脚本家としての課題

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脚本家としての課題が、この「歪ハイツ」にはあると。それは何なのでしょうか?
福井 
僕は不合理なものに興味があるんです。辻褄が合わないけど強度がある、そういう物語が好きなんですね。尊敬している作家がつかこうへいさんなんですけど、合理不合理では判断が付かない強度を持つ脚本なんですよ、つかさんの作品は。
__ 
そうですね。
福井 
そこに強く惹かれています。この大学に入ってからもそんなに演劇は好きじゃなかったんですけど、つか作品に触れて「こういう事でええんや」と。それまで僕は映画監督になりたくて、だから物語を作りたかったんですけど、それは合理化をしないといけないという恐怖もあったんです。書いてはやめ、書いてはやめをしてたんですけど、ストーリーが骨太なら、辻褄が合っても合って無くてもいいんだな、って気づきました。特に演劇はそういう性格が強いと思います。
__ 
なるほど。辻褄が合っていなくても素晴らしい作品は多いですね。
福井 
でも、今回はモチーフになったある事件を参考し、社会心理学・精神心理学・臨床心理に則って緻密に出来た本なので。理には適った本だと思うんですね。好きとかじゃないんですけど。そうした、足りてない部分に向き合った作品を、大学院の卒業と東京での就職の間の時期でやっておきたいと思いました。プロとしてやる前に。それが発端でした。
__ 
ありがとうございます。非常に素敵な時期に公演をされるんですね。

タグ: 事件性のある俳優 作家としての課題 つかこうへい


ファンタジーの不可解さって

__ 
作家としても幅を広げている野村さん。どんな作品を書きたいのですか?
野村 
何かあるんですかね。この前もテノヒラサイズさんで短編集のうちの一本を書かせて頂いたんです。ドキュメンタリーシリーズという事で、普段自分が思っている事を書いたんですよ。というか、どんな作家さんでも同じだと思うんですけど、自分が思っている事しか書けないものなんですよね。僕は普段、インドア派なんですけど、もうちょっと余所に出ていって、事件に巻き込まれなきゃならんなと。書ける範囲が限られてるな、とは、ね、思っています。
__ 
領域を広げる、という事ですね。
野村 
でも、ファンタジーの書き方にも興味があるんですよ。ファンタジーの中に生身の人間を置くやり方、とか・・・
__ 
ありえないファンタジーの世界や人物に、さらに訳の分からない事をしてもらう事で、自分の影の部分を投影しようとする、とかかもしれませんね。そこには現実の不合理さも流れ込んでいるのかもしれない。それで解消するような部分はあるかもしれない。だから、ファンタジーの住人には全然理解出来ない行動をとってもらいたいですね。
野村 
ああ、なるほど。
__ 
魔王とかにはもっと不可解であってほしいかな。
野村 
面白い事を聞きました。なるほど!書いてると気持ち悪くなるんですよね・・・矛盾を矛盾と思わなくなっていくのが大人やと思うんですけど、矛盾過ぎると気持ち悪くなって、途中で筋を通したくなってしまうんですよね。これで芝居をやっていけるんだろうか。
__ 
いやあ、これからどんどん、表現は色々な面から切り詰められていっていくような気がするので。遊びと余裕のある表現を大切にしてもらいたいです。ワガママかもしれないですけど。

