出来るようになりたい

__ 
これまで演劇を続けてきて、決定的な変化ってありますか?
向井 
実は、あんまり無いんですよ。村上さんの芝居に立たせてもらう事が多いから、そのまんまの感じで出る事が多いんです。
__ 
いやそんな向井さんの芝居が好きですけどね。
向井 
でも何年か前に、「あ、お芝居出来るようになりたい」って思ったんですよ。一般的な意味での。でも結局、普通のちゃんとしたお芝居がやりたいんだったら、それは別に弱男じゃなくてもいいんじゃないか、って。クセがあるというのは一つの武器だし、しっかりそれをやっていった方がいいんじゃない?って。ああ、そうかな、と。
__ 
まあ、向井さんに類する役者はいないですからね。
向井 
それは嬉しいんですけど、恐れ多いというか。面白いと思って下さっているのを、大事にしたいなと思っています。でも、今やっている演技体で、最大限やりたいなあと。応えたいと思っています。
__ 
例えば稲森さんは、客演に出ればそこに合わせられる器用さを持っている。向井さんがユニット美人に出た時、向井さんとして出てくれてて。私はそれが凄く嬉しかったです。
向井 
そうなんですよね、私不器用なんですよ。稲森さんとのコンビとのバランスが良いのはそこかもしれないですね。羨ましいんですよ。普通に芝居が上手くなりたいと思ったのも、きっとそこから。バランスは取れていると思いますね。
__ 
いつか、どんな演技が出来るようになりたいですか。
向井 
コメディをちゃんと出来るようになりたいですね。
__ 
やってるじゃないですか。私の中では、ボケを正確にこなす人ですけどね。
向井 
でも器用さはもう、あまり求めないかも。何やろうなあ。自分の特性をもっと分かって、やる事かな。自分の事をまだまだ分かってないんですよね。自分で自分を生かせていない。もっと器用に、自分を生かせられるような・・・面白いことをしていたいなあ。単純に。

質問 河井 朗さんから 向井 咲絵さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂きました、河井朗くんから質問です。「20代でも今でも、どうやって生計を立てていますか?」
向井 
何なとなります。

次回公演「モノ」

__ 
次の5月にAI・HALLでやる「モノ」、楽しみです。壮大な話だそうですね。
向井 
いや、面白いと思いますよ。客演さんも面白いし。前回に引き続きの人もいるし、今回初めての方もいるし。実はこの作品でリーディング公演を行ったんです。その時はものすごい早口でセリフを喋ったんですが、全然不安だったんですけど意外と好評で。なんか、そういうのに自分から気付けるようになりたいですね。演出に、もっと自分から発信出来るようになりたいかな。
__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
向井 
そうですね、今年は結構色々なところに行かせてもらえるし、もっと色々なところに行きたいですね。そんな攻め方ですかね。あとキレイな格好でもしてみようかなと。
__ 
やってみて欲しいです。向井さんは自分が美人である事について無頓着過ぎるのではないか。
向井 
ああそうですか?でもあんまり言われ慣れてないから。恥ずかしいんですよね。
__ 
いや美人ですよ。それを出して行こうとは思わない?
向井 
あんまり。面倒臭がりなんで。
__ 
内面を磨くとか?
向井 
内面ね・・・言葉遣いを丁寧にするとか?でもこれが自分の普通だし、まあ、もっと自分を理解したいかな。

足田メロウのブローチ

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
向井 
ありがとうございます。開けていいんすか?
__ 
どうぞ。大したものじゃないんです。
向井 
(開ける)へえ、可愛い。どこに付けようかな。
__ 
そういうのを付けてる印象ないですけど、たまにはいいんじゃないかと思って。
向井 
ありがとうございます。

