質問 笠井 友仁さんから 吉見 拓哉さんへ

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エイチエムピー・シアターカンパニーの笠井さんから質問です。「演奏する空間を自分で自由にプロデュース出来るとしたら、どんな空間で歌いたいですか?」
吉見 
憧れみたいなんは色々あるんですけど、例えばチバユウスケはアンプの上にマリア像を置いてたり、ニール・ヤングは大聖堂みたいなとこでインディアンの像やらピアノやギターを適当に置いて、曲ごとに移動して持ちかえたり……みたいなんかっこええなとかは思うんですけど。僕の場合は、正直今は特に無いです。どんな場でもやります、っちゅうのが強いです。

歌う

__ 
「劇団しようよ」の劇伴もやってるんですよね。
吉見 
はい(笑)まあでも、最近は稽古に参加するのは少なめで、その時々にある出来たての曲やら出来かけの曲やら、以前の公演で弾いてたフレーズやらを聴かして「それ!」とか「ちゃう!」とか言われて、まあそれで合わせる感じです。「あゆみ」で歌ってた曲も、勝手につくってきてたまたま合った感じで。今までも正直「劇伴用」みたいなんでつくったことないです。
__ 
いつか、どんな歌が歌えるようになりたいですか?
吉見 
どうやろなあ。いま、既に歌えてるんで大丈夫です。細かい事はいっぱいあるんですけど……日常で思った事を、言うてた仏教やら哲学やらの普遍的な方向に持って行って(笑)完成させるみたいな事が多いんですけど。分かる人は分かってくれはるんですけど、言うて小難しく自分の事歌ってることが多いので、ポカーンとされがちっちゅうか。なのでなんか、やらかいことも歌いたいんですけど……「君が好き」的なこと歌おうにもどうしても「嫌いな時も絶対あるやん」とか思ってまうし……。

これから

吉見 
戦争をどうやって止めるか、とか。あの、政治的な話やなくて、戦争は日常に腐るほどあると思ってるんです。朝起きて寝るまでに何回戦争起こっとるんやいうくらい。例えば上司に嫌味を言われたとして、それにどう報復しようかとか考えたらそこでもう戦争始まっとるんすわ。そう言う、一個一個の日常の戦争をどう終わらすか。何か嫌味を言われたとしても、例えばその上司がたまたま寝不足で機嫌悪かっただけとか、そんなんほんまの理由なんか分からへんし。実際にほんまに仕事が出来てなくて嫌味言われんねやったら、嫌味を言う上司を悪もんにするんやなく、嫌味を言われる原因を自分で無くしたる、と腹くくるとか。そうやって原因詰めたりやることやってたら、多少恨みとか怒りとかの感情が薄まるんちゃうかと。人間の思考ってすぐには変化しないので、大体しんどい感情湧いたら割と長いことそのまんまなんすわ。ほんで更に円がバラバラのまんまやったらずっと、こう、ほんまにあるかどうかわからん霞みたいなもんに責任押し付けて、切りあらへん。でもこう、ちゃんと自分のせいやと思って、ほんで出来るだけ自分のせいやと思える範囲広げていけたらええんちゃうかと思ってます。……あの、もうすぐ27歳なるんですけど、ロックの人凄かったら27で死ぬ伝説みたいなんあるんですけど(笑)。僕は言うて長生きすると思いますし、ライブもずっとします。

五線譜テープ

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今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
吉見 
あ、ありがとうございます。開けていいですか。
__ 
もちろんです。マジに大したものじゃないんです。
吉見 
(開ける)おほっ、なるほど。楽譜デザインのマスキングテープすな。ようマスキングテープ使うので、ありがたいです。
__ 
あ、それは一応、五線譜として実用できるものなんですが……
吉見 
あああ、あの、楽譜的なやつ一切分かんないんすわ……何もかも勘です(笑)


