伊丹想流劇塾マスターコース リーディング公演『サッカバカナ』 1

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今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。最近、田中さんはどんな感じでしょうか?
田中 
よろしくお願いいたします。この度、2・3年前に書いた脚本を上演していただけるという事ですごくびっくりしています。2018年1月22日の月曜日にリーディング公演を企画して頂きました。
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そうですよね。いまはどんな段階なのでしょうか。
田中 
昨日ちょうど、顔合わせ兼一回目の読み合わせ稽古だったんです。僕が脚本にめっちゃ言葉を書いてしまってて、全然セリフになっていなかったり凄い長セリフになってしまってたりするので、今のところは台本のセリフをカットするなどの編集作業をしています。役者さんのセリフを耳で聞いて取捨選択するという作業を、演出の高橋恵さんに教わりながら。
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セリフが長い。
田中 
想流私塾の講義のなかで、レーゼドラマという形式があると、師範である林慎一郎さん(極東退屈道場)に教わって、じゃあそういうのでいいのかな、という姿勢で書いていたんです。
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ありがとうございます。内容については後ほど伺いたいのですが、まず、今回のお話が決まった時はどんな感じでしたか。
田中 
いつもアイホールさんとはメールで連絡しているんですが、その時は電話でお話を頂いたんです。次の朝起きて、あの話は夢だったのかと。でも携帯には着信が残ってるし。次の電話の機会、僕の脚本が、場面を割ったりとか一切出来てなくてこれだと役者さんが大変なので場面を切ってください、というお電話をするまでは、僕は本当は気が狂ってしまったんじゃないかと。
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そして、昨日が初めての稽古だったと。
田中 
はい。良いクリスマスでした。なんかもう、自分の書いた言葉が・・・もちろん役者さんの力量なんですけど、こんなに不自然じゃない感じで読んでいただけるなんて。僕がいままでにしてきたことが失礼だったなあと感じるぐらいで。
1伊丹想流劇塾マスターコース リーディング公演『サッカバカナ』

作/田中浩之

演出/高橋恵

出演/
池川タカキヨ
山田まさゆき(突劇金魚)

芝原里佳(匿名劇壇)
早川丈二(MousePiece-ree)
竜崎だいち(羊とドラコ)
澤雅展(烏丸ストロークロック)

平成30年
1月22日(月)19:00
※受付開始/開演の40分前。
※開場/開演の20分前。
★終演後に合評会を行います(司会:岩崎正裕)

劇作家養成のための戯曲塾「伊丹想流劇塾マスターコース」。これまで受講生によって多くの長編戯曲が生み出されてきました。その作品群から、講師の林慎一郎と高橋恵が選んだ秀作をドラマ・リーディング形式で上演します。

チケット/
700円(前売・当日とも)
【全席自由】

作品紹介/
孤独死した独居老人の部屋を片付けることになったひとりの男。部屋には山と積まれた焼酎の5リットルボトルと映画のビデオテープ。彼はその中から1丁の拳銃を見つけ・・・。
馬鹿な作家に真実の言葉は吐けるのか。人知れず死んだ老人と誰も殺せない男を巡り、生と死、愛と性欲、虚構と現実がとぐろを巻いて、暴走するリビドー溢れる異形の“私戯曲”。

作家プロフィール/
田中浩之(たなか・ひろゆき)
京都を拠点に俳優として活動後、伊丹想流私塾第19期生に入塾。その後、伊丹想流私塾マスターコース第10・11期にて岩崎正裕、林慎一郎に師事。2015年、日本劇作家協会主催の関西版「月いちリーディング」に戯曲『住処と祭壇』が選出。本作『サッカバカナ』は第10期在籍時の執筆作品。

