肉食系の年代

池田 
先輩とお仕事をさせて頂いた機会に「いま演劇界が尻すぼみになってるのは僕らの責任。僕らがちゃんと次に伝えてこなかった。俺らがちゃんと面白い事をやっていれば、こうはならなかった」って言われたんです。いやいや、やってましたがな!って思いました。その言葉は我々世代へのハッパとして痛烈でしたね。先輩世代はとてもエネルギッシュで、まるで若手みたいにギラギラした人もいて。僕ら世代はその背中をみて、変わらず面白いものを作り続ける挑戦をしていかなくてはと、気付かされるんです。
__ 
そういう先輩の後ろ姿を見ているんですよね、我々も。
池田 
僕らの世代ってまだまだガツガツしていて。肉食系世代だから、これからもっと面白くなるんじゃないかなと思いますね。これからもギャグを産んでいきたいなと思っています。僕がマジメな事をやりだしたら終わりだと思って下さい。

質問 木之瀬 雅貴さんから 池田 鉄洋さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂いた木之瀬さんから、質問を頂いてきております。その内容がですね、ま、京都市内の方に限られるんですけど・・・
一同 
(笑う)
__ 
「京都の四条通の拡張工事についてどう思いますか?」木之瀬さんはあの工事に対して非常に憤っているそうで。この度の工事では四車線ある道路を二車線にし、歩道を拡張するという大工事なのですが、そのせいで車・バスが常に渋滞を起こしているんですね。京都市の計画の見通しの甘さと、既に起こっている問題に対しての市側の腰の重さを批判していました。池田さんはどう思われますか?
池田 
(笑う)やっべー、これは大変だぞ。
若旦那 
大喜利みたいになってきましたね。
池田 
よーし、精一杯真面目に答えてみよう・・・。観光客として京都の路地裏を歩く時は、正直、車が怖いです。道が狭いから仕方ないですよね。歩道が広がるのは観光客としては嬉しいですけど・・・住民の方にこれ以上ご不便が掛かるというのであれば・・・うーん・・・あとは、住民の方と市のほうでの密接な議論をしていただき・・・って、もう無理!勘弁してもらっていいですか(笑)
__ 
なるほど。
池田 
ただ、観光客としては車が少ないというのが嬉しいな、と思います。エリアによる交通手段の切り分けが進んでいくのはありがたいです。
__ 
分かりました。
池田 
中村さん京都出身なので、彼女の方にも聞いてみたいところですね。
__ 
いかがでしょう。
中村 
(今回同席の、表現・さわやか制作の中村さん)河原町と四条通ってすごく沢山人が歩いているので、めちゃめちゃ歩きにくいんですけど、今は道も広がっていて歩きやすいんですよ。あれは私は助かります。でもバスが止まったら、どうなるんだろうと思います。
__ 
バスは問題ですよね。
池田 
そうですねえ、京都はこれからもっと観光地として人を呼ぶでしょうが、住みたい街としてもランクが上がってますよね?オリンピックを前にして、各地で木之瀬さんが憤ってらっしゃるような、無理な都市改造計画がまかり通ってしまうのかも知れませんね。問題が起きている京都がモデルケースになってタウンミーティングを重ねるなど、よりよい方向に向かっていけたら・・・なんて薄っぺらいまとめでご勘弁ください!
__ 
観光客を交えたタウンミーティング。京都なら実現出来るかもしれませんね。
池田 
私はそこまで責任を負えないので参加はしかねますが・・・
__ 
私は地下道を作ったらいいと思いますね。碁盤目と対応する地下道。斜めの道も作ったら面白いんじゃないかと。普通に犯罪の温床となりますが、致し方ないでしょう。
池田 
京都をもっと、観光地として、より一層、重たいなこのテーマ。東京もんとしてはそう思います。

