毎日が作品
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- 楠さんは、ご自身の抱えるものを何かの形にするべきじゃないかと思う。いかがですか?
- 楠
- 実は、いつかやりたいなと思っています。それは演劇という上演形態にはならないで、パフォーマンスのようなものになりそうなのですが。私が路上で水を持って道行く人とお話をして、概念を収集するんです。水は売っているのですが、すごく高い値段に設定して、売りません。水そのものではない時間やサービスを売ることで、物々交換をするんです。
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- 水と、何を?
- 楠
- 価値の話をやりたいんです。人が日常で受けている、形の無い価値。サービス産業の事を考えたいんです。私の水と交換して集まったお話や概念を一つの目に見える形にしたいんです。
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- つまり、概念を交換して収集する?
- 楠
- そう、そうなんです。タイトルが「水を売ること」というのは決まっています。私は演劇をするまでずっと絵を描いていたのですが、これをやっている間に久しぶりに絵を1枚描きたいです。作品の為に過ごしている時間を形にしたいから。稽古の時間も、毎日が作品だよという、日常を異化することがやりたいんです。
劇団どくんご 公演第二十八番「OUF!」 THE NAKED DOG TOUR 2014※
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。神戸公演が終わった直後のお疲れの中、大変恐縮ですがお話を伺えればと思います。今日は大変貴重な機会を頂きまして、誠にありがとうございます。私、実は10年ぐらい前に京都大学西部講堂で「踊ろうぜ」を拝見しました。とても面白かったです。あの日からどくんごへの興味が尽きません。今年もツアー中という事で、関西には6月に京都に来られるんですよね。大阪には10月。ところで、ツアー公演をされていると例えばどういう事が面白いですか?どうしようかな、とりあえず、時計回りに伺ってもよろしいでしょうか。
- 一同
- (笑う)
- どいの
- どうでしょう。各地の受け入れの方がいるから僕らもやっていける部分はありますね。新しい地域との出会いも常にあって楽しいです。
- 五月
- 受け入れの方々との関係もありますけど、野外でやっているのが面白いかな。外でやっているから袖幕もなくて、お客さんの顔も自分達の芝居も同時に見えるんですよ。その時の私はどうやら楽しそうに見ているらしくて「凄く楽しそうに見てますよね」とよく言われます。なんでかな。やっぱり、自分達だけの芝居だけをやっている訳じゃないからかな。その日の客席とか天気とか、環境の中で毎回違うんですよ。うまく行く事も行かない事もあるけれど、毎回新鮮です。
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- ありがとうございます。芝居はお客さんのものでもあるから、その意味では常に違いますよね。
- ちゃあ
- 僕は今年が初参加なので、旅をするのも本番も楽しくて。色々なお客さんが来てくださるのが嬉しいです。演劇以外にも舞踏の人とか音楽の人とか、出会おうと思っても出会えない人にたくさん出会えるのが楽しいです。
- 根本
- 彼は鹿児島出身で、札幌の大学にいるときにどくんごを見て参加したいと言ってきて。去年は転換と演奏にも参加していました。
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- 今日はよろしくお願いします。2Bさんはいかがですか?
- 2B
- 僕が面白いと思うのは・・・本番が何回も出来るという事かな。
- どいの
- なるほど。
- 2B
- 何回やっても完璧な回はなくて、駄目なところは必ず出てくるんですけど。千秋楽でも間違えたりするんですけど(笑う)。時間もあるので、自分の気持ち次第で芝居を変えていく事が出来るんですよね。
- 高田
- 高田といいます。東京で「快楽のまばたき」という劇団で路上演劇をやっています。お亡くなりになった九条京子さんのご了解を得て、寺山修司さんの作品の登場人物の名前を使わせてもらっています。何が楽しいか?これからどうなるか分からないんですけど、まだ慣れてもないし本番も9回しか出来てないんですけど、本番の度に「今日はこう行こう」というのが毎回違っているのが自分でも面白いです。場所のせいという訳でも、周りのせいという訳でもない、その日に何を思っているかも違うし、自分のやろうと思っている事も違う。旅をしているどくんごだけの感覚なのかもしれないなと。面白くもあり、緊張することもあり。
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- スベる時はスベりますからね。
- 高田
- そうなんですよねー、こうやれば絶対うまくいくと思ってやっても、みんなからすれば全然面白くないって事がありますから。こんなんで大丈夫かなと思ってたらウケた事もあるし。
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- カオスですよね。でも、楽しいですよね。石田さんは?
