「くっ」

九鬼 
最初に演出をした時、お芝居の中で、女の子に性的な意味で負荷の掛かる主張をさせたんですね。学級会という設定でその子に辱めを受けさせたんです。その子以外はドン引きしている状況で。で、その子を結果的に責めることになってしまう役まわりの女優がですね、「くっ」ってその子から目を反らしたんです。みてられない、みたいな顔をして。私は、それは違うと思って。信じられないものを見る目でその子を見なさい、と指導しました。直後の返し稽古で、見られた方の子が泣き出して。それが凄く楽しくて、恥ずかしい台詞を言わせたことだけじゃなくて、彼女が周りの視線によって惨めになって泣かせることができて嬉しかった。後で本人に聞いたら、惨めで仕方がなかったって。
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すばらしい。
九鬼 
そういう出来事が嬉しかったですね。後輩の女の子を泣かせて、ひどいんですけど。
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お芝居の稽古というか、人間性に直近したというのが大きな成果なんでしょうね。
九鬼 
そういうのをもっとやっていきたいなあと。役者が、役者として深く潜ってくれるのは、わかっていて。その結果、惨めな子が可哀想で、「くっ」とやろうと思って、稽古で見せてくる。それに、違和感を感じて、この違和感って何だろう、むしろ逆に視線を逸らさず、見た方がいいんじゃないか。結果惨めさがアップする。なんかそう言う風に作っていけたら。そうした葛藤の全てが最後の最後に決着を見て、ストレスが解放されるというのがいいですね。でもいま努力クラブで全然別の価値観を見させられているので・・・正解っていっぱいあるんでしょうね。価値観は一つだけってわけでもないですから。

