地続きになりたい
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- いつか、どんな演技が出来るようになったらいいとおもいますか?
- 山本
- 市原悦子さん。
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- おおっ。
- 山本
- 正確に言うと、映画「青春の殺人者」で水谷豊の母親役をやった市原悦子さん。が、父親を殺した息子を庇おうとしたり、一転して殺そうとしたり。その時の、気が触れたんじゃないか、この人演技しているけどちょっと違ったら完全にキマっちゃうな、みたいな。日常とお芝居が地続きになっているような。
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- 地続き・・・。
- 山本
- 今怒ってますよみたいな演技ではもちろんなくて、見てる側が「あ、あっち側なのね」と思うようなお芝居でもなくて。普通の日常と繋ぎ目がないようにしたい。
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- 分かったような気がします。変身済みのキャラクターがいて演技をキメているんじゃなくて、同じ肉体を持つ人間をリアルに見てとれて、彼の芯の向こう側に何かがガーって広がってる感じ。
- 山本
- うん。市原悦子さん、ある舞台でどんどん狂っていくシーンがあって、その稽古から本番までずっと見ていた人に聞いたんだけどね。毎回、本番中に「あ、今日こそは完全に狂ってもうた」って思っちゃったんだって。
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- それは凄い。
- 山本
- 初めて見るお客さんはともかく、毎日見ている人でもそう思うって、凄いなと。いつか、端っこからでもいいから拝見したいです。
狙う
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- 今後、目標にしていきたい事はありますか?
- 3号
- やっぱり、社会的に認められたいですね。今まで割りと自分の事だけで精一杯だったんですけど。最近、地底人が社会派だと言われてきて。それは何故かというと、僕の方向が自意識から外の世界に向いてきているらしいです。それを見ているお客さんが、僕らの芝居を鏡のようにして自分自身を見てくれる。そういうふうに、せっかく、芝居が外に向いてきているので。
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- ええ。
- 3号
- 何かもっと、社会貢献じゃないですけど・・・なんていうのかな。機能したいですよね。個人でやって、内輪で「いい芝居だったね」じゃなくて。これは僕の好きな押井守監督が言ってたんですけど、やっぱり社会から反響を得たいんですよね。影響を与えるのはきっと難しいですけど。
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- 単純に見てもらいたいというだけじゃなくて?
- 3号
- 社会の地続きで芝居していたいと思うんです。そこだけに自己完結しているんじゃなくて。そういう環境は、まだ京都にはないんじゃないかなと。劇場に来る人は来るけど、知らない人は多分、ずっと触れないままだと思うんですね。
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- お客さんがいないという事はないんですけど、少ないのは悔しいですよね。ユニークな劇団や作品がたくさんあるのに。
- 3号
- それには、割と閉じられた演劇を作っている人が多い、分かる人には分かるみたいなのが多いからかもしれないなと。僕はもちろんそういう芝居は好きなんですけど、間口が広い芝居を作りたいですね。地底人は割りとその辺を狙ってこれまでやってきたんです。何かちょっとおかしな事をやっていながら、ちゃんとお客さんに分かるような。
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- 分かります。
- 3号
- そういう事を成立させてやっているのが、僕の知る限りsunday※しかないんじゃないかと思うんです。凄く演劇的な事をやっているのに、間口が広いんですよね。ちなみにウォーリー木下さんには、今回のチラシにメッセージを頂きまして。すごく励みになって。
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- sunday。私も好きです。小劇場がベースにありながら、不特定多数向けというか、とにかく見やすいんですよね。
- 3号
- sundayは凄いですよ。作り手が見ても凄い事をやっているのにも関わらず、ポピュラリティを持っているって。普通ああいう事をしたら、一般のお客さんはよくわからない事になると思うのに。その辺りはピンク地底人は狙って行きたいですね。
- ※sunday
- 大阪を拠点に活動する劇団。第二期・劇団☆世界一団。作・演出はウォーリー木下氏。
人間が見れる
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- では、稲森さんは弱男のどういう所が魅力だと思われますか?