卒業式

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。最近、河井さんはいかがですか。あ、卒業されたんですよね。
河井 
はい、おかげ様で卒業できました。このあいだの南風盛のインタビューで卒業式の事言ってましたよね。今年も舞台芸術学科は式で色々やったんですよ。
__ 
あ、そうなんですね!ちなみに今年は。
河井 
卒業式は春秋座でだったんですけど、高市に天使の格好させてワイヤーで吊ったり、沙門に悪魔の格好させたり、みんなでCOSMOS歌ったりと、杉原邦生さんの「転校生」のパロディ。これが僕と南風盛との初の共同演出で、映像で見直して、おもんないなぁー言うて二人で呆れてました(笑)。
__ 
いいですね。
河井 
大学サイドにはめちゃくちゃ怒られて。春秋座の人は、まあやっちゃえって感じだったんで、そのまま・・・。
__ 
河井さんの代の造形生は面白い人がたくさんいましたね。
河井 
やっぱり、4年間一緒にやれた同士がいたのは大きかったです。みんなもうバラバラになりましたけど、同じ志で舞台芸術を一緒にやっていた人がどこかにいるというのは心強いです。
ルサンチカ
主宰 河井朗による演劇ユニット。近藤千紘が女優。世間的弱者の鉄筋コンクリート製防御陣地。 (公式Twitterより)

京都造形芸術大学卒業生優秀作品展参加作品 ルサンチカ『霧笛』

__ 
さて、ART ZONEでの「霧笛」。ルサンチカの一区切りとなる公演だったと思います。大変面白かったです。
河井 
ありがとうございます。
__ 
原作はレイ・ブラッドベリで、萩尾望都の漫画版を下敷きに、イトウモさんが脚本。演出は河井さんの、近藤千紘さんが女優。脚本に出て来る「彼」の孤独感と、彼に届くか分からないけれども、届けるしかない呼び声の一途な通信。その寂しい詩のソリッドな横顔を、都会のビルの中で鮮やかに描き出していたと思います。
河井 
実はART ZONEでは昔から上演したくて。今回こういう機会を貰って凄く嬉しかったです。街頭劇というわけじゃないですけど、ああいう不特定多数の人が通りすがる空間でやってみたかった。
__ 
ああ、確かに複合施設みたいな感じですよね。横を通り過ぎていく人が、何だろうって足を止めて見ていましたね。
河井 
もっと巻き込んでいく形に演出出来ればと思ってたんですけど、難しいですね。冨士山アネットの「DANCE HOLE」に共同クリエイションで参加してたんですけれど、あんな感じに巻き込めたらまた違った雰囲気を出せたんじゃにかなと思ってます。
__ 
DANCE HOLE、私が参加した回は、同じビルに入ってるパブで、卒コンのコールが響いてましたねずっと。
河井 
上のライブ会場が海上っていうイメージでした。
__ 
稽古期間はどのくらいでしたか?
河井 
確か、10日無かったです。
__ 
それで台本を覚え、稽古をしたんですね!素晴らしい。卒業特別公演にふさわしいいですよ。女優の近藤千紘さんがとても良かったです。
河井 
良かったでしょう。
__ 
まず存在感自体が良かったですよね。黒い髪と黒い目に、黒のワンピースで、敏捷な動きの可愛い女優。これはもう魅力的ですよね。ルサンチカそのものを象徴する出演者であり、作品になったと思うんです。
河井 
実は企画段階から千紘とちゃんと話し合って作ったのは、この作品が初めてなんですよね。
__ 
あ、そうなんですか。
河井 
というか、これまでお互いの事はあんまり何も知らなくて。この間ようやく話してみたというか。
__ 
仲良いと思ってましたよ。
河井 
仲は良いんですけれど、お互いの活動とか生活とかをそれほど知らない、的な。それと、僕が、女優という存在に対して色々思ったりするからかなあ。
__ 
妬みに近いもの?
河井 
んーそうかもしれません、なんというか、「上手」な女優を見ると、ずっるいわーってなる。まぁそれに演出をつけて更にずるくしていくっていう作業を意識的に僕はするんですけど。
__ 
ああ、うん、男性が「女優」にコンプレックスを持つのは凄く共感出来る話です。私だって広末涼子を殺したいと思ってたからね。
河井 
うわっ。
__ 
暗殺じゃなくて、正々堂々、ナイフ対決で殺したいと思ってた。
河井 
ほーんのちょっとだけ分かりますわ。
__ 
これは一体、何なんだろう。それはもしかしたら少年の美を持つ女性という、コンプレックスを掻き立て続ける女性への懸想かもしれない。自分はどうしても女性になれない、みたいな絶望もあったのかもしれない。技術とか技法に対してこだわるのは、そういうところにも原因があるのかな。
京都造形芸術大学卒業展優秀作品展 出展作品 【霧笛】
公演時期:2016/3/26~27。会場:ARTZONE。