- 石田
- 去年参加して、行く度に受け入れの方が盆に子供が帰って来たみたいに受け入れてくださって。素敵な体験ですね。それと、私も他の人のシーンを見るのが好きです。
- 根本
- 僕は、同じ公演で70~80ステージをするのは初めてで。今まで多くて15ステージだったから。単純に、行った事のない場所に行くというのは単純に楽しみですよね。それと、京都でもちょっと変わった事をしていたからか、ずっと連絡していなかった友達ともう一度繋がれたりとか、自分の地元で公演が出来たりとか、京都でもベビー・ピーのごった煮を前夜祭として出来たりとか。今回のインタビューもそうだし。接点の無かった人達に出会うのと同時に、自分の持っていた縁をもう一度新しい機会として掘り起こすのが楽しいです。
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- なるほど。これからも硬直する事なく、そして古い部分に光を当て、地を進み、根を破り、水を割り、空を飛んで頑張ってください。
- 全員
- (笑う)
- ※劇団どくんご
- 日本全国を旅するテント劇団。
- ※劇団どくんご 公演第二十八番「OUF!」 THE NAKED DOG TOUR 2014
- 公演時期:2014年。会場:日本全国各地。詳しい公演スケジュールはこちら。
ターニングポイント
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- 私はウォーリーさんの作品はいくつか拝見していると思うんですが、その中でも格別に印象に残っているのが、京阪電車とArtTheaterdbとの企画、「サーカストレイン」※です。
- 木下
- あれもめちゃくちゃでしたね。
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- ちなみに私は先頭車両に座っていました。そこで、白塗りの少年が妹と別れを告げるというシーンがあって、そのシーンでホームにたまたまいたおばあちゃんとの対比がやたら絵になっていたり。
- 木下
- そういう感想は嬉しいです。あれも京阪電車とはやり合いましたね。当然、全裸とか無茶はNGで、でも男肉duSoleil※は上半身裸だし。外の人が事件だと思うような事はしてほしくないという規制はありましたね。上の人をどう説得するか、それを考えるのは好きです。それはOSPFをやって鍛えられたところがあります。あれも、何十団体も出ている中にはアウトなのもあるんですよ。一番最初の神戸でやったフェスティバルはゴキコンが出てたんです。当然、行政からお金の出ている仕事なので、例えば子供に見せられるかどうか、過激な作品を見てこれがアートなのかという話になってくる訳ですよ。でも、行政の線引きも曖昧なんですね。そこで僕は、その線引きを「くっ」て広げてあげて面白さを伝えるのが僕の仕事だと思っています。この人たちは普段こういう表現をしているけど、この下品さはひっくり返すとアートになっていて、具体的にこういう状況だと価値を持つんですよって。アーティストにも乳首に絆創膏を貼ってもらったりして、間に入って調整するんです。それは環境づくりにおいて大事だと思うんですよね。普段アートを見ない企業とか行政の人って、分かんないんですよ。それを丁寧に批評を含めて説明するというのは、自分の創作を守るためにも大事だと思いますね。扇町の時の、むちゃくちゃをしたいという気持ちが今も残っているのかもしれないですね。あの頃は熱さしかなくて言葉を持っていなかった。
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- それはきっと、大変なお仕事ですね。「くっ」と曲げた部分に面白いものが存在しうるよ、という事が分かってもらえたら嬉しいですよね。
- 木下
- そうなんですよ。多分、僕の作品作りはOSPF※やオリジナルテンポを始めてから変わったんですよ。というのは、普段の生活の中にも面白い事はたくさんあるんですよ。街を歩いてたり、電車に乗っている時にでも。それを演劇とかパフォーマンスにする事で、世の中の視点が増えるんじゃないかと。そうした作品を自分の劇団だけでやるのではもったいない。例えばフェスティバルでも出来るし、パブリックスペースでも出来るし。だから、そう思っている自分がプロデューサーをしないといけないんだと思うようになりましたね。
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- 世の中の視点を増やすとは。
- 木下
- 普通に生きていたら当たり前の事をスルーするんですよね。それは、あんまり生きている事にはならないんじゃないか。歳取ってどんどんそうなっていく自分がいて、やばいぞと思ったんですね。きっと。とはいえ、満員電車に詰められて通勤する会社員達も、あの中で何とか楽しみを発見しようとしているんですね、これも歳取ったから分かったんですけど。そういうお手伝いをしたい。それが爆発的に出来たのが「サーカストレイン」だったんだと思います。
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- 一回限りの公演でしたし、すごく貴重でしたよね。最後に車掌さんが「次は100年後にお会いしましょう」ってアナウンスして。凄く面白かったです。
- 木下
- あの作品は自分にとってもターニングポイントでした。あれ以降、パブリックスペースでのパフォーマンスが多くなったと思います。路上って未知ですよね。韓国でやったパフォーマンスは路上で寝起きするというものだったんですが、見てる人が携帯で写真を撮ったり、一緒に寝そべってくれたり。能動的な観客っているんですよ。そうか、僕はお客さんを能動的にしたいんだと思う。
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- お客さんを能動的にしたい。能動的な観客が、パブリックスペースには存在しうる。
- 木下