街が変わる

池田 
街が変わるといえば、下北沢も変わりましたしね。工事で町が一変しました。
__ 
えっ!?それは困る・・・
池田 
別の意味で混乱していて。街としての魅力は今ちょっと、ぶれてしまって見えないんです。これからまた、どう変わっていくのか。ここ(天六)のような魅力は無くなったのかな。
__ 
うーん、私はあの下北沢が好きなので、残念です。
池田 
でも、下北沢ぐらいの新しい街だったら変化し続ける事も宿命なのかもしれませんね。老朽化で、いずれにしろ改築しなくてはならない店も劇場も多かったかも知れませんしね。京都や奈良のような歴史のある街とは事情が違いますよね。
__ 
下北沢が変わるなんて想像出来ないです。
池田 
いえ、もう既に変わってしまったんですよ。工事は始まってしまった。でも実は、工事の前からちょっとずつ、街は変化していたように思います。
若旦那 
僕も下北沢に演劇を観に行ってたんです。東京の演劇の情報はそこから得ていた。でも一時から全然下北には行かなくなってるんです。自分の嗜好性の問題もあるかもしれないですけど、池袋とか王子に行ってるんですね。この間久しぶりに下北沢に行ったぐらいで。
__ 
個人的にはシモキタに芝居を見に行くのは一つの立派な観光ですけどね。
池田 
そうですよね・・・。工事が一段落したら、新しい下北沢の魅力が育つんだと思います。今はちょっと混乱してますけど。次の表現・さわやかの公演は赤坂にある劇場なのですが、赤坂はサラリーマンの街。美味しいご飯屋が多いです。下北沢にももちろん美味しいお店が沢山ありますけど、僕の馴染みの店はここ何年かで潰れてしまって。ま、若い頃に開拓した、大盛り最高!みたいなお店ばかりでしたけど。
若旦那 
学生街ですしね。
池田 
劇場のそばには美味しいお店がないとダメですよねえ。ちゃんとデートコースにならないとなあ。お芝居だけ観に来ないと思うんですよね。

派手な殴り合いも、ギャグ映画も

__ 
いつか、どんな演劇を作りたいですか?例えば、予算が300億円あったら。
池田 
予算って、やりたい事をやってたら意外とどんどん減っていくものなんですよね。さすがに300億あったら減らないでしょうけど。これ、友人俳優のアイデアなんですけど、舞台の上の方に、罠に掛かった仲代達矢さんがいて、無言でずっと睨んでたら面白くない?って。そりゃあむっちゃ面白いね!と。それをパクって・・・サミュエル・L・ジャクソンが壁から顔を出しているけど、何も喋らないという、ほぼ無駄な使い方をしてみたいですね。
__ 
壮大な無駄ですね!壮大といえば、個人的にはマッドマックスみたいな芝居を見たいですね。実はさっき見てきたんですよ。評判通り、めちゃくちゃ面白かったです。
池田 
僕も見ました。すごいですよね。凄く面白かった。でも僕が芝居にしたいのはアベンジャーズなんですよ。予算はあんまり多くなくても良くて、とにかくアクションがやりたいですね。いまのアクションはカンフー寄りの殺陣が主流で、打ったら止める、なんですが、僕は肉弾戦が見たいんですよ。打ち抜いて拳が痛ってーってなる。マッチョな、バーンってなる。アベンジャーズはケンカで、その殴り合いが見ていて爽快、なんですよね。そういうのがやりたいなあ。スーパーヒーローものは面白いと思います。アベンジャーズの権利を買って。
__ 
100億でスーツを作って。
池田 
プレビュー期間を一ヶ月作って。それから、ギャグ映画。僕はアメリカのギャグ映画を見て育ってきたので、そういう路線も日本はウケると思うんですけどね。

