さようなら、天上底

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呉城さんにインタビューするにあたり、どうしても話したい事がありまして。一昨年の悪い芝居「春よ行くな」での呉城さんがですね、もの凄く良かったんですよ。
呉城 
ありがとうございます。
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まず、声が独特ですよね。
呉城 
そうなんですか、私、自分の声はちょっと・・・この間受けたWSで「何その高い声。舞台用の声?」って。めっちゃお腹に力入れて低い声を出してようやく、ええんちゃうって。私の声、どんなですか?
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受け止めやすい声だと思いますよ。ストレートで、心情が伝わってくる声だと思います。
呉城 
ありがとうございます。そういって下さるのは嬉しいですけど悩み中です。キーンって高い気がして。もっと、確かな声を出したいです。
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ラストシーンの叫び声が印象的でした。「春よ行くな」、彼女の口から出た出まかせというか、彼女のよく分からん処世術に全員が巻き込まれているとも見れるし、逆に、本当に彼氏が失踪した、可哀想な彼女を描いた話なのかもしれないし。
呉城 
可哀想ではないですけどね。あの人はああいう風になってしょうがないと言えるかもしれない。
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天罰?
呉城 
天罰?天罰じゃないかもしれないですけど(笑う)。ふらふら生きとったらあかんねんなと。
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ふらふらしてたから、最終的にはよくわからない自己啓発セミナーの人と一緒になってしまうと。
呉城 
でも、そう思ってても人間、流されるように生きちゃいますよね。
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だらしなく生きてしまう?
呉城 
結構、流されて生きてしまうような気がしますね、あんまり良くないとは思いますけど。
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私もね・・・今の生き方を続けてしまっているのが悩みだなあ。自分で自分の人生の主導権を握って、例えば25歳とかで会社を興してたらどうなってたかなあ。演劇界でもITででも、「何でもやります!」の姿勢で。もしくは静岡に帰ってもっと家族と時間を過ごしていたら。
呉城 
でもまだまだお若いじゃないですか。いや私が言う事じゃないですけど。
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ありがとうございます。勇気が出ました。
呉城 
はい、あ、いまの赤色エレジーの現場って何か、若い子ばっかで、私が最年長で、どう思われてんのかなあって。21の女の子がいるんですよ。この可愛い子たち、みたいに思うんです。
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ギャップが激しい?おジャ魔女どれみ世代と?
呉城 
あはは。私はセーラームーン世代でした。
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おジャ魔女どれみかプリキュア世代に囲まれているのですね。いやその、子ども時代に実家で何を見ていたかが結構重要だと思うんですよね。手足の伸びきったセーラームーンが格好良く敵を倒すのか、自分たちと変わらないおジャ魔女が学級や家族や地域社会の問題に向き合うのか、プリキュアが同志と心を合わせて敵を倒すのか。恋愛番組も重要で、「あいのり」か「テラスハウス」のどちらを見ていたか。これもかなり恋愛観に影響を与えるんじゃないかと思う。
呉城 
あー、確かにそれはありますよね。「テラスハウス」はあんまり・・・「あいのり」を見ていた方が純粋に育ちそうですよね。
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要は、自分がどんな恋をすべきなのか発見するタイミングを思春期で捉えておく事が大事で。それをしないと未熟な関係性で満足するようになってしまうのではないか?天上底には誰もが惚れてしまうけど、彼女はこちらの思いを知ってか知らずか、良く分からないどこかの隙間に行ってしまう。そこに、他者との関係性を上手く作れない未熟さがあるような気がする。まあ、彼女の逃げ続ける孤独な旅には思わず共感してしまうんです。あの不可解さ込みで。恋をされると逃げたくなるあの感じとか。
呉城 
え、そうなんですか。
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あれ、ありませんか?私は恋されると恐怖しますね。
呉城 
あ、そうなんですね(笑う)それめっちゃ面白いんですけど。恋をされると逃げたくなる?
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ゴジゲンの昔の作品で、童貞の集団が合コンして、彼らは全員恐れをなして逃げるんですけど、ラストシーンで女のひとりが童貞らの集まっている部屋に近付いてきて、彼らは集団自殺するんですけど・・・
呉城 
何それ!めっちゃ面白い。
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めちゃくちゃ面白いんですよ。私もDVDでしか見てないんですけど。恋を引き受けられないという恐怖感がなぜかあるんですよね。
呉城 
へー。じゃあ、自分から好きにならないと恋が出来ないんですか。
__ 
私は多分そうですね。というか、好きな人に告白されても怖くなるのかもしれない。
呉城 
えー、それは幸せになれないですよ(笑う)
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そうですね・・・
呉城 
いやそんなことないでしょうけど。だってねえ。好きな人と結ばれたいものじゃないですか。めっちゃ難しい性格ですね。
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松居さんも、というか草食系男子というのはそういうものだと思います。そう思うと女性は、いやこれめっちゃ社会的ジェンダーのバイアスが掛かった見方ですけど、恋愛をモチーフにした文化を見て育って来ているから、引き受ける力を持つんだと思う。
呉城 
ずっとストーカーみたいな事をされたら気持ち悪いですけど、普通だったら、まあそういうのはありがたく頂きます、じゃないですか?そういう拒否感とかを「春よ行くな」の時に感じたんですか?
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うーん、下敷きにあったからこそ強く感じていたんだと思います。
呉城 
へー。
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冒頭にあった、大塚さんと呉城さんの、ラブシーンになるかどうかの、あのせめぎあい。あれに全てが集約していくような気がする。
呉城 
ああ、あれ、拒否するぐらいなら行くなよと思いますよね。
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恋愛、嫌いなんだよ俺は。
春よ行くな
2013/8/22~27 in→dependent theatre 2nd(大阪) 2013/9/11~17 駅前劇場(東京)。