女優の思い出1

撮影:junnosuke
河井 
そうそう、千紘アイツ漫画が読めないんですよ。
__ 
え、どういう事ですか?
河井 
漫画の読み方を知らないみたいなんですよね。普通に右上から左下に読めばいいのに、それが難しいみたいで。
__ 
絵とコマと台詞を適当に飲み込みながらじゃあ萩尾望都なんて読めないじゃないですか。少女マンガなんてものすごい高度な読解能力が必要ですから。
河井 
だから稽古の時に原作の漫画を読み聞かせ会してました。

女優の思い出2

撮影:junnosuke
__ 
この間取材させていただいた中村彩乃さんも、ルサンチカの「楽屋」に出演してましたね。
河井 
彼女も良い女優だと思います、稽古場が刺激的でした。あ、あの時の写真ありますよ。これ。
__ 
おお、これは凄い。
河井 
でしょう。ずるくてとても良いシーンに仕上がりました。

やりたいからやってる

__ 
女優に対しての憧れや反発はありますよねー。何なんでしょうね。
河井 
別に女性になりたいとかじゃないんですよ。女装とかやった事がありますけど。ちょっと違うかもしれないですけど、ドラァグクイーンには興味があります。単純に、パフォーマンスとして興味がありますね。
__ 
ああ、面白いですよね。
河井 
単純に、美しくないですか?憧れじゃないですけど、純粋なものを感じますよね。
__ 
惹かれている?
河井 
昔、川村毅さんに飲みの席で「どうして女装して舞台に立つんですか?」って聞いて、「ばか、やりたいからやるんだよ」って言われた事があります。
__ 
ああ、それで充分なのかもね。
河井 
ほんまにね。

誰かへ

__ 
今、アーティストとして何が見えていますか?
河井 
マイノリティへのアプローチについて、です。もちろんその人達の中にはそっとしておいて欲しい人がいるのは分かっています。とはいえ、芸術が彼らを取り組むことで、社会がもっと良い方向に変わる可能性があると思う。もちろん、それを「誰に」アプローチするのかはちゃんと判断しないと行けないし、距離感も感じないといけないですけどね。余計なお世話になるのだけは一番まずいですし。
__ 
ジェンダー、人種、貧困、人種、障害、その他色々なマイノリティが、ますます視界に入ってきやすい社会になりましたね。小劇場は個人の意見を表明しやすい場ですから。それを誰に見せるか、という問題もありますけどね。

質問 村上 慎太郎さんから 河井 朗さんへ

__ 
前回インタビューさせていただきました、村上慎太郎さんから質問を頂いてきております。「20年後、自分はどうなっていると思いますか?」
河井 
どうもなってないですね! なんか新しい趣味でも見つけて没頭してるでしょう、僕は。 

探している

__ 
自分たちの武器は、どんなところだと思う?
河井 
それなんですよね。ずっと考えています。僕も関西にいつづけるかどうか分からんし、でもしばらくは大学の外で働いたり作品に関わって、ルサンチカとしてどういう事が出来るようになるのかを探したいと思うんですよ。
__ 
楽しみです。
河井 
そう言ってもらえると嬉しいです。

ジーンズ生地のガチ袋

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
河井 
ありがとうございます。
__ 
大したものではないんですが・・・どうぞ。
河井 
(開ける)あ、これは嬉しい!
__ 
丈夫なものではないんですが、ガチ袋です。筆記用具程度のものなら入れやすいかもしれない。
河井 
こういうのいいですよね!使いやすいです。ありがとうございます!

