・・・出会えて良かった
- ___
- この作品を一番見てもらいたいお客さんはいますか?
- たみお
- 見てもらいたいお客さん、は、既にご予約を頂いております。客層という事なら、若い方に見ていただいて「こういうのもあるんだな」と思ってもらいたいし、お芝居が初めての方にも、めっちゃ見ている方にも、子供にもおじいちゃんおばあちゃんにも見てもらいたいし。そうですね、劇場をシェアする方の層が、バラバラであってほしいです。色んな反応がごちゃまぜになってくれたらいいなあ。
- ___
- 素晴らしい。共通して、どう思ってもらいたい?
- たみお
- お話の作りはシンプルにしています。役者さんの面白い部分を出せたらと思っていますね。何か、こんなの出てきたぞ!って、単純に出し物を楽しがってもらいたいです。そこしかないかな。
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- サギノモリラボの仕掛けが楽しみですね。
- たみお
- こうなってほしいというのはあるんですけど、お客さんの反応は全然予想出来ないですね。
- ___
- 端的に、お客さんに何を手渡したいですか?
- たみお
- どうして「TWO」かと言うと・・・「一人では何も出来ない」、という。誰かと出会う事で、何かが出来上がっていくんですよね。既に出会っている人たちを改めて想って、出会えていたんだなという実感を手渡したいんだと思います。でも、そもそも自分という存在が、誰かと誰かが出会った末に出来上がっているんで・・・出会えて良かった、という。
匿名劇壇第五回本公演「二時間に及ぶ交渉の末」※
- __
- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、福谷さんはどんな感じでしょうか。
- 福谷
- いまはとりあえず公演真っ只中で、それが終わっても最近はもう色々やる事があって。充実しています。
- __
- 演劇を抜いたらどんな感じですか?
- 福谷
- それ以外はもうバイトしかしてませんね。コンビニとカラオケと。これから一人暮らしを始めるにあたって、コンビニの方を辞めました。
- __
- なるほど。匿名劇壇「2時間に及ぶ交渉の末」、大変面白かったです。本公演は初めて拝見したんですが、伺っていた通りメタフィクションでしたね。メタフィクションである自分自身達にも言及するぐらいメタの構造で、それが表現する内容自体とも一体になっていて。ご自身としては、手応えはいかがでしょうか?
- 福谷
- そうですね、メタフィクションとなるとどうしても小難しくなっちゃうんですよ。それが今回、初めてうまくエンターテイメントに持っていけたと思うんですよ。
- __
- 福谷さんはメタフィクションを使ってエンターテインしたいんですか?
- 福谷
- そうですね。これまで作ってきたものは演劇に対してのリテラシーが必要だったんですけど、今回初めて、演劇が初めての人でも楽しめるものになったんじゃないかなと思います。
- __
- そうそう、そういう感想がtwitterにありましたね。誰でも純粋に楽しめるものになってました。
- 福谷
- そこは苦労してきたところで、玄人好みじゃない、内輪ネタでもない、違うものになれたかなと思います。
- __
- 話題になった前回公演「ポリアモリー・ラブ・アンド・コメディ」もメタフィクションでしたね。ドキュメンタリー映画の作家役が舞台上に出てきたり。あれは感情とかLOVEに食い込んでいました。今回はもっとエンターテイメントに徹したという感じですね。
- 福谷
- gateで上演した「奇跡と暴力と沈黙」なんかは、やっぱり演劇を見慣れている人が、俳優の頑張ってる感を面白がる込みの作品だったんですけど、今回はそんなの必要ない感じでしたね。
- ※匿名劇壇
- 2011年5月、近畿大学の学生らで結成。旗揚げ公演「HYBRID ITEM」を上演。その後、大阪を中心に9名で活動中。メタフィクションを得意とする。作風はコメディでもコントでもなく、ジョーク。いつでも「なんちゃって」と言える低体温演劇を作る劇団である。2013年、space×drama2013にて優秀劇団に選出。(公式サイトより)
- ※匿名劇壇第五回本公演「二時間に及ぶ交渉の末」
- 公演時期:2014/5/29~6/2。会場:シアトリカル應典院。
匿名の矛盾
- __
- 福谷さんが演劇を始めたのはどんな経緯が。
- 福谷
- 僕は近畿大学の舞台芸術専攻に入ったのがキッカケですね。
- __
- なぜ近大に入学されましたか。
- 福谷
- 本当は東京の日大に行きたかったんですけど、経済的事情もあって。入るなら、ツブシの利く総合大学かなと思って。
- __
- 旗揚げしたのはどんな経緯が。
- 福谷
- 大学入って2年の頃。授業以外で自分の公演が出来るんですよ。2012年6月が旗揚げですね。
- __
- そのころからメタフィクションだったんですか?