現代演劇レトロスペクティヴ エイチエムピー・シアターカンパニー 『阿部定の犬』

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今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。本日は、次回公演「阿部定の犬」について伺えればと思います。まず、今回はどういった経緯で企画が立ち上がったのでしょうか。
笠井 
よろしくお願いします。この公演はAI・HALLの現代演劇レトロスペクティヴという企画で、先方から佐藤信さんの戯曲をという事で頂きまして。佐藤信さんは、当時の言葉で言うと「アングラ四天王」と呼ばれていまして。つまり唐十郎さん、寺山修司さん、鈴木忠志さん、佐藤信さん。このような偉大な日本の劇作家の作品をやれるんですね。佐藤信さんの戯曲をいくつか読んでいたんですが、鼠小僧次郎吉シリーズもしくは昭和三部作、どちらにしようと思ってたんですよ。
__ 
ええ。
笠井 
僕は昭和54年生まれなんですが、その年の生まれって10歳になるかならないかで年号が平成に変わっているんです。実は昭和に対する実感はそれほどない。昭和の真っ只中には生きていないですからね。だからこそ私自身、昭和という言葉に懐古的な魅力を感じていたんです。そういう訳で昭和三部作に興味が出て。中でも「阿部定の犬」は昭和11年の2・26事件から始まる1年間の話。佐藤信さんがこれを上演したのが昭和50年。という事で、そのおよそ40年後に当たる現在、もしかしたら共通点があるんじゃないかなと思って選んだんです。
エイチエムピー・シアターカンパニー
2001年に「hmp」という劇団名で活動を始め、ハイナー・ミュラーの作品を中心に舞台作品を発表。2008年に現在名に変更する。現在は『「再」発見』を劇団のミッションとして忘れられていたことを掘り起こすこと、見過ごされてきたことに焦点を当てることを軸に、主に
1. 同時代の海外戯曲シリーズ、
2. 現代日本演劇のルーツシリーズ、
3. 実験的なオリジナル作品
のカテゴリで創作を行う。演出の笠井友仁が日本演出家協会主催<若手演出家コンクール>にて優秀賞や2014年に上演した『アラビアの夜』の演出にて平成26年度文化庁芸術祭新人賞を受賞している。
現代演劇レトロスペクティヴ エイチエムピー・シアターカンパニー 『阿部定の犬』
作:佐藤信
演出:笠井友仁
出演:高安美帆 / 森田祐利栄 / 米沢千草 / 澤田誠 / ごまのはえ(ニットキャップシアター) / 中村彩乃  / 赤星マサノリ(sunday) / あらいらあ / 有北雅彦(かのうとおっさん) / 合田団地(努力クラブ) / 熊谷みずほ / 諏訪いつみ(満月動物園) / 林田あゆみ(A級MissingLink) / 稲葉良子 他
【伊丹公演】
2015年8月6日(木)18:00
7日(金)18:00
8日(土)14:00
9日(日)14:00
【東京公演】
2015年8月19日(水)18:00
20日(木)14:00

「阿部定」というヒーロー像

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まず、阿部定という人物について。男性の局所を切り取って逃走し、その後多くの文化人のアイドルになったり色々あって最後には小料理屋の女将になり、今は行方消息不明。その適当さたるや、まるでモンパルナスのキキですね。ファム・ファタールの典型例だと思うんですよ。笠井さんはどう思われますか?
笠井 
もっともだと思います。まず阿部定の時代についてなんですが、昭和天皇という人が当時、もの凄く重要な人物だったんですね。言葉は違うかもしれないんですが一種のヒーローだったんです。彼に対して対抗出来る唯一の巨大なヒーローが阿部定だったと思うんです。
__ 
ヒーロー?
笠井 
昭和11年に関しては、2・26事件よりも阿部定の事件の方が興味を引いたと思うんですよね。阿部定の事件は自分達に身近で、鬱屈した時代の気分を一新してくれる事件だったと思うんです。残虐性だけじゃなくて、一種、英雄視された部分があるんじゃないか。この戯曲「阿部定の犬」の舞台は「東京市日本晴区安全剃刀町オペラ通り」に「あたし」と名乗る阿部定が訪れて町を引っ掻き回すというお話です。さて、阿部定の起こした事件、つまり異性の生殖器を切り取るというのは、自分の子、遺伝子、つまりコピーを残せないという事ですよね。これは町とか国とかにとってかなりの脅威な訳です。
__ 
子孫のメタファーを殺害されるという事ですね。
笠井 
天皇を頂点としたイエ制度は、今もやっぱり私たちのバックグラウンドにはある訳じゃないですか。この時代の人たちにとっては特に。阿部定はそれを断つ能力を持っていたという訳だから、町の人々にとって脅威ですし、いわゆる国という体制からしても脅威なんですよね。それがこの戯曲の中心になっています。
__ 
事件のセンセーショナルさが人々を驚かせ、メタファーの殺害という意味では人にも国にも脅威を与えていた。
笠井 
芝居の楽しみ方としては、そうした作家の思惑はありますが、下品さとか残酷さ、そして笑える部分を楽しんで頂ければと思います。私からすれば下ネタのオンパレードですね。
__ 
とても楽しみです。合田団地とかもいるので、彼の薄暗い下ネタは楽しみですね。
笠井 
彼の役柄もとても独特で、楽しんでいただけると思います。