彼岸

__ 
あー、何かあそこ、撮影してますね。女子大生とかかな。本格的な撮影セット使ってる。
河井 
本格的っぽいですよね。女性って、凄いですよね。
__ 
ああ、さっきの話?そうですね、女性は凄いと思う。あんなに計算づくのメイクをして、オシャレをしないと世界に出れないって凄いよね。まるで武装しているようだ。すっぴんで具体的な敵と戦ったり仕事してりゃいい男からすれば、世界とかいう正体不明の何かと戦っている女はヤバいと思う。その上で「よい子」でなければならないとか、ハードルが高すぎる。
河井 
大学の先生が、「女性は大学を出たら即座に何者かにならなければならないけど、とりあえず君に関してはそのままでいていいぞ」と言われて。
__ 
ああ、うん。河井くんはそのままでいてもいいと思う。
河井 
でも、女性を見るたびに、何か心を掻き立てられるんですよね。
__ 
「おそ松さん」見てます?
河井 
あ、新しい奴ですよね。半分くらいまで見ました。録画してあるんで、これからゆっくり見ます。
__ 
今年の1月の最初の放送で、「じょし松さん」というのがあって。六つ子が女子グループに女体化するんですけどね。男松は全員ダメなニートなんですけど、女松は全員めちゃくちゃ戦闘力が高いんです。おそ松なんて現場でも仕事して上役とも仲良いサバサバ系OLで、全員私服がめっちゃオシャレで、自分像をちゃんと具体化出来ているんです。
河井 
うわあ。

ハイタウン2016「時計コメディ」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。夕暮れ社弱男ユニットの村上さんにお話を伺います。最近はいかがでしょうか。
村上 
よろしくお願いします。5月にAI・HALLで公演を行いますので、その準備をしています。ドイツの、同年代の作家の戯曲を僕ら弱男ユニットと客演さん達で上演します。
__ 
ああ、壮大な物語だそうですね。楽しみです。それと、ハイタウン2016にも参加されるんですよね。「時計コメディ」だそうですが・・・。
村上 
はい。時計って、面白いなあと思っていて。以前、喫茶店に入ったら、視界に3つぐらい時計があったんですよ。それぞれ少しづつズレている。
__ 
ええ。ありますよねそんな事も。
村上 
そしたら本当の時間がどれだかわかんなくって。まあそのあとスマホを取り出したんですけどね。でもそのスマホの時間が正しいのかもわからない。その瞬間、自分に「えっ」て思って。分かります?
__ 
ああ、ちょっと分かります。スマートフォンはほとんど常に正しい”とされてる”時間ですもんね。自動的にサーバーに正時を合わせに行きます。反射的にそれを確認しに行ってしまった自分に驚いたんですね。
村上 
SNSとかでも、それを書き込んだ時間が秒単位で出るじゃないですか。これまでのやり取りだとか、いまのやり取りだとか。それが距離を無視して、どんな人もそれを中心にしている。これは凄い事だな、と思って。
__ 
考えますよね。明らかに人間の精神活動における時間単位が細かく細かくなってきている。そこで、時計コメディ。やはり真っ先に思い浮かぶのは、それぞれの時計のズレ、みたいなのが一つのポイントなのかな、と。
村上 
楽しみにしていて欲しいです。面白いですし、今の時代の時間感覚みたいな事を「笑い」にしてしまえるのがコメディの凄いところですよね。
夕暮れ社 弱男ユニット
2005年村上慎太郎の個人ユニット「弱男ユニット」を結成。砂浜や劇場ロビー、ライブハウス、会議中の事務室前など劇場外での公演を数多く行う。2008年それを前身とし、さらに活動の場を広げていくためにメンバーを募り、「夕暮れ社 弱男ユニット」と名前を改める。過去作品には、観客が舞台上にあげられ、先ほどまで座っていた椅子が目の前で俳優の手によってぶん投げられながら物語が展開していく「現代アングラー」(大阪市主催CONNECT vol.2優秀賞受賞/2008年)や、 劇場の真ん中に客席を設置し、俳優がその客席の周りをグルグルと廻り続け演じるという独自の方法でデモ行進する人々を描いた「教育」(大阪市立芸術創造館/2010年)や、俳優が地面を終始、転がりつづけながら青春群像劇を演じた「友情のようなもの」(2012年/元・立誠小学校)などがある。(公式サイトより)
ヨーロッパ企画presents ハイタウン2016
公演時期:2016/5/5~8。会場:元・立誠小学校。

夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「ハイアガール」

__ 
「ハイアガール」、今年の1月に京都芸術センターで上演されましたね。お疲れ様でした。大変面白かったです。
村上 
ありがとうございます。
__ 
何だか、感想を言わずにはいられない作品でした。あらすじになってしまいますけど、ある小さな町内のお話で、そこには銭湯の大きな煙突があって。南志穂さん演じる女の子の親友(中西柚貴さん)が、ある日突然煙突から転落してしまうというお話でした。それがもう、ぽっかりと空いた穴のように思えるんですよ。
村上 
はい。
__ 
それで町の人は全員傷付いて、でそこからが凄くて、めいめいがそれぞれの傷との向かい合い方をするんですよね。女の子は不安定になり、その子に構う銭湯のバイトは彼女の傷ついた心を心理学的に分析し追い詰め、映画監督は転落した子の残したものを集めて、同じような男たちと共有したり、その男たちは彼女に追い詰められて・・・全員が舞台中央で這い回って転がって。そうしてるうちに時間が経って、転落した女の子の手紙を開くことができて……。そして1年の時間が暗転で飛ばされて、めいめいの傷が塞がれている。当初、骨折が治ったような印象があったんですけど、もしかしたら、ぽっかりと空いた穴を、全員が自分や隣人の肉を用いて塞ぐ話だったかもしれない。ご自身としては、どんなつもりで描かれたのでしょうか。
村上 
実はこれは個人的な経験にもつながるんですけど、
__ 
ええ。
村上 
何だか人って、凄く大きな挫折をした時や、地の底まで落ち込んでいるような時でも、しばらくしたら這い上がってしまうものなんじゃないかなあと思っていまして。知らないうちにそこから這い上がろうとしてしまう。それが面白いな、と思ったんです。
__ 
自分の境遇を受け止めて、それでも向上しようとするみたいな事ですか?
村上 
というよりは、本能に近い事だと思うんですよね。ものすごくどん底のような気分のときでも、気づけばそこを脱出していたりする、そういう反応というか・・・それが何だか、面白いと思ったんですよ。
__ 
うーん・・・それを面白いと思えるという事自体が凄いと思います。
村上 
今回、弱男ユニットとしては「新手法」みたいなのはなくて、比較的真っ当に物語を作ったんですよね。舞台セットも面白いものを作ってもらったんですけど、それが目立つというほどじゃなくて。実は結構、賛否両論だったんです。でも、ハイアガールはそういう方向にしたかったんですよ。
__ 
そう、確かに新手法はありませんでしたね。でも代わりに、私、客席で泣いていました。芝居を見て泣くのは10年振りです。
村上 
あ、そうなんですか!
__ 
でも、ちょっと泣くポイントは違って。私の場合は、誰かの死に泣いたとかじゃなくて。あの町の変化に泣いたというのがあります。銭湯の煙突が取り壊されるじゃないですか。あの大きな大きな煙突が無くなる。銭湯も無くなった?と思いきや、実はそこに、ドイツ製の新式のボイラーが来ていて、銭湯は盛り返してました、という。煙突が無くなって、ドイツのピカピカしたボイラーがそこにある。その暴力的なまでの移り変わりが、ちょっと言葉アレですけど暴力的なまでにショックだったんです。
村上 
他の方からも、ボイラーがショックだったという感想は頂いてました。
__ 
あんな、取り返しの付かない変化があるなんて。
夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「ハイアガール」
公演時期:2016/1/20~24。会場:京都芸術センター講堂。

