バトンタッチ
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- 次回公演「MATCH」。意気込みを教えてください。
- 白井
- 僕が貰っている役というのが前半メインで、後半では段々と出番は減っていくんですが、通して見ると、後半に向けてどんどん盛り上がっていく感じ。急加速してラストに向かっていくんですね。でも、僕に関して言うなら、出ていないシーンでも存在感が出せればいいなと思います。
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- その場にいないときにでも?
- 白井
- 僕の役が思い返されるように、バトンタッチが出来たら。そう思った時に、次の人への影響が良かれ悪かれ印象付けられたらいいかなと。
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- 印象を刻む、という事ですね。
- 白井
- この人がいたから、この人のいるシーンが生まれて、この人の台詞に繋がっているみたいな。
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- そこをしっかり押さえるんですね。最近ちょっと思うんですが、役者の自分の演技に対する理解って、観客の共感とどう関係しているんだろうという疑問があるんです。もちろんお客さんはそれぞれ別の価値観を持っているので共感は別々にするでしょう。でも、役個人が語る批評について、役者個人が理解していなければ、観客の価値観に訴える事出来ないはずで、それが役作りであり役作りにおける「理解」なんだろうなと思うんです。
- 白井
- 今のお話を聞いていて、確かにその通りだなと思う部分はあるんですが、でも「伝わってるな」と感じながらやっている訳ではないんですね。僕も、「お芝居をしてしまう」というところで良く怒られてしまうんです。
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- 「お芝居をしているわね」と言われてしまうんですね。
- 白井
- 嘘をついてはいけないんです。役のその気持ちは、ホンマにそう思ってやっているのか?「そのつもり」でやったらそれは嘘になる。それがすごく難しくて。だから僕らのお芝居は本当に走って本当に疲れるんですね。そのリアルさには嘘がないので。
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- その通りですね。
- 白井
- 僕はテクニカルな役者ではないので、でも嘘は付かない、大きな声を出す、目をまっすぐ見る、そういう事には気を付けるようにしています。まだまだですけど。
私のホントと嘘の質
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- 今回、髙橋さんが配役を演じるうえで大事にしたいポイントは。
- 髙橋
- そうですね。私の演じるのは嘘つきな女の役なんで・・・毎回、早川さんの脚本で私に振られるのは、本当にこれ、私が演じるべき役なのかなと思うんです。でもまあ、毎回、途中から「これが面白いんだ」って思えるようになるので。これでいいんだと。
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- 今回も違和感があるんですか?
- 髙橋
- 早川さん曰く、私には「虚飾」を感じるらしく。たぶん、そういう本質を付いたキャスティングなんだと思うんです。正直、個人的には好きになれない女性像なんですけど、でも、だからこそ私の本質に近いのかもしれない。本当は私の本質はこういうものなのかもしれない。だからピンとこなくて苦しんでいるのかも・・・。他の作品とはまた違うアプローチを掛けていく感じですかね。
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- なるほど。それが今回演じられる、リサ・ブライアントですね。
- 髙橋
- そうですね。彼女自身が、何が本当なのかわからなくなる程自分の嘘に辟易していくような気配が出せたらいいなと思います。
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- 現時点で、役作りの上での気付きは何かありますか?
- 髙橋
- いや~、もう行き詰まって困ってしまって・・・でも、舞台上の世界観の中で、板の上でちゃんと生きている事を最低限にしようと思っています。分からなくなったら、とにかく嘘を付かずに、その場にいる。という事を大切にしようと思っています。今回のリサ役はウソツキなので、嘘の質を考えて演技をしないと。
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- 嘘の質?