にんじょう沙汰

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阿部定のヒーロー像について、もう少し。何故、その時代の人々にとって彼女はヒーロー足り得たのでしょうか。
笠井 
私も資料をあたってはいるのですが、中々、その時代の人の気持ちに共感するところまではいっていなくて。でも、当時1935年の三大事件とされる「2・26事件」「阿部定事件」、それから、上野の動物園から黒豹が脱走した事件があったそうなんです。3つの事件に共通するのは、緊張感のある事件であったこと。一見、どれもハッピーな事件ではない。その中でも人々が話して楽しめるのは「阿部定事件」。彼女の事件の理由としては、愛する男を我が物にしたいが故に殺しているという事に共感を覚える。現代の私たちが聞いてもロマンを感じませんか。
__ 
感じますね。
笠井 
首を締めて殺した訳ですけど、その日初めて締めた訳じゃなくて、性行為に及んだ時に何回か締めた事があるそうです。その日男が「そのまま絞め殺してくれ」と言う訳ですよ。我が物にしたい彼女としては「じゃあいっそ・・・」と思うし、「その時、まさか本当に死ぬとは思わなかった」と言ってる訳なんですよ。彼女が恩赦によって刑期が短くなり釈放されるというのは、そこまでひっくるめて、運命みたいに思いますよね。
__ 
ドラマティックですよね。
笠井 
相手の男には妻がいましたから、その妻に性器が触れられるのを嫌って切り取ったそうなんですね。そこだけは誰にも触らせたくないという思いで。「阿部定の犬」の「あたし」も、その性器を風呂敷に包んで大切に持っているというところからスタートしています。

矛盾の時代

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先ほどおっしゃっていた、現在と阿部定の事件の共通点とは。
笠井 
昭和というと、どうしても私なんかは戦争を思い浮かべてしまうんですよ。いわゆる高度経済成長期を含めて、戦後の昭和と戦中の昭和が念頭に出てくるんですね。ところが戦前の昭和というのがあって、1936年は戦前の昭和なんですね。でも戦中の昭和と近いものはある。現在との共通点で言えば不況、大震災(関東大震災と東北大震災)、非常に社会の制度が変わったこと。実は私の祖母に、1936年の思い出はないですかと手紙を送ったんですが、その返信が返ってきて。祖母は当時中学生くらいの年齢だったそうですが「嫌な思い出しかない」と。当時既に憲兵隊というのがあって、妹と一緒に闇市にいたら憲兵隊に目を付けられて追い回されたとか。
__ 
キツいですね。
笠井 
その反面、宝塚歌劇団や、SKD(松竹歌劇団/Shouchiku Kageki Dan)があり、大衆文化が華やかに開きつつある時代でもあったんです。政治的には非常に不安定でもあり、けれども人々は賑いを見せていた時代でもあったんです。アルファベット3文字の女性グループが流行しているのは非常に今っぽいじゃないですか。これから昭和を迎えるのかもしれない。「阿部定の犬」は、これから我々が迎える『昭和』を予言する作品であるのかもしれません。
__ 
どんな気分で昭和を迎えなおすのがベストなんでしょうか。
笠井 
それは最悪の気分になると思います。また昭和を迎えないように色んな人が発言していっていますよね。例えば原発の事だったり、憲法の事だったり。それをもし放っておくと、再び1936年を経て戦中の昭和を迎えるという事を危惧しているからです。