煙突が消えた町

__ 
銭湯の煙突というのが、またシンボリックだったように思うんですよね。で、そこで働く、伊勢村さん演じるバイトが女の子を追い詰めていて、それが彼なりの傷の受け止め方なのかなと思ってたんですよ。そうせずにはいられないのかな、って。
村上 
実はあの役には原型があって。むかし、僕の友達の一人に、心理学マニアの奴がいて。そいつが心理学で、「お前はあと何分後かには怒ってるだろう」とか言うんですよ。会話しているうちに、本当に自分の感情が怒っていて。「で、しばらくしたら笑うんやで」とか言われて実際にそうなっている。「心理学的には・・・」って説明されるんですけど、内心ものすごく腹が立っていて。でも納得するんですよね。でも、そいつの思い通りに世界が動いているのか、と思うと腹が立ってくるという繰り返しで。人間の感情の未来は全部が見透かされているような気がして、ゾッとしました。その友人を原型にしました。
__ 
そいつと喋っていて、面白く思っていましたか?
村上 
いえ、面白くは無かったですね(笑)
__ 
ちょっと話してみたいです。その人と。この物語の銭湯のバイトも、最後には女の子に胸を貸して殴らせて上げて。追い詰めて殴らせるみたいな事になってましたけど、理不尽な状況を突きつけられたら意外とみんな、あのぐらいめちゃくちゃな言動になってしまうのかもしれない。とにかくバイト役の伊勢村さんは好演でした。
村上 
ありがとうございます。伊勢村くんには結構、負担の掛かる役をやってもらったんで。喜ぶと思います。
__ 
役者は全員良かったですね。高阪さんも丸山交通公園も、穐月さんのぶっとんだおねえちゃんも凄かったし、稲森さん演じる面倒くさい彼女も向井さんの滑舌も、小坂さんの完璧な演技も良かったです。特に南さんがとても良く感じました。
村上 
ほんとありがたいことに全員、よかったですよ。南志穂も良くって。彼女は凄いと思うんですよ。本人は何かあんまり力は入ってないんですけど、あの子の身体は凄い力を持っているんですよね。今回は彼女を見てもらいたかったですね。
__ 
南さん、良かったですよね。ずっと折れそうな表情をしていて、でも最後には諦めとともに強くなった顔が出来ている。何だかあの、どうあれ強くなった町を代弁しているようでした。

血の通う

__ 
弱男ユニットとは、どんな人たちなのですか?
村上 
血の通った作品作りをする人たちだと思います。何かを無理矢理に作るんじゃなくて。もちろん僕ら自身をやるのでもなくて・・・ちょっと言葉にするのが難しいんですけど。
__ 
分かります。分かると思います。弱男ユニットは明らかに「非日常」ではなく、かと言って「日常の延長」でもなく、彼らそのままなのに浮遊感があって・・・弱男ユニットの作品を観ると、何だか痛いんですよね。良くない意味のイタいとかの意味じゃなく、心が傷むとかでもなく。指の逆剥けに類する痛みだと思うんですよ。
村上 
「逆剥けの痛み」?
__ 
ケガではなく、血がちょっと見えて、でも指という結構な急所の、半日すれば無くなってるぐらいの痛さ。生きていくのに必要な程度の痛みが、逆剥けには宿っていると思う。
村上 
そういう個人的な痛みがきっと、どんな人にとっても大切なのかもしれない。血の通った作品作りをするには、そういう事が分かっている人たちじゃないと、というのはあります。今後も、そうした作品を作っていきたいですね。とか言って、もちろん「新たらしい演出の手法」にもチャレンジしていきたいんですよね。
__ 
もちろん、楽しみです。

夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「プール」

__ 
新手法といえば「プール」も凄かったですよね。あれはもう、本当に。イジメと勧善懲悪のお話なのに、ハッピーエンドなのに、独特の妙な後味の悪さがあって。
村上 
プールって場所自体、何だか奇妙だなと思ってたんですよ。水が巡回して流れていて、でも巡回が止まると一気に濁ってしまって、でもそこを直すと途端にキレイになる。泳ぐと気持ち良い。でも、どこか不自然。
__ 
都会で泳げるとか、考えてみれば、出来過ぎた話しですよね。
村上 
実はリーダーシップの話だったんです。リーダーがいなくなるとどうなるか。そして、リーダーが帰還するとどうなるのか。
__ 
帰還したらイジメも無くなって、みんな、普段通りプールで泳いでいる。違和感は残って、でも音響はハッピーエンドみたいな曲だし、良いって事にしたのかな、って。不気味な感触の残る作品でした。けして良い思い出ではないです。でも、再演があったらもう一度見てしまうと思う。
夕暮れ社弱男ユニット演劇公演「プール」
公演時期:2014/11/27~30。会場:京都芸術センター フリースペース。