正直気持ち悪くなるくらい恋愛してる

池田 
演劇って、脚本が出来上がっていない状態で宣伝を始めないといけないので、「面白いですよ!観に来てください!」って言えば言うほど面白くなさそうな気がしてしまうもので。でも、観に来てくだされば絶対に面白さは伝わるんですけどね。どうしたら未知のお客さんに、面白さを伝える事が出来るんだろう。「SAVE THE CATの法則」という、アメリカの人が書いた脚本についての指南書を読んだんですけど、「あなたの脚本を一、二行に要約し、それが面白いと思えなかったら、その脚本は面白くないのだ」って書いてて。やべえ俺できねえってなったんです。で、今回の芝居を一行にまとめると「中年達が演じるガチの恋愛劇」なんです。
__ 
恋愛!
池田 
舞台での恋愛って意外と、ドラマチックなキスシーンじゃないですか。キスまでのいろんな駆け引きとかやり取りをリアルに演じるんです。中年が。これ見たいですか?だいぶ気持ち悪いですけど見たいですか。中年が駅の暗がりでたっぷりとチュッチュッしてる光景を見たくはないですか?ちゃんと笑えるものにするので大丈夫なんで、ちゃんと見ましょうか。困るかもしれませんけど。
__ 
嬉し恥ずかし、ですね。
池田 
そこでの会話や、歩きながらさりげなく交わすアイコンタクトとか、それをちょっと1時間半、やりたいなと思います。
__ 
ある日の神戸での取材の帰り、安い寿司屋に入った時の事です。隣に熟年男女の二人連がいたんです。詳細は省きますが、まだ付き合う前の間柄だったみたいで、「恋愛を楽しんでる」って感じでした。それが見れるんですね。
池田 
それが見れますし、あなたの封印したい過去を思い出させてみましょうよ、という、なんともムズムズする公演です。アイドルなり女優なりが失言で炎上した時も、SNSでおじさん達が「彼女は若いんだからしょうがないじゃないか!」とか庇ってるのを見ると、それは恋ですよ、と思うんです。そういうムズムズする感じ。
__ 
恋愛って二十歳ぐらいの頃までは命のやり取りじゃないですか。30歳を越えると本当の意味での生命のやり取りになってしまう。が、40を越えるとどうなるんですか?単なるドキドキゲームになるんですか?
池田 
恥ずかしながら、30・40代で一回ずつ大失恋をしてるんです。死ぬかと思いました。どちらも、ああこれは死ぬなと。寝れないし、二時間毎に起きるし、ラーメンとかを口に入れる時ですらため息が強すぎて吸えないし。50代・60代もきっと同じで、例えば夫婦の連れ合いが死なれたら、その後追いで死んでいくんでしょうねきっと。命のやり取りとしての恋愛は、10代だろうと110代であろうと、きっとずっと変わらないと思うんですよ。
__ 
そんなものを見るとは、命がけですね。
池田 
そのぐらいの気持ちでお越しください(笑)
若旦那 
僕も40手前になって、周りが大体結婚すると、僕はどうするんだろうなあと思い始めるんですよ。若い恋愛ものを見ては自分には無かった過去を無理矢理振り返ってため息を付いたりするし。昔は全然分からなかった不倫ドラマを見て、いま共感したりするし。多分、この「TanPenChu-♥」を見たらキュンキュンすると思います。
池田 
安野モヨコさんの「ハッピーマニア」で、不倫してるダンナが失恋して泣いてるシーンがあるんですよ。「私の旦那がフラれて泣いてる」って。「私が泣きたいよ」って。まあ、失恋して死ぬのは男性の方だよね。
若旦那 
よく言いますよね。
池田 
ウチの婆ちゃんも爺ちゃんが死んで泣き続けて涙で失明しかけたんですけど、病院行って処方されたのが目薬で。「訳わからん」って。

バカで、アホで

__ 
これから演劇を始める人に、一言頂いてもよろしいでしょうか。
池田 
一緒に面白い事をしましょう。ですね。ふた昔前にあった「演劇やってる連中は喧嘩っ早い」って印象とはだいぶ違いますから。ウチら世代って、飲んで喧嘩とかしない優しい人が多いのでご安心を。一緒に何かしましょうね、と。
__ 
素晴らしい。
池田 
次の世代は、バカな事が好きな人が多いといいなあ。一緒にめちゃくちゃしましょう、と。ウチらもアホな先輩に救われたし。アホな先輩、有り難いんですよ。我々もそうありたいですね。

おふざけが演劇界を救うかもしれない

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
池田 
くすぶっていた時間が長いので、その分やりたいネタがもの凄く沢山あるんです。コント以外の物語の企画書も山ほどあって。宮崎駿監督も、カリオストロの城の後に、ボツにされていた企画書のストックを順番に映画化しているんだって話を聞いた事があって、僕もそれぐらい一杯ありますんで(笑)演劇も映画も沢山ストックがあるので、お声掛けください。企画募集などありましたらお教えください。やりたい事はいっぱいあります!
__ 
300億あったら上から順にやっていけますね。
池田 
そうですね。テッドの監督のセス・マクファーレンがアニメ制作もやってるんですけど、いやーガツガツしてますよね。でも、同じ気持ちです。次の公演「TanPenChu-♥」もかなりガツガツした僕の代表作になると思います。
__ 
ベテランのふざけた姿で、演劇界に勢いがついたら理想的ですね。
池田 
さっきの話に結びつきますが、イケメン俳優達との共演の機会が増えてますけど、まだまだ混じり合ってないと思うんです。ソッチ系の芝居とコッチ系の芝居って自ら線引きしないで、もっとぐちゃぐちゃに混じったらいいのにって思うんです。大阪の劇団とも、もっと交流出来ていい筈だと思うんですよね。だから今日、壱劇屋の大熊さんと、かのうとおっさんのおふたりとお話できるのは嬉しいですね。これは若旦那のおかげで。
__ 
壱劇屋とかのうとおっさんがウケたのは「愛嬌」があったからだと私は思っています。
池田 
ああ、分かる。
__ 
トレーニングの難しい分野。
池田 
本当に、愛嬌欲しいですね。
__ 
いえいえ、とんでもないですよ。そして、愛嬌の反対の「お高く止まっている」というのもきっと大事で。それぞれ違う分野だったとしたら、相性が違うなと思うのかもしれませんね。
池田 
僕はどっちでもないなあ。お高くとまったら単なる勘違いだし。愛嬌、欲しいなあ。