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観客の呼吸を掴む

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実は昔、shelfの作品を拝見した事があります。2009年のC.T.T京都でした。
矢野 
あ、そうなんですか。
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「私たち死んだものが目覚めたら」のワーク・イン・プログレス作品でした。俳優が観客と向き合い、逃げない。そういう非常に緊張感のある作品だったと思います。一体、どのような経緯でそのような姿勢に辿り着いたのでしょうか。
矢野 
小説のような文字表現や、同じハコ型の(芸術)鑑賞施設である美術館や博物館と違う最大の点は、二人以上の多人数がいて、見る人と見られる人があって、そして一定時間をそこで過ごすということなのだと思うのです。であれば、そのことの何がいちばん面白いのかな、と。昔、札幌で学生していた頃、「キューブ」という映画をミニシアターで見たんです。お客さんは少なくって満員で50人ぐらい。みんな固唾を飲んで見ているんですが、それが、つまり呼吸とか皮膚感覚とかを共有する感じが凄く面白くて。緊張を強いられるシーンでは、皆が皆、息を潜めて。劇場って、そういうモノだと思うんです。
__ 
人が集まって、固唾を飲んでいる場所。
矢野 
だから僕はよく俳優に「先ず、観客の呼吸を支配してくれ」と言うんです。それは何も緊張感のあるシーンに限った話でなくて、例えば観客がどっと笑う。そのときに起こっていることというのは観客が全員、笑う直前に同時に息を吸っている間があるんですよ。そして同じタイミングで笑う=息を吐いている。客席で笑いがうねるということはそういうことなんでしょうね。大きな劇場でお客さんが一人しかいない、その状態は果たして面白いのか? 花火会場に行って、一人で花火を見たら楽しいのか? <場>を共有することで人と人との間で生まれる何かが劇場には、ある。それを最大限に引き出したいというのはありますね。だから、芝居の幕開けなんかでも俳優がまず最初の台詞を喋る、その発語のタイミングは基本的に俳優に任せているんですね、今は。昔は秒数で切ってたりもしたんですけど。
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・・・。
矢野 
基本的に観客は、楽しもうとして劇場に来てくれている。だから、一番最初の時間が一番期待が膨らんでいる筈だと。その会場の全員の期待感や想像力がいい按配になったときにスッと言葉を差し出したら、きちんとそこから交流が始まるんじゃないかと思う。発語のタイミングが早過ぎるとお客さんが着いていけなくて戸惑っちゃうし、遅すぎると「まだ?」ってなってしまう。そのキワを攻めたいんですね。だから、その為の、<場>の呼吸を把握するための稽古を相当しています。今度ノルウェーに行くイプセンの「幽霊」、初演は2006年なんですけど、主演の川渕優子の冒頭のセリフが戯曲のト書きなんです。「イプセン 幽霊 三幕の家庭劇。」その発語の「イ」の稽古に2週間近く掛けた事があります。「違う」と言い続けて、周りの俳優が呆れちゃって。「こだわりたいところなのは分かるけど、取り敢えずちょっと先に進めてみようよ」って。当時の僕は、まだ今のような言葉も技術もなかったし、だから何が違うのかきちんと説明出来なかったんですけど、それでもそれは違う、と思ってたんですね。余談ですが、芝居を見に行くとだいたい最初の5分程度で、その芝居が面白いかどうかって分かるんですよ。うーん・・・と思ったのが、後から面白くなる事は殆どないんですよ。
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観客の最初の印象って物凄く正確ですからね。開幕直後の観客の視線は、事件を出来るだけ早く理解するために、必然的に膨大な情報を取り込み、全く意識せずとも細かい部分を評定し、価値を判断しています。疲れも先入観もない、暗転の一瞬だけだけど社会と隔絶してコンテキストから切り離されるし、新しい世界を見るという立場上第六感も備えているんですよね。
矢野 
演出家的には、お客さんが一番期待してくれている瞬間に、期待に沿って、あるいはそれを裏切って、という心のやり取りで相手の心を掴まなければ、後はみんなだいたい引いていくだけなんですよね。
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心を掴む。そこが今日一番話したかったことです。