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観客の呼吸を掴む

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実は昔、shelfの作品を拝見した事があります。2009年のC.T.T京都でした。
矢野 
あ、そうなんですか。
__ 
「私たち死んだものが目覚めたら」のワーク・イン・プログレス作品でした。俳優が観客と向き合い、逃げない。そういう非常に緊張感のある作品だったと思います。一体、どのような経緯でそのような姿勢に辿り着いたのでしょうか。
矢野 
小説のような文字表現や、同じハコ型の(芸術)鑑賞施設である美術館や博物館と違う最大の点は、二人以上の多人数がいて、見る人と見られる人があって、そして一定時間をそこで過ごすということなのだと思うのです。であれば、そのことの何がいちばん面白いのかな、と。昔、札幌で学生していた頃、「キューブ」という映画をミニシアターで見たんです。お客さんは少なくって満員で50人ぐらい。みんな固唾を飲んで見ているんですが、それが、つまり呼吸とか皮膚感覚とかを共有する感じが凄く面白くて。緊張を強いられるシーンでは、皆が皆、息を潜めて。劇場って、そういうモノだと思うんです。
__ 
人が集まって、固唾を飲んでいる場所。
矢野 
だから僕はよく俳優に「先ず、観客の呼吸を支配してくれ」と言うんです。それは何も緊張感のあるシーンに限った話でなくて、例えば観客がどっと笑う。そのときに起こっていることというのは観客が全員、笑う直前に同時に息を吸っている間があるんですよ。そして同じタイミングで笑う=息を吐いている。客席で笑いがうねるということはそういうことなんでしょうね。大きな劇場でお客さんが一人しかいない、その状態は果たして面白いのか? 花火会場に行って、一人で花火を見たら楽しいのか? <場>を共有することで人と人との間で生まれる何かが劇場には、ある。それを最大限に引き出したいというのはありますね。だから、芝居の幕開けなんかでも俳優がまず最初の台詞を喋る、その発語のタイミングは基本的に俳優に任せているんですね、今は。昔は秒数で切ってたりもしたんですけど。
__ 
・・・。
矢野 
基本的に観客は、楽しもうとして劇場に来てくれている。だから、一番最初の時間が一番期待が膨らんでいる筈だと。その会場の全員の期待感や想像力がいい按配になったときにスッと言葉を差し出したら、きちんとそこから交流が始まるんじゃないかと思う。発語のタイミングが早過ぎるとお客さんが着いていけなくて戸惑っちゃうし、遅すぎると「まだ?」ってなってしまう。そのキワを攻めたいんですね。だから、その為の、<場>の呼吸を把握するための稽古を相当しています。今度ノルウェーに行くイプセンの「幽霊」、初演は2006年なんですけど、主演の川渕優子の冒頭のセリフが戯曲のト書きなんです。「イプセン 幽霊 三幕の家庭劇。」その発語の「イ」の稽古に2週間近く掛けた事があります。「違う」と言い続けて、周りの俳優が呆れちゃって。「こだわりたいところなのは分かるけど、取り敢えずちょっと先に進めてみようよ」って。当時の僕は、まだ今のような言葉も技術もなかったし、だから何が違うのかきちんと説明出来なかったんですけど、それでもそれは違う、と思ってたんですね。余談ですが、芝居を見に行くとだいたい最初の5分程度で、その芝居が面白いかどうかって分かるんですよ。うーん・・・と思ったのが、後から面白くなる事は殆どないんですよ。
__ 
観客の最初の印象って物凄く正確ですからね。開幕直後の観客の視線は、事件を出来るだけ早く理解するために、必然的に膨大な情報を取り込み、全く意識せずとも細かい部分を評定し、価値を判断しています。疲れも先入観もない、暗転の一瞬だけだけど社会と隔絶してコンテキストから切り離されるし、新しい世界を見るという立場上第六感も備えているんですよね。
矢野 
演出家的には、お客さんが一番期待してくれている瞬間に、期待に沿って、あるいはそれを裏切って、という心のやり取りで相手の心を掴まなければ、後はみんなだいたい引いていくだけなんですよね。
__ 
心を掴む。そこが今日一番話したかったことです。

タグ: 観客の呼吸 それを揺らしてはいけない リアルに相対し戦慄する 事件性のある俳優 見えないぐらい濃い交流 オーガナイザーの企み 舞台が始まる直前の緊張感


美しい1ミリのために

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いつか、どんな作品を作りたいですか?
大石 
いつも思っていて、でも中々出来ないのですが・・・小手先の面白さや見た目の派手さじゃなくて、人間関係の心の機微で、重厚な時間を作れたらいいなと思いますね。物語を見せるのに、派手な機構は必要じゃなくて。人間の会話の中で話される事や、裏の心の動きの変化で、描けたらいいなと思うんです。
__ 
少しの変化を鮮やかに描く。
大石 
暗い作品、何も起こらない作品をやりたいという事ではないんです。派手な作品は好きなんです。その一方で、小さくて微妙な変化が生きてくるような、そんな演技の積み重ねがある芝居が出来たらいいなあと。小さな変化が大きな事件になるような。凄くこう、芝居の転換を作る時に分かりやすく作ってしまいがちなんですけど、その描写ひとつでお客さんがはっとするような、それに耐えうる時間作り、芝居作りがしたいんですね。
__ 
きっと、そこに持っていく為にはお客さんの集中力を高め続ける必要があると思うんですよ。個人的な経験として、見入っていたと感じる作品に出会うと、自分の思想も影響されるような感覚がある。そういう重力を持つ作品が生まれればいいですね。

