下鴨車窓 #12『漂着(island)』 2

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今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。最近、田辺さんはどんな感じでしょうか。
田辺 
いまはちょうど、下鴨車窓の新作「漂着(island)」のツアーの中休み中ですね。6月に京都があって、香港・マカオと行って、つい先週大阪で公演を終えました。国内外で6都市で上演するんですが、残りはお盆明けに三重と東京で上演する予定です。
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ありがとうございます。ツアーの手応えを教えていただけますでしょうか。
田辺 
そうですね、香港・マカオには沢山のお客さんに来ていただきまして。すごく熱心に見ていただけたのは凄く嬉しかったです。日本の国内バージョンを縮めて1時間にして、一人で語る長い台詞は字幕ですべて出して、短い会話のやりとりは何の話をしているのかと説明を字幕にするという形で。ちょっと頑張って見ていただかないといけない仕掛けになっていたんですけど、熱心に見ていただいて。アフタートークでもずっと質問が出てきて。字幕の情報が少ないからこそ面白がっていただけるお客さんもいて。トークが終わってからも楽屋まで追いかけて質問してくださるお客さんもいました。賑やかな公演になったと思います。嬉しかったですね。
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ありがとうございます。手応え充分という感じでしょうか。
田辺 
そうですね、これが次に繋がればとても嬉しいですね。
1下鴨車窓
京都を拠点に活動する劇作家・演出家の田辺剛が主宰するユニット。公演ごとに出演者を募る形を取る。
2下鴨車窓 #12『漂着(island)』

孤島に流れ着いた
瓶詰めの手紙が呼び起こす
記憶と出発の物語
脚本・演出:田辺剛
出演:藤原大介(劇団飛び道具)、柏木俊彦(第0楽章)、福田温子(てがみ座)、飯坂美鶴妃(枠縁)、菅一馬(デ)

【三重公演】
会場:三重県文化会館
日時:
2015/08/22(土)18:00~
2015/08/23(日)14:00~
【東京公演】
会場:こまばアゴラ劇場
日時:
2015/08/26(水)19:00~ 2015/08/27(木)19:00~
2015/08/28(金)14:00~ 19:00~
2015/08/29(土)14:00~
2015/08/30(日)14:00~

わからなくなってしまったこと

田辺 
ただ最近は、作品が面白いのかどうかというのは、自分自身ではもう分からなくなってきてますね。面白かったと仰っていただけるお客さんもいれば、そうでないお客さんもいる。いろんなリアクションがあるなかで、もはや面白いのかつまんないのかのどっちなのかはよく分からないと。もちろん、今自分ができることのベストを尽くしますし、尽くすしかないんですが。それができないというのはもちろんダメでそれができているかという自問自答はいつもありますけど、その結果、観客の反応については分からない。予想もできないしもうしてません。
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それは、もしかして「褒められても貶められても何とも思わない病」ですか?いや、私もこの10年続けてきて、色んなお褒めの言葉だとかお話を頂いたり、または様々なリアクションを頂いたりしてきたんですけど「評価されたりそれなりに扱われても心が動かなくなってしまう」?いつかマツコ・デラックスも言っていましたが。
田辺 
いえ、お褒めの言葉はそれはやっぱり嬉しいんですよ。ありがたいことだし、救われたような気持ちになるし。つまんないと言われるよりも。それは確かなことでして。でもやっぱり何だろう、地元ではなく知り合いもいないような地域で公演をしたときに、自分の作品の評価はもう予想がつかない。20代から30代にかけての時期は京都でしか公演していませんでしたから、だいたいどんな人が客席にいるのかが分かるんですよね。言わば小さい村の中で活動しているイメージ。だから好評も不評も予想できるところがある。いきなり外に出るよりも集団や作品の足元を固めるという意味ではそういう時期は必要なんですけどね、もちろん。でも今のように広がりが得られれば得られるほど果てが読めなくなる。面白いと仰っていただいた言葉を頼りにはするが、それで完全にホッとするということはないですね。
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ああ、私の感覚とはかなり違いましたね。でも、目標が見えなくなるような気がする、という事なのかなと思ったりするんです。