- 福谷
- 旗揚げ公演が今回の作品みたいな感じでした。で、その一つ前のスタッフワークを中心に学ぶ公演のメンバーが、ほとんど今のメンバーなんです。東以外。カフカの「変身」を上演する劇団のバックステージもので、それも入れ子構造でぐっちゃぐちゃの作品でした。
- __
- なるほど。匿名劇壇では、今後どういう事をやっていこうと思っていますか?
- 福谷
- ちょっと前の「ポリアモリー」を作っていた頃は、まっとうな物語演劇を作ろうと思ってたんです。今はちょっと違って、例えば劇団の劇団性みたいなのが観客に事前知識として必要なのと同様、今回の作品は、僕が匿名劇壇の主宰であるという知識があって見た方が絶対面白いと思うんですね。劇団としてはそこをやりたいと思います。誰かが劇団を辞めたらその辞めた性が重要になってくる。そんな感じ。
- __
- 何故そうしたい?
- 福谷
- それが自分で面白いと思ってるから、ですね。演劇の何が一番面白いというかというと、生である、という事ですよね。それも、裏側込みの生。踊る大捜査線でも、ギバちゃんと織田さんが一緒に出ているシーンに、含みをもった面白さがあるんですよ。みんな、そういう部分はあると思っていて、僕らをそういうふうに消費してほしいですね。
- __
- スキャンダラスさを含んだ、ね。初めての人でも面白い内輪ネタが出来るようになってほしいですね。
- 福谷
- そうですね、それは素晴らしいですね。
- __
- いつか、どんな作品が書きたいですか?
- 福谷
- やっぱり、外に出ても引きずれる作品。寺山修司の街頭劇のような、劇場の外に出ても芝居が続いているような、そんな芝居が作れたらと思います。
- __
- なるほど。
- 福谷
- 事実と思われたくないと言ってる一方、客だしの時の僕らを見る目がちょっとおかしくなっている事が望ましいです。それがずっと引きずっているいるような。矛盾してますね、メタって。
- __
- パンフに、開場中は他の劇団のチラシは見ないで僕らの事だけを考えてほしい、みたいに書いてますね。
- 福谷
- そうですね。自己顕示欲というか。例えば芝居に人を殺した役が出てきたとして、「本当に殺してるんじゃないの?」と思わせたら勝ちですね。
- __
- なるほど。
- 福谷
- ポリアモリーの前にやったjerkという芝居で、劇団員との話をこっそり録音したテープを元に作った芝居を作ったんですよ。という体で実は全くの創作なんですよ僕の。
- __
- ええっ。
- 福谷
- それを、実際に録音したと思われたいです。
- __
- そういう福谷さんの、言葉は悪いですがかまってちゃん性に共感します。自分達を消費してほしいとか、ちょっと現代的な気がする・・・そんな言葉で表して良いのかわからないですけど、異質な感じがする。
- 福谷
- そうですね、自己満足には陥りたくないと絶対に思いますね。あくまで見せ物ですし、エンターテイメントですから。
日本が失ったコミュニケーション読解能力について
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- チラシの文章。「ニュアンスでコミュニケーションすることを忘れたエセ主人公たちは明確、且つ単純なプロトコル(通信規約)を膨大な数必要としているのです。」これはどういう意味なのでしょうか?