タグ: 事件性のある俳優 美しい1ミリ


地続きになりたい

__ 
いつか、どんな演技が出来るようになったらいいとおもいますか?
山本 
市原悦子さん。
__ 
おおっ。
山本 
正確に言うと、映画「青春の殺人者」で水谷豊の母親役をやった市原悦子さん。が、父親を殺した息子を庇おうとしたり、一転して殺そうとしたり。その時の、気が触れたんじゃないか、この人演技しているけどちょっと違ったら完全にキマっちゃうな、みたいな。日常とお芝居が地続きになっているような。
__ 
地続き・・・。
山本 
今怒ってますよみたいな演技ではもちろんなくて、見てる側が「あ、あっち側なのね」と思うようなお芝居でもなくて。普通の日常と繋ぎ目がないようにしたい。
__ 
分かったような気がします。変身済みのキャラクターがいて演技をキメているんじゃなくて、同じ肉体を持つ人間をリアルに見てとれて、彼の芯の向こう側に何かがガーって広がってる感じ。
山本 
うん。市原悦子さん、ある舞台でどんどん狂っていくシーンがあって、その稽古から本番までずっと見ていた人に聞いたんだけどね。毎回、本番中に「あ、今日こそは完全に狂ってもうた」って思っちゃったんだって。
__ 
それは凄い。
山本 
初めて見るお客さんはともかく、毎日見ている人でもそう思うって、凄いなと。いつか、端っこからでもいいから拝見したいです。

タグ: 目を引く役者とは 出来ない!難しい!演技 いつか、こんな演技が出来たら 事件性のある俳優 地続き 印象に残るシーンを作りたい


体に来るような演技

__ 
いつか、どんな演技が出来るようになりたいですか?
土肥 
究極の質問ですね。うーん、何か、技術の事になってしまうかもしれないですけど。広いホールがあって、僕にサスが入っていて。僕がボソっと喋ったセリフで、感覚がお客さん全員に伝わるような。そんな演技がしてみたいです。
__ 
感覚とは。
土肥 
フェイクの感覚と、真の感覚があると思うんですよ。フェイクの方は、お客さんが理解の上で(ああ、こういう事なんやろうな)という、想像の上での感覚。そういう、頭で考えて咀嚼するのではなく、体に来るような演技が出来るといいなあと。
__ 
肌で感覚するもの。
土肥 
ぞわって来る瞬間があるんですよ。どんな芝居でも関係なく。小さいホールで感じる事もあれば、大劇場の芝居で感じない時もある。見ている自分のテンションが高まって、ある瞬間にボーンと来る時。技術の有無に関係なく、演技がそのまま届く役者って素敵だなと思います。体験から考えた事なので漠然としてますけど。
__ 
それは天才のやる事ですね。見ている者の想像のスピードよりも早く、感覚を伝える事が出来る。
土肥 
いやホントそうだと思います。そういう役者は素敵ですね。

タグ: 俳優のブレイクスルー いつか、こんな演技が出来たら 事件性のある俳優


「よく21歳まで生きられたね」「生きているとは思わなかった」

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
宗岡 
ハチミツ屋さんで働く事が決まったんです。それから、去年一ヶ月ぐらい東京にふらっと行っていたんですが、その時みたいにギャラリーを回ったり芝居を見たりしたいですね。
__ 
演劇は続けるつもりはない?
宗岡 
この一人芝居がめっちゃ評判よかったり、または全然ダメダメだったらまたするかもしれないです。
__ 
そこそこだったらやらない?
宗岡 
そうですね。
__ 
一人一人の守備範囲って違いますからね。「そこそこ」ではない、強い作品はそれだけ人の強い反応を起こすんでしょうね。プラスにもマイナスにも。
宗岡 
結構、事件を起こしたいみたいな事をいつも思っていて。twitterとかUstとかめっちゃ考えてやってるんですよ。普通だったら面白くないじゃないですか。この作品も部屋で上演するんですが、ドアを開けて女の子の一人暮らしの部屋に入るというのがドキドキする事だと思うんです。演劇のドキドキ感って、上演する場所から始まるんじゃないかと思っていて。
__ 
当たり前の事をやりたくない、一つの特別な事を作りたいという気持ちなのかな。
宗岡 
だから、「ホントに嫌だった」とか「気持ち悪かった」という感想も、私があえてやっている事なので。田舎にいた時から、ちょっと変であろうと思っていたんですね。色が人より白いであるとか、運動が全然ダメとか。そういう欠点を持っている事を自分のアイデンティティとして自覚しようと思っていて。ちょっと変である事は田舎では広まりやすくて、私はいつも教室から出ずに本ばかり読んでいるポジションに、意識してついていました。それでも、何が自分なのか分からないというのはあります。
__ 
宗岡さんは立派ですね。
宗岡 
いやいやびっくりします。ありがとうございます。
__ 
私、21の時はそんな事一切考えてませんでしたからね。自分の方向性をちゃんと認識して、舵取りしようとしていて、立派だなと。宗岡さん、31になったらどう考えてますかね?
宗岡 
いやー、死んでるんじゃないですかね。「よく21歳まで生きられたね」って地元の幼馴染に言われたんですよ。「生きているとは思わなかった」って。
__ 
その人はきっと宗岡さんに憧れを持っていて、自分の存在が宗岡さんにとって何であるのか確かめたい衝動に駆られた、青春真っ只中のセリフですね。私も言った事があるから分かるんですが。
宗岡 
ですね。真っ只中。