AI・HALL次世代応援企画break a leg 夕暮れ社 弱男ユニット演劇公演「モノ」

__ 
さて、5月末のAI・HALLの公演についても伺えればと思います。どんな作品になりそうでしょうか。
村上 
まずはこの度、こういった素敵な機会を頂きまして。ドイツの方の戯曲なんですが、国境を股に掛けた壮大な作品になっていて、すごくスケールが大きいんですよ。綿が、工場でTシャツになったり、着用されたりしつつ、五大陸を渡って、そこにいた各地の人々を通り過ぎて、その中にはいろんな問題や人間関係などが交差していて影響し合ってて。
__ 
世界を旅する繊維。
村上 
とにかくこの戯曲には、世界が広がっているんですよ。でもドラマとしてもしっかりと構成があって、僕らがそうした戯曲をやれるのは凄く光栄なんです。それからこの戯曲、ドイツの戯曲としては珍しく、わかりやすいんです(笑)わかりやすいというのがいいという意味ではないですが、「児童劇の側面」というのも含ませて書いていたらしんですよ。それがまた大人が見て全然楽しめるものになっているんです。この作品には、世に出回るドイツの戯曲の中でも稀有な戯曲だと感じました。
__ 
ヨーロッパでは、児童向けの戯曲は日本のそれと違って全然子どもをバカにしてなくて、むしろものすごく考え深いものだったりするそうですね。小さな小さな繊維を糸口に、世界の視線がどんどん変わっていく体験が非常に刺激的ですね。
村上 
夕暮れ社である僕らが、いろんな国の人々を演じるというのが面白いと思うんです。まあ日本人ですけど、単純に面白いんですよね。客演さんも、スイス人、中国人、など多彩に演じてくださっていますし、それもまたユニークで面白いですよ(笑)
__ 
血の通った演技をする夕暮れ社が、世界の人々を演じる。
AI・HALL次世代応援企画break a leg 「モノ」
○開催日時○
2016年5月28日(土)29日(日)

5月28日(土) 15:00/19:00
5月29日(日) 13:00
※開演の60分前に受付開始、30分前に開場
※当日、会場にて受付順に入場整理番号を配布

○会場○
AI・HALL
(伊丹市立演劇ホール)
〒664-0846 兵庫県伊丹市伊丹2丁目4番1号
TEL:072-782-2000

○チケット○
料金

一般/前売2,800円 当日3,300円

  学生/前売2,500円 当日3,000円 (要証明)

【日時指定・全席自由】

作:フィリップ・レーレ(原題:『Das Ding』)
翻訳:寺尾格
演出:村上慎太郎
出演:稲森明日香、向井咲絵、南志穂(以上、夕暮れ社 弱男ユニット)

鎌谷潤吉(僕らの陰謀)、金田一央紀(Hauptbahnhof)、小林欣也、
古藤望(マゴノテ)、松田裕一郎 西マサト国王(B級演劇王国ボンク☆ランド)

舞台監督:浜村修司(GEKKEN staffroom)
照明プラン・オペレーター:吉津果美
照明アドバイザー:筆谷亮也
音響プラン:genseiichi
音響オペレーター:森永キョロ(GEKKEN staffroom)
劇中映像:柴田有麿
映像オペレーター:中野響馬
衣装:若松綾音
チラシ・制作:稲森明日香
票券:池田みのり

共催:伊丹市立演劇ホール
協力:大阪ドイツ文化センター、僕らの陰謀、マゴノテ、Hauptbahnhof、B級演劇王国ボンク☆ランド、徳永のぞみ、山本悟士

京都芸術センター制作支援事業