- 廣瀬
- 分かりやすいことを求めるでしょう、現代日本人って。アメリカ映画も同様に、分かりやすいのが求められる。だからアメリカ人のコミュニケーションは浅いものに終始するのかと思いきや、彼らは非言語のコミュニケーション能力がすごく高いんだと思うんです。現代日本人と較べたら遥かに。
- __
- ノンバーバルコミュニケーションですね。
- 廣瀬
- ですがそれは、戦前日本人は持ってたんじゃないかという期待を僕は抱いているんです。戦後、アメリカから表層の分かりやすいコミュニケーションだけを取り入れようとして失敗したのではないかと。
- __
- プロトコルの上の部分だけでやってるようなものだと。
- 廣瀬
- 演劇に関わらず、リアルタイムでコミュニケーションする時、ニュアンスを伝えてナンボじゃないですか。しかし、そこは視覚化出来ない。
- __
- 情報処理の大部分を担う視覚では、ニュアンスを捉えきれない?
- 廣瀬
- 絶対に映像じゃ伝えられない、非可視光の部分の影響は多大だと思うんです。それをどう発すれば良いかというのは分からないんですが、演劇でやるべきのはそこなんじゃないかと。
初舞台
- __
- 大石さんが芝居を見たキッカケを教えて下さい。
- 大石
- 大学に入ってからです。神戸大学の自由劇場さんが、土田英生さんの『約三十の嘘』をやってたんですよ。それを見て、演劇って、自分が思ってたのと違うんやなと思いました。そこが、スタートですね。それで、元々、モンティ・パイソンが好きだったので、その繋がりでケラリーノ・サンドロヴィッチさんの作品を見たんです。それがとても面白くて、更に、いろいろ芝居を見るようになりました。それから、もっと演劇を知りたくなって、ワークショップに参加するようになって、それでも物足りなくなって、あごうさとしさんの最後の代のビギナーズユニットに参加して初舞台を踏みました。だから、初舞台まで、めちゃめちゃ段階を踏んでるんですよ。
- __
- 思ってたのとは違う、とは。
- 大石
- 実際に、自由劇場さんの舞台を観るまでは、勝手なイメージなのですが、舞台上で凄い良い顔した人たちが、いい声を出して、カッコイイポーズを決めてるみたいなイメージを持ってたんです。舞台って、そなんやないのやなぁと、そのとき初めて思いました。
いい予感がしたんです
- __
- 作品の周りにある、興味を引く要素。そうした切り口を見つけたのはどのようなきっかけがあったのでしょうか。
- 鳥井
- ままごとという東京の劇団があるんですが、その「スイング・バイ」という作品に友達が出ていて。小劇場で初めて見たのはそれが初めてだったんですけど、入場券がタイムカードだったんですよ。会社の話だったからかな、それをタイムカードの機械に入れてもらって、がちゃっと押してもらって。
- __
- 楽しそうですね。
- 鳥井
- 当日パンフレットに、作家の人の言葉で自分の個人的なエピソードが書いてあって。作品は会話劇で、言葉の響き合い方が音楽のように感じたんです。そう感じたのは、合唱団に入っていたのもあったのかな。
- __
- 先入観があったんですね。
- 鳥井
- こういう演劇があるんやと。それまで、こういう日常の会話を使った演劇があるとは思っていなくて新鮮でした。この人たちが人気なのであれば、もっとこういう劇団や作品がもっとあるんじゃないかなって、いい予感がしたんです。
- __
- では、鳥井さんが待望しているアーティスト像を教えてください。
- 鳥井
- フットワークが軽くて、製作に対しての考え方が柔軟な人ですね。一つの事にこだわらないであるとか、演劇の枠を広げようであるとか、他のジャンルにも興味を持っていてその経験を自分の作品に生かせる人ですね。
昔の題材、今の視点
- __
- お芝居を始めたのはどのようなきっかけがあるのでしょうか。
- 山田
- お芝居をどうやってはじめたらいいのかわからなくて、とりあえず生瀬勝久さんが好きだったので、そとばこまちの公演をAI・HALLにまで見に行ったんです。それが初めて見た小劇場で、その舞台には生瀬さんは退団されていていなかったんですが、ワークショップのチラシが挟み込まれていて、それに参加したのが最初です。そこで、色んな人と知り合ったり、公演を見に行ったり。
- __
- そして現在、突劇金魚に。入団されたのにはどのような理由がありますか?
