__ 
演劇集団よろずやの「青眉のひと」どんな公演でしたか。
市川 
竹田朋子さんという女優さんと、一度イベント公演でご一緒した縁があって、オーディションに応募したんです。それで出演する事になりました。作品が、今、転機の時期にある自分に非常に合うものでした。上村松園さんという女性画家の幼少期から没年までを描く作品なんですけど、女性・画家の社会的地位や、社会からどう見られているか、という。それは演劇人の社会における立場とかも重なる部分があって。
__ 
というと。
市川 
松園さんは絵を描く事だけに生きた人で。自分も死ぬまで演劇をするにはどうしたらいいんだろう、という事を考えているんです。私は今後、世amiという東京の団体に入るんですけど、主宰の金世一さんという方が演劇トレーナーをしていて、私に俳優の才能というものを認めて下さったんです。それはとても心強くて。俳優の評価って、誰がするのか、という問題があって。TVに出たら、映画に出たらハクが付く、とか。いつになったら有名になるの?みたいなプレッシャーを誰もが一度は感じていると思うんですけど、そうではなくて、信念。どういう作品を残したいのか、取り組む姿勢や生き方が、「青眉のひと」で重なったんです。そういう人でありたいなと思ったんです。
演劇集団よろずや vol.25 『青眉のひと』劇団結成二十周年記念公演
公演時期:2016/3/13(東京)、2016/3/26~27(大阪)。会場:武田修能館(東京公演)、山本能楽堂(大阪公演)。

身体

__ 
世amiではどんな活動を。
市川 
主に訓練ですね。実は代表のキムさんがしばらく忙しくて、公演は来年から忙しくなるかも、という。定期的に関西でもWSはされているんですが。
__ 
個人的には、そういう凄い方に市川さんが認められるのはとても嬉しいです。何様やねん、ですが。
市川 
いえいえ、嬉しいです。私はこれまで、ごまさんの元でお芝居をしてきたんですけど、俳優の仕事の本質的な部分というのは、もっと体系的な知識の有る無しで差があるなあ、と思って。実は、何となく俳優として伸び悩んでいる自覚があったんです。ニット内ではやれてたんですが、その枠を超えられないなあ、と。そういう時にキムさんに会ったんです。衝撃を受けたんです。俳優訓練が面白かったんですよ。
__ 
良ければ、詳しく教えて下さい。
市川 
例えば上半身を45度右にして、そこで首を45度下に向けて、それで手をギュッと握った時に、そこから湧き上がる気持ちとかイメージはなにか。みたいな。手を握ると悲しかったり悔しかったりの気持ちになったり。両手を広げて前に45度上半身を倒すと、空を飛んでいるようなイメージが湧き上がったり。すると凄く自由になったり、幸せになったりするんです。
__ 
身体とイメージが繋がる、みたいな事なんでしょうか。
市川 
いまはまだ繋ぐレッスンですけど、それをもっと客観的に分析して、作品を演じる上でどう活用出来るのかを重ねていくんだなあ、と思うんです。どういう風に戦略的に使えるか。同じ立ち姿でも、角度や目線や息の仕方で、お客さんにどんな印象を与えられるか。それが凄く戦略的だ、と思って。今まで野性的な勘や感性で芝居をしてたんです。「勘がいいね」で来ていたのを、もっと的確に使える人になりたいと思って。
__ 
自分がどう見られているのかというメタ視点をもっと細かく持つ、という事でしょうか。
市川 
うーん、ポーズだけではお客さんには伝わらない、内面が伴わないと伝わらないんですよ。でも、効果的な見せ方、なんです。同じ気持なのに、俯いているか真っ正面か、で違うんです。マイムでも同じ訓練があって。ちょっとした体勢で殺人鬼に見えるような事もあるんですね。内面とポーズの倍増効果が、あるんだと思うんです。
__ 
なぜ、その領域に興味があるのでしょうか。
市川 
野性的な勘ですけど、俳優としてもっと伸びる筈だと思っていました。もっと開拓出来る分野が裾野のように広がっていると思ってたんです。でも、それが何なのかよくわからなくなってしまった。このまま同じ事を繰り返していても何も見つからない気がしてきて。いま中堅俳優みたいなポジションになっているけど、技術的な面では自分で理解していないし。人に教えるとかアドバイス出来るような核心がない、というか。