クローゼット用フレグランス

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
池田 
え、マジですか。何ですかちょっと。
若旦那 
このシステム、毎回ビックリするんですよね。
中村 
(笑う)
__ 
つまらないもので申し訳ありませんが・・・
池田 
ありがとうございます。開けていいですか。
__ 
もちろんです。
池田 
(開ける)これは。
__ 
それはですね、洋服ダンスの中に入れると香りと防虫効果があるやつです。
池田 
いや、これむっちゃオシャレですね。嬉しいです。
__ 
もし持っていたらとは思いましたが、いくつかあっても困らないだろうと。予備のオイルは売ってなかったんですけど・・・。
池田 
これ、嬉しいです。服がおっさん臭かったら妻に嫌われますから、ぜひ使わせていただきます!いやしかし、初めての経験です。インタビューされてプレゼントを貰うのは。


いろいろと試行錯誤

___ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、木之瀬さんはどんな感じでしょうか。
木之瀬 
よろしくお願いします。次に参加させていただく劇団しようよの稽古が始まりまして。それが一公演きりなんですけど、東京のせんがわ劇場演劇コンクールに出すんですよ。
___ 
あ、そうなんですね。一回きり。もうすぐですね。
木之瀬 
もう、2週間ぐらいしかなくて。『こんな気持ちになるなんて』という、劇団しようよとしては再演の作品なんですけど、今回は新しいバージョンになっていて。いろいろと試行錯誤しているところです。
Massachusetts
2012年、木之瀬雅貴を中心に結成されたスーパーコントユニット。"学問の街"として有名なマサチューセッツの名を冠す通り、「お笑い」を学問として捉え、多角的に考察。世に存在するあらゆる事象や現象、法則をコントに転換する実験グループである。様々なタイプ、触感の「笑い」を提供する。(公式プロフィールより)

KUNIO番外公演『ともだちが来た』

___ 
木之瀬さんはKUNIO番外公演『ともだちが来た』に出演されたということで、私は残念ながら拝見できませんでして・・・。ただ、とても良く出来た会話劇であり、それ以上に、舞台上で俳優たちによって作られた関係性それ自体に強度があったという噂を伺っています。まずざっくりと伺いたいのですが、出演された木之瀬さんとしてはどんな経験でしたでしょうか。
木之瀬 
まず、俳優としての実感がこれまでの中で一番強い公演でした。杉原邦生さんにはKUNIO11『ハムレット』のときもお世話になったのですが、その時はあっぷあっぷで。配役がまた主役のハムレットだったというのもあり、その重さを自分一人で持ち上げようとしたりして、周りが見えなくなったり、失敗も沢山しました。でも今回は、冷静に自分に何が出来るかというのを検証していけたのかなと思います。
___ 
なるほど。
木之瀬 
そうやって一つ一つを突き詰めて、積み上げる作業を繰り返しました。終演後に観てくれた人と話すと、多くの人が、俳優や演出についての言及よりもお客さんそれぞれの内面に迫る感想を持ってくださったのが良かったなと思いました。友達って何だろうって考えてくれたり、記憶や心象風景と重ねてくれたり・・・。作品に対して俳優が透けて見えるっていう僕の理想に、ほんの少し近づけたかもしれない。結果論ですけど、稽古で粘って積み上げたことが間違ってなかったことを証明できた気がしました。
KUNIO番外公演『ともだちが来た』
公演時期:2015/5/14~17。会場:元・立誠小学校 音楽室。