- 山田
- 劇団って、どうなってるんやろうという興味が最近出てきまして。公演制作の仕組みとか。あと、稽古場が近いのが大きいですね。サリngさんのお祖母さんの家だったそうですが。
- __
- あ、その理由が大きいんですね(笑う)。
- 山田
- もちろん、サリngさんの作品が好きだというのはありますけどね。以前は個人的な話が多かったのが、最近は普遍的な題材になってきたなあと思います。
- __
- 個人的な題材。そういえば、「巨大シアワセ獣のホネ」にしても「ビリビリHAPPY」にしても、最後に主人公が旅立っていくラストだったと思うのですが、それが個人としての自立というテーマにまとまっていっているような印象はあります。
- 山田
- そうですね。「巨大」の時、ずっと川で生活している女の子が、川の向こうに見えるビルの赤いライトが怪獣に見えて、引き付けられるように行ってみたら特に何も無かった、その繰り返しみたいな。
- __
- 「夏の残骸」では個人に迫っていくというよりは、部屋割が明確なアパートメントを舞台にして、そこで割り切れない生命を描くという感覚がありますね。これから、どんな風景が見えるのか楽しみです。
- ※突劇金魚「巨大シアワセ獣のホネ」
- 公演時期:2011/2/2~7。会場:精華小劇場。
- ※突劇金魚「ビリビリHAPPY」
- 公演時期:2009/11/25~29(大阪)、2010/2/23~24(東京)。会場:シアトリカル應典院(大阪)、こまばアゴラ劇場(東京)。
時間の厚みが見える
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- いるのかいないのかも分からない「岡田ケン」という男の半生を追った、「漂泊の家」シリーズ。C.T.T.※などで上演を重ねて来たのがついに完結を迎えました。前回公演「八月、鳩は還るか」。ご自身ではどんな作品でしたか?
- 柳沼
- 宣伝の上では5年間の集大成とか言ってたりしたんですけど、僕自身は全くそんな実感はありません。やっぱりお芝居ですから、公演の為に一から、がっつり作ったという感じです。でもご覧頂いた方のお話では、取り組んできた時間の厚みだったり層を感じられたみたいで、やっぱり出るんだなと。
- __
- 先入観があるのかもしれませんけど、重厚な雰囲気と迫力があったと思います。初めての方にも伝わったんじゃないかと思いますよ。
- 柳沼
- やっぱり作品を作るのって時間を掛ける必要があるんですね。これが小劇場というジャンルだから珍しいのかも知れませんが。
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- 一つの作品を完了させるのに、5年。諦めたり逃げたりせず完結させるってとても勇気のある事だと思います。しかも、一回一回が大変な演劇で。
- ※C.T.T.
- C.T.T.とはContemporary Theater Trainingの略で「現代演劇の訓練」を意味する。1995年に京都のアトリエ劇研で発足し、70回以上の上演会を行う。現状、3カ月毎の上演会を予定。(公式サイトより)
「俺は今芝居出来ていたらそれでええねん」?
- __
- さて、長尾さんは今後、どのように攻めていかれますか?