「役者ジャンキー」

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失礼というのは、ご自身の演技の事ですか?
田中 
いや、自分は本当に役者ジャンキーだったなあと思うんですよ。役者をやり始めてそれまでの人生になく褒められたりしたんです。
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というのは?
田中 
役者を始めるまで人と(本当の意味で)会話する事が出来なかったんですけど、始めてからは話せるようになって。そういう中で、役者をやっていない自分というものがどんどん不安になっていったというか。ただひたすら出演機会を求めるようになっていって。最近になって、あの頃は何だったんだろうと考えていました。役者をやることがドラッグみたいになっていたと思います。とりあえず摂取しなきゃ、そして演技すればハイになれたんです。でもいつの頃からか、何で、こんなに出来ないんだとか脚本の事なり周りの人の事なりの理解が違うんだ、と自信が無くなってしまって。にも関わらず他の人の意見が聞けなくなってしまって。危機感は感じてたんですけど、出演機会を減らすと人との接点が無くなってしまったりとか、ひょっとすると人に褒められる機会が無くなって・・・みたいな。やっぱりもう、役者は出来ないなあと強く思ってたんです。そして実はそれ以前から、書きたいという思いは強かった。けど、書こうとすると書けないという事が往々にしてあって。一緒に演劇をやっていた西君には本当に迷惑掛けたなあと思うんです。役者をやっているときも、役じゃなくて自分の言葉を書きたいという衝動があったりで。でも演劇ってそういう場ではないじゃないですか。僕はパンクロッカーじゃない。でもどうしようもなくそういうのが出てきてしまう事があって。時に、セリフが真っ白になる事があるんです。自分が段々と駄目になっていくような、社会性を失っていくような気がしていて。他の色んな役者さんはちゃんと成長しているのかなあ。あの、僕、どうでしたか? どんな役者でしたか?
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私の田中さんの役者としての印象は、昔にC.T.Tで作・出演された一人芝居「遠雷」は印象深かったですけどね。
田中 
そうなんですか?
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内省的なモノローグが中心であり、やや怪談めいた出来事を、様々なものから距離を取って語るという戯曲と演出だったと思います。その距離が、人間の自己防衛本能においては伸縮可能で、その不条理なまでの伸縮性は神性を帯びるほど愚かでもあり賢くもあり、ただし、これを観客席で観ている者にとってはそこに畏敬の念など生じるはずもなく、ただ愚かだなあ、そして人間の存在をひたすら客観的に見る神の視線が何故か自分に宿っていることに驚く・・・みたいな感想がありましたね。とても見やすくまとまった前衛文学でした。
田中 
いやめっちゃ嬉しいですね。でもあれは、何か発表したいけど何をやっていいか分からなくって。一日目と二日目で脚本が違うという、訳が分からない事をやってしまって、ウィングフィールドの方を困らせてしまいました。

入塾

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伊丹想流私塾に入塾したのはどんな経緯があったんでしょう。
田中 
その前後、ある芝居の稽古場で、上演できるかどうかの瀬戸際みたいな時に大声を出してしまった事があって。「え、何で怒らないの!?」って、周りとの温度差に割と絶望してしまって。俺だけがプロ意識を持ってるのか、と思ったり。今は、全然違う、良いものを観てもらうための行動と怒りの発散は違う事なんだ、と思えるようになったんですが。このままでは周囲に迷惑を掛けるだけだし、だったら昔からやりたかった作演出をやって、そこで折られるならそうすべきだと思って。それで伊丹想流私塾に入りました。
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なるほど。
田中 
でも、入ったからと言っても長編が書けるようにはならなくって・・・。講師の横山拓也さんに褒めてもらえて超嬉しいんですよ。でも長編を自分で上演出来るようにしたいなあ、劇研で上演出来ればなあと思って書いて、でも自分ではよく分からなくて。

いつか書けたら

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ご自身が戯曲を書かれる根本を探っていきたいと思うのですが、いかがでしょうか。
田中 
高校生の時、同年代で作家デビューした子がいて、横で見ていて変に夢を貰ったりだとか。高校生の頃にざくっと書いたりしたんですけど、自分でも分かったんですが、中二病の域を超えられなくて。というか、小学校の頃から周囲に馴染めなくて、高校の頃もクラスには男子5人しかいないのに僕はハミってて。で、大学に入って若干大学デビューしてみたりとかをしても・・・
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分かります。
田中 
哲学科だったんですが理論を吹っ掛けたら議論になるみたいな子供っぽい事ばかりしていて、「人間の事を考えたいから哲学科にしたけど、ここでもそうか」と嫌になりました。演劇に出会ったのは、新歓の時に西一風を観た時です。カッコ良い人たちに憧れて一瞬入っていました。でも、そこでもやっぱり、周りと上手くいかないんですよ。もういいや知らない、ってなって授業に行ったり行かなかったり。その頃に西君に出会い、彼は真面目に人生に向き合っているんです。彼も周囲と上手くいってなかった。すみません、これ、演劇を始めるまでの話になってますね。
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いえ、大丈夫ですよ。それも伺おうと思っていたので。
田中 
書く動機・・・自分の思いを発信したい、そこには親に自分の言葉を聞いてもらえない、みたいな思いがあって。いつか書けたら、それが理解してもらえるという。そういう思いを燻ぶらせていたと思います。