- しうりますね。Instagramでみんないい写真を撮る、いわゆるアーティストなんじゃないかと思う訳で。それが、演劇作品でも同じアプローチを取れるんじゃないか。そう思いますね。もちろん、お金を取って見せる芝居とは線引きも必要かもしれないですね。
- ※アートエリアB1 鉄道芸術祭 vol.0「サーカストレイン」
- 公演時期:2010/11/14。運転区間:京阪電車「中之島駅」(14:07 発)→「三条」駅(15:35 着)[往路のみ]。走る電車の中でダンスパフォーマンスが楽しめるプログラム「ダンストレイン」。今回は大阪から京都を駆け抜けます。総合アートディレクターとしてウォーリー木下氏を迎え、ダンスだけでなく、音楽や演劇などジャンルにとらわれない表現を取り入れた、ストーリー性のある内容でお届けします。(公式サイトより)
- ※男肉duSoleil
- 2005年、近畿大学にて碓井節子(うすいせつこ)に師事し、ダンスを学んでいた学生が集まり結成。J-POP、ヒップホップ、レゲエ、漫画、アニメ、ゲームなど、さまざまなポップカルチャーの知識を確信犯的に悪用するという方法論のもと、唯一無二のダンスパフォーマンスを繰り広げている。
- ※OSPF(OSAKA SHORT PLAY FESTIVAL)
- 演劇祭。2005年~07年に松下IMPホール(大阪・京橋)で4回(05年は春夏2回)開催。
マレビトの会 「アンティゴネーへの旅の記録とその上演」※
- 武田
- 一つの作品でいっぱいになれて、純粋に一つの作品だけを考えられたらいいんですけど。(どちらか一方のお稽古なり本番なりを行っている時)片方をほったらかしてしまっているような罪悪感が・・・。
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- マレビトの会。もう始まっているんですよね。
- 武田
- そうですね。8月から始まっているんですが、ネット上と路上で公演していて。ブログやtwitterで更新して、お客さんがそれを読みつないで物語を構築していくんですね。登場人物は、福島で盲目のひとりのお客さんの為に【アンティゴネー】という作品を上演したいと言う演出家とその劇団のメンバー。その劇団員のひとりに一目ぼれして、自分の書いた【アンティゴネー】を上演してほしいと願う青年、東京の恋人たちとその同僚など。彼らのブログに、例えばミーティングの日時と場所(=上演がある時間)が紹介されていて、そこにお客さんも行ってそれを見るとか。私も、始発の電車から降りてくる恋人を待つという路上の公演を行いました。
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- 面白そうですね。どのような公演だったのでしょうか。
- 武田
- 高円寺で。他の女の人と一緒に電車から降りてきた彼氏を見て、絶叫するという。
- __
- へえー!よく捕まりませんでしたね。
- 武田
- 一応、お話は通してあって。一般の何も知らない人もいる中で。スタッフさんも側にいて何もならないようにして下さったんです。お客さんが側まで来て、私の演技(台詞など)を観察して公演だって確信したり(上演テキスト(台詞など)は事前にサイトにアップされている)。そういう様子も伝わって来ます。事前にテキストなどをチェックしていない人は近付かなければ声も聞こえないわけですから、何が何だかわからないシーンもあるでしょうが。
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- ありがとうございます。私もチェックしたいと思います。
- 武田
- 私はブログは書いてないんですけど、他の人達凄いんですよね。もちろん登場人物たちの名前で書いているんですが、視点が凄い、俳優で作家で演出家であるかのうような文章なんですよ。こんな人いるよね、って思うぐらい。
- ※マレビトの会 「アンティゴネーへの旅の記録とその上演」
- 公演時期:2012/8~。会場:インターネット上・日本各所。
伝える言葉
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- 今後、劇団しようよで描いて行きたい世界は。
- 大原
- 毎月、4の付く日に路上パフォーマンス「ガールズ、遠く」をやっています。この間は奈良と和歌山と三重に行きました。そこで出会うお客さんは、劇場でのお客さんと全然違うんですよね。たまたまそこで出会った方だから、その人の感動の起こり方というのが、凄く純粋で。運命感じてくれはる・・・
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- 劇場のお客さんは、選んでそこにいる訳で、さらに出会おうとしているわけですからね。しかも、最初から劇場で起こる事件を予想しているし。
- 大原
- 巡り合わせなんですよね。そうして出会えるってすごく素敵だなと思いました。そういう事もやっていきたいと思っています。そして最後にはこのパフォーマンスを劇場に引き戻すというイメージもありますね。
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- なるほど。
- 大原
- もしかしたら、言葉だけで共感を呼ぶという訳ではなく、伝え方によって千差万別なのかもと、今思いました。言葉を変えれば、例えばこの人には響かなくなるけど、あの人には届く。でもそれはキリのないことで・・・じゃあ、同じ言葉でどうあの人に迫ってゆくか、あの人の心のどこまで響くことができるか、「伝え方」という事に興味があります。
- __
- 同じ言葉でも、届くか届かないか。
- 大原
- 「茶摘み」で頂いた一番嬉しかった感想が、「共感出来ないし嫌いだけど、凄く面白かった」。共感出来ないけど、心に入れたんですよ。これ以上うれしいことはないと思いました。好きになってもらうよりも。
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- その、嫌いだと仰った人のモデルがあったとして、その方とどのような接し方をしていけば良いと思われますか?