巡り合わせがずっと続く

田辺 
去年までアトリエ劇研のディレクターを務めましたが、それも終わりまして。まあ、一つの丘に登ったというところなんだと思うんですけど。そこを降りたらどうするんだろうという漠然とした不安は終わりが近づく頃にはあって。でもそういう職種なんだろうなと思います。なかなか数値目標ということにはならないし。不安との戦いになるのかなと。
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不安を抱くような予感はありますか?
田辺 
まあ、どうなるんだろうなとは時々思います。今回の香港・マカオだってお話をいただかなければ行くことはなかったですし。そういう巡り合わせというものもありますから。ただそうはいっても結局は楽観的なんです。楽観というかあんまり思いつめないでいられているというのはあります。まあ、生活が立ちいかなくなければ考えなおすことになるとは思いますけど。抱えている仕事がすべて終わって半年間何の依頼も来なくなったら演劇は辞めて別の仕事に就くという自主ルールがあるんですけど。「あなたにはもう声を掛けません」とは言ってもらえないですからね。待つしかない。
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半年間干されたら辞めるルール!
田辺 
二年前には今年に海外公演が実現しているとは予想もしていなかったし、来年の予定はだいたい決まりましたがそれ以降はまだ分からない。その一方でわたしは結婚して子供もいるし、中年になって自分の体力とか病気とか、実家の親のこととか、考えだしたらキリがない。無計画ってことではないし将来のための準備もしますけど、それでも先のことは分からなかったし、これからも分からない部分はある。待つのが仕事というか待つ人生というか。