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あの時代から数歩離れて

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玉一さんが演劇を始めた経緯を教えてください。
玉一 
高校3年の頃、文化祭で演劇をやろうと誘われたんですよ。水球部・テニス部・書画部の仲良しで集まって。三谷幸喜さんのTVドラマのある一話を演劇化する企画でした。それまで演劇なんてやった事無かったんですけどね。それから大学に入って友達にすすめられてラーメンズのDVDを見たんですが、凄く世界観が独特じゃないですか。いいなあと思って。
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楽しそうですね。
玉一 
で、私も当時自分の世界観を京都精華大で絵で表現してたりしてたんです。でもある時先生に「それじゃ全部は伝わらないよ」と。これじゃダメなんですか?全部伝えないといけないんですか?私は偶然性というものも好きだったんです、偶然生まれた技法だったりとか。でも、やっぱり学校だから。研究して積み重ねないとダメなんですよね。そこの食い違いというかそういうわだかまりもあったものだから、平面の世界で息詰まっていて。抜け出したかったというのはありますね。そういう折にラーメンズとかを見て、自分が作品を描くのではなく、自分が作品の一部になるというのはこれまた面白いなあと。それで劇的集団忘却曲線に飛び込みました。
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大学は教育機関ですからね。評価されますからね。
玉一 
そうですね、総評されるんです。私は作品の一部分が面白い、というのもありなんじゃないかなあと思ってたんですが、そうじゃないんですよね。難しいなあと。パッと思いついたらそれをやるという、面白い方に飛びつくという。集中力がないんですかね。でも演劇って、何ヶ月も同じ作品に向き合うじゃないですか。今日は昨日よりも掘り下げられた、みたいな感触があって・・・
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それは、確実に製作者としての意識が高まっているんじゃないでしょうか。
玉一 
そうかなあー。
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ある程度以上の重さを持っている作品は確かにあって、それはお客さんの心と引き合うんですけど、その時にどれだけ考えられて作られているか、に依っていると思うんですよ。それがお客さんの目の前に現れる時、美しい調和をもって時間とともに奏でられると思うんです。
玉一 
そういう意味では、大分自分は変わってきていると思います。入ってからも変わっているし、周りも変わったし。だから、なんか、昔と全然違いますね。

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