「あなたに会えたらよかった」
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- 今日は自主映画監督の栗山陽輔さんにお話しを伺います。どうぞよろしくお願いします。最近、栗山さんはどんな感じでしょうか。
- 栗山
- 最近はもうじき公開予定の映画「あなたに会えたらよかった」の編集作業をやっています。それと、上映会の準備です。今日は情報宣伝のために大阪に来ました。
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- 栗山さんが監督されている映画「あなたに会えたらよかった」、ですね。
- 栗山
- 公開は6月の16日から18日まで、ウラなんばのあるかアるかの地下、金毘羅で上映します。
- 1栗山陽輔 監督作品『あなたに会えたらよかった』
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私の、この結末は、決して変わることがありません――
監督・脚本
栗山陽輔
出演
丹下真寿美 川末敦(スクエア) 都呂路あすか 安達綾子(劇団壱劇屋) 白井宏幸(ステージタイガー) 花田綾衣子
友情出演
坪坂和則 遠坂百合子(リリーエアライン) 西村朋恵(こまち日和) 東千紗都(匿名劇壇) 森口直美(パプリカン・ポップ) 山田まさゆき(突劇金魚) 吉次正太郎
撮影監督
武信貴行
撮影
太田智樹 柴田有麿
助監督
青木省二 林トシヒロ
南川萌
上映会場
FREE STYLE STUDIO 金毘羅(カフェ&ビア あるか→アるか地下一階)
上映日時
6月16日(金)
18:00/ 20:30
6月17日(土)
11:00/ 14:00/ 17:00/ 20:00
6月18日(日)
11:00/ 13:30/ 16:00/ 19:00
各回30分前より受付、開場。上映時間45分。
16日18時の回、18日19時の回に上映終了後、トークイベントあり。
料金
前売・当日1500円
メール予約
anataniaetarayokatta@gmail.com
上記メールアドレスに件名「あなたに会えたらよかった予約」、本文にお名前、ご来場日時、枚数をご記入してお送りください。5日以内に確認メールをお送りします。
前作「なかよくなれたらいいな」から・・・
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- 前作「なかよくなれたらいいな」から、今回の「あなたに会えたらよかった」。どんな作品になりましたでしょうか。
- 栗山
- 前作はホラーだったんですけど、今回は作品の方向性ががらりと変わって、言ってみれば素直な作品になったと思います。すごく変な言い方なんですけど、前回がスナイパーライフルのような作品だとしたら、今回は体当たりのような作品になると思います。僕自身、ぶつかりすぎて最近はだいぶボロボロになっていて。
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- ボロボロになりましたか。
- 栗山
- ぶつかっていく訳ですから。難産でしたが、自分では面白いものができたと思います。
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- 今回の製作の経緯を教えてくださいますでしょうか。
- 栗山
- 今回の作品の大本は、20歳の時に思いついた構想だったんです。その時には「自分にはできない」と思って放置してしまったんですけど、以降、作品を作ろうと考え始める時はいつも、そのアイデアがぶり返してくるんですよ、何年経っても。あれから数年経ち、「時間が経った今なら出来る」とまでは思わなかったんですけど、一から構築し始めて。29歳で脚本を書いて、撮影して、今30歳で編集してます。
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- その構想を思いついた時の感触は?
- 栗山
- いや、最初はありがちだとは思ったんです。それは、ひっくり返せる感触もあって、でも表現方法が全く分からなくて。
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- でも、完成までこぎつけたんですね。
- 栗山
- 撮影自体はうまく行ったし、過酷なスケジュールになってしまってキャスト・スタッフの皆さんには負担をかけてしまったんですけど、出来上がったものについては、今の自分の作品になったと思います。
- 2栗山陽輔 監督映像作品『なかよくなれたらいいな』
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ねぇ、知ってる? 人はどんなに頑張っても、心の底からわかり合うことはできないんだって――
監督・脚本:栗山陽輔
出演:西村朋恵(こまち日和) 遠坂百合子(リリーエアライン) 東千紗都(匿名劇壇)
田中尚樹(劇団そとばこまち) 丹下真寿美
大宮将司 吉次正太郎
福山俊朗 花田綾衣子
撮影監督:武信貴行(SP水曜劇場)
撮影:太田智樹
助監督:青木省二 林トシヒロ
ヘアメイク協力:安達綾子(壱劇屋)
制作協力:森口直美(パプリカン・ポップ)
効果音作成協力:Alain Nouveau(Alain Nouveau音楽事務所)
フライヤーデザイン:立花裕介
「今」

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- 「あなたに会えたらよかった」。ご自身の製作史の中で、どんな作品になりましたか?