タグ: 死と性と ウェブ上の感想 事件性のある俳優 今後の攻め方


vol.284 宗岡 ルリ

フリー・その他。

2013/春
この人のインタビューページへ
宗岡

__ 
ありがとうございます。そうだ、前回のインタビューでも伺ったんですけど、改めて。「役者として、どんな方向で進みたいですか?」
山脇 
ちゃんとプロになりたい。何だろう。やっぱりきちんと「仕事が出来る」、ようになりたい。
__ 
なるほど。最近思っているのは、いい役者って事件性のある人なんじゃないかと思っていて。その人を客席で見て、凄い事が起こっている、と感じるような。事件を起こすのが役者の、仕事かもしれないなって。
山脇 
そうですねえ。お芝居って芸術の側面はあるけど、興業でもあって。「あの人が出るんだ」って話題も、一つの魅力ですよね。
__ 
山脇さんは、どんな役者に憧れますか?
山脇 
嘘が凄く少なくて、極端に嘘がつける人かなあ。本当にヤバい一瞬までギリギリまで嘘が少なくて、強いシーンになって、舞台に立っているその人が本当に傷ついちゃったんじゃないかって心配になるみたいな。
__ 
大きな嘘が付けるようになりたい?
山脇 
なりたいっていうか、何だろう。でも舞台上で、借り物みたいな事はやりたくないなーと思います。
__ 
なるほど。台本と、演出の演技指導通り(あれば)にやるのはちょっと違う?
山脇 
というか、例えば、A地点からB地点に行くのって、もし訓練を受けてたら誰でも出来るんですよ。でも、自分が見つけた行き方で行きたいなって常に思っています。AからBへの近道を作るようにはなりたくない。素敵な役者さんって、絶対に自分のやり方で道を作ってらっしゃるんですよね。
__ 
大切ですね。「その人の演技は、その人にしか出来ない」。
山脇 
だからその人に役を頼むんだろうなって。それが役者の仕事なんだろうな、って思っています。選択した道に、自分の血が通っているんです。色んな人を見て、そう思っています。
__ 
仕事を振られて、でもそれをこなすだけじゃまだまだなんですよね。その仕事を通して、誰に何を与えられるかを意識する必要がある。台本と指示通りにやるのであれば・・・
山脇 
じゃあ誰を呼んできてもいいじゃないか、という事になってしまいますね。
__ 
なぜロボットを使わないのか、という事になる。
山脇 
私は自分でも映画を撮るので、撮影時に、その人なりの演技が出てくると監督としてとても嬉しく思います。昨年舞台で共演した憧れの人たちからもものすごく勉強させてもらいました。

タグ: 優しい嘘 事件性のある俳優 ロボット演劇


見えないものを探していく

大原 
与えられた脚本だから、書いた人の視点は得られない訳で。だから、見えないものを探していくという作業があるんです。自分自身を問い直しながら。そのストレスと対峙し、自分と合わせてゆくという・・・なんだか役を演じるということにことさら興味が出てきました。
__ 
ご自身を問い直して、視点を探っていくんですね。
大原 
相対的に役を作っていくタイプなんですよね。周りがこういう感情だからこういう感情だと考えて・・・まあ演出をやっているからだと思うんですが。反対に、絶対的に作っていくタイプ:その役がこういう人間だから、その時はこのような感情であるとしていわゆる掘り下げて役作りをする人は、演出者の意図であるとか、アンサンブルであるとかの調和をどこかで調整しないといけないんじゃないかと。
__ 
大原さんは演出家タイプなのですね。
大原 
だから、それまでは役者だけやっている人をある種、損なんじゃないかというのがありまして。
__ 
個人的には、能力のある役者って、事件性を持つ人なんじゃないかと思うんです。90分間の作品で、観客を引きこんで作品を見せて、そういう当たり前の事の上の次元に、一つの絶対的な価値のある演技があると思うんです。それを見つけるのが稽古なのかもしれませんね。
大原 
そうですね。周りは全員、役者を主にやっている人で。自分と違う演劇のエンジンでやってはるんですよ。だから、役者専門の人のエンジンというものに興味が出てきています。

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