パフォーマンス/オーケストラピット

__ 
少し話題を変えて。俳優を考える時、つまりキャスティングする時、俳優に求める事はなんですか。
笠井 
僕の個人的な嗜好で言うと・・・演劇の持つ魅力を十二分に見せてくれる俳優に魅力を感じます。ではどういう部分がその魅力なのかというと、何もない状態でも物語を伝えられる事だと思うんですね。それは語りやマイムでもいい。シンプルな空間にあっても、そうしたパフォーマンスだけで魅力を伝える事が出来ること。
__ 
なるほど。
笠井 
今回、スタッフ全員で話して、「阿部定の犬」のキャラクターを膨らませるキャスティングをしたつもりです。中でも、東京の青蛾館からお越しいただいた、のぐち和美さんは蜷川幸雄さんの「ハムレット」にも出演されていてぜひ注目して頂きたいです。他にもとても面白いキャスティングですので、楽しみにしていただきたいです。
__ 
キャスティングも楽しみです。いつか、こんな芝居を作りたい、というのはありますか?
笠井 
うーん、それはある意味究極の質問ですね。今は「阿部定の犬」に全力で取り組んでいて。それを考えるにしても来年度という事になりそうです。ただ、「阿部定の犬」をどういう芝居にするかといえば、実はこの作品のベースにあるのはブレヒトの「三文オペラ」なんですね。ブレヒトは当時、クルト・ヴァイルという音楽家とタッグを組んで、砕けたオペラを作っていたんですね。「三文オペラ」というのは、ジョン・ゲイが当時作った「乞食オペラ」をベースにしているんです。貴族達に見せるものよりも、ずっと砕けたもの。僕も将来、機会があったらオーケストラピットに音楽家達を招いて、くだけた形の音楽劇をやってみたいなと思います。今回も音楽劇である事は間違いないんですが、残念ながらオーケストラピットまでは作れないです。いつかやれるなら、50名の人物が出てくるような音楽劇をやりたい。
__ 
最近よくインタビューで使う質問の中に、「300億円あったらどんな作品を作りますか?」というのがあるんですが、それぐらいあったらオーケストラピットごと3つは並べられますね。
笠井 
もしそれぐらいあったら年間を通じて作品を製作しますね。
__ 
素晴らしい。逆に、そういう風に定期的に開催しなければガラコンサートとしてやる意味も半減しますね。
笠井 
クルト・ヴァイルの楽曲を編曲した形で作るんですけど、彼のオペラはやっぱり興味深いんですよ。全く新しい事をやっています。音楽の専門家に聞いたところ、彼がポップスのベースを作ったそうなんです。今の人が聞いて親しみやすい要素があり、ワルツとかタンゴの要素のある楽曲もある。耳が楽しいんですよ。是非聞いて欲しいですね。

進まなかった道

__ 
笠井さんは演劇をやっていなければ何をしていたと思いますか?
笠井 
高校の進路調査で、将来何になるんだと聞かれて、1番目に詩人、2番めに考古学者、3番目にパフォーミングアーツ関係の職種を答えたと思います。

質問 池田 鉄洋さんから 笠井 友仁さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂いた方から質問を頂いてきております。表現・さわやかの池田鉄洋さんです。順番をミスってしまったので、吉見拓哉さんへの質問をそのままさせて頂きます。申し訳ありませんが・・・。「演劇の脚本を作る時、自分の実体験を使ったりしますが、恥ずかしくてごまかしたりするんですが、どうですか?」
笠井 
池田さんとは一度、精華小劇場での同じ演劇祭で遭遇した接点はありますね。その当時の事を思い出しました。2006年です。質問にお答えしますと、実体験は大事ですね。太田省吾さんの「更地」を演出したとき、私の結婚後のエピソードを話したりしないと実感の籠もった演出にはならなかったりしました。というか、実体験がないと何も作れないんじゃないかと思うぐらい。という訳で実体験はどんどん活用すべきだと思うんですが、それをそのまま出されてもお客さんは分からないと思いますので、それを加工するのが作品だと思います。実体験が1%しか残っていない人もあれば、半分ぐらい残っている人もいますよね。
__ 
自分の心のやわらかい部分を隠したいという気持ちも、中にはあるのでは。
笠井 
自分の感性が研ぎ澄まされていくと、隠したいというよりは見せたい、んだけど、そのまま見せられてもお客さんには通じないエピソードって沢山あるじゃないですか。そこで相対化していく作業が創作だと思うんですよね。でも隠さないで全て出す作家もいます。それはそれで魅力的ですよね。

