変わっていく
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- これは自分を変えた、最大の経験を教えてください。
- 西分
- 3年間ぐらい仕事をやりながら壱劇屋を続けていましたが、この年末に仕事を辞めた事です。両立している人もいて、私もそこを目指したかったんですが、どっちにも迷惑を掛けていて。自分の今まで歩いてきた人生とは違うし、仕事を辞めて大丈夫なのかと悩んだんですが、一回辞めてしまったら、何でしょう、視点がやっと定まったというか。落ち着いてやれる環境になったんですね。精神的な負担が消えるだけでこんなに違うんですね。どの選択肢を選んでも後悔は必ずあるんですけど、将来的に後悔を上回る実績を持てたらと、今は前向きです。ここまでしたからには、変わらないと行けないので。果たしていけるように何とかしたいです。
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- 良くなるように西分さんも壱劇屋も変わっていくんだと思います。
- 西分
- そうですね。良い部分は残した上で変わっていきたいと思います。
社会人役者のなぞ
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- 廣瀬さんがお芝居を始めた経緯を教えて下さい。
- 廣瀬
- 僕は大学二年の時に仮面NEETをしていまして。実は1年の時にロボットサークルに入っていたんですが、人間関係がいやになって。別に問題があった訳じゃないんですけど。その1年で水曜どうでしょうにハマり、TEAM NACSにハマり、演劇サークルに入ったんです。基本的には、文化芸術は趣味でやってこそと高校の頃からそう思っているんですね。
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- ええ。
- 廣瀬
- まあ京都にはセミプロの人がたくさんいるんで「何言うてんねん」言われそうですけど、まあまあそう思っていて。で、サークルを卒業するとやはり寂しくなって、アクターズラボ※に入ったんですね。僕は就活が嫌でフリーターに成り下がったんです。演劇をやっている人って、普通の仕事したくないから芸術系の仕事をやりたいと思っている人が多いと思うんですけど、僕は就活というまどろっこしいものが嫌で、そんなややこしい事で仕事を決めなあかんというのが嫌で。それだったらアルバイトしつつ社員登用を狙ったほうが、いろいろ経験も積めるし、演劇もし易いだろうし。ようやく、ちょっとずつその足場固めが出来つつありますね。
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- 素晴らしい。
- 廣瀬
- アクターズラボをやっていて、他のクラスの公演にも行くんですけどね。プロの役者はそりゃ皆さん上手だと思うんですけど、僕は社会人役者の方が面白いと思っているんです。プロの方々はもちろん尊敬しますけど、僕の趣味志向で言うたら、面白いのは社会人役者なんですよ。会社取締役をしながら計5公演くらい出演されてる人がいるんですが、ものすごく面白い役者でした。社会人劇団でいうと、ベトナムとか中野劇団とか柳川とか、面白いでしょう?
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- 社会人俳優の身体が面白いというのは、よく分かります。
- 廣瀬
- アクターズラボの杉山さんは「責任感の違い」と仰っているんですけど、きっと、言語化出来ないですけど決定的な何かが責任感の他にあるんだろうなとどこかで思っていて。職業・職場が醸し出す個性が絶対あるんだろうなと。
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- 社会人俳優の身体がこの世界に見られ慣れていないから、経験的に飽きられていないから、かもしれませんね。
- 廣瀬
- 確かに、見られ慣れていないというのが、一つの圧になっているのかな。社会人の方が、見られるという圧力を自分の力に変換する能力を持っているんじゃないかなと思うんです。まあ、ハリウッド俳優とかは別にして、外からの圧を出力に変えるメカニズムは普通に働いていた方が養われると思うんですよ。さらに、観客の圧に慣れていないから、それを変換する作業がエネルギッシュになるんじゃないかと。その2つの構造があるんじゃないかと思うんです。
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- 分かります。しかも、意気込みの種類が違いますからね。
- 廣瀬
- アクターズラボに参加する人は、次に出られるかどうか分かりませんからね。そういう意味で、責任感は違うかもしれません。
- ※アクターズラボ
- 劇研アクターズラボはNPO劇研が主催する、総合的な演劇研修の場です。舞台芸術がより豊かで楽しい物となる事を目指して、さまざまなカリキュラムを用意しています。全くの初心者から、ベテランまで、その目的に応じてご参加頂く事ができます。現在、京都と高槻を拠点に、アクターズラボは展開中です。(公式サイトより)
質問 小沢 道成さんから 危口 統之さんへ
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- 前回インタビューさせて頂いた、虚構の劇団の俳優、小沢道成さんから質問を頂いてきております。「1.何故、悪魔のしるしという劇団名にしたんですか?」
- 危口
- 僕が大好きなブラックサバスのある曲の邦題が「悪魔のしるし」で。響きがいいなと思って付けました。(詳しくはこちら※)
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- ありがとうございます。「2.働いている自分と演劇を作っている自分はどのように関係していますか?」