偶然を踏みしめて

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「漂着」の登場人物たちも、例えば船だとか、あるいは元いた街だとか、つまり社会から漂流してしまった人々。例えば飯坂さんの演じた、行き倒れの死体。または、元の街から離れた、工業地域の真横に引っ越した夫妻。個人的な見立てですが、セーフティネットから投げ出された人々が辿り着いた場所で何をよすがに生きるのか、ということを描いた作品だったのかなと思うんです。この作品を現代で上演することに、どんな意味があっんだろうと思いまして。
田辺 
今回の元になったものは(「初演版」といいますけど)2010年に上演されました。わたしが書いたものを福岡の演出家が上演したんですね。その時は今回の作品でいうと映像世界の中の、島に軟禁されている夫妻の部分だけだったんです。しかも夫婦の設定でもなく資産家の男が一人で瓶の収集をしている。登場人物も全部で3人しかいない。
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ええ。
田辺 
そして去年。その福岡の演出家から香港・マカオでの上演のお話を頂いて。せっかくの機会ということで過去の作品の資料を香港に送ったら採用されたんです。他にもいくつか候補の団体があったらしいのですがありがたいことに。じゃあやろうと。「漂着」を選んだ理由としては、自分でも演出したい作品でしたし、海外で上演するということが瓶の中の手紙のシチュエーションとも重なっているように思えまして。旅公演としてもコンパクトな座組でいけそうだと思いましたしね。ところが多少は書き直しをしようかと思っていたところ、ずいぶん直すことになりまして。初演からの5年の間に、僕の趣味趣向も変わってきて、いろいろ違うなと思うようなことがあったんですね。
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というと。
田辺 
ここ十年くらい、わたしの作品は、現代日本から時代も場所も遠く離れた世界を設定してそこに生きる匿名の人々の物語を描くという方法をとってきました。「漂着」の初演版もそういう書き方でした。その方法をやり始めた頃は四苦八苦しながら実験や挑戦をしている感覚が強かったのですが、それがだんだん薄れてきて自分にとって当たり前のことになってしまったと。自己模倣のサイクルに入るような危機感を持つようになって。それで最近は舞台は現代日本のどこかで登場人物には名前もちゃんと付いてるという、ごく「普通」のことに挑戦し始めた。それで「漂着」を上演するのも何か工夫が必要だと思ったんですね。名前をもつ映像作家とその妻が生きる、わたしたちの日常に近い世界があって、一方で匿名の人々による異世界を映像作品の世界と見立てて設定しました。
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二つの世界のお話でしたね。
田辺 
だから例えば飯坂美鶴妃は、かたや映像作家の部屋のそばに辿り着く溺死体で、かたや映像作品の世界では生きた者としてある目的で夫妻のいる島に辿り着く女という二役を演じます。一人の俳優が二役を演じることで二つの別世界があることを示し、またそれぞれをつなぐ役割も果たします。
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人は漂着しますね。
田辺 
目標や目的を持つというのが人の生き方であると、何にしろすべてに目的がハッキリとあることが肝心だとされています。そういうことで世の中はまわっているし、わたし自身もそういう流れのなかに身を置いて生きている。でも無目的であることにも意義はあるのではないかと。現代では宛名の無い手紙はただのエラーですが、それだって失われてはいけない手紙ではないかと。そうしたところに人間の社会や生き方の本当の一つがあるんじゃないかなと思っているんです。むしろ無目的であることが本来の在り方だろうって。わたしたちの実際の生活は目的的な営みによって前に進められているし、そのように見えますけど、私たちの足元は無目的なものやある種の偶然のようなもので成り立っているんじゃないかと。物語になるのはいつも後から振り返ってのことですからね。
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偶然によって左右されているのかもしれない。人生の選択は偶然性と不確かさで出来ている。現代人だって、いつ難民になるか分からないですしね。「漂着」はその不安が出発点なのかなと思ったんです。
田辺 
自分自身の宛てが分からず、先行きもよくわからない。流されているあいだは身を委ねるほかなかったりする。けれども一度どこかに辿り着いたのなら、そこからは偶然に身を任せるだけではなく、自分の意思を持って踏み分けていかなければいけない。作品の登場人物はそれぞれの判断を下して次の歩みを進めようとしている。そういう描写はあるかなと思います。

手紙

田辺 
そもそもこの作品のキッカケはロシアの詩人であるオシップ・マンデリシュタームの、詩とは何かというテーマで書かれたエッセイなんです。これをそのまま演劇にしようと思ったのが初演の時でした。詩とは瓶詰めの手紙のようなものだ。言葉とは同時代に生きる人に向かって、正確に早く意味を届けるのが目的だけれど言葉の役割はそれだけではない。特に詩は瓶詰の手紙のようなもので、届くかどうか分からないし宛名も書きようがない。ある日偶然に砂浜を歩いていた人が拾って、読まれた時に初めてその人宛になる言葉だと。つまり、詩とは未来に向けた言葉なんですよ。必ずしも同時代に向けて書かれた言葉ではない。この言葉に凄く感銘を受けたんですね。当時はそのことを演劇で表現しようと思っていた。ただ5年経った時に、もう少し押し広げて考えたいなと、そのエッセイのことだけでは狭すぎるなと思って、それも書き直す動機の一つです。
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ロマンチックですね。
田辺 
それは初日のトークの時に、あるお客さんにも仰っていただいて。花を使ったこともロマンチシズムだと言われましたね。ロマンチシズムの自覚はないのですが、けどそれもそうなのかなと。