広場としてのカンパニー

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
笠井 
そうですね。4、5年前のある時、新聞記者の方に受けたインタビューで答えた事なんですけど。「笠井さんは何を目的に演劇を続けているんですか?」と。その時答えたのは、「演劇を通じた出会い」でした。僕がもし仮に演劇をしていなかったら仕事場と家の往復だけの人生になっていたかもしれません。それも悪くはないと思うんですけど、自分としては色んな人と会って色んな事を吸収したい。今回の「阿部定の犬」で言うと、まずはクルト・ヴァイルの楽曲と出会えた事。これまで劇団では音楽は使っていたし楽曲製作をしてくれる吉岡一造さんもいますので、音楽に関心がなかった訳じゃないですけど、クルト・ヴァイルの楽曲と出会って刺激を受けられたんです。その為には、今後も出会い続けなければいけないと思うんです。Facebookの日記を読んでいるだけじゃダメだと思うんですよ。知識というよりは経験。これを伸ばすには、多くの人と出会い、人と出会えるようなある種の広場のような演劇を続けたいと思っています。もちろん年齢や身体の事もあるし、どこかでピークを迎えるかもしれません。でも70代・80代になっても続ける。こういう攻め方をしたいですね。
__ 
遠大ですね。
笠井 
ですから、名前を広めたいとか富を得たいとかの関心は、実は他の人よりも薄いかもしれません。
__ 
出会っていく、広場のような演劇。それはそこに集った人にとってもそうですね。
笠井 
そういう意味では、今の現場は理想的かもしれません。自分にとっても周囲にとってもそうした現場を作れるというのは、良い作品を作れる第一歩だと思っています。

一輪挿し

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
笠井 
本当ですか!ありがとうございます。そんな事があるとは。
__ 
どうぞ。
笠井 
開けてもいいですか。これは・・・
__ 
大したものではないんですが、何かの昭和の時代のデッドストックの花瓶です。安物で申し訳ありませんが。
笠井 
いえいえ。一輪挿しとして使えそうですね。公演が始まるとお花を頂くんですけど、部屋の色んなところに飾るといいんですよ。


表現・さわやか 番外恋愛公演「Tan Pen Chu-♥」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、池田さんはどんな感じでしょうか。
池田 
よろしくお願いします。何でしょうね、すごくラクになってますね。去年の9月に、これまでの集大成という事で10周年記念公演の傑作選を上演したんですが、やっぱり評価は高かったので。未だに、昔の作品をやっても面白いなあと思える。そういう事もあって、もっと磨きを掛けなくてはいけないという気負いよりは、好きな事をずっとやっていっても良さそうだという自信があると思います。年齢的に、40中盤になると変わるみたいですね。でも、もちろん挑戦は続けて行っているんですけどね。こんなバカなチラシを刷るぐらいですから。
__ 
このチラシ、いいですよね。
池田 
ギリギリだと思うんですよ、このチラシ。毎回やって下さっているデザイナーの方なんですけど、イメージとしてはかぼちゃワインみたいな世界で。
__ 
甘ったるい世界になりすぎもせず、でも目がどこかギラギラしている印象があるように思います。
池田 
鈴木砂羽さん、梅舟惟永さん、浅野千鶴さん、かもめんたるのお二人がノリノリでやってくださって。事務所の方も面白いですねって仰って下さって。これを楽しんで下さるというのはとても頼もしいなと思いますね。
__ 
表現・さわやかブランドだからこそ許される、みたいな。
池田 
いえいえ、そこまでの知名度は無くて。
__ 
実は私、表現・さわやかの公演を拝見したことがございませんでして。10年前から興味はあったんですが・・・。申し訳ありません。
池田 
いえいえ!だからこそ、お話を聞いていただける部分もあると思いますので。
__ 
ご協力出来れば嬉しいです。思えば10年前、「表現・さわやか」という団体が凄すぎるという記事をどこかで拝見したんです。その時から気になっていました。
池田 
10年前にふざけて「表現・さわやか」と名付けて、チラシも毎回ふざけきって作って。でももう一つどういう団体なのか伝わっていないのかも。でも、こういうチラシのような事をやります。
表現・さわやか
池田鉄洋が主宰するユニット。メンバーは佐藤真弓、いけだしん、岩本靖輝。(公式サイトより)
表現・さわやか 番外恋愛公演「Tan Pen Chu-♥」
【作・演出】池田鉄洋
【出演】
鈴木砂羽 / 岩崎う大(かもめんたる) / 槙尾ユウスケ(かもめんたる) / 梅舟惟永(ろりえ) / 浅野千鶴(味わい堂々) / 佐藤真弓 / いけだしん / 岩本靖輝 / 池田鉄洋
【東京公演】
赤坂RED/THEATER 2015年 9月5日(土)~13日(日)
【大阪公演】
HEP HALL 2015年 9月18日(金)~ 21日(月・祝)