- 髙橋
- 嘘と分かる嘘なのか、見破れないくらいリアルな嘘なのか。私個人は基本、嘘を付けない人間らしいので。
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- 本当に嘘を付くのが上手い人は、「嘘がヘタだと思われている人」らしいですよ。
- 髙橋
- えっ、そうなんですか。
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- いや、私もこれの意味は良く分かってないんですけど。
- 髙橋
- (笑う)
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- 相手の、嘘を見破らせる洞察の深さまで調節させられるという事かもしれませんね。
- 髙橋
- そうなんですね。
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- では、公演の見所を教えて下さい。
- 髙橋
- 青年座の、キャリアある素晴らしい俳優達を早川さんがどう料理するのかというところですね。稽古場でも、上は70歳の俳優まで幅広いメンバーが若手の早川さんを尊重して、早川さんも俳優達を一人一人尊重して、誰に対してでも真髄を付く駄目出しをしています。劇団の中にも新鮮な風が吹いているというのが、客席にも伝わればいいなと思います。
不器用の効用について
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- 役者としての山野さんが好きです。不器用で素直で、嘘がないというか。その受け止めやすさがユニークな俳優だと思うんですよ。
- 山野
- ありがとうございます。そうですね、器用な人間ではないという事は自覚しています。ただ、不器用だという事は悪い事ではないと思っています。
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- というと。
- 山野
- 野村克也さんの教えに「便利は弱い、不便は弱い、器用は弱い、不器用は強い」という言葉があるんです。「便利なものに頼りすぎる者は弱い。不便なものは使えない。器用に何でもこなす者も、いざというピンチで対応できないことがある。不器用な人間は、それを克服する努力を重ねたとき、底力を発揮する。」この言葉に出会った時、「これだっ!!」って(笑)僕は不器用なので、失敗の度にボコボコに言われるんですけど、20年先ぐらいに「言われておいてよかったな」と思える気がしています。長い目で見ればこれはずっと得な経験なんだと。だから、不器用だと言われるのは別に恥だと思っていません。
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- そこが山野さんの味でもあるんだと思いまして。そういう部分が好きですね。
ウソのない[1]
- 松下
- 今までのがイラストの展示だとしたら、今回は実写の動画という感じですね。どっちがいいかという事ではなく、表現の方法として。
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- 絵を見る時、それを理解する道のりが私は好きなんですよ。映画は、もちろんそういう部分もありますけど受動的な理解の仕方なのかなと思うんです。主導権は映像を映す画面にあるから。がっかりアバターが映像に入ったというのは興味深いですね。
- 松下
- 本当にそうですよね。イラストの時はお客さんに答えを想像してもらえるので。ごまかしが出来たじゃないですか。私達の事を実際以上に良く受け止めてくれるお客さんもいて。今回はごまかしが効かない、嘘を付いていた部分がばれてしまう領域にきたんじゃないかと思います。
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- 逆に言うと、本番の為に役者が考えて来た事が現れない訳はないので。頑張ってください。
てんこもり堂第五回本公演「真、夏の夜の夢」※
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- てんこもり堂第五回本公演「真、夏の夜の夢」。まず、素敵なチラシですね。
- 藤本
- ありがとうございます。デザイナーの方にかなり注文を押しつけてしまって。僕の中に、今回はこうしたいというコンセプトがあったので、折れてもらったという形になりました。ストイックでキレイなチラシには憧れるんですが、自分のキャラクターとは合ってないなと。
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- タイトルの「真、」の部分。真夏である事が強調されながらも別の意味が込められているように思うのですが。
- 藤本
- 「ま、なつのよのゆめ」と読んで貰いたいと思っています。実はこの作品、6月の夏至の日がベースのお話で、5月の祭も話題に出てくるんです。日本で真夏と言えば8月だし、昨今は「夏の夜の夢」というタイトルで上演される事が多いみたいです。ウチはそこをあえて「真夏」にして、「、」を入れてみたら、何か普通にはやりませんよみたいな。「真」って何やろうと思ってくれるのかなと思ってもらえるんじゃないかと。