タグ: 舞台に立つまでの葛藤 「く」「くっ」 見られている事を意識する


ターニングポイント

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私はウォーリーさんの作品はいくつか拝見していると思うんですが、その中でも格別に印象に残っているのが、京阪電車とArtTheaterdbとの企画、「サーカストレインです。
木下 
あれもめちゃくちゃでしたね。
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ちなみに私は先頭車両に座っていました。そこで、白塗りの少年が妹と別れを告げるというシーンがあって、そのシーンでホームにたまたまいたおばあちゃんとの対比がやたら絵になっていたり。
木下 
そういう感想は嬉しいです。あれも京阪電車とはやり合いましたね。当然、全裸とか無茶はNGで、でも男肉duSoleilは上半身裸だし。外の人が事件だと思うような事はしてほしくないという規制はありましたね。上の人をどう説得するか、それを考えるのは好きです。それはOSPFをやって鍛えられたところがあります。あれも、何十団体も出ている中にはアウトなのもあるんですよ。一番最初の神戸でやったフェスティバルはゴキコンが出てたんです。当然、行政からお金の出ている仕事なので、例えば子供に見せられるかどうか、過激な作品を見てこれがアートなのかという話になってくる訳ですよ。でも、行政の線引きも曖昧なんですね。そこで僕は、その線引きを「くっ」て広げてあげて面白さを伝えるのが僕の仕事だと思っています。この人たちは普段こういう表現をしているけど、この下品さはひっくり返すとアートになっていて、具体的にこういう状況だと価値を持つんですよって。アーティストにも乳首に絆創膏を貼ってもらったりして、間に入って調整するんです。それは環境づくりにおいて大事だと思うんですよね。普段アートを見ない企業とか行政の人って、分かんないんですよ。それを丁寧に批評を含めて説明するというのは、自分の創作を守るためにも大事だと思いますね。扇町の時の、むちゃくちゃをしたいという気持ちが今も残っているのかもしれないですね。あの頃は熱さしかなくて言葉を持っていなかった。
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それはきっと、大変なお仕事ですね。「くっ」と曲げた部分に面白いものが存在しうるよ、という事が分かってもらえたら嬉しいですよね。
木下 
そうなんですよ。多分、僕の作品作りはOSPFやオリジナルテンポを始めてから変わったんですよ。というのは、普段の生活の中にも面白い事はたくさんあるんですよ。街を歩いてたり、電車に乗っている時にでも。それを演劇とかパフォーマンスにする事で、世の中の視点が増えるんじゃないかと。そうした作品を自分の劇団だけでやるのではもったいない。例えばフェスティバルでも出来るし、パブリックスペースでも出来るし。だから、そう思っている自分がプロデューサーをしないといけないんだと思うようになりましたね。
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世の中の視点を増やすとは。
木下 
普通に生きていたら当たり前の事をスルーするんですよね。それは、あんまり生きている事にはならないんじゃないか。歳取ってどんどんそうなっていく自分がいて、やばいぞと思ったんですね。きっと。とはいえ、満員電車に詰められて通勤する会社員達も、あの中で何とか楽しみを発見しようとしているんですね、これも歳取ったから分かったんですけど。そういうお手伝いをしたい。それが爆発的に出来たのが「サーカストレイン」だったんだと思います。
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一回限りの公演でしたし、すごく貴重でしたよね。最後に車掌さんが「次は100年後にお会いしましょう」ってアナウンスして。凄く面白かったです。
木下 
あの作品は自分にとってもターニングポイントでした。あれ以降、パブリックスペースでのパフォーマンスが多くなったと思います。路上って未知ですよね。韓国でやったパフォーマンスは路上で寝起きするというものだったんですが、見てる人が携帯で写真を撮ったり、一緒に寝そべってくれたり。能動的な観客っているんですよ。そうか、僕はお客さんを能動的にしたいんだと思う。
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お客さんを能動的にしたい。能動的な観客が、パブリックスペースには存在しうる。
木下 
しうりますね。Instagramでみんないい写真を撮る、いわゆるアーティストなんじゃないかと思う訳で。それが、演劇作品でも同じアプローチを取れるんじゃないか。そう思いますね。もちろん、お金を取って見せる芝居とは線引きも必要かもしれないですね。
アートエリアB1 鉄道芸術祭 vol.0「サーカストレイン」
公演時期:2010/11/14。運転区間:京阪電車「中之島駅」(14:07 発)→「三条」駅(15:35 着)[往路のみ]。走る電車の中でダンスパフォーマンスが楽しめるプログラム「ダンストレイン」。今回は大阪から京都を駆け抜けます。総合アートディレクターとしてウォーリー木下氏を迎え、ダンスだけでなく、音楽や演劇などジャンルにとらわれない表現を取り入れた、ストーリー性のある内容でお届けします。(公式サイトより)
男肉duSoleil
2005年、近畿大学にて碓井節子(うすいせつこ)に師事し、ダンスを学んでいた学生が集まり結成。J-POP、ヒップホップ、レゲエ、漫画、アニメ、ゲームなど、さまざまなポップカルチャーの知識を確信犯的に悪用するという方法論のもと、唯一無二のダンスパフォーマンスを繰り広げている。
OSPF(OSAKA SHORT PLAY FESTIVAL)
演劇祭。2005年~07年に松下IMPホール(大阪・京橋)で4回(05年は春夏2回)開催。

タグ: 「く」「くっ」 路上パフォーマンス ターニング・ポイント


あの時代(3)

木下 
今考えてもむちゃくちゃな時代でしたね。僕、中之島で遭難した事があったんですよ。台風の日にテント芝居を見に行ったら浸水が酷くて、役者の血と雨水が膝の高さまで来てたから観客全員「く」の字になって足を持ち上げてたら公演中止になって、その公演の舞台監督さんが「こっちだ!」ってラストシーンで使う予定だったであろうスクリーンを開けたら、そこは海だったんですよ。
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ええっ。
木下 
中之島無くなってるんだよ。焦って、舞台美術のベニヤをバンってはがして「これに乗ってください!」って言われて、お客さんを5人ずつ乗せて・・・これ新聞沙汰やん、そうしたむちゃくちゃな演劇を見てきているから、そういうものなのかなという思いこみはあるのかな。
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今はもう、そんな演劇をやってもすぐ事件になっちゃうんでしょうね。
木下 
怒られるぐらいの事をした方が、演劇の価値は上がるんじゃないかとかは思いますね。でも、今はネットがあるからなあ。ちょっと何かがあったらみんな書いちゃって、叩くやろうなあ。
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正義感がありますからね。
木下 
何なんだろうね、ああいうのはね。もっと笑った方がいいと思いますね。

タグ: 「く」「くっ」 会場を使いこなす