見たいですか、「大人の学芸会」

__ 
「大人の学芸会」というキーワードを池田さんが仰っていたと思うんですが、実は私、昨月6月30日付で退職いたしまして。そうした身の上としては、色々と思うところがあります。池田さんがご出演されていた「サラリーマンNEO」の世界の、責任が分散された奇妙な会社の空間。チームワークが最重要視される、ある意味匿名の関係性。「大人の学芸会」は、そうした価値観とおそらく反対の生き方なのではないかと思うんです。池田さんは会社員経験はありますか?
池田 
ないんですよ。そんな役者がNEOでサラリーマンを演じていいのかって不安もありましたけど、バイトをしていた頃に見た「嘘でしょ」みたいなサラリーマンを参考にさせていただいたりと、まあ、評判はとてもよかったので及第点かな、と。サラリーマン社会と縁遠い、役者の世界に身を置き続けてきた私がサラリーマンの事を語る資格はないのですが、どちらも厳しい世界ではある、というのは間違いないでしょうね。我々は自由っちゃ自由ですが、一寸先は闇。簡単に干される。ちょっとした失敗でこの世界を追い出される。だから真面目に役者やってる人がほとんどですよ。
__ 
そうですね。
池田 
僕ら演劇って個人の名前で活動している訳で、変な話が流れたら一瞬で干される訳なんですよね。だからかなり真面目に役者やってる人がほとんどなんですよ。
__ 
個人事業主の世界。
池田 
守られていないんですよね。怖いです。

本当は改称したい

__ 
表現・さわやか 番外恋愛公演「Tan Pen Chu-♥」。東京公演と大阪公演がありますが、大阪のお客さんに何か一言頂ければと存じます。
池田 
まだまだご覧頂けていないお客さんも多いと思いますので、気になっていらっしゃる方には是非ご覧頂ければと思います。コントユニットと銘打ってますけど、実はそんなにコントというジャンルに特化している訳でもないんですよね。でも、笑いというところから逃げたくはなかったし、ハードルも下げたくは無いんです。
__ 
コントにこだわる表現・さわやか。
池田 
ちなみに、「表現・さわやか」という団体名にしたのは稽古場が借りやすいようにという狙いもあって。おばさん達がやってるような表現サークルの名前にすると借りやすい稽古場が結構あって、一番簡単に付けた名前なんです。そういうのがかえって力があるのかなと。サブカルチャーが好きな方にしてみるとちょっと物足りないのかもしれないですけどね。でも、こういうチラシのが気になっている方には、見ていただければ楽しいと思いますね。
若旦那 
(今回同席の若旦那家康さん)「表現・さわやか」っていい名前ですよね、という話を年に2度くらいはしますよ。上手くいってない団体名が数多くあるなか、なんて絶妙なラインを突いたネーミングなのか、と。演劇っぽくもなく、かといってシュッとしている訳でもなく。
池田 
へー。変えようと思ってたぐらいでした。演劇の世界でも浸透してないし。
__ 
改称するとなると、惜しいですね。
若旦那 
・(中黒)を入れるかどうかでかなり印象は違いますよね。制作で面倒くさいところなんですよね。