しびれ

___ 
その「俳優としていま出来る事を積み上げる」作業について。それはもちろん、演技を支える役作りという基本的なことだと思うんですけど、プラスアルファの思考があるんじゃないかと。そこで、『ともだちが来た』でのどこかひとつの演技、「これは自分では良くできた」と言える成果を例にとって、どんなお考えで進めたのかをお聞かせください。
木之瀬 
今回、演出家には「状態を見せろ」という事を言われてたんです。前作『ハムレット』の時は戯曲の構造に則って、感情を「言葉」に乗せるという事に集中していたんですけど、今回は言葉ではなく身体を見せるっていう、ある意味反対の事に取り組みました。
___ 
なるほど。
木之瀬 
『ともだちが来た』という作品は、「友達」という存在が「私」の家に来るところから始まります。僕が演じたのは「私」。その友達は既に死んでいるんですが、それが劇中ではなかなか明示されない。半分すぎたくらいで友人の口から死の事実が語られ始めて、それによって私の心がだんだん揺さぶられてくる。その場面で、あるタイミングを境に私が「いやいや、俺だってこう感じてんだよ」みたいに反撃していくんですけど。
___ 
ええ。
木之瀬 
そもそもこの二人の関係性は、何となくヒエラルキーを感じさせるんです。昔、いじめや迫害なんかがあったかもしれない。おそらく、私が友を蹴落としたのだと解釈したんですけど・・・。そんな友の言葉に揺さぶられつつ、反抗して切り返す演技が凄く難しかったんです。戯曲では「私」はそこで急に饒舌になるんですが、さっき言ったようにただ言葉に感情を乗せるだけでもダメで、「言いづらい事をあえてあっけらかんと喋る」っていう演技で処理するのも違うんだ、なんていうふうに演出家とディスカッションしたりしながら試行錯誤して。「状態を見せろ」とも言われているし。
___ 
そこが難しかったんですね。
木之瀬 
僕は元々、ひたすら発散のエネルギーで演技をしてしまう癖があって、以前邦生さんに矯正されたんです。当たり前の事ですが、感情・動機をちゃんと作ってから発語しろと。『ハムレット』の時はそのやり方をきちんとやることで対応できたけど、『ともだちが来た』ではそれでは対処が出来ないという場面が発生した。迷った挙句思いついたのは、矯正される前の「よくない演技の作り方に戻す」というやり方でした。役の感情が出来ていないのに行動・発語してしまうというのを、意識してやってみたんです。
___ 
おお。
木之瀬 
役の状態と自分の演技のやり方が、見せ方として合わさるかもしれないと思って、本当に賭けでやったんですよ。気持ちが出来ていないのにしゃべり始めると、呼吸が浅くなって手足がしびれ始めるという感覚が僕の中にはあるんですけど、それをあえて生じさせた時に上手くいって。「状態」を見せる形にすることができたんです。
___ 
衝動を演技で表現する時に、あえてそうする。役者にも人物にも分からない衝動だから。
木之瀬 
まあ最初からずっとやっちゃうとへたくそだという事になってしまうので、タイミングを見定めると効果があるのかな、とは思いました。

劇場外と融け合う

___ 
会話劇をしているときに役者に起こっている事、起こっていない事、そして起こるべき事について考えていければと思います。木之瀬さんの場合、会話劇をしていた時に、どんな実感がありましたか?
木之瀬 
僕の場合、本番になると完璧主義の性質が出るみたいで。稽古場と違う事に過敏に反応してしまうみたいなんです。
___ 
というと。
木之瀬 
共演した田中祐気は、本番になったらとりあえずやっちゃえっていうタイプなんですけど、僕はその逆で。今回、元・立誠小学校の音楽室が会場で、遮光パネルもカーテンも開けて外の光や音がばんばん入ってくる状態で上演したんですが、そういうのがお客さんには気になってしまうんじゃないかとか考えちゃうんです。「あ、今カラスが鳴いた」とか気づいちゃうし。でもお客さんにとってはそれは舞台上と等しくひとつの情景ですからね。共演者にも言われたんですけど、気にしすぎだと。
___ 
そうした傾向は前から?
木之瀬 
演技は荒いくせに、そういうことに敏感で。周りが見えたうえで捨て去るべきだと反省しました。
___ 
昔、劇団どくんごの野外公演で、役者が全然関係ない向こうの道路を通り過ぎる救急車の音に反応するという演技があってそれはとても面白かったんですけどね。ネタとして。
木之瀬 
そこまで意識的にコントロール出来ればいいですよね。ノイズと融け合える、みたいな。