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- 原作を選んだ経緯を伺っても宜しいでしょうか。
- 藤本
- 3年前にぶんげいマスターピースのシェイクスピア部門に、てんこもり堂も参加させてもらったんです。地元の劇団だからという配慮もあったのかもしれません。1時間程度の作品で、力いっぱいやらせてもらったんですが、審査員の方にきつい事を言って頂いたんですね。それが、僕の中の闘争心に火を付けたんですね。いつかシェイクスピア作品で返したいと思ったんです。それが、もう一度シェイクスピア作品を考えようというキッカケになったんです。
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- どのような魅力を今は感じられているのでしょうか。
- 藤本
- 400年前に書かれた作品で、けれど色々と個性溢れる人が出てくるんですよ。彼らの個性って、現在でも色褪せる事がないし、何だかそういう人がいていいんだと思えてくるんですよね。
- ※てんこもり堂第五回本公演「真、夏の夜の夢」
- 公演時期:2013/7/5~7。会場:アトリエ劇研。
距離
- 渡邉
- 役者さんって、簡単に何かになれたと思いがちじゃないですか。神様だったり、デンマークの王子だったり、80歳のおじいさんとか。嘘付け!って思うんですね。でもやるんですけどね。
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- ええ。
- 渡邉
- でも、違うじゃないかと。じゃあ、そうそう簡単にせりふなんて言えていいのかと思うようになったんですね。どういう風にセリフを言えようか。役を作り込めば作り込むほど、模写も演技も完成度を高めれば高めるほど、「君80歳じゃないよね」って。そんな問題じゃないのかもしれませんけど、今は何となくそう思っています。客席には僕の正体を知っている友人知人がいるんです。
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- 前回の公演ではどうなさっていたんですか?
- 渡邉
- これは稽古場でも話されていたやり方なんですけど、自分がその役を説明する意識を持っていました。「家族を理不尽な殺され方をして、それで悲しんでいて、いま人を監禁していて・・・」って。その説明が重なっていけばいくほど、僕との距離が近くなるんじゃないかなと思うんです。
ブレ
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- 舞台で演技をしているときに、好きな一瞬はありますか?
- 村上
- 昔から、笑いを取れた瞬間が一番好きなんですけど、最近はちょっと興味が変わってきています。今は、自分の影響力が共演者に伝わっているなと感じる時に喜びを感じるというか。その日によって調子が変わったりするじゃないですか。同じ事をやってるのに違うんです。感度が鋭かったり鈍かったり。例えば相手に「座れよ」と声を掛けるセリフ。その時の流れによって、説得するように優しく言った方がいいのか、強く言った方がいいのか。その時々で判断があって、相手がそれを汲んでくれて、噛み合った時というのがすごく面白いですね。もちろん、それを考えながらやってる訳じゃなく、終わってから「あの時、あのやり方にして良かった」と思うんですが。
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- そう考えるようになったのは、いつからですか?
- 村上
- 柿喰う客の玉置玲央が主宰のカスガイというユニットに参加して会話劇をやって、それぐらいから面白いなと。得意不得意は別として、コメディを主にやってきたので、ちょっとノリが違うのをやるとみんな驚いてくれるというのもあって。意外だって。笑いで培ってきた貯金を崩しているような感覚があります(笑う)。
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- 予想を裏切るみたいな感じですね。
- 村上
- 会話劇。稽古が楽しいですよね。この間出演したオーストラマコンドーの稽古で、演出の倉本さんがとことん、練習に付き合ってくれるんですよ。役柄としての気持ちにも。白雪姫と七人の小人のお話で、僕は小人の一人だったんですけど、みんなで台本を持ってきて、お姫様が言った事に賛成の人、反対の人って聞いていって。その理由を聞いて、「ああそれだったらこのシーンはそうしよう」って。すると、嘘がないから自分の意思が明確になって演技のブレが少なくなるんです。段取りをガチガチに決めた芝居ではなく、かと言って感情以外何も決めない芝居でもない。相手が段取りにない意外な事をしてきても、方向性が決まっているのでどんなことでも対応出来る。芯のある話を作る。そういう取り組み方がすごく勉強になりました。
不幸話
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- 向坂さんはこれまで、どんな劇世界を作りたいと思っていらっしゃいましたか?