- 危口
- そこなんですよね。工事現場で働いていると、同僚がすごくいい動きで仕事しているのを発見し、そこから演目を思いついたりする。要するに、わざわざ公民館を予約して稽古しないといけないというのは思い込みにすぎないと。仕事=稽古みたいにしちゃえば、わざわざ稽古らしい稽古をしなくてもいいんじゃねえかと。なまけものの発想ですね。普段やっている事がそのまま作品になるような逆算をしようと。枠組みは後から作る。演劇ってこういうものでしょうという枠組みが最初から強固にありすぎるからバイトを切り上げて稽古をしなくてはいけなくなるのであって、じゃあ、再設計すればいいんじゃないかと。
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- それが搬入プロジェクトですね。確かに、全員で一つのものを一緒に運んだらものすごく面白いですよ。
- 危口
- 搬入経路の途中に障害物となる看板が立ってたりして、これさえなければって全員で悩んだり。
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- 面白そう!運ぶのってやっぱり仕事なんですよね。
- 危口
- バイトを作品(稽古)にするという仕組み。この考え方を捩子ぴじんさんが引き継いで、コンビニのアルバイトを主題に「モチベーション代行」という作品を作ってくれたときはとても嬉しかったです。
- ※「悪魔のしるし」のひみつ
- レビュー:エクセントリックなダンサーたちが集う吾妻橋ダンスクロッシング
逆に、そこで吹っ切れたんです
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- たくさん出演されている大石さんですが、どのような感じで参加しているんでしょうか。
- 大石
- ほとんどがオーディションですね。THE ROB CARLTON※さんは、ヨーロッパ企画※さんのカウントダウンイベントに作家チーム(イベントの企画を考えるチーム)で入ったときに演出の村角太洋さんと知り合って、それで誘われたのがキッカケです。
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- この作品は自分を変えた、というのはありますか?
- 大石
- たくさんあります。強いて挙げるならば、中野劇団さん※、マームとジプシーの藤田貴大さんが作・演出された『LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望 』※、そして、『羅生門』ですね。
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- 『LAND→SCAPE』は、北九州での滞在制作作品ですよね。結構な冒険だったのではないでしょうか。
- 大石
- そうですね。まぁ、仕事を辞めたので。藤田さんの作品が好きだったというのも大きな理由ですが、そのとき参加していた中野劇団さんでの経験も後押しになりました。
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- というと。
- 大石
- 以前は社会人をしながら演劇に携わっていたのですが、中野劇団の役者さんたちは社会人しながらも、出来る限り面白い作品を目指して稽古しておられて。正社員として働いてるか働いてないかは、芝居をするという点では関係ないのかもと思って。もちろん、実際上での制約はあるでしょうが。
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- 社会人として働きつつ、自分のパフォーマンスを最大限発揮しようとしている。
- 大石
- 例えば、桐山さんは、めちゃめちゃ忙しそうなのに、仕事をしているからという甘えがないように見えて。芝居の問題の原因を、そこに持っていかないように感じて、潔いなと感じていました。
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- つまり、正社員として社会に登録されていようがいまいが、演劇人としては関係ない、という事ですね。
- 大石
- 逆に、そこで吹っ切れたんです。芝居を、もっとガッツリやっていても良いんだなと。
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- ありがとうございます。思い切ったんですね。
- ※THE ROB CARLTON
- 京都で活動する非秘密集団。(公式サイトより)
- ※ヨーロッパ企画
- 98年、同志社大学演劇サークル「同志社小劇場」内において上田、諏訪、永野によりユニット結成。00年、独立。「劇団」の枠にとらわれない活動方針で、京都を拠点に全国でフットワーク軽く活動中。(公式サイトより)
- ※中野劇団
- 2003年に京都で旗揚げした劇団です。長篇の公演と短篇(コント)オムニバス公演と2つの形式があり、どちらもほとんどが「笑い」が主体の内容です。長篇はほぼ全てが一幕もので、シチュエーションコメディの要素を含むことが多いです。(公式サイトより)
- ※北九州芸術劇場プロデュース「LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望」
- 公演時期:2012/11/13~18(北九州)、2013/3/8~10(東京)。会場:北九州芸術劇場 小劇場、あうるすぽっと(東京)。
可能な限り
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- 今後、松田さんはどんな感じで攻めていかれますか?
