光の中に軽く舞う
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- 「腹は膝までたれさがる」。大変面白かったです。老いをテーマにした作品でしたね。根底にあるのは、老いは自分に何をもたらすのか?という問いだったように思います。後半、お二人が軽く舞うようなシーンがあったんですが、あれは、自分が完成していく瞬間を描いていたように思います。とても印象に残りました。
- 白神
- はい。ありがとうございます。
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- 何となく思ってたんですが、白神さんのダンスって、自分自身に向けて踊っているような感覚がどこかにあるような気がしていて。そういう前印象も手伝って、完成に向けて自由自在に漂う老人みたいな絵が完璧に美しかったんです。自分の完了を見つめる為だけの、神聖で侵されざる時間。白神さんはこの作品に関わって、どんな印象を持たれていますか?
- 白神
- そうですね、まだ終わった訳ではないんですが・・・全てを分かってやっている訳じゃなくて。消化出来ていない部分もあるんです。探りながら、今日はこうやってみようかな、みたいな。お客さんの感想を聞いて「ああそういう感想を持たれるんだ」とも思います。色んな感想を受け止めつつ、でも影響されすぎないように作品を理解していけたらなと思います。でも、仰っていただいたように、自由になっていっていけたらいいんじゃないかなと。
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- 自由になっていく?
OUT
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- 幸せになりたいと思った事はありますか?
- 宮階
- 会いたい人に会えて、やりたい事がやれる事じゃないかな。かつ、一人になる事も出来て。それらの活動が命を脅かされない事。
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- 今は、それは出来ていますか?
- 宮階
- 今は命を脅かされていないんですが、最近起きた北朝鮮の政治家の粛清を見て、ちょっと吐きそうになって。物凄いひどい殺され方をしたらしいんです。同時代でこんなおそろしい事があるのかと。私、中世の魔女狩りが今行われたらどう考えても真っ先にOUTになるんですよ、どう考えても。そういう時勢になったらすぐ海外に逃げられるように今人脈作りをしています。バカバカしいかもしれないけど。
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- いえ、バカバカしくないです。それが正解だと思います。何故って、日本も言論統制が強くなっていくんですから。左派・右派ともにその方向をとりがちなんですよ。それも感情的に。それはもう、逃げるしかないです。
- 宮階
- 今動いている世界の感じからして、動いておいて損はないと思う。単純に海外に行くことも好きだし。つい先日もバンコクで、国際エイズ会議でパフォーマンスしてきました。めっちゃ受けたんですよ。
めざせ、変幻自在
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- お芝居をしていて嬉しい瞬間はありますか?
- 佐々木
- 役を通して、日常では絶対しない感情になった時ですね。日常ではあまり怒らないので。
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- いつか、どんな演技がしたいですか?
- 佐々木
- 佐々木ヤス子としての自分を出し過ぎることはなく、でも、この役は私にしか出来なかったと評価される役をやってみたいですね。どの役をやっても同じやり方をしてしまわないような。そのバランスが出来たらと思っています。
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- 自分でないといけない役でありながら、予想されない。
- 佐々木
- 劇場に行く前から、あの人はこういう演技するんだろうなあみたいな予測はされたくないです。変幻自在になりたいですね!
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- 変幻自在であり続けるという事は、毎回、新しい領域を開拓するという事ですね。
- 佐々木
- そうですね、大阪BABYLONの時の下級妖怪のように。あと、オタクの役をやってみたいです!単純に興味があります。
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 佐々木
- とりあえず、12月末までは関西で頑張ろうと思います。いつか東京に行きたいと思っています。恥ずかしい。でも、色んな所に呼ばれたいなあと。オーディションを沢山受けて。色んな演出や脚本をやらせていただいて、もっと変幻自在になりたいです。
この生きづらい世界で
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- かのうとおっさんの作品、とても好きです。何というか、性悪説を体現したかのような登場人物たちの放埒な姿を見ていると、人間そのものを許せるような気がするんですよね。その奥に、地獄を肯定してやるんだ、的な姿勢を感じるんです。
- 嘉納
- ありがとうございます。そういう事だと思います。
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- クズばかりが出てくる芝居だと思うんですが、書いている方からしてはいかがでしょうか?
- 嘉納
- 特にここ2・3年はそういう方向になってきている気がしますね。それまではちょっとおかしい人々を書いていたんですけど。
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- なぜそのような人物を描くようになったのでしょうか?
- 嘉納
- 生きづらい世界だと思うんですよ。ちゃんとしないといけないんですが、そうしたくないなあという気持ちがどこかにあって。立派にいようとすると、ちょっとしんどい。
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- 成長したくないというのは大変文学的なテーマだ、みたいな評論がどこかにあったような気がします。そういう気持ちが嘉納さんにはある?
- 嘉納
- 20代の頃、立派になろうと振る舞っていた時期があったんです。いい人であろうと、自らを演出しようと、例えば相談されたら「大丈夫だよ」とか答えたり。しばらくして、このままだとつまらない人間になりそうな気がして辞めてしまったんですよね。3ヶ月くらいで。立派な事を言ったりしてたらああこれクソつまんねえなと。
らせん
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- 今後、抽象的な意味でも、具体的な意味でも、どんな方向を目指されて行くのでしょうか。
- 広田
- 目指す。うーん。抽象的というと、皆が思っているじゃないか、という事になっちゃうのかな。そこに居られたらいいな、という。で、まあ、何か違う場所に、一緒に行けたらいいなと思うんですけど。本当にそういう事というのは簡単には言えないし、あたしどうすんのというのはあたしが聞きたい。という感じですかね。
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- ええ(笑う)。
- 広田
- たまたま、舞台が続いている期間があるので、何か、やりながらやりながら何かが更新されているという感触はあるんですけど、じゃあその先どうすんの、ていうのはあんまり・・・。難しいですね。昔、演劇をやっている中で、自由とか、遊ぼうとか、楽しもうとかいう言葉が大嫌いだったんですよ。で、ずっとやってきて。当時嫌だったそういう言葉とは別の意味で、ああ自由になれたらいいなと思えるんですね。
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- その自由というのは、何かからの自由、という意味ですか?
- 広田
- いや、あの、どこにでも行ける。
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- ああ、状態としての。自由自在な。
- 広田
- そうですね。器用とか、そういう事ではなくて。何だろう。うん。だって、どこにでも行ける筈、ですよね。現実的にも物理的にも。という事を最近は思います。私が多分反発していた、演劇における自由というのは、何でもアリというのでは。
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- ないと。
- 広田
- 違うよな、と。恐らく自由という言葉の内包する何でもアリに、イヤと思っていて。で、一回りして、放恣放埓、何でもアリというものに対しては、まあそれはそれでいい、けど、目指すものではないかなと。でも難しいよなあ。何でもアリというのは人によって定義が違いますよね。
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- そうですね。
- 広田
- でもまあ、一回りして、もっと自由になれたらな、と。自分で自分を束縛している。ベタな言い方ですけど・・・。2月にやった「傘をどうぞ/ソウルの落日」※と話していて、自分の考えが自分を縛るから、といわれて。そうだなあと。よく言われる言葉なんですけど、文脈とかのせいか、すごく腑に落ちたんですよね。
- ※第28回Kyoto演劇フェスティバル実行委員会企画「傘をどうぞ/ソウルの落日」
- 公演時期:2007年2月20日~22日。会場:京都府立文化芸術会館。
- ※山口浩章氏
- 脚本家。演出家。劇団飛び道具所属。