広がっている

__ 
東京でしか出来ない事はある?
市川 
どこにいても一緒で、自分が何をやるか、だと思うんですけど。凄く興味のあるWSだったりとか、世界の演劇祭でちゃんと評価される俳優になりたいと思っていて。その為には世amiのキムさんなんです。キムさんの作るお芝居で、世界に繋がる為に、稽古に出て、作品に出たいですね。そうしたらもっと俳優人生が広がる気がします。
__ 
そうですね。それはきっと、広がると思います。でも、なぜそんな顔をしているんですか?
市川 
うーん、そうだなあ。色んな両立だとか、そういう事が出来るかなあ、と思っていて。でも向こうで働き先も決まっているから、一刻も早く東京の生活に慣れたいです。

取り込みたいと思った

__ 
京都という、ふわふわした場所で、これ以上過ごせないと思った?
市川 
あはは。なんだろう。ちゃんと、知識と技術と経験が欲しいと思ったんです。ヨーロッパやアメリカ、ロシア、韓国、その他の国では演劇の体系的な学問があって、公教育でも取り入れられていて。それを知らずして、このままでいいのか、と思って。もちろん海外のものをそのまま取り入れても上手くいかないから、日本人に合ったメソッドがきっとあるし、個人に合う合わないもあるとは思うんですけど、最終的な俳優としての目標地点はきっと一緒で、どんな道筋を通るのか、という選択を各々でしないといけない。キムさんの考え方は面白くて。キムさんは日本に来て世阿弥の風姿花伝を読んだ時に、これまで学んで違和感のあったことが、凄くしっくり落ち込んだそうなんですよ。彼は日本人の性格を熟知しているので、彼の訓練には安心感はありますね。

質問 中村 彩乃さんから 市川 愛里さんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた中村彩乃さんから質問です。「芝居を観ていて、面白いあるいはつまらないと思うポイントは何ですか?」
市川 
学芸会レベルだなあ・・・と感じる芝居は面白くないなあと思います。俳優の力はもちろん、脚本の力も、演出の力も足りていない芝居。
__ 
ええ。
市川 
客席が身内ばかりで、何だか盛り上がって満足というのは、それは非常によくないなあと思っていて。それは自分も気をつけなければならないと思っています。どういうレベルの作品を残すのか、どういうレベルの俳優でありたいのか。それをちゃんと見極めたいし、ラインを超えたい、というのは非常に思いますね。
__ 
学芸会、ね。真面目に作っていないというのはすぐ分かりますからね。会話劇のどこか断片、1秒だけでも見れば分かるかもしれない。でも、逆に、120分のつまらない作品の内、1秒だけでも凄いシーンがあったら良いんじゃないか?そういう気持ちでいたいとは思う。
市川 
うーん。
__ 
逆に、やっていて面白い作品って?
市川 
まず台本が面白いというのは非常に重要で、それを自分で分析したものと、演出家と他の共演者の分析が、ちゃんと同じ目標地点に行っていれば、そのための工夫を色々していけるのが非常に面白くて。演出家がどういう事を求めているのかが分からなくて、そんなモヤモヤを抱えた作品は辛かったですね。
__ 
なるほど。
市川 
吉本新喜劇みたいに、お客さんが期待するネタをサービスするのも、それはそれで成立しているけれど、でもそのサービスは、初めて劇場に来たお客さんを置いてけぼりにする場合もあるなあと思う。おもてなしは必要だけど、何をもっておもてなしするのかに課題があるんじゃないかなあ。
__ 
お客さんに親切になり過ぎず、挑発ではないですが、考えを誘うみたいな事があるといいのかな。
市川 
人によって好みもありますし、時代もあるんじゃないかと思う。今は「私達は社会に対してこう思っています」と、はっきり主張して投げかけるのが評価されやすいらしいですね。ちょっと前まではグレーでぼやかすのが評価されていたのが。時代だと思います。
__ 
今は、論理的に自分の意見を表明出来る人が評価されるのかな。最近まで多文化共生社会とか言ってたのに、今は論理的であろうとしている。