- 大原
- やっぱり、共感出来ないというお客さんに対しても、あえてこちらの世界を拡張していきたいと思っているんです。それよりも、伝え方、見え方を考えたい。感情は同じでも表情を変えてゆくというイメージといいいますか・・・。結構、自分の演劇の伝え方については方向性を確固として持っていないんです。でもそれが悪い事とは思っていないんです。周りから思われているよりも静かな雰囲気のお芝居が好きだったりするし。
- __
- ええ。
- 大原
- 自分の持っている言葉は変えずに、伝え方を変える事で、共感できない誰かに届けばな、と思います。次はふんわりとした、やさしい感触の作品にしたいですね。
- __
- おお。
- 大原
- 舞台上にチワワがいて、一時間ずっと、可愛いと言われるような芝居がいいと思うんですよね。今までとは違って、肯定的な。
「ベビーブームベイビー」※
- __
- 悪い芝居の立ち上げから、もう3年は経つと思うのですが。
- 四宮
- はじまりは2004年の12月24日ですから、もっとですね。でも、まだ生まれたての劇団という感じですね。
- __
- そうですね。
- 四宮
- でも、その割には劇団員が増えたり、色々な人にお声を掛けて貰ったり。
- __
- 充実されてますよね。四宮さんは、一番の古株メンバーとの事ですが、旗揚げはどのような流れだったんでしょう。
- 四宮
- その時期は、まだ旗揚げするとかそういう感覚はなくて、山崎が大学を卒業してその後も芝居を続けたいなという話をしていたんですね。そういう中、二人で路上とかで色々やる内に劇団を作るという話になったんです。元々は西一風※で一緒に芝居をやるという関係だったんですけどね。
- __
- では、西一風の頃から、台本を書かれていたんでしょうか。
- 四宮
- いえ、山崎は元々役者一本だったんですね。台本はそれまで書いた事がなかったんですよ。
- __
- あ、そうだったんですか。
- 四宮
- 先輩だから脚本を書く、みたいな流れでしたね(笑う)。
- __
- なるほど。私は「注目」の頃から拝見しているのですが、最近の作品のトレンドとしてはいかがでしょうか。前回の「ベビーブームベイビー」はとても作品性の高いものになっておりましたが。
- 四宮
- 第一回のものと比べても、内容はまあまあ、同じだと思います。同じ脚本家ですし。それでも、表現の仕方は変わってきていると思います。
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- 具体的には。
- 四宮
- 最近の方が、山崎さんの考えている事の表現がもっと如実に出てきていると思います。「もう、出しちゃっていいんじゃないか」となってきているのかもしれません。お客さんは、それを観てどう感じているのか・・・。
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- なるほど。では、次以降の悪い芝居の作品外での展開はいかがでしょうか。副代表として。
- 四宮
- そうですね、割と柔軟にやっていった方がいいんだろうなと思います。関係者の方に色々助けて頂いているんですが、自分達の実力が追いつかない点が多く、その差を埋めて行かなくてはならないと感じています。注目されているのは有難いのですが、このままではいずれぶつかるだろうと。
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- 成長期ですね。
- 四宮
- そういう意味では、もっと無茶をしていいのかなと思います。
- ※悪い芝居vol.5「ベビーブームベイビー」
- 公演時期:2007年8月23~26日。会場:京都芸術センター。
- ※西一風
- 立命館大学演劇部の一つ。