あらゆるものが漂い、流れ、そこに辿り着いた

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初演時の執筆時と、今回の書き直し時に、どのような感慨がございましたでしょうか。
田辺 
初演版では舞台は陸地だったのですがそれを今回は島に変えました。それでタイトルに括弧書きでislandと入るのですが、それは現在のわたしたちの生活が孤立であるとか閉塞だとかそういう感覚が、5年前に比べると強く意識されているんだと思います。しかも島に住む夫婦は軟禁されていて、孤立無援の状態。隔離されている。その辺りも劇の初期設定として明確にしておきたいと思ったところです。初演は瓶が漂着物として焦点が当たり続けていましたが、今回はさまざまな人物も漂着していると言える。あらゆるものが漂い、流れ、そこに辿り着いた。演出するにもそんな雰囲気が上手く出せればなと思いました。

質問 イトウワカナさんから 田辺 剛さんへ

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前回インタビューさせていただきました、イトウワカナさんから質問です。「書く時のお供はありますか?」お菓子だとか、そういうものですね。
田辺 
イトウワカナさん、知り合いです。ご無沙汰していますが。お供か・・・目薬ですね。それまでの色々な雑念を払うために目薬をさす、半分儀式みたいになっていますね。最近は喫茶店で執筆することが多いんですけど、その時に目薬を忘れた時は焦ります。

言葉を引き出す作品

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今回の「漂着(island)」。見てもらったお客さんに期待することは何ですか?
田辺 
この作品をキッカケに観た人のなかに言葉が生まれるといいですね。観た人たちのあいだや、一人でもSNSの上で何かお喋りが始まると嬉しいなと思います。そうやって語られることで作品って育つんだろうなと思います。演劇については特に。
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なるほど。
田辺 
単に面白かったつまんなかったのジャッジしかないのだとしたら、その作品は消費の対象以上のものにはならないと思うんですよね。「アレは何だったんだろうか」とか疑問が出されて、たとえ答えにたどり着かなくても、お喋りのキッカケになることが作品の本分なんじゃないかと思うんです。そうなるといいなあと思います。これは今回に限らず、いつも思うことですけどね。
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ありがとうございます。
田辺 
今回は特に、観てすぐには言葉にしづらい作品だと思います。ただ作り手としては、簡単に言葉に要約されてなるものかという気持ちもあります。

次の下鴨車窓

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今回の「漂着」を経て、今後書きたいものは見えていますか?
田辺 
そうですね、去年あたりから書く方法が変わったというのもありまして(登場人物が匿名ではなく名前が付いていて、つまり観客の生活と地続きな形になったんですね)、「漂着」の場合は半分半分なんですけど、これまでのことを活かしつついい模索が出来ればと思いますね。その試行錯誤が面白おかしく出来ればいいなと。
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新しい挑戦と、試行錯誤。

外に行く

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今後、どんな感じで攻めていかれますか?
田辺 
さまざまな地域での上演を、特に海外、アジアについて上演する機会を探したいです。単純ですけど先日の香港・マカオのツアーで視野が広がりました。また東京に行く機会も増やそうと思います。この「漂着」のツアーも東京公演が最後に控えているんですね。向こう1年に関してはあと二本を東京で上演することが決まっています。
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外に出て行きたい。
田辺 
そうですね、そういう欲求がより確かなものになりました。レパートリーの作品も出来ましたし。去年にやった3人芝居なんですけど、今年もスペース・イサンで上演しますし、九州での公演も考えていまして。いろんなところに持っていくことを考えています。
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田辺さんの戯曲が色んなところで上演されて、見た人に話されるようになったらいいですね。
田辺 
そうですね、対話と出会いたいというか。その対話に耳をそばだてる時が僕にとっては幸せなので。もちろん否定されて傷つくこともありますけど、スルーされる空しさの方がきついですね。そのためにもさまざまなところに行きたいですね。

インスタントBBQセット

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今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
田辺 
ありがとうございます。前回はイヌの写真集でしたね。
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そうでしたね、何故か。今回もまた大したものじゃないんですが。
田辺 
(開ける)あ、バーベキューですか?
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インスタントセットです。
田辺 
ああ、燃料入り。面白いなあ。ありがとうございます。キャンプとかに行った時のね。ありがとうございます。

(インタビュー終了)