いつか消えてしまう、なんて

__ 
池田さんの、演劇人としての使命はなんだと思われますか?
池田 
僕、自分の事を演劇人って言っていいのか分からなくて。映画の脚本も書くしドラマの演出もするし。ずいぶん前に演劇にこだわる人座談会みたいなのに呼ばれた事があるんですけど、「演劇好きですよね!」って聞かれて「もちろん!」、っていまいち言えなかったんです。つまり僕は、演劇だけ好きという事じゃないんですね。TVに出る事に抵抗ある俳優も、また、逆の俳優もいますが、僕はどこでも、面白そうな事ならなんでもやりたい。
__ 
どこでも面白い事は出来るし、垣根を越えた面白さもある。
池田 
今、演劇がどの方向へ行くのか、ちょっと分からなくなっていて、プロデュース公演で脚本や演出として携わって余計分からなくなったんですけど、集客力の高い「テニミュ」出身のイケメン俳優たちを集めた公演で、我々はまあ、脇を固める的な出演ですし、かたや小劇場文化はどんどんストイックになっていて、お互いの観客層は被っていない・・・。僕らのような劇団出身の俳優たちは、そのうち商業舞台などへとバラバラに分散して、そのままいつか消えてしまうのか、そんな恐れはあるんです。
__ 
バラバラ・・・。
池田 
振り返れば僕らの世代は劇団間の交流は盛んでしたが、今、あまり協力しあえていないなあと気付きまして。カムカムミニキーナの松村武とか、阿佐ヶ谷スパイダースのメンバーとかとも共演する機会は減ってしまった。そこで、小林顕作くんと話したんです。「なにか一緒にできないかな?」って。あの頃より確実にいろんな事が「うまく」できるようになっている。経験を積んだ我々が協力しあえば、面白い事出来るんじゃないかなって。
__ 
なるほど。
池田 
毎回毎回、新鮮な気持ちでやってますし、より面白い物を!という思いでやってきましたが、ちょっと戦略を練り直さなくては、と思ってます。10年前から同じような事は思っているんですけどね。「ウチら面白い事やってるんだから、ちゃんと宣伝しなくては」って反省もあります。

肉食系の年代

池田 
先輩とお仕事をさせて頂いた機会に「いま演劇界が尻すぼみになってるのは僕らの責任。僕らがちゃんと次に伝えてこなかった。俺らがちゃんと面白い事をやっていれば、こうはならなかった」って言われたんです。いやいや、やってましたがな!って思いました。その言葉は我々世代へのハッパとして痛烈でしたね。先輩世代はとてもエネルギッシュで、まるで若手みたいにギラギラした人もいて。僕ら世代はその背中をみて、変わらず面白いものを作り続ける挑戦をしていかなくてはと、気付かされるんです。
__ 
そういう先輩の後ろ姿を見ているんですよね、我々も。
池田 
僕らの世代ってまだまだガツガツしていて。肉食系世代だから、これからもっと面白くなるんじゃないかなと思いますね。これからもギャグを産んでいきたいなと思っています。僕がマジメな事をやりだしたら終わりだと思って下さい。