先行

__ 
市川さんがこの道に入ろうと思ったのはどんなきっかけですか?
市川 
演劇をやりたいと思ったのは、それこそ小学校の学芸会で、大きな声が出たね、と誉められてから。中学校に入ったら演劇部に入って、その文化祭でやった芝居が校長先生に誉められて。
__ 
素晴らしい。
市川 
高校でも演劇部に入って、そこでも校長先生からお呼びだしを頂くほど誉められて。中学から、俳優になりたいとずっと思ってたんです。でも中学校の進路相談では、母からそれはダメだ、と。自分で働いて、生活に困らずやれるならいいよ、という話になって。まずは手に職を付けようと、医療専門学校に行って歯科衛生士になろうと決めたんですよ、中学校で。高校はどこでも、近くに通えるところで。専門学校で資格を取って、まずは3年働いてから大阪のタレント事務所に入って、その後ニットキャップシアターに入りました。死ぬまで俳優をやろう、と決めたのはキムさんの存在かなあ。うーん。師匠になるのだなあ、この人は。
__ 
中学校でそこまで考えるのか!そして、今でも歯科衛生士なんですね。
市川 
はい。
__ 
似合いすぎますね。
市川 
あはは。よく言われます。
__ 
悪いけど似合いすぎます。市川さんのいる歯科に行きたいです。
市川 
そのためにわざわざ東京に?クリーニングに?
__ 
はい。

毛糸と私

__ 
ニットキャップシアターとの出会いを教えてください。
市川 
77年企画に、ごまさんが出てるのを見て。面白い人がいるなと。一度、門脇さんに入団希望の連絡をしたんですけど、当時正社員で働いていたので、公演期間が仕事のスケジュールと合わない場合もあって、一旦保留にしたんですよ。で、しばらく後に大阪の某劇団のオーディション付きWSを受けて、そのまま出演するか悩んだ時に、職場の同期が「俳優をしに大阪に来てるんだから、俳優を優先するべきなんじゃないの?」と背中を押してくれて、その舞台に出ることになったんです。そこで、板橋薔薇之介さんがいたんです。
__ 
おおっ。
市川 
「市川に紹介したい劇団が京都にある」と言われたのがニットキャップシアターで。ああ、きっと何かご縁だなあ、って。先の舞台で仕事と稽古と本番の折り合いもついてたので、ニットに入団しました。
__ 
ニットキャップを辞めて、寂しいという気持ちはありますか?
市川 
ないなあ・・・でも何か、凄く、恥じないように行きたいと思います。「ニットにいた方が良かったのに」とは言われたくない。これから功績を残していきたい。
__ 
何者かになってほしいです。ニット時代の市川さんを知っている者としては。では、辞めるとなった時の周囲の反応はどうでしたか。
市川 
どうなんだろう。でもみんな、辞めるのはうすうすと感じていたみたいです。自分が進みたい道が明確にあるので、心配はされませんでしたね。何かを探しに東京に行く訳ではないので。
__ 
そこが違うね。何かを探しに行くわけではない。やることが決まっている。

戦略

__ 
どんな演技が出来るようになりたいですか?
市川 
隙のない演技。戦略的に自分を扱える人になりたい。
__ 
それは、今までの自分には無かった?
市川 
今までは感覚の人間だったから。野生的勘でやっていたものを具現化して、自分で理解して、使っていければと。
__ 
今までは、ある意味無責任。あ、無責任って言うとまた意味がズレるかな。
市川 
いや、巷に溢れる演劇WSとかコミュニケーションゲームとか、色々ありますけど、裏付けされるものを自分が持っているかどうかが気になっていて。それを持たない人が人に何かを教えていいのか、と。
__ 
自分を意識的に使った俳優になる。隙の無い、間のない俳優?
市川 
戦略的に間や隙を作りたいです。

木のお皿

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
市川 
ありがとうございます。(開ける)あ、やったー。これはアクセサリを入れるやつですね。
__ 
お料理を入れても大丈夫だと思います。
市川 
ありがとうございます。

中村さん

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。最近、中村さんはどんな感じでしょうか。
中村 
最近は、飛び道具の本番とエイチエムピー・シアターカンパニーの本番が立て続けにあったんですが、それも終わって。明日が大学の卒業式です。京都女子大学です。
__ 
あれ、京都造形芸術大学だと思ってました。造形の人らと一緒に見かける事が多かったからかな。
中村 
教育学部です。劇団S.F.P.に入って、そこから辞めてフリーになって、この間飛び道具に入団しました。造形大の人たちとは、ルサンチカの「楽屋」に出演したのが縁で。朗くんの演出で。
劇団飛び道具
京都を中心に活動している劇団(公式twitterより)
安住の地
2016年7月に結成。京都を拠点に活動。
安住の地のラジオ「の地ラジ」
https://www.youtube.com/channel/UCLSeKR16QwEmYTTlkXoK2bw
Twitter @nochiradio