悲惨さについて
- 早川
- それはあるかも。ちなみに僕はウディ・アレンが好きなんですけど、シニカルだとか、ペーソスだとか。ここ数年は僕もちょっとそっちに傾倒している部分があります。ああいう芝居って、演劇にはあんまりないかなと。
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- そうかもしれませんね。そういえば。
- 早川
- 辛い事と笑いって表裏の関係にあると思うんです。その、針の穴を通すようなとこをやりたいなと思っています。
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- ある程度悲惨さがないと、笑いはせり上がってこない気はしますよね。
- 早川
- そうなんですよ、でもそのさじ加減は本当に難しくて。自分は悲惨の方に寄ってしまう癖があって、そこが課題なのかなと。
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- 針を通した傑作。笑うというのは、確かに人間が持つ最高の感情かもしれない。
- 早川
- うーん、僕はその、笑いが崇高なものだという言葉はあまり言いたくないですけどね。例えば「笑い」と「お笑い」は違うとか言うじゃないですか。僕は笑いもお笑いも同じじゃないかと思うんです。「お」が付いたらお下劣とか言うけど、どっちも同じじゃないかなあ。
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- 早川さんは、お客さんに笑って貰う事で、どんな気持ちになってもらいたいですか?
- 早川
- とにかく笑ってもらう事が一番大事ですね。面白いと思って、笑ってもらえたら。それで人生を変えてほしいとかは思わないですし、影響を与えるつもりはないですね・・・その瞬間笑ってもらえれば、それでいいのかもしれません。
katacotts『不動産を相続する姉妹』※
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- katacottsの前回公演『不動産を相続する姉妹』面白かったです。表象的な、うすっぺらい小道具を使って表層に振り回される人々を皮肉った演出だったかもしれないなと。戸谷さんとしてはどのようなつもりで演出されていたのでしょうか?
- 戸谷
- ひとえに出演者の方にご協力頂いて、色々ご意見も頂いてそれに助けて頂いたんです。田辺剛さんの作品は、その作品世界や登場人物たち個々のさじ加減(演じる上での)とその調和を難しく思いました。私は戯曲の中で、物語自体の儚さや登場人物たちの脆さを感じたんです。それで小道具も薄いもの(アクリル板やガラスなど)にしたんですけど。もとから透明なものを使うというプランはもっていました。
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- 脆さ。
- 戸谷
- 登場人物達が立っている場所が一本の柱の上のような気がしていて。だから、ミステリーの部分についてはあまり掘り下げずにしていました。そこに脚本の焦点があるという訳じゃないのかなと。そこを探ると物語が崩壊してしまいそうな気がして。だからそこは色々想像が出来るようにして。
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- なるほど。
- 戸谷
- 上演する時にある程度イメージはあったんです。定点としての土地は共時的にあり続けるけど、幾千年をかけて風化し、色々な人々が移り住む。時には雨風にさらされるだけのときだってある。その通時的断片である、ある家族と土地を巡る物語を見せたかったんです。私は姉役を演じたんですけど、家族への執着を演じながら、最後には前提として「通時的土地(共時的家族)」からその「概念」のみを受け継ぎ「その土地に決別する行動を見せたかった。土地を離れられる精神状態まで演じきれればなと思いました。土地や国や場所って、壊れやすいものだと思うんです。家族だってまんざらではない。でも、概念や思いは漂っていて、如何様にも変えられる。思いを持っていればループされていくんじゃないかと思っています。
- ※katacotts『不動産を相続する姉妹』
- 脚本:田辺 剛。公演時期:2013/2/22~24。会場:壱坪シアター スワン。
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- そういうスタイルは、いつ頃から始まったんでしょうか。
- 津野
- 柳川を始めた当初は、それこそ三谷幸喜さんみたいな作品に憧れていたんですけどね。上手く複線が張り巡らされていて、最後には全てが活かされるみたいな。それに飽きて、モンティパイソンとかを見るようになったんです。見ている内に、「こんなんでもいいんだ」って思えるようになって。
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- なるほど。一番最初のシュールな演出というのはどんな。
- 津野
- 昔、アトリエ劇研でやった「サンシャインボーイズ」という公演で、当初「12人の優しい日本人」をやろうと企画したんです。で、稽古を始めてみてから、どう考えてもキャストが4人しかいないことに気付いたんですよ(笑う)。4人で12人は無理だよね、と。必然的に一人が複数の役を演じる事になったんですね。でも書いていると無理が出てきて、自分で自分に話しかけることになったり、誰も舞台上にいなくなったりして。
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- え!
- 津野
- 話を進めようがなくなっちゃったんですけど、もういいじゃんと。そこからはチャップリンのお話を始めたらいいじゃない、とか思って。結果的には『12人~』とは全く別物のお話になりましたけど。でも、4、5年前から「面白いじゃんこれで」と思えるようになったんです。飽きたら、そこから紙芝居でも始めればいいじゃん。だってそうなっちゃったんだから。そうなると、舞台でお話を見せているというよりかは、僕たちがお芝居を作るまでの2ヶ月間の苦労を見せているという状態になりましたね。
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- なるほど。
- 津野
- 飽きたら、別のお話を始めればいいじゃない。開き直りなんですけどね。最近はさじ加減が分かってきました。映像を使ったりして。
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- 台本を書いている途中で飽きるっていうのがいいですね。
- 津野
- 本番二週間前くらいに思いついたことじゃないと、僕が乗り切れないんですよ。おかげで役者は大変なんですけど(笑う)。