質問 木之瀬 雅貴さんから 池田 鉄洋さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂いた木之瀬さんから、質問を頂いてきております。その内容がですね、ま、京都市内の方に限られるんですけど・・・
一同 
(笑う)
__ 
「京都の四条通の拡張工事についてどう思いますか?」木之瀬さんはあの工事に対して非常に憤っているそうで。この度の工事では四車線ある道路を二車線にし、歩道を拡張するという大工事なのですが、そのせいで車・バスが常に渋滞を起こしているんですね。京都市の計画の見通しの甘さと、既に起こっている問題に対しての市側の腰の重さを批判していました。池田さんはどう思われますか?
池田 
(笑う)やっべー、これは大変だぞ。
若旦那 
大喜利みたいになってきましたね。
池田 
よーし、精一杯真面目に答えてみよう・・・。観光客として京都の路地裏を歩く時は、正直、車が怖いです。道が狭いから仕方ないですよね。歩道が広がるのは観光客としては嬉しいですけど・・・住民の方にこれ以上ご不便が掛かるというのであれば・・・うーん・・・あとは、住民の方と市のほうでの密接な議論をしていただき・・・って、もう無理!勘弁してもらっていいですか(笑)
__ 
なるほど。
池田 
ただ、観光客としては車が少ないというのが嬉しいな、と思います。エリアによる交通手段の切り分けが進んでいくのはありがたいです。
__ 
分かりました。
池田 
中村さん京都出身なので、彼女の方にも聞いてみたいところですね。
__ 
いかがでしょう。
中村 
(今回同席の、表現・さわやか制作の中村さん)河原町と四条通ってすごく沢山人が歩いているので、めちゃめちゃ歩きにくいんですけど、今は道も広がっていて歩きやすいんですよ。あれは私は助かります。でもバスが止まったら、どうなるんだろうと思います。
__ 
バスは問題ですよね。
池田 
そうですねえ、京都はこれからもっと観光地として人を呼ぶでしょうが、住みたい街としてもランクが上がってますよね?オリンピックを前にして、各地で木之瀬さんが憤ってらっしゃるような、無理な都市改造計画がまかり通ってしまうのかも知れませんね。問題が起きている京都がモデルケースになってタウンミーティングを重ねるなど、よりよい方向に向かっていけたら・・・なんて薄っぺらいまとめでご勘弁ください!
__ 
観光客を交えたタウンミーティング。京都なら実現出来るかもしれませんね。
池田 
私はそこまで責任を負えないので参加はしかねますが・・・
__ 
私は地下道を作ったらいいと思いますね。碁盤目と対応する地下道。斜めの道も作ったら面白いんじゃないかと。普通に犯罪の温床となりますが、致し方ないでしょう。
池田 
京都をもっと、観光地として、より一層、重たいなこのテーマ。東京もんとしてはそう思います。

街が変わる

池田 
街が変わるといえば、下北沢も変わりましたしね。工事で町が一変しました。
__ 
えっ!?それは困る・・・
池田 
別の意味で混乱していて。街としての魅力は今ちょっと、ぶれてしまって見えないんです。これからまた、どう変わっていくのか。ここ(天六)のような魅力は無くなったのかな。
__ 
うーん、私はあの下北沢が好きなので、残念です。
池田 
でも、下北沢ぐらいの新しい街だったら変化し続ける事も宿命なのかもしれませんね。老朽化で、いずれにしろ改築しなくてはならない店も劇場も多かったかも知れませんしね。京都や奈良のような歴史のある街とは事情が違いますよね。
__ 
下北沢が変わるなんて想像出来ないです。
池田 
いえ、もう既に変わってしまったんですよ。工事は始まってしまった。でも実は、工事の前からちょっとずつ、街は変化していたように思います。
若旦那 
僕も下北沢に演劇を観に行ってたんです。東京の演劇の情報はそこから得ていた。でも一時から全然下北には行かなくなってるんです。自分の嗜好性の問題もあるかもしれないですけど、池袋とか王子に行ってるんですね。この間久しぶりに下北沢に行ったぐらいで。
__ 
個人的にはシモキタに芝居を見に行くのは一つの立派な観光ですけどね。
池田 
そうですよね・・・。工事が一段落したら、新しい下北沢の魅力が育つんだと思います。今はちょっと混乱してますけど。次の表現・さわやかの公演は赤坂にある劇場なのですが、赤坂はサラリーマンの街。美味しいご飯屋が多いです。下北沢にももちろん美味しいお店が沢山ありますけど、僕の馴染みの店はここ何年かで潰れてしまって。ま、若い頃に開拓した、大盛り最高!みたいなお店ばかりでしたけど。
若旦那 
学生街ですしね。
池田 
劇場のそばには美味しいお店がないとダメですよねえ。ちゃんとデートコースにならないとなあ。お芝居だけ観に来ないと思うんですよね。