笑ってもらいたい

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理解をしてもらいたい? 文字にしたら伝わるような気がする、と思っている?
田中 
そういう期待があったし、今もあるんじゃないかと思います。ただ、自分が特殊な人間である、みたいな意識も実は特になくて、ただひたすら発信するのが苦手だと思っています。でも、とりあえず笑って欲しいというのはあったりして。僕は西君合田君丸山君みたいにスゲー笑えるものを書ける訳でもないだろう、というのはあって。「サッカバカナ」を書いた時は、ひたすら自分のありようを笑ってもらうしかないだろうと、ひたすら自分のクズでゲスなところを書き連ねたので観てもらうのが怖くて。昨日初めて読み合わせをしていただいて、笑っていただいたり呆れられたり引かれたり、そういう反応があるのがすごく嬉しかったです。書いている事は「遠雷」の頃から変わってないかもしれないですが。
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笑ってもらいたいと。
田中 
ひたすら間違えまくった自分を見てもらうみたいな、こんなしょうもないクズがいるから、とりあえず笑っていただけたらいいなあとか。僕は世界で一番自分が不幸だと、理屈ではないところで思っていて。自分こそが最低だと思っている人がいたら、これを見て笑ってもらうぐらいしか、と思ってその頃は書いていました。で、昨日の稽古では、それは書き終わったんだなあと。これから何を書くか、という事はまだ見えていないんですが。
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次に何を書くか。1月のリーディングの後に決められたらいいんじゃないですかね。
田中 
そうですね、ありがとうございます。

質問 高嶋 Q太さんから 田中 浩之さんへ

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前回インタビューさせていただいた、後付けの高嶋Q太さんから質問を頂いてきております。「最近感動したことはなんですか?」
田中 
NHKスペシャルで、自分の娘を焼き殺して再婚相手も殺したという冤罪で何十年も拘束された女の人のドキュメンタリーを見ていたんですけど、その人が取り調べの時に「お前の娘は今の旦那に性的虐待をされていた」と言われて頭が真っ白になり、それで無実の罪を認めてしまった、という内容でした。それが本当だったかという検証はされていなかったんですけど、もしそれが自白の誘導の為に使われた嘘の揺さぶりなら、もうなんか、その人は娘を失った上に無実の罪で捕まって、旦那の性的な虐待を抱えてしまう、そこまでして社会の秩序を守ろうとする司法警察って一体なんだろう、と。なんかもう、その人に同情するのもおこがましいし、色々訳分かんなくなって・・・。

地球上の人全員を笑わせたい

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いつか書きたいテーマはありますか。
田中 
大きい事を言うと、全人類が超面白いものを書きたいんですが、どうなんですかねえ、だってスターウォーズの新作にも怒ってる人いるんでしょう? 僕も見たんですけど、笑いながら超すげえと思ってたぐらいなのに。
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物語は難しいですよね。サービスし過ぎてもいけないし。
田中 
誰も怒らないというところを狙ってても難しいし、開き直りも何か違うような気もしたりして、ただ配慮するのも・・・サッカバカナに関しては、自分のクソな部分をいかに笑ってもらうかという一点だけで書けたんですけど、理想的には見た人が幸せになるようなものが書ければなと。アンパンマンを見ても怒る人はいるんですかね?
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いないとは思わないですけどね。
田中 
バイキンマンへの扱いとかもNGになって、もしかしたら配慮が必要になっていくのかなあと思ったりしますよね。

陶器の加湿器

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今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
田中 
ありがとうございます。開けていいですか。
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どうぞ。
田中 
(開ける)ええー。あ、ここに水を入れると。
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加湿器になるやつですね。
田中 
こんなのがあるんですね。ありがとうございます。へー。
(インタビュー終了)