一つの大きなエンジン

___ 
『ともだち』では、弛緩していないように見せなければならない、そういう演技で緊張する身体、という事だったのかなと思うんですが、基本ベースとしてどんな状態を見せようと思われましたか?
木之瀬 
稽古場でダメ出しを受ける度に気づいたことがあって。感覚的な話なんですが・・・。
___ 
伺いたいです。
木之瀬 
全体を見ていくような、視点が高く広くなっていくんです。役が動く所作には、一挙一動に感情と動機と理由があって、でもそれらを一つずつ細かく作っていくというよりは、実は全てを動かすエンジンは一つなのでは、と。動きの一つずつにエンジンが違うんじゃなくて、でっかい一つのエンジンが稼働して、それが各所に作用していって指先に到達する。大きいエンジンがあれば、外界の細かい事は気にならなくなっていくと思うんですよ。樹形図の反対みたいな。時には最下層の細かいエンジンを使い分ける事もあるんですけど。
___ 
木之瀬さんには一つの大きなエンジンがある。
木之瀬 
はい。

芸人に

___ 
芝居を始めた経緯を教えてください。
木之瀬 
元々はお笑い芸人になりたかったんです。2003年に起こったお笑いブームの時に、「芸」っていうものがかっこいいなあと思って。その道の途中でラーメンズに出会いました。ラーメンズがちょっとお芝居チックな事をやってるのをみて、自分も真似してみようと。中学三年の時に初めて脚本を書いて演出してみたんですが、周りの反応が良くて調子に乗って。その流れで高校でも演劇をやって、大学もその方面に行こうと思いました。演劇学科のある大学というと日大を奨められたんですけど、京都に来たくて京都造形芸大に入りました。目標はいろいろマイナーチェンジを繰り返して今に至ってますが、未だにお笑い芸人は最高にかっこいい職業だと思っています。

質問 黒木 夏海さんから 木之瀬 雅貴さんへ

___ 
前回インタビューさせていただいた、黒木夏海さんから質問です。「自分がいけてると思う時はいつですか?」
木之瀬 
舞台上にいるときです。僕が出演した舞台を観てくれた初対面の人に「舞台以外だと案外小さいんですね」と言われたことがあって、逆説的に舞台上では少しは大きく見えてるのだと気づいて。たぶん態度がでかいからですね。そのおかげで、私生活はぐうたらな人間だけども舞台上でさえいけてるのならいいか、と開き直れました。

futurismo『珈琲が冷めるまでの戦争』

___ 
futurismo『珈琲が冷めるまでの戦争』も出演されましたよね。3月でしたね。面白かったです。
木之瀬 
口語調の芝居を全くやった事がなかったので、大学を出る直前のタイミングでやれて良かったです。
___ 
匿名劇壇の福谷さんの脚本でしたが、合気道みたいな芝居でしたよね。恋愛における、こうきたらこう返す、ああ来たらこう返すみたいな。その応酬がとてもキレイだったんです。恋愛はもしかして武道の組み手に近いものなんじゃないかと。スポーツ観戦みたいな気分になっていました。
木之瀬 
それはもう、福谷師範が稽古を付けて下さったからですよ。太刀筋が見えていらっしゃるんです。
___ 
戦術の応酬でしたよね。そういう戦争。主宰の松永渚さんに一言。
木之瀬 
本当に誘っていただいて良かったなと思ってます。共演したのが活躍されてる方ばかりだったので、それはもう刺激的な毎日でした。早く追い越したい。
___ 
そういえば、木之瀬さんとは昨年の4月に行われた「gateユース」の時、Massachusettsで出会ったんですよね。あれは良かったです。大学で学ばれた事が生かされてたのかなと。
木之瀬 
生かそうとは思っていなかったですけど、同じ学び舎にいた者達なので自然とそうなったのかもしれません。Massachusettsは今後も可能な限り続けたいなと思っています。将来有望な人たちばっかりなので、みんなが有名になってその名前だけでお客さんを呼べるようになったら再始動します。次は幕張メッセとかでやりたいです。
futurismo
俳優・松永渚の演劇ユニット。イタリア語で未来派という意味を持つ単語だが、本人の勘違いにより、ここではフィチュリスモと読む。『今』をコンセプトに、関西の同世代を招いた本公演にて旗揚げ。(公式サイトより)
futurismo #1「珈琲が冷めるまでの戦争」
脚本・演出:福谷圭祐(匿名劇壇)
出演:松永渚 西分綾香(劇団壱劇屋) 佐々木誠(匿名劇壇) 佐々木ヤス子 木之瀬雅貴 福谷圭祐(匿名劇壇)
公演日程:3月26日(木)19:30 3月27日(金)20:00 3月28日(土)13:00 / 15:30 / 18:00 / 20:00 3月29日(日)13:30 / 16:00 3月30日(月)19:30 3月31日(火)20:00
会場:common cafe
匿名劇壇
2011年5月、近畿大学の学生らで結成。旗揚げ公演「HYBRID ITEM」を上演。その後、大阪を中心に9名で活動中。メタフィクションを得意とする。作風はコメディでもコントでもなく、ジョーク。いつでも「なんちゃって」と言える低体温演劇を作る劇団である。2013年、space×drama2013にて優秀劇団に選出。(公式サイトより)

