未知の世界で最初に出会う

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松田さんがお芝居を始めたのは、どのような経緯があったんでしょうか。
松田 
私は30歳の頃、一度転職をしているんですよ。前職場と今の職場の間に少し間があるのですが、その間に「滋賀県演劇アカデミー」というWSに参加したんですね。今から考えるとものすごく安い料金でした。しかも講師は青年団の志賀廣太郎さんで、丁寧に教えて頂きまして。それが最初ですわ。子供のとき、学校で「嫌いな先生の教科が嫌いになる」っていうことってあるじゃないですか。それぐらい未知の世界で最初に出会う指導者って大きいんですよね。志賀廣太郎さんという良い人に出会えてラッキーだったなと思います。
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ああ、社会人になってから演劇を始めるって結構珍しいかもしれませんね。
松田 
演劇人って、学生時代に演劇を始めて30歳を過ぎたあたりで辞めいく人が多いでしょう。結婚とかで生活がかかってきて続けられなくなって・・・本当に惜しい事に。私の場合は逆で、30歳から始めて、その時点で既に仕事をしていた訳ですから、今も仕事をしつつ芝居を続けてます。
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確かに、その意味では松田さんは逆ですね。

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vol.293 松田 裕一郎

フリー・その他。

2013/春
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松田

「シティ派で」の思い出・1

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一番最初のピース、ファッションショーでしたね。トミーさんがガン黒になって出てきましたね。
cosi 
似合ってましたよね。あれ、私めっちゃ可愛いと思ってて。でも本人はあれで褒められても嬉しくないって。
__ 
それから、彼女へのインタビューを挟んで、何だかよく分からない状態になった山村さんの。
cosi 
あれは80年代のクラブの、ヘンにカッコイイファッションだったんですよ。
__ 
ああ、何だか覚えがある。
cosi 
お前バカじゃねーの、みたいな。
__ 
まだキモイという言葉が生まれていない時代の。次の印象深かったピースはエアロビでしたね。あれは何だったんですか?
cosi 
あれは「アンチ保守化」というタイトルで。「80年代地下文化論」にコミュニティの内閉について書いてあったんですよ。そのコミュニティがアツければアツいほど閉じていく。でも、今見ると個人がそれだけで内閉しているように思えるんです。今クラブに行っても、下を向いて踊っている人が多い。自分の中だけで踊っているんです。でも、90年代のバンドが演奏しているクラブのホールに行ったらみんな上向きで踊っている。他人だけど、隣の人と楽しく踊るみたいな。そのムードと、エアロビ教室の楽しさって似通っている。これ、今の若モノ世代ではありえないなと。衝撃だったんですよ。
__ 
ええ。
cosi 
で、演劇を見に来るお客さんってちょっと内向的な人が多いと思うんですよ。だから、半分実験なんですけど、アトリエ劇研に来るお客さんを踊らせてみようと。
__ 
申し訳ないですが、私は後ろの方で見ていました。
cosi 
(笑う)2日目は誰も踊らなかったですね。そんな違いも面白かったです。
__ 
それから、妙な赤い全身タイツが出てきましたね。
cosi 
あれも80年代のヘンなカッコ良さですね。
__ 
それから、着替えタイムでしたね。あの時のトミーさんの服装は物凄くダサかったですね。
cosi 
どうしようもなかったですね、あれは(笑う)。ファッションが人の価値を決める訳ではないのに、ダサイ格好の人間が下に見られて締め出されるという傾向が80年代から強かったんですが、服に振り回される人を描きたかったんですよ。
__ 
あと、下らない会話のピースが。
cosi 
あれはトミーのですね。演劇じゃなく、ただの会話を見せたいと。それは平田オリザの静かな演劇と何が違うのか。会話を芝居やコミュニケーションとして捉えるのではなく、物体として見た時に、例えば街にいるギャルのとりとめない会話って面白いなと。突然話が切れたり、全然別のセリフにつながったり。でも携帯がなったら「Heyボス!」って言わなきゃならないという圧力もある。
__ 
それから、例のダンスが。ダンス?フォーメーションダンスと言えばいいのか。
cosi 
はい。あれは三角という図形をモチーフにヒエラルキーを表現しようという振り付けでした。最近chikinは三角にハマっていて。
__ 
ああ、図形としては単純なクセに他と調和しない形ですよね。不自然ですよね。

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だんだん余分なものを取って、余白が残って

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
七井 
今やっているロマンポップの芝居なり、自分の演技のあり方なりが全体的に過剰なんですよ。情報量だったり、熱量だったり。抽象的な話なんですけど。
__ 
というと。
七井 
とある役者の方に、沢先生を見に来ていただいて感想を伺ったんですよ。「テンションの高い会話劇だよね」って。荒削りって。それは事実、普通の会話でもテンションが高いんですよ。何でかなというと、脚本家が「芝居は観客をレイプする事なんだ。みんな、普通の人は見たくないんです、気違いを見たいんです」と常々言っていて。
__ 
なるほど。
七井 
するとどうしても、なんだか会話がおかしくなってくるんですよね(笑い)。例えば、静かな演劇の脚本をロマンポップでやったら全然違う方向になると思うんです。
__ 
そうかもしれませんね。
七井 
私個人の目標としては、今後はそれを削ぎ落としていく方向になるんじゃないかなと。
__ 
削ぎ落とす。引き算していくという感じでしょうか。
七井 
一つの表現に収斂させていくというよりは、だんだん余分なものを取って、余白が残って・・・という方向になったら何か出来るのかなと。舞台に立っていても、そういう実感があるんです。
__ 
わびさび、ですね。多分、理解するのは簡単だけど作るのはめちゃくちゃ難しい美だと思うんですよ。何というか、京都では受け止められやすい表現の方向だと思ういます。
七井 
何にせよ、まだまだ余白よりも伸びしろのある劇団なので、先の話でしかないんですが。