- 長尾
- 攻めないですよ(笑う)、でも、ずっと言っているのは「辞めないように、儲かるように」努力してほしいと。演劇という、経済的にあまり能率の良くなさそうなメディアにもっと商業的な思考を持ちこんで考えてほしい。役者とか作家って、そういう思考には疎いと思うんですよね。「俺は今芝居出来ていたらそれでええねん」じゃなくて、どうしたら続けていけるのかを考えてほしいんです。ベトナムからの笑い声の人たちとか、それぞれ仕事を持っていて結婚もしていて、だけど本番のこの瞬間だけは思いっきりアホな事をやる、そして面白いものを作る、それでいいじゃないか。
- __
- カッコイイですよね。
- 長尾
- または伊藤えん魔さん・わかぎゑふさんのように、初めての人もマニアックな人も楽しめる・みんながお金を払ってもいいと思えるエンターテイメントをつくりつつ、自分のこだわりもしっかりと盛り込んでいくとか。
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- プロ化すると。
- 長尾
- 助成金を引っ張るためにこじつけのように頭を使うよりも、何か続けるための自立した方法はないのか、考えていってほしいですね。そういう事は言っていくと思います。
時間と芸術
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- さて、前回公演の芸術創造館での「どれい狩り」。※さんとの合同公演で、上演時間が2時間以上でしたね。
- 伊藤
- はい。
- __
- 前半、実は若干ついていけるか不安だったんですよ。前半は暗い照明の中で静かなシーン、後半はふざけたお祭り騒ぎが始まると。一瞬も飽きなかったんですが、これは初めての人にはどうなのかなっていう。
- 伊藤
- たとえば携帯でもYouTubeが見れる今の世の中で、もう最初の三分でいかに観客を掴むか、多くの人に再生させるか、という即時性の勝負が繰り広げられている訳じゃないですか。そういうものしか流行らないのはちょっと嫌なんですよね。
- __
- 確かに、時間が短くてすぐ分かりやすいものが好まれる傾向が強いですね。
- 伊藤
- 演劇は他のジャンルに比べて、観るのもやるのもやはり多少の忍耐がいるんですよ。1時間以上、ずっと観客に付き合ってもらわなければならないので。映画だって撮影と編集に膨大な時間が掛かるのに、チャプターで飛ばせますから。飛ばせないのが演劇の魅力でもあるんですけど、そういう所に無頓着では居られないなと思います。その辺りをちゃんと考えないと、2,010年代以降、演劇を見るお客さんが増えないんじゃないかなぁと思います。
- __
- まあ、映画と演劇では観客の数は全然違うでしょうね。
- 伊藤
- 映画の興業で一つ凄いなと思うのは情報公開ですね。例えば配給会社が特設サイトを作って、映画の内容が大体分かっちゃう。演劇ってそういうのがほとんど出来ないでしょ。会場に行くまで内容がわからないってのは演劇の面白さかもしれないけど、大衆的に考えれば、やっぱりデメリットの方が多いなと思うんですよね。
- __
- そうですね。
- 伊藤
- 例えばお芝居の冒頭を10分だけでも見られれば、興味を持って足を運んでくるお客さんも増えるんじゃないか。ちょっと情報開示をしてあげたらいいんじゃないかと。
- __
- 今France_panのトップページに、動画が載っている模様ですが。
- 伊藤
- あれ、練習風景なんですよ。
- __
- あ、そうなんですか! 何かかぶり物とかしてますけど、衣装なんですね、あれ。
- ※France_pan×トイガーデン混同公演 どれい狩り
- 安陪公房の原作を舞台化。公演時期:2009年4月24日。会場:芸術創造館。
- ※トイ・ガーデン
- 大阪の若手劇団。安武剛氏を中心として、エンゲキらしきものを表現することを目的に結成。
みんな演劇をしばらく休もう
- 山本
- さっき佳作が諸悪の根源だと申し上げたんですけど、それにはもう少し理由があるんです。単なる佳作では、初めて劇場に来たお客さんに観劇を習慣にしてもらえないと思うんですよ。
- __
- というと。
- 山本
- 演劇フリークではない、初めて劇場に来たお客さんは二種類に大別出来るんじゃないか。何となく演劇の世界に憧れていて、内輪になりたい、またはなる素質を持っているお客さん。これを潜在的内輪と呼んでいます。
- __
- なるほど。
- 山本
- 逆に、芸術なんて本当に触れた事がない人達、が実は大多数だと思うんです。本当の外輪の方がずっと多い。そういう人たちが例えば佳作を見たって次は来ないですよね。もちろんそれなりには面白かったと思うんですよ、佳作にはそれだけの力はありますから。でも肌にビリビリ来ないから次は来ないし、習慣化しない。だから、傑作オンリーでいかないと、観客は増えないんです。
- __
- 難しいと思いますが。
- 山本
- 可能でしょう。まあ、逆説になっちゃいますけど、傑作だという確信がなければやらなかったらいいんですね。
- __
- あ、なるほど!