東京で戦う必要

___ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか。
木之瀬 
東京で戦う必要があります。やっぱり競争相手の絶対数が違うし、そこで淘汰されるレベルなら淘汰されてしまえばいいとも思っています。もちろんそれは絶対嫌なんですけど、試してみなければ分からないなと。
___ 
そうですね。
木之瀬 
東京で通用する人材にならねばならぬという気持ちと、反面、田舎出身だから京都は単純に住むのが心地よくてここにいたいという自分も居ます。今後の事で言えば、住まいはどこにしても各地を往復をするみたいな事が出来ればと思います。フットワーク軽く。

黄色い絵小皿

___ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってい参りました。
木之瀬 
ありがとうございます。futurismoの現場で、僕が何をもらえるのかの予想が立てられていましたよ。
___ 
いえいえ、つまらないものですよ。
木之瀬 
(開ける)小皿ですね。ありがとうございます。大事に使います。


五月の暖かい日に

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。黒木さんは最近、どんな感じですか?
黒木 
最近はちょっと落ち着いています。やりたい事を模索している時期があったんですけど、それが段々と落ち着いてきて、今はわりと安定してますね。
__ 
気持ちが安定している、か。それは凄いですね。羨ましい限りです。
黒木 
安定していないんですか?
__ 
まあ。
黒木 
まあ、私も今までに比べてですけどね。

ikiwonomu第1回マイム公演「かつての風景」

__ 
来月公演予定の、ikiwonomu第1回マイム公演「かつての風景」。生演奏とマイムの作品という事で、とても楽しみです。マイム公演という事は、台詞は無いんですよね。
黒木 
そこはいまちょっと迷っていて。言葉を使ったとしてもマイムというジャンルでいけないかな…と思っているんです。演劇から呼んでいる人もいて、その方が台詞を発している時の身体、姿にはやはり生々しさがあって。人が生きているように見えるけれども、その台詞を無くしたマイムにいかにその姿を残すのか、それとも台詞も入れてマイムとして成立させるのか。
__ 
さじ加減の難しいところですね。
黒木 
喋ると演劇やん、ってなりかねないので。悩みながらも楽しくやっていますね。
__ 
どんな公演になりそうでしょうか。
黒木 
その、自分自身が見たいものを実現出来たらいいなと思ってます。人を見せたいというよりは、人を通してその奥に広がっている風景が見えたらいいなと思っています。その息づかいを見せたいですね。
__ 
マイム俳優から見えてくる風景。
ikiwonomu第1回マイム公演「かつての風景」
目の前にある写真。私を取り囲む人びと。
目の前にある写真。弾き語りをする男。
目の前にある写真。出された美味しい食事。
目の前にある写真。の中で笑っているひとりの人。
あなたは、だれ。
私は口いっぱいに広がる人参の香りを味わいながら、目を閉じる。
まぶたの裏は、真夜中のように暗い。
波の音が聞こえてくる。
【公演日程】
6月19日(金) 19:00
20日(土) 15:00 / 19:00
21日(日) 11:00 / 15:00 / 19:00
22日(月) ★13:00 / 17:00
★6月22日(月)13:00の回は、平日マチネ割(500円引き)
[一般]前売2500円 当日3000円
[ユース(25歳以下)・学生]前売・当日共に 2000円
[高校生以下]前売・当日共に 1500円
【会場】KAIKA
【出演】岡村渉 / 菅原ゆうき(兵庫県立ピッコロ劇団) / 豊島勇士 / 仲谷萌 / 黒木夏海

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