- 栗山
- 今後映画を作り続けたとしても、もう10年くらいはこういう作品は作らないと思います。前作はいくつかの映画祭で入選して上映していただいたんですが、その時に他の映画監督の方や映画祭のスタッフさんに聞いたところ、ホラ―映画を出してきたのは僕だけだったそうなんです。映画監督として売れていこうと思うんだったら、ホラーを作り続けた方が良いとは思うんです、間違いなく。ホラー映画の監督としてイメージが定着するし。でも、その前に今のうちにこれをやっておかないと、ホラー映画でどん詰まりになるだろうと。2、3作を作ってそれで終わりになってしまうような気がして。だから「今」しかやれない、体当たりの作品だと思っています。
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- どんな上映になればいいと思いますか?
- 栗山
- そうですね、深刻なのに笑ってしまえるようになればいいかなと思ってます。映画のキャラクター達がすごく真剣やっているのが、はたから見ていて凄くばかばかしい、というシーンがあるんです。あと、ラストシーンに工夫があるんですが、それが少し考えさせられる出来になったらいいな、と思っています。
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- 見所といえば。
- 栗山
- 撮影をしていて、役者の方々の演技力がやっぱり凄かったですね。主演はスクエアの川末敦さんなんですけど、真面目な事をやっていても人の良さが滲み出ていて、見ていて余計な力が抜けていくような。一言で言うとめちゃくちゃ芝居が上手いんです。細かい演技はお任せしました。あと丹下真寿美さんに出てもらっているんですが、フラフラになりながらも演じてもらったシーンがあります。まずは役者陣を見てもらいたいと思います。映画としては、あまりメッセージ性もギミックも無いんですけど、こう思ってもらえたらいいなと思う部分があって。入口という言い方はおかしいんですけど、「あなたに会えたらよかった」というタイトルとは全然方向が違う出口になっていて。観る前と観終わった後の感覚が全然違う瞬間があります。それを一番感じて欲しいかなと思います。
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- 構成的な仕掛けがあるんですね。
- 栗山
- 衝撃的なラストではないんですけど、「あれ?いつの間にかこういう感じになってる」、で、何か力が抜けて、ある種の感覚になってくれていれば、と。
自分を書いた、のかもしれない
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- 登場人物に何か思い入れはありますか?
- 栗山
- 脚本を書いている身でこんなことを言うのは何なんですけど、全て、僕です。どの時代かの僕です。これまでずっと考えてきた作品なので、どうしても。自分のことを乗せすぎたのかなとは分かっているんですけど。
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- 全員、自分。
- 栗山
- そう言うとちょっとナルシストっぽいですけどね。人物像の根源はそこで、そこから派生した人物たちです。
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- 一番のお気に入りは?
- 栗山
- やっぱり丹下さんにやってもらった役かな。ああいう行動に出て欲しい、という気持ちがあります。川末さんと丹下さんの役はどちらも主役です。あの二人が会話しているシーンはずっと見ていたかったですね。
ロケと、そこに来てくれたキャストたちと
- 栗山
- ロケで和歌山の加太に行って海での撮影をしたんですけど、午前中は晴れていたのに午後はものすごく大雨が降って。晴れと雨、どちらのスケジュールも用意して行ったんですけど、結果的には過酷でした。あと、京都の桂川沿いでも撮影したんですけど、その日はゲリラ豪雨のように雪が降った日だったんです。大変でした。
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- キャスティングについて。栗山さんの作品では、主に大阪の小劇場の舞台で活躍している役者が配役されることが多いようですが・・・
- 栗山
- 特に今回、初めて映像に出る方がいて、「どうしていいかわからない」と相談されたんですけど、僕としてはあまり変わらないものと思っていて。表現方法は若干変わりますけど。安心して演技をしてもらえるようにアドバイスをしました。舞台の演技との違いという意味では、出す声の大きさが少し違うぐらいです。後は、信用できる役者さんにお願いしているので、技術という点ではあまり不安はありません。結論としては、映像の役者と舞台の役者で、それほど違うとは思っていません。
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- 信頼を置いているということですね。その上で求めてることは何ですか?
- 栗山
- 僕自身も役者だったから思うことでもあるんですけど、役者に必要な物って、「その人自身が持っている最強の武器」、つまり個性を思いっきりやってもらうために、「そうじゃないもの」を出して行って欲しいと思っています。何でもかんでもできるようになるという意味ではなくて、個性を活かすための個性とは違うもの。もちろん演出家によって違って、例えばその人の個性をずっと出しておいて、ふと違う事をして印象を付けるとやり方もあるんですが、僕は逆なんですよ。大事なシーンだけで、ここぞと個性を出して欲しい。そして、その場所で思いっきり出してほしい。役者は全ての瞬間に自分の役と自分の個性を重ねて、結局は自分の方にどんどん引き寄せてしまうことが多いんですが。
人が人を好きになる
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- ご自身の作品で大切にしたいことは何ですか?