- 山本
- みんな一斉に三年くらい演劇をやめて、その間働きながらネタや欲求や鬱積を貯めて、解禁になったら各カンパニーが傑作だけを上演するんですよ。しかも、無料で。とにかく多くのお客さんが来て、演劇の魅力が発見されるキャンペーンがあったら、良いと思いますけどね。
- __
- オリンピックみたいですね。
- 山本
- 管理社会的な(笑う)。もちろん、当然、不可能だし。そういう管理に従うのが芸術かというとそんな訳ないですし。でも、傑作を作ることはそんなに難しくないはずです。たとえば、柿喰う客※は傑作でしたよね。
- __
- ええ。
- 山本
- もちろん、個々人によって相対的な評価はまちまちですが、やっている側は絶対に傑作だと確信していた筈なんです。確信がそこかしこに溢れていた。だから傑作になったんです。で、それはきっと難しい事ではない。
- __
- 確かに。あれはそういった重さを持つ作品だと思います。
- 山本
- 佳作にはそんな力はない。やってる側の心のどこかに「これは面白いのかな」という不安を抱かせるのが佳作なんですよ。傑作を作ろうという気持ちがあれば、今の公演が終わらないのに次回公演の予定なんて軽々しく立てられないと思うんです。内輪で「次何する?」「こういうのやんねん」なんていう馴合いから次の公演が始まるなんて、違うやろと思うんです。
手段としての殺陣
- __
- さて、前述の会話が出来ていない芝居をですね、「仮エンタメ系」と呼ぶことにしましょう。ZTONさんはそれ系と違わせる為にどのような事をしているのでしょうか。
- 河瀬
- 実は、日本刀と殺陣が大好きなんですよね。いつか振るってみたいなあと。でも、殺陣を見せられて楽しいか?というと、僕は楽しくないんですよ。なので、究極的には殺陣は入れたくないんです。話の要所に入れることはありますが。なので、言い方は悪いですがオナニーにならない殺陣の作り方を研究していますね。
- __
- それはどのような。
- 河瀬
- 「ここでこうきたらこう返す」みたいなセオリーには頼らずに、必要なだけの殺陣を作っています。言ったら、目的ではなく、手段としての殺陣なんですよ。ダンスもそうですし。でもそれらを目的としてしまったら、仮エンタメ系となってしまうと思うんです。
- __
- なるほど。では、殺陣などの部分以外の、作品そのものの製作としては。
- 河瀬
- 一番描きたいのは、人間の内面です。一般的に演劇というのは、それを普通の会話劇を通して描いていると思うんですけど、それも見ていて面白くないんですよ。確かに芝居が進むにつれて、キャラクターの心に微妙な変化は表れてくるんですけど、そういった会話劇を見せられても・・・。三谷幸喜の劣化版だと思っちゃうんですよ。例えば初めて演劇を見る人が「どんなんだろう」と思ってちょっと観に行って、そういうものを見せられたとしても絶対に面白くないと思うんです。そこを劇的に、意図的に見せなくてはと思うんです。ダンスや殺陣は、そのための手段として入れていますね。
- __
- 例えば、前回の「月黄泉ノ唄」では、主人公の死に別れた筈の妹が鬼として再び現れて、彼女の生への執念と向き合わなければならなかったと。そこで彼の、新しい時代を開きたいという理想とのジレンマが発生していました。結局、妹とはもう一度死に別れなければならなかった訳ですが、実は主人公は芝居が始まった頃よりずっと強くなっていたという、成長を描く物語でもありました。さて、そういった物語を、観客にどのように受け止めて貰いたいのでしょうか。
- 河瀬
- 偉そうなんですけど、「この国はおかしい」と。僕自身は、作品に出てきた蜜さん演じる安陪清明※と同じく、世界の矛盾・理不尽を破壊したいなと考えています。この国を疑問に思って貰いたいんですよ。ちょっと政治的かも知れませんけど。
- __
- なるほど。だから、単に激しいだけの仮エンタメとは違うんですね。そういえば、今年の3月の「沙羅双樹のハムレット」※という作品もそういった面がありました。
- ※蜜さん演じる安陪晴明
- 陰陽師・安陪晴明を怪演とも言える熱演。
- ※沙羅双樹のハムレット
- 劇団ZTON vol.3「沙羅双樹のハムレット」公演時期:2008.3.6~9、会場:東山青少年活動センター 創造活動室。