- 稲森
- 人間。
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- おお。
- 稲森
- 人間が見れる所だと思います。人間像という意味ではなくて。私にとって弱男の舞台は、演じる場所というよりは、現実の地続きなんです。
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- 地続き。
- 稲森
- 私と向井さんは割と長いことやってるんですね。その二人の感じって、私達にしかたぶん出せないんですよ。舞台上にまで二人の関係性が延長している、という事ではなくて。阿吽の呼吸でもないんですけど、ノリですかね。
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- ノリが舞台に持ち込まれている?
- 稲森
- そうですね。関係性とか言っちゃうと、具体的になってしまうので。
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- 分かる気がします。クセというか、セッションというか。
- 稲森
- そうですね。音楽みたいな。
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- 触れ合いみたいな・・・つまり、関係性みたいな高レベルな層じゃなくて、もっと低レベルな、もっと深い層での接触があるんですね。
- 稲森
- そうですね。頭で考えたコミュニケーションじゃないんですね。
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- そういう関係を舞台で見て、我々自身の、リアルタイムな実生活を却って思い出すという事なのかな。ふれあいの記憶が呼び出されるような。だから、役者が不器用だというのは必要な条件なのかもしれませんね。
「やらなくてはダメだ」
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- 平松さんがお芝居を始めたのは。
- 平松
- 子供の頃から、親と一緒に劇場には行ってたんですよ。大学に入って、学生劇団を改めて見た時にめちゃめちゃ面白く感じたんです。その日は実家に戻る予定だったんですけど、やりたいことが出来たって電話して。その日の内に小屋に出向いて、入りたいと伝えました。
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- まずは学生劇団からなんですね。
- 平松
- その集団の中にいたいなと思ったんでしょうね。入って、ほっとした気分がありました。
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- その時の気持ちは、いまでも地続きでいますか?
- 平松
- ほぼそんな感じですね。その時代にやっていた事は今でも生きています。大学をやめて社会人になって芝居をやめていたんです。でもしばらくして、個人的に「やらなくてはダメだ」と思うようになりました。
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- 演劇を必要としていた。
- 平松
- 演劇というものが自分にあって良かったなと思います。僕という個人が困った時、表現したい時に演劇を作って、それを見て頂けた方が「面白かった」とか「こう感じた」とか仰ってくれたんですよ。そのぐらいから、見てくれる方の事を意識するようになりました。
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- なるほど。
- 平松
- 意外に、普通に純粋にやってるでしょう(笑う)。最初は学生劇団が活動しているのを横目で見ていて、「大学にもこういうのがあるんだな」ぐらいに思っていたんです。でも本当は、自分が一番演劇を必要としていた。今でも、演劇を必要としているのにその存在を知らない人が多いんだろうと思っています。とにかく、沢山の人に出会っていきたいですね。
普通なんだなって
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- 東京に行って、何か変わった事はありますか?
- 奥田
- うーん・・・やっぱり、現実を見たって感じですね。演劇をやりたいって人がめちゃめちゃ沢山いて、上には上がいるというか。並大抵のアレでは・・・。
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- なるほど。
- 奥田
- 今考えると、関西にいた時は気楽だったと思う。TVの仕事とかも最初は嬉しかったけど、それはやっぱり普通なんだなって思うようになりました。ああ、なるほどねって。やっぱり東京に行けば何とかなるって思ってたんだけど、必ずしもそうでもないなって。
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- ご自身の夢が叶ったり叶わなかったり。それで人も沢山いて。それで、夢が価値を失ったという事でしょうか?
- 奥田
- いや、例えばドラマの現場に行って、それまで憧れだった人に会ってみて。実際に踏み込んでみると地続きなんだって思ったんですよね。
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- 地続き。
- 奥田
- 普通の現実だったって事で、夢見がちでなくなったって事です。
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- 足を踏み入れてみたら、もの凄い事が起こるという訳でもなかった。
- 奥田
- うーん。東京に行ったら何か、やった以上の事が起こると思ってたんですね。でもやった分だけ返ってくる。やらなかったら帰ってこない。そんだけ。いい意味で現実的になったんですね。