- 向坂
- 本公演に関しては、作家のよりふじゆきがリアルな世界を描き出していくんですが、僕の方のはお客さんとの共犯関係を結んだ上で、嘘まるだしの舞台の上でちっちゃな嘘をボケとして切り取って提示します。具体的な話の方がいいですかね?
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- お願い致します。
- 向坂
- 次のさかあがりハリケーンは深夜食堂みたいにしようと思います。何でも出来るからなあ。どうしようかな。戦国時代がやりたいですね。僕もよりふじも日本史を選択していたので、
- __
- なるほど。深夜食堂。
- 向坂
- 不幸話書くの得意なんですよ。
嘘がない
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- 西山さんが演技を与えられた時に、例えばご自身が満足出来るような成果の基準というのはありますか?
- 西山
- 俳優としてやる時に、という事ですか?
- __
- そうですね、これまでの経験からお話頂ければ結構です。
- 西山
- 何か、話せる言葉がないと言ったのは正にこれで。俳優として経験もないうえに、自分の中の「これでいいんちゃう?」というのが無くって、毎回壁にぶつかってるんですね。
- __
- なるほど。
- 西山
- だから何も言えないんですけど・・・。でも他の人の演技を見ていて思うのは、やっぱり嘘がないようにしたいですね。感覚的に嘘がないというか。
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- 分かると思います。無理がない、という事ですか?
- 西山
- 多分、色んな言い方が出来ると思います。でも、皆やりたいと思うんですね。本物になりたいというか。私、さっき「ジュノ」って映画見てきたんですよ。本当に、人って意味の分からない所で泣いたりするじゃないですか。この人、こうやって生きているんだなあって思うとうわあって。そういうのは何か、良いなあと思います。それだけを目指してる訳じゃないですが。
- __
- 琴線に触れる、という言い方がありますが。
- 西山
- はい。そんなにおこがましい事言えないんですけど。
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- ちょっと話が前後しますが、先ほどお話に出た「象、鯨。」の公演は正に私の琴線に触れたんですよ。
- 西山
- そうなんですか。どの辺りが。
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- ええと、ドラゴンアッシュの曲に合わせた踊りで二人の振りが少しずつぶれて行ったりとか。でもそれ以上に大きかったのは切実さが伝わってきた事ですね。二人の、別に具体的な状況を設定したりはしないのにじんじんと伝わってくるものがあって。
- 西山
- 実は、あの公演は1日目と2日目で全然違っていて。あの公演では二人の関係をそのままやっていたというか・・・本当に、セリフもないので、逃げ場もないんですね。その場にあるものを使ってしまったりとか、結構やってしまうんですよ。その場にあったホースから水を出して収集が付かなくなってしまったんですね、1日目は。相手がむっちゃ怒ってるのが分かるんですよ。でも喋ったらあかんし、という。
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- なるほど。嘘がないですね。ところで、今後「象、鯨。」としては何か活動はありますでしょうか。
- 西山
- 実はあの公演を最後に何もやっていなくて。ピンク地底人3号※のように書きたい何かがある訳ではないので。
- __
- お知り合いなんですか?
- 西山
- あ、マレビトの会※で。
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- ああ、そうでしたね。すみません。
- 西山
- いえいえ。自分は演出家や脚本家では絶対ないなと思っていて。今まで、場所で「うわあっ、これ!」みたいなのが来たらやってたんですよ。鴨川とか。でもそうじゃなかったらやらないという。
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- はい。
- 西山
- 「象、鯨。」という団体を維持していこうというのはなく、あればやろうという感じですね。
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- なるほど。分かりました。