タグ: 揺らぎ、余白 情報量の多い作品づくり 静かな演劇と「出会う」 舞台にいる瞬間 今後の攻め方


サミュエル・ベケット

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次回は10月だそうですが。
津野 
はい。次回は古典をやろうと思っています。
__ 
古典ですか。
津野 
ベケットという、不条理劇の先駆けと言われている人なんですが。
__ 
サミュエル・ベケットですね。
津野 
はい。参考にと思って台本を買ったんですよ。で、読んだんですけどいまひとつ面白くなかったんですね。ベケットがやったことって当時はすごく斬新な事だったんですよ。それまで演劇は何かドラマチックなものの筈なのに、何も起こらないという事を題材にしたという。でも、今そんな演劇多いじゃないですか。
__ 
ああ、そうですね。
津野 
静かな演劇と言われるものがあったりとか。今の時代で、このベケットをどう演出するべきなのか、ですよね。昔、劇研で柳川の公演をした時に「ベケットに通じるものがある」と言われた事があったんですが、読んでも「このおじさんつまんないな」と思ってしまう。でも、未だに名前が残っているという事は、何かあるんだろうなと思うんです。20世紀を代表する偉大な劇作家な訳ですから。ちょっと勝負をしてみようと思うんです。まあ、10月になってもベケットかどうかは分からないんですけど。
__ 
古典ってちょっと意外ですね。
津野 
古典はちょっとやりたいなと思っていたんです。台本書かなくていいから(笑う)。
__ 
確かにそうですね(笑う)。しかし、当時は斬新だったんですよね、ベケット。
津野 
ベケットの凄いところは、演劇に必要だとされていた部分をどんどん排除していって、役者の肉体もいらないって、口だけの芝居をしちゃった人なんですよ。役者がずっと壷から顔出してるだけだったり、女の人が土に埋まったままずっと芝居したり。そこまで行き着けるのは凄いと思うんですよ。50年代にそういう事をしたというのは。
__ 
なるほど。
津野 
でも、今見るとそれほど刺激的とは言えないですね。
__ 
今はもう蹂躙されてしまっているからでしょうね。
津野 
まあでも、僕らもそろそろ真面目にやってもいいかなと。やり方はきっとデタラメですが、僕らは10年間そのデタラメな事をやってきたつもりなので。

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範囲

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私実はですね。結構昔に田辺さんの作品を拝見した事がありまして。t3heaterだったと思うんですけど、登場人物の男の方が、死んでいるか生きているか不明の女に向かって「難しいな、難しいよ」と言って終わるものでした。
田辺 
おお! それは「うみのうた」ですね。リアリズムだった時の。
__ 
あ、やはり田辺さんの作品だったんですね。それと、最近の2作を拝見している訳ですが、いわゆる静かな演劇ですよね。そこでひとつ伺いたいのですが、下鴨車窓では、俳優に演技を付ける時にどのような点に留意しますか?
田辺 
とりあえず、役作り禁止ですね。どんなに僕らに身近な風景の作品でもそうだと思うんですけど、舞台俳優の「この役の事はすべて分かっている」という態度に違和感を感じるんですよ。分からんでしょうそんなこと、って。例えば、自分の親とか生まれてからずっと付き合っていてもいまだに知らないこといっぱいあるし。でも演劇となるとたかだか台本を読んだくらいで分かりました、といえることの傲慢さってなんだろうと思うんです。
__ 
なるほど。
田辺 
だから、役作りは禁止です。もちろん、何もナシで演技が出来る訳ではないので、最低限これは言えるね、ということを積み上げていってもらいます。例えば、このセリフを言うのでも、これ以上いっちゃうとセリフとして言えない、逆にそれ以下だとシーンが成立しない、という演技の可能性の範囲を探し当てる作業をするんですね。
__ 
演技をポイントで決めるのではなく、演技が作品として成立する範囲を探っていくという事でしょうか。
田辺 
そうですね。実はこれは本番でも決定しないんですね。その都度、揺らぎがあるようにしたいと思っています。そういうやり方を俳優の方でも受け容れてくれたら嬉しいですね。
__ 
作り方についてもう少し伺いたいのですが、役作り禁止で、かつ演技を範囲で考えていくという事は、作品を作る上で舞台上の人物の感情については管理しないという事ですか?
田辺 
段取りはあるんですよ。セリフの言い方を指定することもあります。でも、けして感情とリンクさせないようにしますね。怒りを込めてとか、悲しみを堪えて、みたいな指定はしません。確かに、台本を沢山読み込んで、役の内面を追って「ここはこの人は怒っているからこういう言い方をするよね」ということを話し合いはします。でも、具体的に感情を付ける演出はしないんです。問題は、それをやってみせるかどうか。それは僕らの中にちゃんとあるけれど、出しはしない。役の解釈と役の表現とを分けて考えて、結論めいたものを舞台上で出さないようにすることが重要なんですよ。

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