- 松田
- ええとね、どこまで続けていけるかの勝負です。私は今まで一度も劇団に所属したことがないのですが、その理由は責任が持てないから、なんですよ。例えば、宣伝したり知人に声を掛けて回ったり、その他制作的な仕事が、定職を持っていると厳しいですよね。だったら、最初から団員になるな、という事になってしまう。
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- どころか、芝居に出る日を押さえるのも大変ですね。
- 松田
- いくら出演のオファーを受けても、仕事と重なったらどうしようもない。今は以前いた部署に比べて休日出勤が少ない部署なので、その意味では、少しやりやすくはなりました。よく出演させていただいている「てんこもり堂」※の藤本隆志さんも結婚して正規雇用で働きつつ演劇を続けています。お互いに「同士!」なんて冗談で言い合ったりしています(笑)。
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- いつか、子供も生まれるかもしれない。
- 松田
- そうですね。そこで私は挫折するんでしょうか(笑)。いずれにしても、劇団に所属しないから、定期的に舞台に出られる訳ではないのですが、今まで同様オファーがあれば可能な限り受けていこうと思っています。
- ※てんこもり堂
- 「てんこもり堂」とは、『面白い』と思うものを徹底的に「てんこもり」=「てんこ盛り」で上演していこうと2007年に結成された演劇ユニットです。(メンバーは藤本隆志、金乃梨子)「面白いもんとはなーんだ」と捜索し、色々な遊びから創造していこうと思います。(公式サイトより)
線路の上の安心
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- 「エダニク」という作品。上演も含め非常に評価されていますね。私はまだ戯曲しか読んでいないのですが、大変面白かったです。今年はツアーをされるんですよね。福岡、三重、東京、京都の4都市。舞台は屠畜工場での休憩所。コメディを通して、働く男達の横顔を描くという作品ですが、横山さんが屠畜工場をシチュエーションに選んだのはどのような理由があったのでしょうか。
- 横山
- 屠場については、場所として選んだんです。そこで働く男三人のそれぞれの社会的立場から、何か熱量のあるものを描きたいというのがそもそもの最初です。屠畜そのものに突き動かされた訳ではなくて、もちろん調べていくと非常に深い問題に出会ったんですが。
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- 働く男を描く、場所を求めていたら屠場に当たったと。
- 横山
- だからある意味、最初は不純な動機ではあったんです。もちろん、歴史的な背景であるとか、被差別部落の関係も知っていたので、かなり覚悟をもって取材して研究しないといけないとは分かっていましたが。別の場所を選んでもこうした作品を描いていたと思いますが、この場所でなければこれだけの熱量のある作品は書けなかったと思います。
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- 「目頭を押さえた」※でも、男の仕事を描かれていましたね。横山さんは、仕事する人間を描きたいのですか?
- 横山
- やっぱり、大人を描く時に、仕事というのはその人の存在を支えてくれているものなんですね。だから無職という状態を恐れるんじゃないか。何かに所属出来ている事の安心って、あると思うんですよ。
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- ありますね。
- 横山
- 人の厚みを描こうと思ったら仕事を描く必要があるんですね。無職ならば、その事も含めて。そこをどう設定するかは、人物を描く時に考えるところではありますね。
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- そこに所属しているというのは確かに安心感があるんですよね。公務員ならばなおさらかもしれない。
- 横山
- その時間に、そこにいていいと認められているんですね。他者に認識されていなければ人は立っていられないと思うんです。社会的にも認められている立場なので。会社員でもアルバイトでも同じで、未来、スケジュールを立てられて、他人が自分を必要とされている時間ですから。僕も会社で働いていた頃に比べれば、一人の自由な時間はあるんですけど、急に襲ってくる不安というのはあるんですよね。
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- 難しいですよね、会社で働く生き方も、自分で働かく生き方も。
- 横山
- 普段、多くの人は働くという事に対してそんな事は考えていないと思うんです。仕事や会社、人間関係への不満。でも、それが人の厚みを作っていると思います。ある登場人物が事件に出会って、どういう反応を示して、ぶつかり合うのか。
- ※ABCホールプロデュース公演 第3弾 目頭を押さえた
- 公演時期:2012/7/20~23。会場:ABCホール。