- 栗山
- 自分が見て面白いと思えるかどうか。映画をたくさん見る人間なので、自分がまだ見たことのない、自分が見たい映画を作るというのが根本にあるんですよ。気をつけているのは、「何かに似ている映画」にはしない、ということです。オマージュ的な遊びはたまにするんですけど。僕は年間で800本から900本を見ている時期もあって、見たことのない映画が少なくなってくるんですよ。「こういう風な映画を観たいな」と思って、そういうのに当てはまる映画が無い時、作りたいなと思います。
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- それは、例えばどんな映画ですか?
- 栗山
- これは僕が写真家としても思っていることなんですけど、「人が人を、ちょっとでも好きになれるような作品」という明確なテーマがって、それは映画作りでも共通してると思います。
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- それはどういう瞬間に現れてくるのでしょう?
- 栗山
- 前作「なかよくなれたらいいな」では、ラストシーンで3人が会話をしているシーンがあるんですけど、周りからはあのシーンはいらないんじゃないか、と言われたこともありまして。でも、あのシーンがなければ僕の映画じゃないと思うんですよ。なんか愛情が芽生えるんですよ、あの瞬間に。たったワンシーンで違うんだから、映画って不思議なもので。今回の映画も、感情が芽生える瞬間はあると思っています。
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- 観客に感情を芽生えさせるって、一つの大きなテーマですね。
- 栗山
- そういうことができる映画監督がいるんですよね。例えばヒッチコックは自分の映画の上映で観客の感情の流れを読んで、指揮者のように操ることができた、という逸話が残っていますね。
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- 人を好きになる、そんな感情を抱かせる。本当に遠大なテーマですよね。
- 栗山
- 人間賛歌、というのがいつも念頭にあります。やっぱり色々な作品で使われるテーマですよね。人間のダメさも見せてそれでも好きになるような作品もあるし、本当に人間が嫌いになる映画もあるし。やっぱり人間が出てこない映画というのは存在しないんですよね。動物映画でも、しゃべったりであるとか、擬人化したかのように演技をしているし。映画というのは人間的な行為なんですよ。中でも「人が人を好きになる」というのは僕の普遍的なテーマだと思います。実現するのは難しいですけど。
映画を撮る幸せ
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- 栗山さんが映画を撮り始めたのはどんな経緯があるんですか?
- 栗山
- 東京で役者をやっていたんですけど、やめてからしばらくぶらぶらしていたんですね。その時に、仕事の都合で休みが入って、大阪に一回遊びに行ったんです。その時、武信貴行さんと大宮将司さんに映画を作らないかと言われて。「どうかなあ・・・」と思ったんですけど、しばらくしてその気になって、お二人に電話をして、撮影することになりました。
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- なるほど。映画に興味を持ち始めたのはいつからですか?
- 栗山
- 高校生の時、かな。一人で映画館に通い始めて。アルバイトのお金で学校の帰りに映画館によって映画を見ていました。その頃には役者にも興味が出始めていて。大学に入ってから役者を始めました。
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- 今映画を撮っているのは、どんなモチベーションからですか?
- 栗山
- 面白いからですね、すごく大変ですけど。個人で、しかもインディーズでやってるから。映画祭に呼ばれて行っても、周りの監督さんのレベルが高すぎて、自分の至らなさを痛感するんですけど。でも役者をやっていた頃より10倍は楽しいです。30倍は大変ですが、100倍くらいは幸せです。
質問 nidone.worksさんから 栗山 陽輔さんへ
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- 前回インタビューさせていただいたから質問をいただいております。nidone.worksの渡辺さんと加藤さんです。「怖い映画や役柄に向いてる役者とは?」
- 栗山
- 雰囲気、空気感を持っている人ですね。まず欲しいのは、浮遊感。存在感のなさがある、みたいな。あとは、何もしていない時に注目を集められる人。座っているだけの姿にふと目が行くような人は向いているんじゃないかな、と思います。
二度と見たくないような映画
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- いつか、どんな映画を撮りたいですか?
- 栗山
- 二度と見たくないような映画を撮りたいです。面白くないから見たくない、というわけではなくて。すごくいい映画だけど、もう一度見るのはどうだろう、というくらい、見ていて辛くなるような映画を作りたいです。例えば「偽りなき者」という映画があって、3、4年ぐらい前の傑作で、DVDを持ってるんですけど一回観たきり観ていない。「ダンサーインザダーク」みたいな方向性ですね。映像の作り方がどうとかではなく、映画そのものとしてインパクトがあるものが作りたいです。
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- それは、幻滅したくないから?
- 栗山
- いえ、どういう流れか知ってるわけですから、辛すぎて胸が苦しくなるのが分かるんですよ。胸をかきむしりたくなるような。
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- そういう映画って、私も2、3作品ありますが、体験に近いですよね。
写真でつたえる仕事

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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 栗山
- ありがとうございます。こういう本、いいですよね。僕も人物写真を撮影していますが、参考にします。